5 そんな笑い方もするんだ
「デオラデはどこか行きたいところあるか?」
「…。」
ハレベルさんはオレンジジュースを気まずそうに飲んでいる僕に対して、直球な質問をした。
この空間に緊張して、なかなかオレンジジュースを飲み進められていなかった。
ハレベルさんが飲んでいた黒いドリンクは空だった。
「いや…と、とくにない…ないよ…。」
ハレベルさんの視線からそらすように僕は答える。
なんとなく目線を合わすことが出来なかった。
「デオラデの…もともと住んでいた場所で、会いたい人とかいないの?」
またしても直球な質問だった。
そんな質問、されると思っていなかったから少し困った。
困ったけど…なぜだろう。いつも彼女の前では素直な言葉が出てきてしまう。
「…いないよ…いない。家族とはまともに…そんなに話してなかったし…
僕と話したいとも…思っていないと思う。」
僕はうつむきながら、小さな声で告げた。
誰にも聞こえないんじゃないかと思うくらい、消え入りそうな小さな声だったかもしれない。
「…、じゃあ私と一緒だな。」
「えっ…?」
僕は思わずうつむいていた顔をあげてハレベルさんの方を見るも、目線は合わなかった。
あまりにも小さな声だったけれど、はっきりと聞こえたその言葉に僕は唾をのんだ。
だけど、その言葉に深入りをすることが出来なかった。
「デオラデと初めて会った場所に…あの場所に後で行こうか。」
ハレベルさんを遠くを見るようにして、そっと呟いた。
僕たちが初めて会った場所…。
そこは待ち合わせこそしてないけれど、僕たちが毎日のように会っていた場所。
あの日からそんなに日にちは立っていないはずなのに、凄く遠い昔のことのように感じた。
「行きたい…?行きたくない?」
「あっ…。」
やっと目が合った。思わず声が出てしまった。
「僕は…。」
彼女はなんでそんなこと聞くんだろうと思った。
だけれど、あの日あの場所で起こった出来事によって僕の人生が変わってしまったのはたしかで。
あの日あの場所へ行かなければよかった…なんてそんなこと、
そんなことを考えていると思われているのだろうか。
「行きたいよ。一緒に。」
僕はハレベルさんの目をしっかり見た。
「僕は…嬉しいんだ…、本当に。あの日から…だって…
ハレベルさんと過ごす時間が増えたし、ハレベルさんの違う一面を見ることができたし…。」
口に出して後悔した。
僕はごにょごにょと何をわけのわからないことを言っているんだ!と反省した。
「あっいや、その…!!変な意味じゃなくて!いや、なんだろう…その…っえと…っ!!!」
焦っている僕を見て、ハレベルさんはふふっと小さく微笑んだ。
それから…
「はははっ…嬉しい…、そうか…っ!はははっ…!」
「…っっっ!」
ハレベルさんは今まで見たことのない顔で笑っていた。
ちゃんと、声を出して笑っていた。
「…っっえと…。」
心臓がどきどきして止まらなかった。
身体じゅうが暑くて、思わず目の前にあるオレンジジュースに手を伸ばす。
僕は思わず下を向いた。だって、これ以上ハレベルさんと目線を合わせたら…っ
そう思ってただ下を向いた。
ハレベルさん、こんな笑い方もするんだ…っ
「さぁ、そろそろ、行こうか。あの場所に。」
「うっうん…。」
ハレベルさんはいつにもまして笑顔で眩しかった。
僕は緊張して、なぜだろう。もう全然目を合わせることができずにいたのは
ハレベルさんは気づいただろうか。
ハレベルさんのまた違う一面が知れて僕は…
僕は本当に…




