第二十五話 戦士じゃなくなったら
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。依乃里らはやっとの思いでダークサイレンスの幹部であるクリークを倒すが、クリークはダークサイレンスのトップであるノイジアスによって取り込まれてしまう。そしてノイジアスは幹部が減ったことで焦りを感じ、スノアに自身の闇の力を浴びせる。スノアは各段に強くなり戦士達を苦しめるが、そこを救ったのは未だ行方知れずだったオパールの指輪を嵌めた謎の女性だった。
桜間依乃里、蓮葉雨幸、新原桐菜、赤園風布花、黒崎真理紗、上部芽里音、祭田美李宇の七人はとある古びた洋館の中で寝ていた。
「ん……、ここどこ?」
目を覚ました依乃里が見覚えのない古びた洋館の部屋に戸惑っていると、四年前のダイヤモンドの戦士である桜名美姫が話しかける。
「依乃里ちゃん、大丈夫?」
「美姫さん?もしかして助けてくれたんですか?」
依乃里は美姫の姿と自身と同じように寝ている皆の姿を見て、スノアに敗れて意識を失ったところを美姫達に助けられたことを察する。そして他の皆も一斉に目を覚ます。
「依乃里さん……。」
「いのりっち、大丈夫?」
「美姫さん!」
雨幸、桐菜は依乃里と互いに安否を確認する。そして風布花は美姫が助けてくれたことに感動していた。そして皆の元にお粥の入った土鍋を持った四年前のアメジストの戦士、鈴木林檎が現れる。
「あら、あなたも私達を助けてくれたのね鈴木林檎。」
「素直に感謝したら?真理紗。」
真理紗は林檎が自身らを助けてくれたことを察しながらも高飛車な態度を崩さなかった。林檎も真理紗を煽るように返す。
「真理紗、どうやら私達はスノアに敗れたようですわね。」
「マジか~、めっちゃ強かったよねスノアの奴。」
芽里音と美李宇もスノアに敗れたことを悔やんでいた。
「あと、レオン達もあそこで寝てる。」
そう言って美姫は小さなベッドで寝ているパッショネイトレオン、エレガントイーグル、チアフルゴリラを指す。
「レオン……。」
依乃里は心配そうにパッショネイトレオンを見つめる。
「そうか……、私達はスノアに負けたんですね……。」
依乃里は改めてスノアに敗れたことを感じていた。思わず俯いてしまう依乃里。
「依乃里ちゃん……。」
美姫は俯く依乃里の心情を察する。そして風布花は美姫に助けてもらった時のことを尋ねる。
「でも美姫さん、何で私達が倒れていることがわかったんですか?」
「それはね、あの子のお陰。実はみんなをスノアから助けてくれたのもあの子なの。」
美姫はそう言って近くの椅子に座ってパフェを食べている女性を指す。その女性は左手の中指にオパールの指輪を嵌めていた。その女性を見た依乃里は女性のことを思い出す。
「オパールの指輪の人!」
「え⁉」
「嘘でしょ⁉」
雨幸と桐菜は依乃里の言葉に驚き、その女性の指を見てオパールの指輪が嵌められていることを確認する。しかし風布花は少し納得した様子を見せていた。
「なるほど、オパールの指輪はアラモードさんが持っていたんですね。」
「「「アラモード?」」」
風布花はその女性をアラモードと呼ぶ。依乃里、雨幸、桐菜の三人はアラモードという日本人とは思えない名前に耳を疑ってしまう。そしてパフェを食べているその女性は無気力な感じで語り出す。
「双見アラモードで~す。そっちが言うところの、先代のオパールの戦士になるのかな?」
「先代のオパールの戦士なんですか?でも、今もオパールの指輪を嵌めていますよね?」
