第二十九話 作られた悪意
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。依乃里ら戦士達は戦士の力を失ってしまうものの、四年前の戦士達がスノアを消滅させたことで力を取り戻す。そしてアメジストの戦士黒崎真理紗は指輪を返してもらう条件として知っている秘密を全て明かす。それは人間に悪意がある限り悪の組織と戦士の戦いが永遠に繰り返される、更にダイヤモンドの戦士は産まれる前からその資格を与えられることだった。そして真理紗はダークサイレンスの幹部であるブラクスとの戦いの最中、悪の組織の幹部がいずれトップの怪物に取り込まれることを明かすのだった。
ある日、依乃里は仲間である蓮葉雨幸、新原桐菜、赤園風布花を連れて四年前のルビーの戦士である桃井剣二が社長を勤める企業、桃井テクノロジーを訪れていた。
「悪の組織の幹部は皆トップである怪物に取り込まれる、か……。」
「そうなんです。」
依乃里は剣二に真理紗の言っていた幹部の運命について剣二に明かしていた。
「なるほどね、やっぱりあいつの言っていたことは本当だったという訳か。」
「あいつって誰ですか?」
依乃里と剣二の会話に横から入るように四年前のサファイアの戦士である浦賀輝弓が話す。依乃里は輝弓の話すあいつという言葉が気になっていた。
「うん、四年前の戦いの時にダークストーリーズの幹部の一人だったパンドラスって奴が言っていたんだ。自分達はみんなママーハハから産まれたんじゃないかって。その時は真相なんてわからなかったけどあいつはママーハハが倒された時に一緒に消滅したんだ。」
輝弓はパンドラスの話をする。パンドラスもまた四年前に滅んだ悪の組織ダークストーリーズの幹部で、最後には自ら世界の侵攻を放棄し、ママーハハと同時に消滅した。
「パンドラスの奴も自分達の行く末を何となくわかっていたんだな。」
「そんな幹部もいたんですね……。」
輝弓はパンドラスが自分達の出自を察していたことを感じていた。依乃里もそんなパンドラスの存在を新鮮に感じる。
「思えばダークストーリーズも、幹部が減るほど世界の侵攻というものに疑問を持つようになっていたな。」
四年前のシトリンの戦士、金山依斧はダークストーリーズのことを振り返る。
「ブラクスも世界の侵攻にそこまで拘ってなさそうでしたね。」
「確かに、どうでもいいとか言ってたもんね。」
「ブラクスもウルフィンとかと同じような考えみたいですよね……。」
雨幸、桐菜、風布花の三人はダークストーリーズの幹部とブラクスを照らし合わせていた。嘗ての悪の組織であるダークストーリーズと同じように、ブラクスもダークサイレンスの目的に疑問を持っている可能性があった。更にブラクスは自身が世界の侵攻のための捨て駒として産まれた存在だと知らされ、精神が乱されていることも考えられた。
「全く、あいつらは一度自分達の出自に興味を持ちかけていたんだ。その時に上手く説得できれば悪の組織から離れさせることだってできたかも知れないのになぁ!」
輝弓は嘗てブラクス、クリーク、スノアの三人が自分達の出自に興味を持ちかけていたことを思い出す。その場に居合わせた剣二、輝弓、依斧の三人はダークストーリーズのことを話し、ブラクスらも興味津々に聞いていたがラピスラズリの戦士である祭田美李宇に邪魔をされ、信頼関係を築く希望が潰えてしまったのだった。輝弓はそのことに憤りを覚える。
「だが輝弓、黒崎真理紗が言っていたことを汲み取れば奴らと信頼関係を築いたところで決して相容れない存在だ。悲しい話だが奴らは倒さないといけない相手になる。」
