第三十話 歪んだ正義と寂しい気持ち
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。アメジストの戦士黒崎真理紗はダークサイレンスの幹部ブラクスに幹部が全てトップの怪物に取り込まれる運命にあることを明かす。それを聞いたブラクスはダークサイレンスから逃げ出してしまう。一方、依乃里は真理紗の旧友である社交ダンス教室の講師から真理紗を信じて待つという言葉を聞き、真理紗を社交ダンス教室に連れ戻す決意を新たにする。そんな中、世界の侵攻をしないことを決めたブラクスに真理紗は攻撃しようとするが、依乃里がブラクスを庇い攻撃を阻止する。それが真理紗の逆鱗に触れ、真理紗は依乃里に銃口を向けるのだった。
「さようなら桜間依乃里。もう世界の平和は守られないわね。」
黒崎真理紗はそう言って依乃里に銃口を向け、引き金を引く。
「ちょっと待ったー!」
その寸前、依乃里の仲間である新原桐菜が真理紗に飛び掛かり攻撃を阻止する。真理紗の放ったレーザー光線は依乃里に当たらず真上の方向に飛んだ。
「全く、何の真似かしら?」
「いやいやいや、それはこっちのセリフでしょ!いのりっちがブラクスを庇ったからって何でいのりっちをやる話になる訳⁉」
真理紗は呆れるように桐菜に言い放つが、それ以上に桐菜の怒りと戸惑いの方が大きかった。
「桜間依乃里が敵にまで手を差し伸べるようなことがあっては世界の平和を諦めるしかないわ。」
「何その極端な考え方?あんたねぇ……!」
桐菜は真理紗の極端な考えに更に怒りを覚えるが、そんな桐菜を宥めるように依乃里が肩に手を置く。
「もういいよ桐菜ちゃん、帰ろう?」
「いのりっち……。」
依乃里は真理紗への説得を諦め、帰ろうとする。その目はどこか悲しげだった。
「雨幸ちゃんも風布花ちゃんも帰ろう。」
「依乃里さん……。」
依乃里は仲間である蓮葉雨幸と赤園風布花にも声を掛ける。しかし雨幸も依乃里の覇気のない声を心配していた。
「そうだ、輝弓さん!」
風布花はふと近くに四年前のサファイアの戦士である浦賀輝弓が倒れこんでいることを思い出し、輝弓の元に駆け寄る。
「大丈夫ですか?輝弓さん。」
「ああ、なんとかね。」
風布花に助けられた輝弓は少し疲れながらも優しい口調で風布花に答える。そして輝弓は木陰に隠れるブラクスを見つける。
「ブラクス、こんなところにいたのか。」
「ああ、まあな。」
輝弓は騒音に苦しみながらもブラクスを心配していた。そしてブラクスの腕を持ってブラクスを立ち上がらせる。
「さて、ウチの会社に来い。しばらく匿ってやる。」
「いいのか?」
「ま、依乃里ちゃん達がノイジアスを倒すまでだ。」
輝弓はブラクスを匿うことを決めていた。そんな輝弓に対し、真理紗は冷たい視線を向ける。
「あら、あなたも敵を庇うのね。」
「あんたらとは違うんでね。」
「そう、わかったわ。」
真理紗の冷たい言葉に対し、輝弓も冷たい言葉で返す。真理紗は呆れたように背を向け、仲間である上部芽里音、祭田美李宇を連れて帰るのだった。
「じゃあ、私達も行こうか。」
依乃里も真理紗らが去ったのを確認すると、皆を連れてその場を離れるのだった。
依乃里らは四年前のルビーの戦士である桃井剣二が代表を勤める会社、桃井テクノロジーを訪れていた。
「輝弓、話は聞いた。ブラクスを匿うんだな。」
「ああ、頼むよ剣二。」
剣二はブラクスを匿うことを承諾する。
「それじゃ、しばらく世話になるぜ。」
「ああ、俺も歓迎する。」
ブラクスはそう言って椅子にどっかりと座る。四年前のシトリンの戦士である金山依斧もブラクスを歓迎するが、桐菜だけはブラクスを睨みつけていた。
「な〜にが『世話になるぜ』なのさ!その前に言うことがあるでしょ?」
「あ、何がだよ?」
桐菜はブラクスに詰め寄り、ある言葉を求めているようだった。身に覚えがないブラクスは聞き返す。