依乃里らは双見アラモードと名乗るその女性が四年前のオパールの戦士だと知る。しかし依乃里は、アラモードがオパールの指輪を今も嵌めていることに違和感を覚えていた。そして林檎がアラモードに、呆れるように話しかける。
「全く、指輪を嵌められたんだったら戦士になって戦いなさいよ。依乃里ちゃん達も大変だったんだから。」
「えぇ~、だってダンスとか踊りたくないし。」
「あんたねぇ……!」
「「「えぇ……。」」」
依乃里、雨幸、桐菜の三人はアラモードの言葉に口をあんぐり開けてしまう。どうやらアラモードはダンスを面倒に感じて戦わなかったようだった。そして風布花はアラモードにあることを尋ねる。
「アラモードさん、オパールの指輪はいつ頃から?」
「結構前だよ。風布花ちゃんが今の戦士に出会ったって連絡が来た時にはもう指輪を拾っていたかな?」
「そんなに前から⁉」
アラモードは、依乃里が雨幸や桐菜と出会ったばかりの頃から既に指輪を拾っていたと明かす。依乃里はアラモードがかなり前から指輪を拾っていたにも関わらず、今まで自分達の前に現れなかったことが気になってしまう。
「先代の戦士が、ずっと戦わなかったということですか?」
「そんなこと有り得るの⁉」
依乃里も桐菜も、アラモードがずっと指輪を嵌めたまま戦わなかったということに耳を疑う。しかし真理紗はそのことに納得していた。
「彼女なら有り得る話よ。私の知る限りでは、四年前も彼女は戦いに対して不真面目だったと聞くわ。指輪に選ばれた者が戦いを拒否すれば、桜間依乃里と出会うことなどないのよ。」
「じゃあ、本当に戦いを面倒くさがっただけ……。」
依乃里らはアラモードが戦いを面倒に感じていたことに愕然としてしまう。そして真理紗は傷も癒えないままベッドから立ち上がる。
「まぁいいわ。オパールの戦士を仲間に引き入れようと思っていたけど、双見アラモードなら期待することなどないわね。」
真理紗はアラモードを冷たく突き放すように言い、アラモードの元に並べられた十一個の指輪の内のアメジストの指輪を嵌めようとする。
「ん……、おかしいわね。」
しかし、真理紗が指輪を嵌めようとしても嵌めることができなかった。
「ダメみたいだね。」
「私が戦士の資格を剥奪されたと言うの?」
アラモードは平然とした様子で真理紗に話しかけるが、真理紗は指輪を嵌められないことで平静を保てなかった。
「もしかして、スノアとの戦いで戦士じゃなくなったってこと?」
依乃里は不安になりダイヤモンドの指輪を嵌めようとする。そして他の皆もそれぞれの指輪を嵌めようとするが、誰も嵌めることができなかった。
「本当だ、指輪を嵌められない。」
「何故このようなことが……?」
依乃里も自身が指輪を嵌められないことを確認する。そして風布花が疑問に思うと、アラモードは徐ろに古びたほんを取り出す。
「みんなが戦士の資格を失った原因はわからないけど、丁度私の方にこの力が戻ったんだよね。」
「それって、四年前の力⁉」
アラモードがそう言って見せた本は、嘗ての戦いで使われた物だった。風布花は四年前の力がアラモードの元に戻ったことを理解する。
「みんなを助けられたのもこれのお陰。私がスノアって怪物の頭上から大きなお菓子の家を落としたんだよ、逃げられたけどね。」
「あのお菓子の家は、アラモードさんが……。」
依乃里は、スノアにやられそうになった際に現れたお菓子の家を思い出す。
「つまり、今戦えるのはアラモードさんだけということですか?」
「そういうことかもね。」
依乃里は現状戦えるのがアラモードのみだと察するが、真理紗は理解できなかった。
「ふん、傷が癒えたらまた戦えるわ。あなたにこれ以上お世話になる必要などないのよ。」
