揺らぐ循環
打ち合わせが終わり、外に出る。
並んで歩いていたヴァルが両手を上げて背伸びをしながら声をかける。
「……平気か?」
セリスは瞬きをする。
「何の事です?」
「さっき」
短く核心をついた一言に、セリスは一瞬だけ視線を落とした。
夜風が2人の間を通り抜ける。
「……問題ありません」
右手で左の前髪をそっと耳にかきあげながら、顔を上げ穏やかな表情を見せる。
「誤解されることには、慣れていますから」
自分に言い聞かせるような響き。
その返答にヴァルはわずかに眉を寄せた。
「……そうか」
返事とは裏腹にヴァルの心の中でセリスの言葉が重く沈んでいく。
それ以上は踏み込まなかった。
守るべきものが、また一つ増えたような気がした。
ヴァルはポケットの中で、両手を強く握りしめる。
森の奥から、風が吹く。
静かに、静かに——
だが確実に、何かが巡りを狂わせていた。
⸻
夜。
花うさぎ亭の食堂は、いつもより客が多かった。
ざわめきはあるのに、笑い声が少ない。
テーブルに並ぶのは、焼き魚と野菜の煮込み。
食欲をそそる匂いが食堂を満たしてはいるが、冒険者が好んで選ぶメニューではない。
レオが小声で言う。
「なんかさ、普通すぎて逆に怖くない?」
ルカが苦笑する。
「こういう時はな。
みんな“日常を守ろう”としてるんだよ」
ヴァルは周囲を警戒しつつも黙って食事をしている。
隣の席の商人たちの会話が耳に入る。
「また荷が遅れたらしい」
「南の街道も魔獣が増えてるってさ」
「森だけじゃないのか……」
リュシアンが静かに眉を寄せ囁いた。
「連鎖しているな」
セリスが顔を上げる。
「森の魔力変質が原因なら、
周囲の生態系や流通にも影響が出るはずです」
「んーと……つまり?」
レオが顎に手を当てながら聞く。
「放置すれば、町の機能が止まります」
一気に空気が重くなり、カチャカチャとカトラリーの音だけが響く。
その時、宿の主人——
ザンブルが通りかかった。
ルカが声をかける。
「最近どうだ?」
ザンブルは少し迷いながらも答える。
「正直に言うなら、みんな不安がってる」
「理由は?」
「農地だ」
全員の視線が集まる。
「作物の成長がばらついてる。
急に枯れる場所と、異様に育つ場所がある」
セリスの目が鋭くなる。
「魔力汚染の可能性が高いですね」
ザンブルが頷く。
「ベルノアの連中も戻ってきてる。
あいつらも同じことを調べてるはずだ」
ヴァルが小さく呟く。
「……やっぱりか」
故郷を守ろうとする者たち。
外から来た自分たち。
そこには見えない境界線があった。
食堂の空気は、どこか張り詰めていた。
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