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蒼影の連携


リュシアンは誰にも見えない角度で、

ほんのわずかに口元を緩めた。


裏庭を出て、リュシアンは所々苔の生えた石畳の通路を歩く。


朝の光はまだ柔らかく、空気は冷たく澄んでいる。

宿の庭先では、店の準備をする音が遠くに聞こえていた。


「リュシアン!」


前方からルカが手を振っている。


「探したぞ。依頼の集合時間の前にこの資料に目を通しておいてくれ」


「あぁ、すまない」


リュシアンはいつも通りの声色で答える。


ルカは隣に並び、じっとその端正な顔を覗き込んだ。


「……なんか」


「なんだ?」


「今日、機嫌よくないか?」


足が一瞬、止まりかけるが、リュシアンは歩調を崩さない。


「そう見えるか?」


「見える」


ルカは被せ気味に即答した。


「なんつーか、ちょっと柔らかい感じがするな」


リュシアンは前を向いたまま、わずかに目を細める。


「気のせいだろう」


「へえ」


ルカはにやりと笑う。


「まあいいけどな。機嫌いいにこしたことはねぇさ!今日は単発だし、連携取りやすい方がいいしな」


そう笑って肩を軽く叩き、先に歩き出す。


リュシアンは一瞬足を止めた。


左手が無意識に動く。

中指の指輪に触れかけて、止まる。


朝の光が、金属にわずかに反射した。


ほんの一瞬——


それだけで、あの静かな時間が胸をよぎる。


指を握り込んだ。


「……気の緩みだ」


低く呟き、自分に言い聞かせるように歩き出した。


中庭には、すでにレオとセリスが集まり、ルカを中心に談笑していた。


「今日は小規模依頼だ。油断すんなよ」


「りょーかい!」


レオが元気に返す。


その直後、足音が近づく。


「……悪い。ちょっと野暮用で」


ヴァルが軽く言いながら、自然に輪の中へ入る。


リュシアンの視線が、ほんの一瞬だけヴァルに向く。


だが、何事もなかったかのようにその視線はすぐに逸らされた。


セリスも装置の確認を終え、いつもの落ち着きを取り戻していた。


ヴァルは少しだけ距離を置いて歩いていたが、視線だけは何度もセリスへ向いていた。


ルカはそれに気づいているが、いつものように知らないふりをした。


しばらくして森の中——

風が強く吹き、曇天の中から光が射し込んできた。


中型の獣型で速さと突進力が特徴の

目的の魔獣が現れた。


「来るぞ」

リュシアンが盾を構える。


魔獣が一気に距離を詰めてきた。


「リュシアンさん、右!」

セリスが冷静に指示を出す。


リュシアンが即座に反応し、盾で受け流す。

その瞬間、隙が生まれる。


「今だ!」


ヴァルが間髪入れずに飛び込む。


双剣が閃き、魔獣の脚を切り裂く。


「ナイス連携!」


そう言ってからレオが魔法で追撃し、動きが鈍る。


セリスは罠を起動。

足止めされた魔獣を、リュシアンが確実に仕留めた。


短時間で決着がつく。


静寂——


少しの間、誰も言葉を発さない。


やがてルカが噛み締めながら呟く。


「……いいじゃねぇかぁ!」


リュシアンも頷く。


「前回より格段に連携が滑らかだな」


セリスは嬉しそうに胸の前で手を組んでいる。


ヴァルは視線を逸らす。


「普通だろ」


だがその声は、どこか軽い。


レオがにやりと笑う。


「昨日より顔がマシ!」


「はぁ?どっからどうみても完璧な顔だろーがよ!」


全員の空気が柔らいだ。


その様子を見ながら、ルカは目尻を下げて小さく笑う。


「成長したな」


リュシアンが静かに言う。


「互いに信頼を確認できた結果だろう」


ルカが肩をすくめる。


「ま、俺は最初から信頼してたけどな」


セリスの前髪が風に撫でられ、薄く色づいた頬に貼り付いた。


ヴァルは小さく息を吐いた。

吐き出した息と一緒に胸の奥にあった硬さが、少しずつほどけていく。

セリスが、もう迷いなく前を見ているのを確認して——



読んでいただきありがとうございました。評価いただけると励みになります。

毎週金曜日21時頃更新予定です。

よろしくお願いいたします。

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