「謝罪に決まっているでしょ!ダークサイレンスを抜けたとはいえあんたは今まで悪の組織の幹部として色々やってきたでしょーが!そこら辺わかってるの?」
「……わかったよ。」
桐菜が怒っていたのはブラクスの今までの悪行に対してだった。桐菜は悪の限りを尽くしてきたブラクスが何の謝罪の言葉もないままふんぞり返っていたことに怒りを覚えていた。ブラクスも桐菜の圧に押されながら承知し、椅子から降りて地面に座る。
「俺達が人間の悪意から生まれた存在とはいえ、人間界を混乱に陥れるようなことをして誠に申し訳ございませんでした。」
「よし。」
ブラクスは土下座をし、誠心誠意を尽くして謝罪の言葉を述べる。桐菜もブラクスの態度に納得したようだった。
「桐菜ちゃん、何もそこまでさせなくても……。」
「ダメだよゆっきー、相手は元って言っても悪の組織の幹部なんだから。」
雨幸が桐菜を宥めるが、桐菜の意思は揺るがなかった。そして土下座をしたブラクスは再び椅子にどっかりと座る。
「それでお前ら、これからどうするんだよ?」
「これからって?」
ブラクスはふと依乃里らに質問をする。依乃里は曖昧な質問に聞き返す。
「本当にノイジアス様を倒すつもりなのか?」
「それは……。」
ブラクスが聞いたのはノイジアスを倒す覚悟に関してだった。依乃里は言葉を詰まらせてしまう。
「本当に倒すつもりなら、少なくとも今衝突している奴らと手を組まないと無理な話だぜ。」
「やっぱりそうですよね……。」
ブラクスはノイジアスの強さを説く。少なくともノイジアスを倒すためには真理紗らとの和解が必要不可欠とブラクスは考えていた。それを聞いた雨幸は改めてノイジアスの手強さを感じていた。
「はぁ……、本当に真理紗達とわかり合えるのかな……?」
「そうですよね……。」
依乃里は溜め息を吐き、自身を敵視し始めた真理紗との和解に不安を感じる。そして風布花も同意するように頷く。その時風布花は自席で呑気にパフェを食べる四年前のオパールの戦士、双見アラモードが目に入る。
「全く、戦士がもう一人位いれば助かるんですけどね。」
風布花はアラモードの向かいの席に座り、アラモードへの当てつけのように呟く。
「ごめんね風布花ちゃん、ダンスじゃなかったら戦ってたんだけど……。」
「うわぁ、ダンスじゃなくても戦わない人の言い方だ……。」
アラモードは特に悪びれる様子もなく言い訳をするが、桐菜はアラモードに対し単に戦うつもりがないのだと感じていた。
「全く、つっきーもこの人に甘いからな~。」
桐菜は四年前のガーネットの戦士であり、アラモードの恋人でもある三浦竹月を思い出す。竹月はアラモードのだらしない態度にも特に言及することがなかった。
「竹月さんには期待しない方がいいです。アラモードさんと付き合いだしてから聖人のように何も言わなくなりましたから。」
風布花も竹月には少しアラモードに甘いと呆れていた。そしてそんな二人の様子を気にすることなくアラモードはパフェを食べ続けていた。
一方、真理紗、芽里音、美李宇の三人は静かに紅茶を嗜んでいた。しかし依乃里がブラクスを庇ったことで真理紗の機嫌はかなり悪くなり、雰囲気も悪くなっていた。
「芽里音、美李宇、二人共紅茶をしっかり味わいなさい。世界の平和は桜間依乃里によって投げ捨てられたのだからね。」
「ええ……。」
「うん……。」
真理紗は二人に、紅茶を味わうよう言い聞かせる。しかし芽里音も美李宇も少し破棄のない返事をしていた。
「真理紗、少しよろしいですこと?」
「何かしら?芽里音。」
ふと芽里音は真理紗に質問をする。
「桜間依乃里がブラクスを庇ったとはいえ、世界を守ることを放棄したと言えないのではなくて?」
「何を言っているの?世界を守るためにはダークサイレンスを倒さなくてはならないのよ。桜間依乃里がブラクスを庇ったということは、逆説的に世界を守る使命を放棄したと考えるしかないわ。」
