第二十三話 真に倒すべき相手
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。依乃里の仲間であり、四年前にも戦ったことのある赤園風布花は、嘗ての好敵手であるウルフィンが復活してしまうかも知れないとの知らせを受け悲しい気持ちに浸ってしまう。そしてクリークの言いなりとなったウルフィンを前に、落胆し泣き崩れてしまうのだった。
「風布花ちゃん!」
依乃里は泣き崩れる風布花を落ち着かせようと抱き締める。
「うぅ……。」
依乃里に抱き締められた風布花は漸く落ち着く。
「やっぱり、クリークはウルフィンを復活させましたね。」
「うん、しかも自分に忠実にするなんて狡猾過ぎない?」
仲間である蓮葉雨幸と新原桐菜はクリークがウルフィンを復活させたことに怒りを覚えていた。しかし黒崎真理紗は風布花に辛辣な言葉を浴びせる。
「赤園風布花、その涙は何だと言うの?」
「え……?」
「嘗ての好敵手の醜い姿を見たからなの?敵なら潰してしまえばいいだけだわ。それなのに満足に戦うこともできずに終わるなど戦士失格ね。」
「真理紗!」
依乃里は真理紗の言葉に怒りを覚え、真理紗の胸ぐらを掴みながら訴えかける。
「真理紗はわからないから言えるんだよ!風布花ちゃんとウルフィンのことをわからないから……!」
「ええ、わからないわ。敵に情が移ることにどんな脈絡があると言うの?」
「……!」
真理紗は風布花の涙が理解できなかった。依乃里は真理紗に何も言えなかった。
「言いたいことはそれだけよ。これでまた一つ、あなた達と敵対する理由が増えたわね。」
「そういうことですわね。」
「じゃあ交戦協定は継続ってことで引き続きよろしく~。バイバ~イ。」
そして真理紗は改めて依乃里らと敵対する意思を固め、上部芽里音、祭田美李宇を連れて去るのだった。そして依乃里は風布花の腕を支えて立ち上がらせる。
「風布花ちゃん、家まで送るね。」
「ありがとうございます……。」
「ゆっきー、私達も帰ろうか。」
「そうですね。」
依乃里は風布花を連れて帰る。桐菜と雨幸も帰り、この日は皆解散するのだった。
ダークサイレンスの本拠地に戻るクリークとウルフィン。クリークはウルフィンの強さに喜んでいた。
「想像以上ですよウルフィン!あのレッドライテストを精神的に揺さぶるだけでなく、その腕っぷしも申し分ない。これで奴らの壊滅も時間の問題です!」
クリークは高らかに笑うが、ブラクスとスノアの視線は冷たかった。
「何です?ブラクスにスノア。」
「な~んかクリーク、変わったね。」
「どういうことですか?」
「お前、まさかあのチビッ子を泣かせるためにわざわざとっくに死んだダークストーリーズの幹部を蘇らせたのか?」
ブラクスとスノアはクリークの大人気ないともいえる行動に少し呆れていた。
「悪いですか?今まで僕達は奴らのせいで人間界の侵攻が滞っていたのです。このくらいしないと奴らを排除できません。」
「ああそうかよ。昔の組織の奴を復活させるくらいならボードクローを復活させた方がいいと思うけどな。」
「僕も同感かな~。」
ブラクスとスノアはそう言い残し、クリークの元を離れる。
「ふん、まあ偉そうな口を叩けるのも今の内です。これから僕はダークサイレンスにとって多大なる功績を残すことになるのですから。」
「はい、私はついていれば安心ですクリーク様。」
「あなたという忠実な幹部がいればいいのですよウルフィン。」
クリークはブラクスとスノアに見限られても尚自身の考えを曲げなかった。そしてウルフィンはそんなクリークに忠誠を誓うように言う。
「さあウルフィン、また少し休んだらまた人間界に行きますよ。今度こそあの少女を叩き、一気に奴らを潰す道を切り拓くのです。」
「はい、全てはクリーク様のために。」
そしてクリークは再びウルフィンを連れ、戦士達の打倒を誓うのだった。
風布花が変わり果てたウルフィンを目の当たりにしてから数日、風布花の家を四年前のダイヤモンドの戦士である桜名美姫が訪れていた。風布花は美姫に甘えるように抱き着いていた。
「依乃里ちゃんから聞いたよ。やっぱりウルフィンが復活したんだって?」
「はい、以前のウルフィンとは違ってクリークの言いなりになっていました。ただ戦いを求めていたあの時のウルフィンとはまるで別人でした。」
