表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/24

ほどけた空気


夜。


花うさぎ亭の食堂は、いつもより騒がしかった。


「今日は全員参加な!」

レオが宣言する。


「何するんだ?」

ルカが呆れる。


「遊び!」


どうやら拒否権はないらしい。


簡単な賭け事まがいの遊びが始まった。


ルカがわずかにルールを曲げる。


「今のアウト!」

レオが即座に指摘する。


「いや、これはセーフだろ」


「ズル!」


言い合いが始まり、リュシアンまで巻き込まれる。


珍しく、リュシアンの口元がわずかに緩む。


セリスも思わず笑った。


重たかった空気が、少しずつほどけていく。


やがて一人、また一人と席を立つ。


最後に残ったのは、ヴァルとセリスだった。


静かな食堂。

ランプの灯りだけが揺れる。


ヴァルがポケットに手を入れたまま、落ち着かない様子で立っている。


「あのさ……」


声が少し低くかすれている。


「この間は、ごめん」


セリスが顔を上げる。


「え?」


「言い方、きつかった」


視線を逸らしたまま続ける。


「別に責めたかったわけじゃない」


沈黙の中セリスは次の言葉を待った。


「……怖かったんだ」


セリスの瞳が揺れる。


「また誰か失うかもしれないって思ったら、頭真っ白になって」


拳を握る。


その言葉に、セリスの胸がわずかに引っかかる。


(……また?)


一瞬だけ問いが浮かぶが、今は聞けない。


過去に触れるには、まだ距離がある気がした。


ヴァルは視線を落とす。


「だから、あんな言い方になった。悪い」


ランプの灯りが、潤んだ紫色の瞳に小さく反射していた。


セリスは小さく首を振る。


「いえ……私こそ未熟でした」


「違う」


即答する声に力が入る。


ヴァルが初めてまっすぐセリスを見据えた。


「お前は仲間を守ろうとした。それは間違ってない」


片手で後頭部をガシガシと掻きながら、大切に言葉を紡いだ。


「……頼りにしてる」


不器用な言葉。


だが、真剣で柔らかかった。


セリスの胸の奥で、何かがほどける。


さっき浮かんだ問いは、心の奥にしまう。


今はただ、この言葉を受け取ろうと思った。


「……はい」


セリスは、こみあげる笑顔を噛み締めるように、口元をキュッと結んだ。


昼に味のしなかった唐揚げのことを、ふと思い出す。


明日はきっと、味がわかる。


そんな気がした。



読んでいただきありがとうございました。評価いただけると励みになります。

毎週金曜日21時頃更新予定です。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