芽里音も依乃里らと同じく、真理紗の極端な考えに疑問を抱いていた。しかし真理紗はあくまで依乃里が戦士としての使命を放棄したと考えていた。
「でも、私はそんなことで世界の平和を諦めるのは納得行きませんわ。」
「……何が言いたいのかしら?」
芽里音は真剣な表情を浮かべながら言う。真理紗はその芽里音の言葉に嫌な予感を覚えていた。
「私が今まで真理紗について来たのは、また平和な世界で真理紗とダンスを踊りたいからですわ。桜間依乃里が真理紗の意にそぐわないだけでその理想を諦めたくないですことよ。今の真理紗は、ただ宝石が示す使命に囚われて大事なものを見失っていますわ。」
「ちょっと芽里音、言い過ぎじゃない?」
「そう、そんなことが言いたいのね。」
芽里音は今の真理紗に対する思いをぶつける。それは芽里音、そして美李宇も薄々違和感を覚えていた真理紗の行動だった。しかし美李宇はあまりにも大っぴらに話す芽里音を心配に感じる。そして真理紗は芽里音の思いを十分に感じていた。
「芽里音。」
「はい。」
真理紗は微笑みながらゆっくりと真理紗に近づく。そして一瞬で真顔になると勢いよく芽里音の頬を平手打ちする。
「私に反抗するつもりならここから出て行きなさい!」
「真理紗……。」
真理紗は声を荒げながら芽里音を追い出そうとする。芽里音は真理紗の眼差しを悲しく感じていた。
「……暫くお暇を頂きますわ。」
「ちょっと芽里音、本気?」
芽里音は真理紗の元を去ることを決める。美李宇は芽里音の気持ちを問うが、芽里音の気持ちは揺るがなかった。芽里音は真理紗に背を向け、去るのだった。
「待ってよ芽里音!」
「追いかけても無駄よ美李宇。今の芽里音を引き留めることに意味などないわ。」
美李宇は芽里音を引き留めようとするが、真理紗がそれを止めるのだった。
その夜、四年前のアクアマリンの戦士である水原夜衣魚はバスローブを着て風呂上りの一時を過ごしていた。アパレルショップに勤めている彼女は美容にも気を遣っているようで、毎日の肌の保湿などは欠かさなかった。そんな彼女の元に、インターホンが鳴り響く。
「ん、誰だろ?」
夜衣魚が夜中に鳴るインターホンを不思議に感じつつ、扉を開くとそこにいたのは芽里音だった。
「水原夜衣魚、何も理由を聞かずに私を一晩泊めて下さいませんこと?」
「え、いいけど……?」
夜衣魚は突然の芽里音の訪問に戸惑うが、人を泊めることには抵抗ないようですぐに承諾する。
夜衣魚は芽里音を風呂に入れた後、ホットミルクを差し出す。
「ほら芽里音ちゃん、ホットミルクだよ。」
「感謝致しますわ。」
芽里音は夜衣魚から貰ったホットミルクを飲んで夜中に歩いて冷えた体を温める。しかし芽里音は特に何も話す様子がなかった。
「えっと……、外は寒かったでしょ?」
「ええ、とても冷えましたわ。」
「そうだよね……。」
夜衣魚は沈黙に耐え切れず芽里音に話し掛ける。しかし中々会話が弾まない。夜衣魚からしたら聞きたいことは山のようにあった。何故一人でいたのか、何故宿泊先に自分を選んだのか、だが芽里音が理由を聞かないように言ったため、夜衣魚から話すことなどなかった。
「……真理紗から出て行くように言われましたわ。」
「え?ああ……、理由言っちゃうんだ。」
芽里音は突然、自分から真理紗の元を離れたことを明かす。
「真理紗は世界の平和を諦め、桜間依乃里を手に掛けようとしましたわ。」
「うん、風布花ちゃんから聞いてるよ……。」
「私はいずれ平和な世界でダンスを踊ることを夢見て真理紗について来ましたわ。だから真理紗の考えには賛同できませんでしたの。」
「なるほどね、芽里音ちゃんも遂に真理紗ちゃんに反抗を……。」
「それで私は真理紗の元を離れましたの。」
芽里音の経緯に、夜衣魚も納得する。