剣二は真理紗の話を思い出し、少し辛辣ながらもダークサイレンスも倒さなければならない相手だと諭す。
「ありがとうございます皆さん。これからブラクスのことは私達で決着をつけます。勿論真理紗とのことも。」
「ああ、いい結果になることを祈る。」
依乃里は剣二に、ブラクスと真理紗とのことに決着をつけることを誓う。剣二も依乃里らのことを応援していた。
「ところで、あの人は大丈夫なんすか?」
ふいに桐菜はあることが気になり、指を差す。そこにはパフェを淡々と食べる四年前のオパールの戦士、双見アラモードがいた。
「まさか職場でパフェとは……。」
「私の職場なら一発KOだね……。」
雨幸もアラモードを見て顔を引き攣らせ、依乃里も自身の職場であればすぐに辞めさせられると語っていた。
「すまないな、これでも一応仕事はやってくれているんだ。」
「多分アラモードも他のところじゃ雇ってくれもらえそうにないから、剣二が気を利かせて雇ってくれたんだよ。」
「だがそのお陰で、嘗ての仲間で経営ができるのは喜ばしいことだ。」
剣二、輝弓、依斧の三人はアラモードについて話す。三人共アラモードが会社に入ってくれたことに感謝をしているようだった。
「まあ、アラモードさんが無事に働けているなら安心です。」
風布花もアラモードを見て安心する。そして依乃里ら四人は桃井テクノロジーを去るのだった。
一方、ダークサイレンスではブラクスが未だ自身が世界の侵攻のための捨て駒の存在ということに衝撃を受けていた。ブラクスはノイジアスに詰め寄る。
「ノイジアス様、俺達は捨て駒として産まれたのですか⁉」
「何を言っているブラクス?世界を完全に侵攻した時、最後に残るのは俺だけだ。」
必死な顔をするブラクスとは裏腹に、ノイジアスは当たり前のように話す。その態度にブラクスは耐えられなかった。
「ギギギギギ……!」
ブラクスは思わず歯ぎしりをしてしまう。
「どうしたブラクス?」
「俺は……、捨て駒になるつもりなどありません!」
ブラクスの様子が気になるノイジアスだったが、ブラクスはノイジアスに反抗するように力強く叫びノイジアスから逃げてしまう。
「やれやれ、ダークサイレンスの運命から逃げられると思うな。」
ノイジアスはそう言ってブラクスを少し呆れたように見つめるのだった。
一方その頃、黒崎真理紗は上部芽里音、祭田美李宇と共に紅茶を嗜んでいた。
「ねぇ真理紗、ブラクスの奴に教えちゃって良かったの?」
「ブラクスもいずれは倒さなくてはならない存在、教えたのは冥土の土産みたいなものよ。」
美李宇は真理紗に、ブラクスに悪の組織の秘密を明かしたことについて尋ねる。真理紗はいずれ倒す相手という理由から余裕綽々な様子だった。
「それにしても、何故ダークサイレンスの方々は自分達の出自を知らないのですの?」
ふと芽里音が真理紗に尋ねる。芽里音はブラクスが自分の産まれた意味に衝撃を受けたのが不思議だった。
「決まっているわ。生命体というのは皆、自分の出自についてわからないものよ。私達だって何故生まれたのか、知る由もないわ。」
「「なるほど……。」」
真理紗はダークサイレンスの幹部が他の生命体と同じく自身の出自を理解していないと説く。それには芽里音と美李宇も何となく納得する。
「それよりも問題なのは、桜間依乃里とその仲間達が未だ私達に協力する姿勢を見せないことよ。」
「確かに、真理紗が全て話したというのに頭を下げないというのは嘆かわしいですわね。」
「本当に何を考えているんだろうねあの人達。」
真理紗は依乃里ら四人が未だ協力しないことを問題に挙げる。芽里音と美李宇も依乃里らの行動が理解できなかった。