「そっか……。」
美姫は風布花の言葉から、風布花がウルフィンに対して強くショックを受けていることを悟る。
「風布花ちゃんが辛いのは痛いほどわかるよ。多分今の姿はウルフィン自体も望んでいないと思う。だから風布花ちゃんがちゃんとウルフィンを成仏させてあげて。」
「ありがとうございます、美姫さん。」
風布花は美姫の言葉が嬉しくなり、美姫の首の後ろに手を伸ばし抱き締め合う。
「美姫さん。」
「何?」
「んー♡」
風布花は美姫の前で目を瞑り、唇を尖らせる。
「ダメだよ風布花ちゃん、みんなで約束したでしょ。」
「でも今は二人きりですし、それに私がまた戦士になったから最近はまともにデートもできてないじゃないですか。だから今だけ、今だけですから♡」
「しょうがないなぁ♡」
美姫は最初こそ風布花を諭すようなことを言うものの、風布花の熱意に負けるように同じく唇を尖らせる。そして二人はそのまま唇を近づけ合う。そして唇がほんの数ミリまで近づいた瞬間、風布花の部屋の扉が突然開く。
「風布花ちゃん大丈夫⁉」
「「おっと‼」」
そして依乃里が風布花の部屋に入り、美姫と風布花は反射的に互いから離れてしまう。そして依乃里に悟られないよう二人は互いから目を逸らす。
「あ、美姫さんも来ていたんですか。」
「ああ、うん。私も風布花ちゃんが心配でね。」
依乃里は美姫に話しかけるが、美姫はどこかぎこちない様子で答える。
「風布花ちゃんずっと元気ないかなって思ったけど、すっかり元気みたいだね。」
「はい、お陰様で。ご心配をおかけして申し訳ございません。」
依乃里は風布花が元気なことを確認すると、突然正座をして畏まる。
「風布花ちゃんごめん!」
「依乃里さん?」
依乃里は突然風布花に頭を下げ、風布花は戸惑ってしまう。
「あのね、雨幸ちゃんと桐菜ちゃんとも話したんだけどずっと風布花ちゃんに甘えていたかなって。」
「そ、そんなことないです!私も皆さんに助けて頂いていますし……。」
「いや、風布花ちゃんは四年前も戦っていたんでしょ?しかも当時まだ小学生だったのに。」
「まあ、確かにそうですけど……。」
「それなのに私達、風布花ちゃんの辛さを考えてなくて……。」
「いえ、私もずっと周りに助けられながら戦っていたんです。昔も今も……。」
依乃里は風布花に甘えていたことを謝る。しかし風布花自身も周りの人がいたから戦えていたと振り返る。そして風布花は強い意思を固め、真っ直ぐ依乃里を見つめる。
「依乃里さん、次にウルフィンが現れた時は私に戦わせて下さい。」
「うん、もしもの時はフォローするから頼むね。」
風布花は依乃里にウルフィンを倒す意思を伝える。依乃里も風布花の意思を尊重し、頷く。
「じゃあ私はもう行くね。今はゆっくり休んで。」
「はい、ありがとうございます。」
そして依乃里は風布花と美姫を残し、風布花の部屋を出る。依乃里が部屋を出た後、風布花と美姫は安心したように力が抜ける。
「「ふぅ~。」」
「美姫さん、危なかったですね。」
「本当だよ、依乃里ちゃんにバレるかと思った。」
二人は依乃里が来ている間、抱えている秘密を悟られるのではないかと気が気ではなかった。そして風布花は再び美姫の腕にしがみつく。
「それじゃあ美姫さん、今度こそ。」
「もうダメだよ風布花ちゃん、そろそろ私も帰らないと。」
「そんな、次にいつ二人きりになれるかわからないのに……。」
風布花はまた物欲しそうに美姫を見つめ、唇を尖らせる。
「わかった、じゃあ今の内に。」
美姫もそう言って唇を尖らせ、再び二人は唇を近づけ合う。しかしまた数ミリまで近づいた瞬間、依乃里が部屋のドアを開け、熱いお茶の入ったお椀が三個乗ったお盆を持って現れる。
「「おっと!」」
「あ、ごめん。お母さんがお茶を入れてくれてたから飲もうと思って。」
依乃里は風布花の家を出ようとした時、風布花の母親がお茶を入れていたところに出くわしたのだ。
「風布花ちゃん、何かお取込み中だった?」
「依乃里さん!決して見られて恥ずかしいものなんて無いんですけど!部屋に入る時はノックをお願いします!」
「ごめん、忘れてた。」
風布花は依乃里に鬼気迫る目つきでノックするよう言う。そして依乃里、風布花、美姫の三人でお茶を啜る。依乃里はふと美姫と風布花に問いかける。
「そう言えば美姫さんと風布花ちゃん。」