「それで芽里音ちゃん、これからどうするの?」
「明日行きたいところがありまして、そこで己の気持ちを整理しますわ。」
「そっか……。」
芽里音は夜衣魚に行きたい場所があると告げる。夜衣魚も詳しいことは聞かず頷くだけだった。
「ところでさ、芽里音ちゃんって可愛いよね〜。せっかくお泊りするんだから私と一緒にどう?」
夜衣魚はふと芽里音に近づいて肩を抱き、流し目をしながら誘う。しかし芽里音は決して動揺しなかった。
「生憎ですが私には心に決めたパートナーがおりますの。私を誘おうものならパートナーが黙っていませんわよ。」
「え……?」
芽里音はパートナーがいると夜衣魚の誘いを断る。そして芽里音の言葉に呼応するように小さな鷲の姿のエレガントイーグルが夜衣魚の肩をつつく。
「痛たたた!ごめんて!」
夜衣魚はエレガントイーグルに振り回されてしまう。
「連れて来てたんだ、あとやっぱり芽里音ちゃんもモンスターと付き合ってるんだね……。」
「ええ、私とイーグルは最高のダンスのパートナーであると同時に最高の契りを交わした仲、何者も引き裂くことはできませんわ。」
夜衣魚は苦笑いしながらエレガントイーグルと芽里音を見る。そして夜衣魚と芽里音、エレガントイーグルは寝床に着くのだった。
翌日、依乃里はいつものように社交ダンス教室で練習に励んでいた。しかし依乃里は真理紗とのことから気分が晴れずにいた。
「桜間さん、どうかしました?」
「え、何かおかしかったですか?」
「何かこう、いつもよりキレが良くない気がして……。」
依乃里はいつも通りに励んでいるつもりだったが、講師の女性からはその感情の現れに気が付かれていた。
「桜間さん、少し休憩しましょうか。」
「はい、申し訳ないです……。」
講師の女性は依乃里に休憩を提案する。依乃里は気を遣わせたことに申し訳なさを感じていた。
「あの、桜間さん。」
「……はい。」
「もしかして、真理紗のことで何かありました?」
「え?あ、いや……。」
講師の女性は依乃里が真理紗のことで悩んでいるのではないかと感じていた。そして依乃里の動揺している様子からそれが図星だと確信する。
「真理紗のことなら私にも相談して下さい。私は桜間さんのことも真理紗のことも心配ですから。」
「いや、はい……。」
講師の女性は依乃里の力になりたいと考えていたが、依乃里は戦士のことを話せないので悩みを打ち明けずにいた。そんな時、突然教室のドアを開く音が響く。
「やはり真理紗のことで悩んでいらしたのね、桜間依乃里。」
「あ、芽里音!」
「芽里音さん⁉」
現れたのは芽里音だった。芽里音は自分の気持ちを整理するために社交ダンス教室を訪れたのだ。依乃里は突然の芽里音の来訪に驚くが、それ以上に驚いていたのは講師の女性だった。
「ご無沙汰しておりますわ。私のことは覚えていらして?」
「当然です!真理紗と並ぶ競技ダンスの実力者でしたし、以前ここに遊びに来てくれた時も真理紗に負けないくらいのダンスに魅入ってしまいましたから。」
芽里音は以前にもこの社交ダンス教室を訪れていたことがあった。更に芽里音は真理紗と並ぶ有名な競技ダンスの選手だったため、講師の女性の脳裏には強く焼き付いていた。
「桜間依乃里が真理紗のことで悩むのも無理はありませんわ。真理紗は桜間依乃里のことを手に掛けようとしましたの。」
「真理紗が、桜間さんを⁉」
「芽里音、その話は……!」
芽里音は真理紗が依乃里を手に掛けようとしたことを明かす。講師の女性は酷く驚いてしまうのだった。
一方その頃、真理紗は芽里音を追い出してから一晩が経ち、ずっと気持ちが晴れないような表情を浮かべていた。
「はぁ……。」
「真理紗、もう何回目さその溜め息。」
「美李宇……。」
真理紗は溜め息を吐き、美李宇は真理紗の溜め息に呆れてしまう。真理紗は既に幾度となく溜め息を吐いていたようだった。
「芽里音のこと、心配なんじゃないの?」
