信頼の証
翌朝。
木陰に腰を下ろし、ヴァルは邪魔な髪の毛を耳にかけながら双剣の手入れをしていた。
左耳に光るアメジスト色のピアスが、朝の光を反射してきらめく。
指先が金属に触れるたび、耳に並ぶ他の色のピアスもわずかに揺れ、規則正しいリズムを刻んでいた。
足音が近づいてくる。
「ここにいたのか」
振り返らなくても分かる声。
リュシアンだった。
「……なんだよ」
「少し時間があってな」
リュシアンはそう言って、自然な距離感でそっと隣に立つ。
サワサワと葉の揺れる音が二人の間に流れる。
やがて、リュシアンの視線がヴァルの耳に向いた。
「増えたな」
「……ああ?」
「ピアスだ」
ヴァルは小さく舌打ちし、手を止める。
「別に。気分だ」
開けたばかりの左耳が、まだわずかに痛む。
だが、その瞬間思ったのは——
「これくらいの痛みで守れるなら安い」
セリスを傷つけてしまったあの罪悪感が、再び胸を突き、ズキンと痛んだ。
「そうか」
いつものリュシアンの声が響いた。
会話が終わったように思えたが、立ち去らないリュシアン。
ヴァルはわずかに眉をひそめた。
「……なんだよ」
「いや」
リュシアンは少しだけ目を細めた。
「以前より落ち着いているように見えた」
「は?」
「君がだ」
ヴァルは思わず顔を上げる。
「……意味わかんねぇ」
再び沈黙が訪れ、風が葉を揺らすたびに、地面の影と日向が境界線を曖昧にしつつ交互に入れ替わっていく。
ヴァルは、剣を鞘に収めながらぼそりと呟いた。
「……最初は、ただの反抗だった」
リュシアンは何も言わずに、続きを待っている。
「親に逆らってるって、目に見える形が欲しかっただけだ」
自嘲するような笑み。
「くだらねぇだろ」
「いや」
リュシアンは即座に否定する。
「人は象徴を必要とするものだ」
ヴァルは少しだけ目を見開いた。
「……」
「だが、今は違うのだろう?」
しばらく考えてから、ヴァルは小さく息を吐いた。
「……まあな」
リュシアンはそれ以上聞かない。
ただ、静かに頷く。
その反応に、ヴァルは少しだけ肩の力を抜いた。
「一つ増えるたびに、理由がある。」
ヴァルは少し言い淀んでから
「信頼の証だ。」
そう言って耳に触れる。
左耳の耳たぶにはアメジスト色があった。
その瞬間、リュシアンはセリスの瞳の色を思い出した。
彼は、ほんの一瞬だけギュッと目を閉じた。
次に開いた時には、冷静な表情に戻っていた。
「……そうか」
それだけ。
だが、立ち去る直前。
もう一度だけヴァルの四つ目のピアスを見る。
自分の色。
確かにそこに存在している。
リュシアンはしばらく動き出せなかったが、この後の集合場所へと歩き出した。
背後でヴァルが小さく呟く。
「……なんだよ」
返事はない。
ただ、サワサワと鳴る葉の音だけが静かに広がっていた。
読んでいただきありがとうございました。評価いただけると励みになります。
毎週金曜日21時頃更新予定です。
よろしくお願いいたします。