真理紗はそう言ってアメジストとシトリンの指輪を持ち出しその場から去ろうとするが、林檎が引き留める。
「どこに帰るつもり?戦士じゃなくなったのならお城を召喚することだってできないんじゃないの?」
「それは……!」
真理紗は林檎の言葉に図星を突かれたようだった。真理紗ら三人は今まで住居としていた城をフラヴァイスから産み出していた。しかし戦士ではなくなった今、帰る場所がないのだ。そして美姫が優しく話しかける。
「真理紗、反発したいのはわかるけど暫くはここを使って。この洋館は元々私達の基地だったの。戦いが終わって暫くはリーナと実が住んでいたんだけど、二人も引っ越しちゃったから空き家なんだ。」
美姫は皆を休ませていた洋館が四年前まで基地として使っていたことを明かす。そして真理紗らに暫くの寝床として提供しようとする。
「真理紗~、流石にホームレスみたいな生活はきついよ。」
「そうですわね、流石に生活が貧しくなるのは耐えられませんわ。」
「はぁ……、仕方がないわね。」
真理紗は美李宇と芽里音の頼みもあり、洋館で暫く過ごすことを決める。そして依乃里、雨幸、桐菜の三人はベッドから立ち上がる。
「それでは美姫さん、お世話になりました。」
「大丈夫依乃里ちゃん?無理しないで。」
「大丈夫です、お構いなく。」
「ま、戦士じゃなくなったし時間が空いたって感じ?」
美姫は依乃里らを心配するが、依乃里ら三人は平然としている様子で答える。しかし、三人はどこか無理をして元気を出している様子が見え隠れしていた。そして三人は洋館を出ようとするが、指輪を持って行こうとしなかった。
「みんな、指輪は?」
「ああ、私達も暫くは指輪を嵌められそうにないので預かっておいて下さい。」
「右に同じです。」
「そういうことなんで。」
美姫は三人に尋ねるが、三人は美姫に預けると話す。
「じゃあレオン、行くよ。」
「ガー。」
依乃里はレオンを呼び、レオンは依乃里の肩に乗る。そしてどこか寂しげな背中を見せながら、依乃里らはその場を去るのだった。
「依乃里ちゃん……。」
「依乃里さん達も、スノアに敗れたんです。精神的に平気でいるはずがありません。」
美姫は心配そうに依乃里らを見つめ、風布花も依乃里らの心情を察していた。
「美姫さん、依乃里ちゃん達もいつかまた戦士になります。今はそれを信じるしかありません。」
林檎もそう言って美姫を励ます。そして皆は依乃里らを信じるしかないのであった。
一方、ダークサイレンスの本拠地ではスノアが珍しくいびきも掻かずにすやすやと眠っていた。
「珍しい、スノアの奴が静かに寝ていやがる。」
ブラクスはスノアを珍しそうに見つめる。するとブラクスの隣にノイジアスが現れる。
「俺の闇の力に、体力を持ってかれたか。」
「ノイジアス様、このままスノアを捨て駒にするおつもりですか?」
ブラクスはノイジアスに尋ねる。
「ああ、そのつもりだ。クリークと同様、スノアも死んだらその闇の力が俺の一部となる。無駄にはならない。」
「そう……、ですか……。」
「どうした?」
「いえ、何も……。」
ブラクスはノイジアスの返答に少し言葉を詰まらせる。ブラクスは自身ら幹部を捨て駒のように扱うノイジアスの考えに抵抗を感じ始めていた。
「ノイジアス様、次は俺が行っても良いですか?」
「ああ、スノアも暫く起きそうにない。頼んだぞ。」
ブラクスは自身が人間界の侵攻に赴くと申し出る。しかしブラクスの口調はどこか寂しげなものだった。そんなことを察することもなく、ノイジアスはブラクスに人間界の侵攻を任せる。
「それでは、行って参ります。」
「ブラクス、また俺の力を分け与えるか?」