「心配なんてする必要ないわ。芽里音は私の意向に従えない、ただそれだけのことよ。」
「あっそ。」
美李宇は真理紗に、芽里音を心配に感じているのかと察し尋ねるが、真理紗は心配をしていないと強がる。美李宇も真理紗が本心を明かさないと諦める。
「ねぇ真理紗。」
「……何かしら?」
「桜間依乃里がブラクスを庇った時、悪意を感じた?」
「それは……。」
美李宇は真理紗に問いかける。美李宇が聞いたのは依乃里の行動についてだった。真理紗は依乃里がブラクスをかばったことに対し戦士の使命を放棄したと見なしていたが、そこに悪意を感じたのか美李宇は気になっていた。そして真理紗は美李宇の質問に言葉を詰まらせてしまう。
「ほら、別に悪意なんて感じてないじゃん。桜間依乃里は悪意を持ってあんなことをした訳じゃないって真理紗もわかっているはずだよ。」
美李宇は、真理紗が依乃里の行動に悪意などないことをわかっていたことを察する。真理紗も依乃里に悪意がないことは薄々感じていたことだった。
「それで、何が言いたいのかしら?」
「善か悪かだとか、そんな単純なもので決められないってこと。」
真理紗が美李宇の言葉の真意を尋ねると、美李宇はそう答えるのだった。
「真理紗が桜間さんを手に掛けようとしたって、本当ですか?」
「ええ、真理紗と桜間依乃里は互いに相容れない関係、今回桜間依乃里のある行動が真理紗の逆鱗に触れたのですわ。」
一方、講師の女性は芽里音に真理紗のことを改めて尋ねる。芽里音も依乃里がずっと話さずにいた依乃里と真理紗の関係について明かす。
「真理紗は今まで、何をしていたんですか?」
「真理紗は人間の悪意を心から憎み、行方をくらましながら人間の悪意と戦っていました。」
「人間の悪意、ですか?」
芽里音は講師の女性に、真理紗がダークサイレンスと戦っていることを言葉をあいまいな表現で伝える。
「そして私と美李宇も真理紗と共に、人間の悪意と戦っておりました。」
「芽里音さんと、祭田美李宇さんも?」
講師の女性は芽里音と美李宇も真理紗と共に戦っていたことに驚く。
「芽里音さんと美李宇さんも相次いで失踪していたのは、そういうことだったんですね……。」
「ええ、私と美李宇も真理紗の考えに賛同し、同じように行方をくらましながらずっと行動を共にしてましたわ。そしてもう一つ、この世界を人間の悪意から守るためには桜間依乃里の力が必要不可欠ですの。」
「桜間さんが?」
芽里音は更に依乃里がダークサイレンスを倒すのに必要不可欠な存在であると語る。
「芽里音、そこまで話して大丈夫なの?」
「ええ、私も今は真理紗から追い出された身、何をするも自由なのですわ。」
「え、真理紗から追い出されたの⁉」
依乃里は芽里音が秘密を話すことを心配していたが、芽里音は真理紗から追い出されたことを明かし依乃里は更に驚いてしまう。
「真理紗は今、戦士の使命に囚われ過ぎて『正義』の価値観が歪んでしまっていますわ。世の中の理を全て善か悪かで見定めてしまっていますの。桜間依乃里が敵に情けをかけてしまっただけで命を奪おうとしたのもそれ故のことですわ。」
「芽里音もそう思ってたんだ……。」
芽里音は今の真理紗について歪んだ価値観を持っていると話す。それは依乃里も感じていたことで、芽里音も同じ考えを持っていたことが意外だった。
「真理紗、今はそんな風になってるんですね……。」
講師の女性は真理紗の現状にショックを受けたようで、俯いてしまう。
「真理紗が失踪する前、真理紗が人間の悪意に嫌気が差していたことを私は知っていました。あの時もうちょっと真理紗に寄り添っていればこんなことにはならなかったはずです。」
「先生……。」
講師の女性は真理紗の力になれなかったことを悔やむ。依乃里もその気持ちを汲み取っていた。
「善か悪かで判断できない、そんなことはわかっているわ。」