「そんなに気に入らないのかしら、私が行方をくらませながら戦っていることが……。」
真理紗はふと依乃里を思い起こしながら呟くのだった。
数日後、依乃里はいつものように社交ダンス教室で社交ダンスの練習に励んでいた。
「それでは桜間さん、休憩しましょうか。」
「はい、先生。」
社交ダンス教室の講師は依乃里にそう言って共に休憩を取る。
「それで桜間さん。」
「はい。」
「最近、真理紗はどうなんですか?」
「あ……。」
講師はふと依乃里に真理紗のことを尋ね、依乃里は思わず言葉を詰まらせてしまう。
「真理紗には何度も会っているんですけど、どうしても教室の方に戻らないつもりみたいで……。」
「そうなんですか……。」
依乃里は戦いのことをぼかしつつ、真理紗が戦いを終えるまで社交ダンス教室に戻らないことを伝える。そして講師の女性は俯いてしまう。
「真理紗の親御さんも心配しているんです。今は桜間さんが会ってくれているみたいですから、取り敢えず安否は心配ないと伝えているんですけど。」
「そうでしたか、中々会わせてあげられなくて申し訳ありません。」
講師の女性は真理紗の親も心配している旨を伝える。依乃里は未だ真理紗を連れ戻せないことを改めて悔やむ。
「でも、真理紗が今会ってくれないのもちょっと真理紗らしいかなって思うんです。」
「それって、どういうことですか?」
講師の女性の言葉に依乃里は首を傾げる。今まで真理紗が失踪していることを寂しがっていたからだ。そして女性は昔の真理紗について語り出す。
「真理紗は昔、一時期だけスランプになったことがあるんです。」
「真理紗がスランプに?」
「はい、まあスランプと言っても自分で満足行くダンスができないという意味合いで端から見てもどこがスランプなのか全くわからないんですよ。」
女性は真理紗がスランプに陥ったことを明かし、依乃里は驚いてしまう。しかしスランプというのも真理紗基準の話であり、周りから見ても大して変わりのないものだったという。
「でも真理紗、自分のスランプをどうにかしたくて何故か山に籠ったんです。」
「はい?」
「そうですよね、私も驚きました。でも真理紗はしっかりと置手紙を残して山に籠って練習していたんです。」
「まあ真理紗ならやりかねない……、ですかね?」
「結局真理紗は自分なりにスランプを脱却したと思ったらすぐに帰ってきたんですけど。」
真理紗が山に籠ってスランプ脱却のために練習したという事実に依乃里は困惑してしまう。しかし依乃里は真理紗のことを考えると有り得ない話ではないような気がしていた。そして女性は真理紗について語る。
「だからこそ、今でも真理紗を待ち続けられる気がするんです。真理紗は誰よりもダンスが好きだから必ずここに戻って来てくれるって信じられるので。」
「そうですか……。」
女性の言葉は真理紗をいつまでも待ち続ける純粋な気持ちが籠っていた。
「多分真理紗は今、自分なりにやらなきゃいけないことと向き合っているんですよね?そうじゃなきゃ、四年も行方をくらませる訳がないです。」
「そうですね……。」
女性は悪の組織や戦士の存在こそ認知していなかったが、真理紗が戦いのために行方をくらませていることを何となく察していた。依乃里も図星を指された気持ちになる。
「真理紗は今、大きな困難に立ち向かおうとしています。そのために他の人とは会わないって決めているみたいで。でも私はそんな寂しい思いをさせている真理紗が許せなくて、すぐにでもここに連れ戻したいんです。」
「桜間さん……。」