「はい。」
「何?」
「お二人って仲良いですよね?」
「「ぶふっ!」」
依乃里の何気ない言葉に、美姫と風布花は思わずお茶を噴き出してしまう。
「「アチャチャチャチャ!」」
「大丈夫ですか⁉」
依乃里はお茶を噴き出す二人に驚き、タオルで拭こうとする。
「ま、まあ依乃里さん、確かに私と美姫さんはとても仲が良いですがそれ以上の関係ではありません。」
「それ以上って?」
「お気になさらずに!」
「そ、そう……。」
依乃里は風布花の言葉に違和感を覚えるが、風布花の有無を言わせない言い方に圧倒されてしまい、質問をやめる。
「ところで依乃里ちゃん、レオンとはどう?」
ここでふと美姫は話題を変え、依乃里にパッショネイトレオンとのことについて尋ねる。
「レオンですか?もうラブラブですよ。最近は毎日家に帰ったらしばらくレオンとスキンシップしますし。」
「そうなんだ~、良いなぁ~。」
「そうですね、親から結婚を急かされることもあるんですけどレオンがいるのでできないですよね。」
依乃里はパッショネイトレオンと毎日恋人のようなスキンシップをしていると話す。しかしパッショネイトレオンはモンスターなので結婚できないことがやるせなかった。
「他の子って恋愛とかどうなの?」
「ああ、そう言えば雨幸ちゃんと桐菜ちゃんが最近付き合い出したって聞きました。」
「あ、そう!あの二人もそうなんだ~。」
「も?」
「あ、いや、こっちの話。」
依乃里は美姫に他の仲間に関しての恋愛事情を尋ねられ、雨幸と桐菜が付き合っていることを明かす。美姫は驚くが、依乃里はまたも美姫の言葉に違和感を覚える。しかしまたも話をはぐらかす美姫だった。そしてしばらくして、美姫と依乃里は風布花の家を出る。
「はぁ~。」
風布花は一人になった途端、溜め息を吐きながらベッドに横たわる。
「今度こそ、私がウルフィンを倒さないと……!」
風布花はウルフィンとの決着に思いを馳せるのだった。
そして翌日、クリークはウルフィンを連れて人間界に来ていた。
「ここで奴らを一網打尽にするために沢山のマリスを産み出しましょう。」
クリークはマリスを産み出すために、ウルフィンと共に悪意に満ち溢れていそうな人を探していた。ウルフィンはふとクリークに尋ねる。
「クリーク様、私はあの少女を倒すんですよね?」
「ええそうですよ、どうかしましたか?」
「いえ、ただ記憶はないのにあの少女に懐かしさというか……。」
「余計なことを考えるものではありません。あなたは人間界を侵攻するために産み出された存在、ただそれだけでいいのです。」
「はい……。」
ウルフィンは風布花と交戦した際、風布花に対してノスタルジーを感じていた。しかしクリークはウルフィンを自身の手下に収めたいがためにウルフィンにそれを忘れさせようとする。内心クリークはウルフィンが記憶を取り戻しつつあるのではないかと危惧していた。
「いけませんね……、さっさと奴らを倒したらウルフィンも始末しなくては……。」
クリークはいずれウルフィンが自身に牙を剥く前に始末することを目論んでいた。そして大量のマリスを産み出したクリークは、ウルフィンと共に街へ繰り出すのだった。
街にはまたクリークによるドアの軋むような不快な騒音が響き渡る。それは周りの反応を見た風布花も察していた。
「これは、またダークサイレンス!」
ダークサイレンスの出現を察知した風布花は、急いで街へと走り出す。すると風布花の前に真理紗が現れる。
「真理紗さん。」
「赤園風布花、今度腑抜けた姿を見せたら容赦なくあなたから戦士の資格を剥奪するわ。」
「はい、わかっています。」
真理紗は風布花に辛辣な言葉を言い放つ。しかし覚悟を決めた風布花には自身を奮い立たせる言葉だった。そして風布花は真理紗と共に街へ向かう。
「さあ暴れなさい、皆の者!」
クリークは街中でウルフィンとマリスを暴れさせ、既にローズレーザー、ベリースパークラー、チェリーエッジ、グレイスロード、フェスティブレイドが応戦していた。
「赤園風布花、既に遅れをとっているわよ。」
「わかっています。でも今日は、私がウルフィンとの決着をつけます!」
真理紗は風布花を煽るが、風布花はウルフィンと戦う意思を固め、真理紗と共にフラヴァイスを開く。
「カーネーション!パール!チャールストン!」