「……結構です。」
ノイジアスはブラクスに、以前と同じような力を与える提案をするが、ブラクスはそれを拒否する。ブラクスの様子は、何かを諦めているようだった。そしてブラクスは人間界に赴くのだった。
戦士達がスノアに敗れてから数日、戦士の資格を失った彼女らは皆、思い思いの日常を過ごしていた。
「桐菜さん、もっとゆっくり足を動かしなさい。」
「はい、ママ。」
桐菜はいつものように日本舞踊の稽古に励む。桐菜は戦士の資格を失ってから、より一層稽古に励んでいた。
「今日の稽古はここまでにしておきましょう。桐菜さん、あとは自由に過ごしてもいいですよ。」
「ありがとう、ママ。」
桐菜は稽古を終え、私服に着替える。ふと桐菜の母親は桐菜に問いかける。
「桐菜さん。」
「何?ママ。」
「最近、表情が晴れませんね。何かあったのですか?」
「……何でもないよ。」
桐菜の母親は桐菜がどこか暗いことを察していた。何かあったのかと訪ねるが、桐菜は無理をしているような口調で何もないと答える。しかし桐菜の表情が晴れることはなかった。
「はぁ……。」
桐菜jは溜め息を吐きながら街中を歩く。すると桐菜の携帯電話に着信が入る。
「ん……、もしもし?」
「桐菜さん、お久しぶりです。」
「つっきー……。」
電話の相手は四年前のガーネットの戦士、三浦竹月だった。
「事情は美姫さん達からお伺いしています。助けに行けなくて申し訳ございません。」
「別にいいよつっきー、ありがとうね。」
「いえ、美姫さんからお元気がないともお伺いしているので少し心配しています。これから私の家に来ませんか?」
竹月は桐菜らが戦士の資格を失って以降、元気がないことを知り桐菜に連絡をしたのだ。竹月は桐菜を自身の家に招く。
「つっきーの家に?うん、行くよ。」
「それではお待ちしております。」
桐菜も元気をなくしているのは自覚していたため、竹月の気持ちを嬉しく感じる。そして桐菜は竹月の家に行くのだった。
時を同じくして、雨幸は大学の補講を受けていた。しかし雨幸も桐菜と同様、気分が晴れなかった。
「はぁ……。」
雨幸も戦士の資格を失ったことを少し引き摺っていた。そして雨幸は講義を終え、大学構内をぶらぶらと歩く。
「何か、また一人になっちゃったな……。」
雨幸は戦士の資格を失ってから、依乃里らと会っていなかった。それは他の皆も同じだった。元々誰かと一緒にいることがなかった雨幸だったが、依乃里らと出会ったことで人並みに友人と過ごす喜びを感じていた。しかし依乃里らと会わなくなったことで、また孤独を感じるようになってしまっていた。
「まあ、仕方がないよね……。」
雨幸がそう自分に言い聞かせるように呟いた時、雨幸の携帯電話に着信が入る。
「ん……、もしもし?」
「蓮葉雨幸、やはり沈んだ声のようですね。」
「リーナさん……。」
電話の相手は四年前のペリドットの戦士、リーナ・ジーニアスだった。リーナも雨幸のことを心配に思い、連絡したのだ。
「全く、電話越しでもわかる落ち込み方するなんて情けないですね。今から私の家に来ることはできますか?」
「あ、はい……、伺います。」
リーナも竹月と同じように、雨幸を自身の家に招く。そしてこの日の大学の講義を終えた雨幸はリーナの家に向かうのだった。
「つっきー、来たよ~。」
「お待ちしておりました、桐菜さん。」
桐菜は竹月の家を訪れる。快く迎えた竹月は、桐菜を家に入れるなりある提案をする。
「それでは、またパフェを作りましょう。」
「また?パフェ作るの好きだよねつっきー。」
竹月が提案したのはパフェ作りだった。竹月が桐菜と初めて出会った時も、竹月は桐菜を励ますために共にパフェを作っていた。