依乃里は戦いのことを隠しながらも真理紗がある目的に向かっているために教室に戻らないという意味合いで女性に話す。そして依乃里は真理紗を連れ戻したい意志を示す。それが女性には嬉しかった。
「桜間さん、あなただけが頼りです。桜間さんならきっと真理紗と会わせてくれると信じています。」
「先生……。」
女性は依乃里の手を両手で握って依乃里に思いを託す。依乃里もその気持ちをしっかりと受け取るのだった。
それから数日後、輝弓は小さなレジ袋を持ってコンビニから出る。どうやら軽く買い物をしていたようだった。輝弓はふと横を見た時、目の前に広がる光景に驚く。
「え⁉」
そこにはコンビニの前で迷惑な座り方をするブラクスの姿があった。
「お前何やってんの?」
「あ?……ってお前、確か四年前の戦士の浦賀輝弓!」
「へぇ、覚えていてくれたんだ。」
ブラクスは話しかけてきた輝弓の姿に驚いてしまう。そして輝弓はブラクスが自身の名前を覚えていたことに感心する。
「あ、ちょっと待っててもらえるかな?」
「あ?何だよ。」
輝弓はブラクスを少しの間だけ待たせ、少し距離を置いて剣二に電話をする。
「剣二、ブラクスの奴に会った。悪いけど遅くなる。あと念のため依乃里ちゃん達に連絡入れておいてもらえる?」
「ああ、気をつけるんだぞ。」
輝弓は剣二に連絡を入れ終えるとブラクスの腕を持ち上げ無理矢理連れ出す。
「おい、どこ連れて行く気だよ。」
「悪いけどコンビニの前って居座ると迷惑な場所なの。いいから来い。」
戸惑うブラクスに、輝弓は有無を言わさず連れて行くのだった。
「さて、ちょっと質問に答えてもらおうか。」
「んだよ、こっちは機嫌が悪いってのに。」
輝弓はブラクスを近くのベンチまで連れて行くと投げ捨てるようにブラクスを座らせる。ブラクスは突然の輝弓の行動に戸惑いと苛立ちを隠せなかった。
「いいから答えろよ。何であんなところにいたんだ?」
「……ダークサイレンスから抜け出してきた。」
「やっぱりな。」
輝弓は無理矢理ブラクスから聞き出し、ブラクスは組織から抜け出してきたことを明かす。その行動に輝弓は嘗てのダークストーリーズの幹部を思い出していた。
「ダークストーリーズにもいたよ、組織に反抗する奴がな。」
「……そうか。」
輝弓はブラクスの隣に座りながらダークストーリーズのことを話す。
「なぁ。」
「ん?」
「お前が四年前の戦士ということは、お前もスノアをやった内の一人か?」
「ああ、ごめんな。」
ブラクスは改めて輝弓にスノアを倒したことを確認する。輝弓もその事実を隠すことなく明かす。
「別に気にしちゃいねぇよ。確かに仲間がいなくなるのは辛いが、それもノイジアス様にとっちゃ想定内だったみたいだ。そっちの方が辛いな。」
「なるほどね……。」
ブラクスに輝弓を責める様子はなかった。ブラクスにとってはそのことよりもノイジアスがスノアを犠牲にしようと考えていたことの方が辛かった。
「お前も知ってんのか?俺達がノイジアス様に取り込まれること。」
「まあね、この間聞いた。」
ブラクスは真理紗から聞いた自身ら幹部の秘密を輝弓にも尋ねる。輝弓も依乃里らから聞いたことでその事実を知っていた。
「まあ前のダークストーリーズの奴らもそうだったから大して驚きとかはなかったけどな。」
「そうか……。」
輝弓自身はあまり驚かなかったことを明かす。それにはブラクスも頷くしかなかった。
「いいよな人間は、別に生まれ持った目的もねぇしよ。」
ブラクスは悩みこんでしまい、遂には人間を羨むようになる。
「……そうかもな。」
輝弓にはそれ以上掛ける言葉が見つからなかった。悪の組織を潰すには、ブラクスも倒さなければならなかったからだった。