「パンジー!アメジスト!タンゴ!」
二人はそれぞれ叫び、フラヴァイスから音声が流れる。
「Let's Dance!」
「踊ってみせます!」
「踊るわよ!」
二人はそれぞれ叫ぶとフラヴァイスから流れる音楽に乗せ、風布花はチャールストンを、真理紗はパートナーのモンスターであるジェントルピューマと共にタンゴを踊る。そして二人は戦士へとその姿を変える。
「軽快な舞姫、レッドライテスト!」
「魅惑の舞姫、ブラックチャーム!」
「軽快なステップに、ついて来られますか?」
「魅惑のムーヴに、酔いしれなさい。」
レッドライテストとブラックチャームの二人はそれぞれ名乗り、立ち向かう。
「ウルフィン!」
レッドライテストは踊りながらウルフィンに飛びかかる。
「お前はあの時の少女か。」
ウルフィンはレッドライテストに対し、ノスタルジーを感じていたことを思い出す。
「俺はクリーク様に産み出された以外の記憶などない。だがお前を見ると大事なことを忘れているような感覚に陥る。これは何だ?」
「ウルフィン……。」
ウルフィンはレッドライテストを迎え撃ちながらレッドライテスト対して起こるノスタルジーを明かす。レッドライテストはウルフィンの過去の記憶が蘇ろうとしている希望を見出す。
「思い出して下さい!あなたは以前も悪の組織の幹部でしたが、世界の侵攻よりも強い相手と戦うことを望む方でした!」
「世界の侵攻よりも、か……。」
レッドライテストは嘗てのウルフィンを語り、ウルフィンの記憶を呼び戻そうとする。しかしその様子に、クリークは焦りを見せていた。
「ウルフィン!その少女の言葉に耳を傾けてはいけません!あなたの使命はその少女を始末し、戦士共を一網打尽にすることです!」
「そうでした、クリーク様。」
ウルフィンはレッドライテストの言葉に気持ちが揺れ動きそうになるも、クリークの呼びかけで心無き怪物に戻ってしまう。
「クリーク!風布花ちゃんとウルフィンの戦いを邪魔しないで!」
ローズレーザーはクリークに怒りをぶつけ、攻撃する。
「ふん、全てはあなた達を亡き者にするため。あなた達は世界の侵攻に邪魔な存在だと、何故気付かないのです⁉」
「わかってるからやっているんでしょ!」
クリークとローズレーザーは互いに主張をぶつけながら戦う。一方でウルフィンはレッドライテストを攻め立てていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
レッドライテストはウルフィンに跳ね飛ばされてしまう。
「どうやらお前は過去の俺と因縁があるようだ。だからクリーク様は俺とお前をぶつけようとしたのだろう。しかし今の俺はクリーク様の忠実なしもべ、お前を倒すことに何の躊躇いもない!」
ウルフィンはレッドライテストと記憶を失う前の自分に因縁があると納得する。しかしその上でウルフィンは今のレッドライテストに何の思い入れもないと冷酷に攻撃する。
「喰らえぇぇぇぇぇぇ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
ウルフィンの猛攻で、レッドライテストは遂に風布花の姿に戻ってしまう。
「風布花ちゃん!」
「風布花ちゃん!」
「ふぅちゃん!」
ローズレーザー、ベリースパークラー、チェリーエッジは思わず風布花の名を叫ぶ。
「ははは!遂に元の姿に戻すまで追い詰めましたか!」
クリークは元の姿に戻った風布花を見て高らかに笑う。そしてウルフィンは風布花に止めを刺そうとゆっくりと近づく。
「くっっ……、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
風布花は冷酷な視線を向けるウルフィンに、風布花は思わず飛び込み腰にしがみつく。
「心行くまで戦ったあなたは満足げに笑っていました!そして自分を倒したはずの私に笑えと言ってくれました!だからお願いです、せめて最後に笑って下さい……。」
「俺が、笑っていただと……⁉」
風布花はウルフィンに笑ってほしいと嘆く。ウルフィンは風布花の必死の言葉に、少しだけ記憶が蘇る。
「何だこれは……?」
ウルフィンは身に覚えがない記憶に困惑する。そんな時、突然空が暗闇に覆われる。
「な……、何?」
「何事ですの?」
「何が起きたわけ?」
