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番外編ー誤算


時は夕方。

ヴァルたちはまだ宿に帰っていないようだ。どうやら討伐依頼が長引いているらしい。

それだけに、薬草を忘れて行ったことが気になった。


コンコン……


セリスの部屋の扉がノックされる。


「はい」


返事をして扉の方を見ると、リュシアンが数冊の本を抱えて立っていた。


「前に言っていただろう。研究書だ。参考になるかと思って」


そう言ってリュシアンはこちらへ視線を向ける。


セリスの目が、ぱっと輝いた。


「わあ!ありがとう、リュシアンさん。入って入って!一緒に読みましょう」


朝から曇り空だったはずなのに、扉のそばの窓からふいに日差しが差し込んできた。


「……ダメだよ」


セリスに届くか届かないかほどの声で、リュシアンがぼそりと呟く。


差し込んだ光が反射して、リュシアンの表情はよく見えない。


けれどセリスは、嬉しさのあまり気づかなかった。


居ても立ってもいられず、リュシアンの手を引く。


その拍子に、本が床へばらばらと落ちた。


「あっ、ごめんなさい!」


慌ててセリスがしゃがみ込み、本を拾おうと手を伸ばす。


その時、リュシアンも同時にしゃがんだ。


そして――


額が、軽く触れた。


驚いて顔を上げるセリスのすぐ目の前で、リュシアンが言う。


今度は、はっきり聞こえる声で。


「男を部屋に簡単に招き入れたらダメだよ」


リュシアンのエメラルド色の瞳が、まっすぐこちらを見ていた。

整いすぎたその顔は、遠目には女性と見間違われてもおかしくない。

けれど、近づいた瞬間にわかる。

その視線は、紛れもなく男のものだった。


そこにいるのは――


兄のように慕っていた、いつものリュシアンではなかった。


しばらくして、本を渡される。


気付いた時には、リュシアンはもう立ち上がっていた。


「読んでおくといい……」



それだけ言うと、歩き出す。


「リュシアンさん?」


呼び止める声にも振り返らない。


扉が閉まる音だけが静かに響き、セリスはその場にへたり込んだ。


全身の血が、一気に顔へ集まっていくのを感じる。


読んでいただきありがとうございました。

春休みということで、昨夜より特別に二日連続で一話ずつ更新しました。

次回以降は通常通り、毎週金曜日21時頃の更新予定です。

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