依乃里は剣二から輝弓がブラクスと会っていると連絡を受け、輝弓の元へ向かっていた。
「急がなきゃ。ブラクスがまた暴れない内に!」
依乃里は輝弓の身を案じ、必死に走っていた。しかしそんな依乃里の前に真理紗が立ち塞がる。
「一体何をそんなに急いでいるのかしら?」
「真理紗……!」
依乃里は真理紗が自身の前に現れたことに苛立ちを覚える。
「真理紗!今輝弓さんがブラクスと会っているの、邪魔しないで!」
「そう、でもここで会ったからには交戦協定に基づき戦ってもらうわね。ピューマ!」
焦る依乃里を気にも留めず真理紗はパートナーであるジェントルピューマを呼び、右手の中指にあるシトリンの指輪を翳して獣人の姿にする。そしてフラヴァイスを取り出し開く。
「パンジー!アメジスト!タンゴ!」
真理紗がそう叫ぶとフラヴァイスから音声が流れる。
「Let's Dance!」
「踊るわよ!」
真理紗はフラヴァイスから流れる音楽に乗せ、ジェントルピューマと共にタンゴを踊る。次第に真理紗の体は戦士へとその姿を変える。
「魅惑の舞姫、ブラックチャーム!魅惑のムーヴに、酔いしれなさい。」
ブラックチャームは名乗り、依乃里に戦いの姿勢を見せる。
「仕方がない。レオン!」
依乃里は渋々真理紗を迎え撃つため、パッショネイトレオンを呼び右手に嵌められたルビーの指輪を翳して獣人の姿にする。そしてフラヴァイスを取り出し勢いよく開く。
「バラ!ダイヤモンド!パソドブレ!」
依乃里がそう叫ぶとフラヴァイスから音声が流れる。
「Let's Dance!」
「踊るよ!」
依乃里はフラヴァイスから流れる音楽に乗せ、パッショネイトレオンと共にパソドブレを踊る。次第に依乃里の体は戦士へとその姿を変える。
「情熱の舞姫、ローズレーザー!情熱のメロディー、響かせてあげる!」
ローズレーザーは名乗り、ブラックチャームを迎え撃つ姿勢を見せる。
「「はぁぁ!」」
ローズレーザーとブラックチャームは得意のダンスでぶつかり合う。
「この間にブラクスが暴れたらどうするの!」
「どちらにしろあなたと戦うことに変わりはないわ。あなたこそ争いを好まないのなら自分の非を認め、私に頭を下げなさい。」
ローズレーザーとブラックチャームは戦い合いながら激しく言葉を交わす。ローズレーザーは必死にブラックチャームを跳ね除けようとしていた。
「ブラクス、申し訳ないけどお前ら悪の組織が人間の悪意から産まれた以上生かしておく訳には行かないんだ。俺にはどうすることもできない。」
「ああ、わかっているさ。」
一方、輝弓は悩むブラクスに何もできないと明かす。ブラクスも自分の出自を受け入れたようで、輝弓の非情な言葉も責めなかった。
「だが、俺はもう世界の侵攻をしない。どんなにやったところで俺に幸せなんぞ来ないってわかったからな。」
「ああ、ありがとう。」
ブラクスは輝弓に、世界の侵攻をしないことを告げる。輝弓もブラクスの言葉に感謝する。そして輝弓はベンチから立ち上がり、ブラクスに手を差し出す。
「何だよ?」
「和解の証拠だよ。剣二に頼んで暫くお前を匿ってやる。」
戸惑うブラクスに、輝弓はそう言って握手を求める。そしてブラクスが同じく手を差し出し、二人が和解を示そうとした時、突然街に騒音が響き渡る。
「うっ……、うわぁぁぁぁ!」
「どうした輝弓?」
輝弓は耳を塞ぎ、苦しみながら倒れ込んでしまう。しかしブラクスにはこの騒音に対し、身に覚えがなかった。
「な……、何だよこれ……。」
ブラクスが前を見ると、そこに広がっていたのは大量のマリスが暴れている光景だった。
「まさか、ノイジアス様か!」
ブラクスは大量のマリスを見てそれがノイジアスの仕業だと察する。