「パフェを作ればきっと気分も晴れます。」
「そうだね。」
桐菜は竹月の前向きな気持ちが嬉しかった。そして二人はパフェ作りを始めるのだった。
「お邪魔します、リーナさん。」
「蓮葉雨幸、まだ表情が暗いですよ。」
「ご、ごめんなさいリーナさん。」
一方、雨幸もリーナの家を訪れるがリーナから表情の暗さを指摘されてしまう。
「まあ、家に入って下さい。紅茶を入れてあります。」
「はい、お邪魔します。」
そして雨幸はリーナの家に上がるのだった。
共にパフェを作る桐菜と竹月。竹月はふと桐菜に問いかける。
「桐菜さん。」
「ん?」
「桐菜さんは戦士の資格を失ってから、どういったお気持ちなんですか?」
「……どうだろうね。」
竹月は桐菜が戦士の資格を失ってからの気持ちが知りたかった。しかし桐菜はすぐに言葉にできなかった。
「別に私は戦士になりたいわけじゃないし今でも全然平気なんだけど、いのりっちとかとはこれっきりになるのかなって……。」
桐菜は依乃里達との関係が終わることが気掛かりだった。桐菜は依乃里達に出会ってから共にいることが多くなっていたが、あくまで戦士としての関係だったような気がしていた。そして戦士ではなくなった今、桐菜は他の仲間と会いづらくなっていた。
「そうですか……。」
竹月は静かに返答する。竹月は桐菜の気持ちを理解していた。そして竹月は微笑み、優しく語りだす。
「出会いは様々でも、絆はきっと永遠です。」
「え?」
「私達は戦いが終わった今でも度々会いますし、仲もとても良いですよ。桐菜さんも、皆さんとは戦士としてだけの関係だと思わないで下さい。」
「そっか……、そうだよね。」
桐菜は竹月から、依乃里達がただの戦士同士の関係ではないことを説かれる。そして桐菜は再び仲間に会う決心を固めるのだった。
「そう言えば、今作ってるパフェって例の恋人に渡す奴?」
「はい、丁度桐菜さんに紹介したくて呼んでいるんです。そろそろ来る頃ですね。」
「へぇ~、どんな人なんだろう?」
桐菜は、以前パフェを作った時と同じように今回も竹月の作っているパフェが恋人に渡すものだと察していた。そして竹月が恋人を呼んでいることを知ると興味が湧いてくる。
「ピンポーン!」
「来たようですね。」
「おっ。」
そしてインターホンが鳴り、竹月と桐菜はドアを開けて出迎える。するとそこにいたのは双見アラモードだった。
「えっ……?」
「来たよ、竹月ちゃん。」
「お待ちしておりました、アラモードさん。」
桐菜とアラモードは特に何事もなく会話を交わすが、桐菜は戸惑って言葉が出なかった。
「つっきー、もしかして恋人って……。」
「はい、アラモードさんですよ。」
「あれ、知らなかったんだ。」
「嘘でしょ~~~~~~~⁉」
桐菜は、アラモードが竹月の恋人だと知り酷く驚いてしまうのだった。
一方その頃、雨幸はリーナの家で共に紅茶を飲んでいた。
「そうですか、戦士ではなくなりまた一人になったと……。」
「まあ、そんなところです。」
雨幸はリーナに、戦士ではなくなり依乃里達に会わなくなったことで再び孤独な大学生活に戻ったことを打ち明ける。
「戦士ではなくなり空っぽになる、以前の私を思い出しますね。」
「以前のリーナさん、ですか?」
雨幸の話を聞いたリーナは、四年前の自身と照らし合わせていた。
「実は私、最終決戦前に戦士の資格を失っているんです。」
「そ、そうなんですか?」
雨幸はリーナの話に驚く。リーナは嘗て、他の戦士よりも早く戦士の資格を失ったことがあった。
