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ベルノアを想う者たち

翌朝。


ベルノアの空気は、どこか張りつめていた。


市場には人が賑わっており

所々から笑い声があがっている。


だが、視線が落ち着かない。


森から吹く風が、乾いていて肌に刺さりそうなくらいだった。


五人が食堂に降りると、

花うさぎ亭の中はすでにざわついていた。


冒険者たちの話し声や鎧や武器の擦れる金属音がいつもよりも響いている。


ふと中央の席に目をやると見慣れない装備の一団がいた。


ザンブルがその輪の中に立っている。


「おう、来たか」


その声で、視線が一斉にこちらへ向く。


四人組の先頭に立つ男が、静かにこちらを見た。


短い栗色の髪。

厚みのある盾と剣。


「レオンだ。俺たちはベルノア出身だ」


声色は落ち着いているが、

その奥に警戒がある。


隣には、淡い金髪の女性。

祈祷衣に似た装束を纏い、首元小さな精霊紋章が印象的だ。


「ミレイ」


短く名乗る。


じっ……とセリスに視線を向けた。


「研究者、ですか」


穏やかな口調。

だが、距離がある。


「精霊石を装置に組み込むと聞きました」


その言葉に、食堂の空気がわずかに揺れる。


セリスの指先が、ほんの少し止まった。


背筋に、覚えのある冷たさが走る。


——あの時と、似ている。


胸の奥が、キュッ、と締めつけられる。


だがすぐに、理性で押さえ込んだ。


「誤解のないよう申し上げますが、

私は循環を崩すような研究はしていません」


声は安定していた。


ミレイは一瞬だけ目を細める。


「……そうですか」


それ以上は踏み込まない。


だが、その目は口よりも心の奥にある疑いを物語っていた。


その様子を、ヴァルは見逃さなかった。


ほんのわずかな指の硬直。

呼吸の浅さ。


誰も気づかない程度の変化。


少し間を置いてからレオンが口を開く。


「森の奥で魔力の流出が確認されている。

農地でも影響が出始めてる」


ザンブルが重く頷く。


「香草の育ちが悪い。

グランシア草まで弱ってきちまってる」


食堂がざわつく。


ベルノアの信仰の中心は、

“巡環の神”——土地と精霊を巡らせる存在。


名を呼ぶことは少ない。

だが誰もが、その循環の上で生きていると知っている。


その巡りが、今、滞り始めている。


「商人も困り始めてる」

あ、俺ガルドね!と懐っこい笑顔で言ってから腕を組んで続けた。

「精霊石の質が落ちてるってさ」


ミレイの視線がガルドに刺さる。


ガルドは気にも留めないと言うような表情で口笛を吹く真似をした。


ルカが軽く笑う。


「だから地元組が戻ってきたってわけか」


レオンは真っ直ぐ見る。


「守れるのは、俺たちだ」


その言葉は誇りだった。


だが、線を引く響きもあった。


ルカはその一線を軽々と超え、肩をすくめてみせた。


「なら協力しようぜ。

俺たちは外の人間だが、今は同じ立場だ」


沈黙——


やがてレオンが小さく頷く。


「……情報は共有する」


場の空気が、ほんのわずかだがほどける。


ミレイの視線が、もう一度だけセリスをかすめる。


その瞬間。


ヴァルの眉がわずかに寄った。



読んでいただきありがとうございました。評価いただけると励みになります。

毎週金曜日21時頃更新予定です。

よろしくお願いいたします。

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