「でも真理紗、悪意がないはずの桜間依乃里を『悪』と見なしたじゃん。」
「それは……。」
一方、真理紗は全てを善か悪かで決められないことをわかっていると主張する。しかし美李宇は真理紗が依乃里を悪と見なした行動を取ったと諭し、真理紗は言葉を詰まらせてしまう。
「真理紗は戦士になってから、ずっと正しいか間違っているかで判断してる。でも間違っていることが必ずしも『悪』って訳でもないじゃん?」
「ええ……。」
「少なくとも私は今、真理紗と一緒にいることが正しいとか間違っているとか考えたことなんてない。真理紗と一緒にいたいから一緒にいる。それは芽里音も同じ考えのはずだよ。」
美李宇の言葉は真理紗の胸に深く突き刺さっていた。真理紗は今まで戦士の使命に囚われるがあまり、純粋な心を見ようとはしなかった。
「桜間依乃里だってブラクスを助けたことを正しいと主張はしないと思う。あれは正義でも悪でもない一つの『優しさ』なんだよ。」
「優しさ……。」
美李宇は依乃里がブラクスを庇ったことに対し優しさだと語る。それは真理紗が今まで忘れていた物のような気がしていた。
「ま、私は別に桜間依乃里とかどうでもいいんだけどね~。私はただ、真理紗に本心で語って欲しいだけ。真理紗は今、芽里音がいなくてどんな気持ち?」
「私は……!」
美李宇は真理紗に、芽里音がいない現状に対しての想いを尋ねる。そして真理紗は芽里音の姿を思い起こすのだった。
一方、芽里音は俯く講師の女性に話しかける。
「寂しいですの?真理紗がいなくて。」
「当然ですよ、四年経った今でも真理紗のことを忘れられないんですから。」
講師の女性は無理に笑顔を浮かべながら答える。真理紗がいなくて寂しい気持ちを知った芽里音は微笑む。
「それを聞いて安心しましたわ。」
芽里音はそう呟くと立ち上がる。
「約束致しますわ、真理紗がいずれここに戻って来ることを。」
「芽里音さん……。」
「芽里音……。」
芽里音は真理紗が社交ダンス教室に戻ることを宣言する。講師の女性はその言葉を嬉しく感じ、依乃里も芽里音が今までなら言わなかったであろう言葉に感動していた。
しかしそんな感動も束の間、街にまた騒音が響き渡る。
「うっ……!」
「先生!」
講師の女性は耳を塞いで倒れ込む。依乃里は慌てて女性に駆け寄る。
「今ダークサイレンスで活動をするのはノイジアスのみですわ。」
「すぐに行かなきゃ!」
芽里音はノイジアスの仕業だと察し、依乃里は慌てて芽里音と共に社交ダンス教室を出るのだった。
依乃里と芽里音が街へ行くと、大量のマリスが暴れていた。
「またマリスがいっぱい!」
「ノイジアスだけなら仕方ありませんわ。」
依乃里は大量のマリスに驚く。そして依乃里と芽里音はそれぞれのパートナーを呼び出す。
「レオン!」
「イーグル!」
二人に呼ばれ、パッショネイトレオンとエレガントイーグルが駆けつける。そして二人はそれぞれのパートナーに指輪を翳し、獣人の姿にする。
「参りますわよ!」
「うん!」
二人は互いにそう言うとフラヴァイスを取り出し開く。
「バラ!ダイヤモンド!パソドブレ!」
「マーガレット!アクアマリン!ワルツ!」
二人がそれぞれフラヴァイスに叫ぶと、フラヴァイスから音声が響く。
「Let's Dance!」
「踊るよ!」
「踊りましょう!」
依乃里と芽里音はフラヴァイスから流れる音楽に載せてそれぞれのパートナーと踊る。次第に二人の体は戦士へとその姿を変える。
「情熱の舞姫、ローズレーザー!」
「優雅な舞姫、グレイスロード!」
二人はそれぞれ名乗り、大量のマリスに立ち向かう。
「「はぁぁ!」」
ローズレーザーとグレイスロードはそれぞれのパートナーと踊りながらマリスを一掃する。
「芽里音、何かこの組み合わせって珍しくない?」
「余計なお喋りをしている暇はありませんわ桜間依乃里、さっさと片付けますわよ。」