「ペリドットの戦士の資格は私よりも桜名美姫の方が適していたようで、最終決戦を前にして桜名美姫に資格を譲渡することとなりました。」
「そんなことが……。」
「そういうことなのであなた方が私達を先代と呼んでいますがペリドットに関して言えば正確には先代は桜名美姫、私は先々代になります。」
「まあ、そんな細かいことはいいです。私にとって先代はリーナさんです。」
リーナは最終決戦前に戦士の資格を美姫に譲渡していたことを明かす。そしてリーナは雨幸に自身の考えを言う。
「私が力を失うことを知った時も、戦士ではなくなった自分に価値がないと感じていました。でも戦士ではない日常を過ごし、戦士の資格を失う覚悟を決めたのです。」
「そうだったんですか……。」
「蓮葉雨幸、まあ戦士ではない自分に価値がないとまでは考えていないとは思います。しかし戦士として出会った仲間は戦士以上のもの、それは途切れることなどありません。私が言うのですから間違いはないはずです。」
「そうですか……、そうですね。」
雨幸も桐菜と同じく、リーナの言葉で迷いが吹っ切れるのだった。
一方、洋館では真理紗、芽里音、美李宇の三人がすやすやと眠っていた。皆が眠っているところに鈴木林檎が静かに訪れる。
「やっぱりスノアのダメージが大きいみたいだね。」
林檎は眠る真理紗を見てそう呟く。真理紗ら三人はスノアに敗れた日から、気力が無くなったように眠る日が続いていた。林檎は真理紗の枕元にあるアメジストとシトリンの指輪を手に取ろうとする。すると、真理紗が林檎の手首を掴む。
「……何をするつもりなのかしら?」
「うわ、起きちゃった?」
「当然よ、あなたが何をしでかすかわかったものじゃないのだから。」
林檎はアメジストとシトリンの指輪を真理紗から預かろうとしていたが、真理紗が頑として林檎に渡そうとしなかったのだ。
「私はただ、真理紗の力になれるかなと思って指輪を調べようとしてるだけだから。」
「今のあなたも戦士ではないのよ。調べるようなこともできないのではなくて?」
「それはそうかもだけど……。」
林檎は指輪を黙って持って行こうとしたことの弁解をするが、真理紗に論破されてしまう。
「とにかく、この指輪は私の物よ。私はダークサイレンスを倒す日まで戦士であると誓ったわ。」
「でも今は戦士の資格を失ってる。いい加減、依乃里ちゃん達みたいに自分の生活に戻ったら?」
真理紗は頑として戦士であることに拘るが、林檎は戦士の資格を失った真理紗に元の生活に戻るよう諭す。
「ふざけないでもらえるかしら?日常を過ごしながら戦うなど甘い考えの者がすることよ。」
真理紗はそう言うと無理矢理アメジストの指輪を左手の中指に嵌めようとする。
「ちょっと真理紗、何をしてるの?」
「決まっているでしょ、このまま戦士ではない事実を受け入れても世界は守れない。動き出さなければ何も変わらないのよ。」
真理紗は何も動かない現状を焦っていた。そして指に激しい痛みを感じつつも指輪を嵌める。
「……どうやら私の勝ちね、私は戦士であり続けるわ。」
真理紗は苦しみながらもそう言い、今度はシトリンの指輪を右手の中指に嵌め洋館を出ようとする。
「ちょっと待って真理紗……、うぅ……!」
林檎は指輪によって苦しむ真理紗を引き留めようとするが、その時騒音が鳴り響いてしまう。林檎は耳を塞いで倒れこみ、寝ていた芽里音と美李宇も起きて苦しみ出す。
「これは……、ダークサイレンスですわ!」
「こんなにうるさいんだ……。」
「待っていなさい芽里音、美李宇。すぐにこの騒音を治めるわ。」
真理紗は苦しむ二人に優しく呟く。
「さあ、来なさいピューマ!」
そして真理紗はジェントルピューマを連れ、洋館を出るのだった。
