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消された記録


食後。


セリスは一人で宿の共有書棚を見ていた。


ベルノア周辺の遺跡や精霊石についての古い記録が、

この宿には多く保管されている。


ザンブルが昔、冒険者だった頃に集めたものだ。


「……お借りします」


小さく呟き、ページをめくる。

独特な古い紙の匂いが鼻を掠める。


遺跡の構造。

精霊石の配置。

魔力の循環。


だが——


セリスの手が止まる。


「……?」


違和感。


本来あるはずの記録が——ない。


重要な遺跡の詳細だけが、

不自然に欠落していた。


まるで切り取られたように。


「……どうして」


その時。


背後から声が降ってきた。


「気づいたか」


振り返ると、ルカが壁に寄りかかっていた。


「ルカさん」


「俺も少し調べてたんだ」


ルカはいつになく真剣な顔をしている。


「意図的に消されてる」


セリスの胸がざわつく。


「誰が……」


「まだ分からねぇ。

だが、ベルノアを弱らせたい連中がいるのは確実だ」


静寂——


窓の外では、夜風が木々を揺らしている。


「この町、少しずつ蝕まれてる」


ルカの言葉は低かった。


「しかも、ゆっくり時間をかけて、気づかれないようにな」


セリスは本を握りしめる。


胸の奥に、静かな怒りが灯る。


「……止めます」


ルカは少しだけ笑った。


「そのために、俺たちがいる」


遠くで鐘が鳴る。


ベルノアの夜は、

いつもと同じように静かだった。


だがその静けさの下で、

確実に何かが動き始めていた。





読んでいただきありがとうございました。評価いただけると励みになります。

毎週金曜日21時頃更新予定です。

よろしくお願いいたします。

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