「ブラクス、ダークサイレンスの宿命から逃げられると思うな。」
ノイジアスはダークサイレンスの本拠地にて真顔でそう呟いていた。そして大量のマリスはブラクスに向かって一斉に走り出す。
「うおっと!」
ブラクスは戸惑うが、寸前のところで避ける。
「まさか、俺が狙いか!」
ブラクスは大量のマリスが自身に向かって走って来たことから、ノイジアスが自身を狙って仕向けたものだと察する。
「仕方がねぇか、掛かってこい!」
ブラクスは渋々マリス達を相手にし、立ち向かう。
「うおぉぉぉぉ!」
ブラクスはマリスを蹴散らす。しかし数が多く、ブラクスは苦戦を強いられてしまう。そんな中、雨幸、桐菜、風布花の三人は戦場に辿り着く。
「ブラクスがマリスと戦っています!」
「どういうことでしょうか?」
「もしかして、追われる身?」
雨幸と風布花は目の前の光景に驚くが、桐菜は今までの出来事からブラクスがダークサイレンスから追われる身となったことを察する。
「とにかく行くよゆっきー、ふぅちゃん!」
「はい!」
「行きましょう!」
桐菜は雨幸と風布花にそう言い、三人はフラヴァイスを取り出して構える。すると小さなモンスター、エレガントイーグルとチアフルゴリラの二体がマリスに軽く攻撃する。
「ダークサイレンスも、ややこしいことになっていますわね。」
「ま、私達には関係無いけどね。」
「芽里音、美李宇!」
芽里音と美李宇もその場に現れ、桐菜は驚く。そして芽里音と美李宇もそれぞれのパートナーのモンスターに指輪を翳し、獣人の姿にする。
「行きますわよ。」
「もちろん。」
芽里音と美李宇はそう言うとフラヴァイスを取り出し開く。雨幸、桐菜、風布花の三人も慌てて芽里音と美李宇に並びフラヴァイスを開く。
「スイレン!ペリドット!ベリーダンス!」
「サクラ!ガーネット!日本舞踊!」
「カーネーション!パール!チャールストン!」
「マーガレット!アクアマリン!ワルツ!」
「ダリア!ラピスラズリ!サルサ!」
五人はそれぞれフラヴァイスに叫ぶ。そしてフラヴァイスから音声が流れる。
「Let's Dance!」
「踊ります!」
「踊っちゃうよ!」
「踊ってみせます!」
「踊りましょう!」
「踊っちゃおう!」
フラヴァイスから流れる音楽に乗せ、五人はそれぞれダンスを踊る。次第に五人の体は戦士へとその姿を変える。
「妖艶の舞姫、ベリースパークラー!」
「美麗の舞姫、チェリーエッジ!」
「軽快な舞姫、レッドライテスト!」
「優雅な舞姫、グレイスロード!」
「陽気な舞姫、フェスティブレイド!」
「軽快なステップに、ついて来られますか?」
五人はそれぞれ名乗り、大量のマリスに立ち向かう。
「「「「はぁぁ!」」」」
ベリースパークラー、レッドライテスト、グレイスロード、フェスティブレイドの四人はそれぞれのダンスでマリスを蹴散らしていく。
「うっっ……、くぅ……!」
ブラクスは底知れない数のマリスを相手にし、疲労が蓄積していた。
「こんなところで……!」
ブラクスが遂に膝をつきマリスに止めを刺されそうになった時、チェリーエッジがブラクスを庇うようにマリスの攻撃を受け止める。
「ブラクス、遂に組織から追われる身になっちゃったんだ。」
「お前、それをわかってて俺を……?」
ブラクスはチェリーエッジが自身の事情を悟って庇ったと感じ、驚く。そしてチェリーエッジはブラクスの近くに寄る。
「私達だって世界の侵攻をしないってわかってるあんたを無駄に攻撃しないからね。あんたは安全なところに隠れてて。」
「そうか、恩に着るぜ。」