「暴れろ、マリスども!」
街中ではブラクスが複数のマリスを操り、暴れさせていた。そしてそこに真理紗と獣人と化したジェントルピューマが駆けつける。
「何だ、スノアにやられた死にぞこないか。」
「死にぞこないはあなたの方よブラクス、ここで私が完全にあなたを絶つわ。」
真理紗は指輪に苦しみつつもブラクスを挑発し、フラヴァイスを開く。
「パンジー!アメジスト!タンゴ!」
真理紗はフラヴァイスに叫ぶとフラヴァイスから音声が鳴り響く。
「Let's Dance!」
「踊るわよ!」
真理紗はそう言うとジェントルピューマと手を取り合い、フラヴァイスから流れる音楽に乗せてタンゴを踊る。次第に真理紗の体は戦士へとその姿を変える。
「魅惑の舞姫、ブラックチャーム!魅惑のムーヴに、酔いしれなさい。」
ブラックチャームは名乗り、ジェントルピューマと共にブラクスとマリスに立ち向かう。
「うっ……!」
ブラックチャームはいつものようにタンゴを踊りながら複数のマリスを相手取るが、戦士の力が体に適合しない分その負担も大きく、中々思うように戦えない。
「ふん、やっぱり死にぞこないだな。既にボロボロじゃねぇか。」
「黙りなさい!私は誰が何と言おうと戦士よ。この程度の相手、取るに足らないわ。」
ブラックチャームは嘲笑うブラクスに強がりを言うが、戦士の資格を失った状態で無理矢理戦士になった今、体は限界に達していた。
「ハッタリをかますか、まあいい。マリスども、この女を片付けろ!」
ブラクスはまともに立つこともままならなくなっていたブラックチャームを見て勝機を見出し、マリスに命令する。そしてマリスは寄ってたかってブラックチャームとジェントルピューマをリンチする。
「うっ……、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
ブラックチャームとジェントルピューマの指輪が再び弾け飛び、二人は元の姿に戻ってしまう。
「耳が……、耳がぁぁ!」
「よーし、止めだ。」
ブラクスはそう言って騒音に苦しむ真理紗と小さい獣の姿になったジェントルピューマに止めを刺そうとする。しかしその時、コツコツと足音が鳴り響く。
「あん、誰だ?」
「私でしたー。」
ブラクスに対しおどけたような返事をしながら歩いてきたのは双見アラモードだった。アラモードもダークサイレンスの出現を察知し、駆けつけたのだ。
「双見……、アラモード……!」
「黒崎真理紗だっけ?戦士じゃないんだから無理しちゃダメでしょ。」
アラモードは苦しむ真理紗に冷たく突き放すようにそう言い、分厚い本を開く。
「ふたご座!オパール!ヘンゼルとグレーテル!」
アラモードは本を開くなりそう叫ぶ。すると空が暗くなり、ふたご座が輝く。
「何だ、何が起きている?」
戸惑うブラクスだったが、アラモードは特に気にすることもなかった。そして空から甲高い女性の声が響く。
「Miracle Force!」
「カモン!」
アラモードは空にそう叫ぶとふたご座の最輝星が光を放ち、アラモードの嵌めているオパールの指輪に届く。そして本から文字が飛び出し、アラモードの体を包む。次第にアラモードの体は戦士へとその姿を変えるのだった。
その戦士はピンクと水色のツートンカラーのドレスを着ていて、それは飴やクッキーなどお菓子の柄が描かれている。更にツインテールの髪や目などもピンクと水色のツートンカラーとなっていた。
「ツインスウィーテス!」
その戦士はツインスウィーテスと名乗る。そしてツインスウィーテスはゆっくりと歩き、ブラクスとマリスに立ち向かうのだった。