ローズレーザーとグレイスロードは少しおどけた会話を交わしながらマリスと戦い、互いに背中合わせになる。
「桜間依乃里。」
「何?」
「情熱の舞姫を謳うのなら、炎の技くらい繰り出せますわよね?」
「え?ああ、多分できると思う。」
「私の氷の技と合わせれば恐らく片付きますわよ。」
「本当?じゃあやってみようか。」
グレイスロードはローズレーザーの炎の技と自身の氷の技を合わせることを提案する。ローズレーザーもその提案に乗り、構える。
「レオン!」
「イーグル!」
二人はそれぞれのパートナーを呼び出し、ダンスを踊る。
「ファイヤー・エクスプロシオン!」
「フリージング・セレナーデ。」
二人は踊りながら炎と吹雪を巻き起こす。熱気と冷気を同時に喰らったマリスは全滅する。そして街の騒音は消える。
「ふぅ……。」
ローズレーザーは依乃里の姿に戻り、一息つく。
「桜間依乃里、また真理紗があの社交ダンス教室で踊るようになるかはあなたにかかってますわよ。」
「うん、わかってる。」
芽里音は依乃里に、真理紗を再び社交ダンス教室に戻るようになることを頼む。依乃里も改めてその覚悟を決める。
「それでは、私は真理紗の元に戻りますわ。」
「わかったよ。」
芽里音はそう言って依乃里の元を離れる。そして依乃里も急いで社交ダンス教室に戻るのだった。
「先生!大丈夫ですか?」
「はい、なんとか……。」
依乃里は社交ダンス教室に戻り、講師の女性の安否を確認する。講師の女性は騒音のせいで少しぐったりした様子だったが、なんとか無事のようだった。
「芽里音さんは?」
「すみません、また真理紗のところに。」
「そうですか。」
講師の女性は芽里音について尋ねる。依乃里は申し訳なさそうにまた真理紗の元に戻ったことを伝える。
「でも、真理紗はいつか戻って来るんですよね?芽里音さんから聞いて安心しました。」
「はい、私が必ず連れ戻してみせます。」
依乃里は改めて、講師の女性に真理紗を連れ戻すことを改めて誓う。
「……って、ずっとこれを言ってばかりですね。」
「いいえ、私は真理紗のことも桜間さんのことも信じてますから。」
依乃里と講師の女性はそう言って笑い合うのだった。
一方、芽里音は少し重い足取りで真理紗の元に戻っていた。
「芽里音!」
「あら、戻ったのね。」
芽里音が戻ったことに美李宇は少し喜ぶが、真理紗は冷静な態度を装っていた。
「真理紗、己の気持ちを整理して来ましたわ。」
「そう、私もあなたがいない間考え事をしていたわ。」
芽里音は真理紗に気持ちを整理したことを話し、真理紗も考え事をしていたことを話す。そして真理紗は少し涙を浮かべ、感極まったように芽里音を抱き締める。
「芽里音、あなたがいなくて寂しかったわ。」
「ええ、社交ダンス教室の講師の方も真理紗に対し同じ気持ちでしたわ。」
真理紗は美李宇から芽里音がいなくてどんな気持ちだったが尋ねられ、寂しい気持ちが芽生えていることを確か笑めていた。芽里音も真理紗に、社交ダンス教室の講師の女性も同じように寂しさを感じていたことを話す。
「芽里音、社交ダンス教室に行ったの?あそこは近づいちゃダメって真理紗が言ってたじゃん。」
「いいのよ美李宇。私もずっと正義のためだなんて身勝手な理由で寂しい思いをさせてたわね。それがよくわかったわ。」
社交ダンス教室は近づくことを真理紗が禁じていたため美李宇は芽里音がそこに行ったことを不安に感じるが、真理紗は特に咎めなかった。そして真理紗は漸く周りに寂しさを抱かせることを自覚していた。
「芽里音、美李宇、私は桜間依乃里と向き合うわ。そのための時間を頂戴。」
「もちろんだよ真理紗。」
「ええ、もう何年もついて参りましたもの。幾らでも待ちますわ。」
真理紗は今一度依乃里と向き合うことを決意する。芽里音と美李宇も同意し、三人はまた気持ちを新たにするのだった。