チェリーエッジはブラクスに攻撃しないと言う。ブラクスも事情を汲み取る戦士達に恩を感じる。ブラクスは急いでマリスの目が届かないところに逃げる。
「さ、私も決めないとね。」
チェリーエッジはそう言って立ち上がり、鉄扇を持って構える。
「鋭刃の舞!」
チェリーエッジは無数の刃をマリスに喰らわせ、一掃する。
「うわ、マリスがこんなに。」
「中々の非常事態ね。」
ローズレーザーとブラックチャームも駆けつけ、大量のマリスに驚く。
「いのりっち、このマリスはブラクスを狙ってるみたい。ブラクスはやっぱりあの話でもう世界の侵攻をしないって決めたみたいだよ。」
「そっか、ダークサイレンスも遂に内部分裂か。」
ローズレーザーはチェリーエッジの話でブラクスのことや今の状況を把握する。
「エクスプロシオン・デ・フローレス!」
「ダンザ・デ・エクスプロシオン!」
ローズレーザーとブラックチャームは同時に可憐なダンスを踊り、爆発を起こしてマリスを一掃する。
「全く、真理紗が私を足止めしなきゃもうちょっと早く駆けつけられたんだけどな。」
「私を非難しようとしても醜いだけよ。それに今回のマリスがブラクスを狙っているのなら、話が早いわ。」
ローズレーザーはブラックチャームに当てつけるように言うが、ブラックチャームは焦りを見せることなく何かを思いついたようにブラクスを探す。
「そう、あんなところにいたのね。」
「ブラックチャームか?」
ブラックチャームは木陰に隠れるブラクスを見つける。ブラクスはブラックチャームが何故自分のところに来たのかわからなかったが、ブラックチャームは突然ブラクスにレーザー銃を向ける。
「お前、何をする気だ?」
「決まっているでしょ、戦意を失ったあなたに止めを刺すのよ。」
ブラックチャームは驚くブラクスにそう告げる。ブラックチャームは今回のマリスがブラクスを狙っているとすれば、ブラクスを倒せば解決すると考えていた。
「チャーミングストライク。」
「待って真理紗!」
ブラックチャームはブラクスに向けてレーザー光線を放つ。ローズレーザーは慌ててブラックチャームの攻撃を止めようとする。
「レーザーストライク!」
慌ててローズレーザーが放ったレーザー光線はブラックチャームの放ったレーザー光線を弾く。
「ブラクス逃げて!」
「す、すまねぇ!」
ローズレーザーはブラクスに向かって叫び、なんとかブラクスをブラックチャームから逃がす。そして他の戦士達が残りのマリスを全て消滅させた後、皆は元の姿に戻る。
「桜間依乃里……!」
真理紗は怒りに満ち溢れた目で依乃里を睨みつけると、依乃里に向かって大きく足を踏み鳴らしながら歩み寄り依乃里の服を掴む。
「敵を庇うような真似をして、どういうつもりかしら?」
「今……、ブラクスを倒す訳には行かない。」
「まさか私がブラクスに言ったことで同情したとでも言うの?ブラクスに世界を侵攻する気がなくなったとて、存在そのものがこの世界にとって害悪なのは理解しているわよね?」
真理紗は依乃里に問い詰めるが依乃里はブラクスを倒さない旨を明かす。しかしそれは戦士として正しい選択ではないと真理紗は感じていた。
「それでも……、悪の目的を捨てたブラクスに止めなんて刺せない!」
「そう、あなたの考えがよくわかったわ。」
依乃里は戦士として正しくなくてもブラクスを倒せないと言い、それを聞いた真理紗は冷めたような目で依乃里を突き飛ばす。
「真理紗……?」
「これまではあなたの敵対心に付き合ってあげたつもりだけど、あなたがそんな考えを持つようなら私も本気であなたと敵対するわ。」
戸惑う依乃里に、真理紗はレーザー銃を召喚して銃口を向けるのだった。




