ヴァルの見切り発車(※本人も困惑中)
セリスは中庭のベンチに座り、リュシアンに研究書の内容について質問していた。
時折笑顔を向け、
時には目を輝かせながら、自分の考えを語っている。
その声は楽しそうで、止まる気配がない。
ヴァルは少し離れた芝生に腰を下ろし、武器を磨いていた。
だが、手は動いていても、意識はそこになかった。
気がつけば、視線がセリスを追っている。
「……くそっ」
小さく呟く。
自分でも理由がわからない。
いつもなら、こんなことで心が乱れることはない。
なのに、胸の奥が妙にざわつく。
やがて研究談義が終わったのか、セリスが立ち上がった。
そのままこちらへ歩いてくる。
「ヴァル、聞いてください!」
先ほどの会話の余韻なのか、楽しそうな顔のまま難しい話を振ってくる。
だが、ヴァルの耳にはほとんど入ってこない。
胸がざわつく。
手のひらが、妙に熱い。
気づいた時には、セリスの手首を強く掴んでいた。
そして、口が先に動いていた。
「俺の前で、他の男との話をするな」
言った瞬間、
自分が何を言ったのか理解する。
セリスは訳がわからないという顔で、黙ったまま自分の手首を見ていた。
まるで今の言葉の意味を考えているかのように。
その時、遠くからルカの声が聞こえる。
「おーい!」
ヴァルははっとして手を離した。
「……わりぃ」
視線を逸らす。
「今の忘れてくれ」
どこか力の抜けた声だった。
その言葉だけが、中庭の空気の中に残った。
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