突然の現象にローズレーザー、そしてグレイスロードとフェスティブレイドも戸惑ってしまう。そして暗くなった空にはおおかみ座が浮かび上がっていた。
「星座……、あれは四年前の戦士の力。何故今、古い力が……?」
ブラックチャームは空に浮かび上がるおおかみ座に首を傾げる。しかしウルフィンはおおかみ座に何かを感じ取っていた。
「あれは、狼……?」
ウルフィンがおおかみ座に何かを感じ取ったのも束の間、おおかみ座は消え空は元の明るさを取り戻す。
「ふん、突然空が暗くなって何が起きたかと思えば何もなく終わるとは拍子抜けですね。」
クリークは一瞬だけ空が暗くなったことに嫌味を言う。そしてウルフィンのすぐ後ろまで行く。
「さあウルフィン、余計なおしゃべりはここまでです。さっさとあの少女を始末しなさい!」
クリークはウルフィンに命じるが、ウルフィンは何も答えなかった。
「……どうしました?聞こえませんでしたか?」
戸惑うクリークはウルフィンに問いかける。するとウルフィンは突然クリークの方を振り返る。
「おらぁ!」
「くはっ!」
ウルフィンは勢いよくクリークの腹部に拳を打ち込む。突然のウルフィンの拳にクリークは嗚咽してしまう。
「な……、何のつもりですか?」
「何のつもりだと?それはこっちの台詞だ!」
ウルフィンはそれまでの落ち着いた口調から一転、荒々しい口調でクリークに言い放つ。その様子に風布花は嬉しくなっていた。
「ウルフィン……!」
「よぉ、久しぶりだな。」
ウルフィンは風布花の方を振り返り、微笑む。それは嘗ての好敵手だった頃のウルフィンの顔だった。そしてウルフィンはクリークを攻め立てる。
「よくも俺を強引に復活させて操り人形にしてくれたな!」
「おのれ記憶が戻りましたか、ウルフィン!」
クリークはウルフィンに憤りを感じ、立ち向かう。
「あなたはもうとっくの昔に滅んだ組織の幹部です。復活させたことくらい感謝して欲しいものですね。」
「ふざけんな!俺はなぁ、一度あのちびっ子と真剣に戦って死んだんだ。中途半端に復活するのが一番嫌いなんだよ!」
ウルフィンはクリークが自身を復活させたことが何よりも気に入らなかった。
「知っていますよ、あなたがあの少女と変に絆を紡いでいたことを。だからこそあの少女を揺さぶろうとしたじゃないですか。」
「それで奴らを倒した後は用済みの俺も片付けようとしたんだろ?お前が俺を倒そうなんざ百年早いんだよ!」
ウルフィンはクリークが自身も亡き者にしようとしていたことを察していた。ウルフィンはクリークを横たわらせ、踏みつける。
「いいか、俺の戦う相手は俺が決める。もう組織は滅んだんだ、世界の侵攻なんざどうでもいい。俺を本当に倒していいのはなぁ……。」
ウルフィンはそう言うと一瞬風布花の方を見て再びクリークを睨みつける。
「あいつだけなんだよ!」
ウルフィンはそう叫ぶとクリークを勢いよく蹴り飛ばす。そしてすっきりした様子で微笑みながら風布花の方を見る。
「しばらく見ない間に大きくなったな。」
「当たり前です。あれから四年も経ったんですから。」
ウルフィンは風布花に語りかける。ウルフィンは風布花が見違える程に大きくなっていたことに驚いていた。
「そうか、四年か。ダークストーリーズが滅んだと思ったらまた変な組織が現れてお前も大変だなぁ。」
「ええ、もうこれ以上あなたのような怪物が出ないでほしいものです。」
ウルフィンと風布花は互いに皮肉を言い合い、思わず笑みがこぼれてしまう。
「さぁて、また心行くまで戦おうか!」
「はい!」
そしてウルフィンは笑顔で風布花に勝負を挑み、風布花も笑顔で答える。
「カーネーション!パール!チャールストン!」
風布花はフラヴァイスを開き、チャールストンを踊ってレッドライテストに姿を変える。
「軽快な舞姫、レッドライテスト!それが今の私です!」
「レッドライテストか。そんじゃ、容赦はしねぇぞ!」
レッドライテストは名乗り、ウルフィンと激しくぶつかり合う。しかし二人はぶつかり合いながら会話を交わしていた。
「何だ、踊りながら戦うのか?」
「はい、前は星座と宝石と童話でしたが今は花と宝石とダンスなんです。」
「戦う組織が変わる度に力も変わるのか。それにしてもチャールストンって何だよ?」
「学校で習ったんです。これなら踊れるかなって思って。」
「へへっ、何だそれ?そんなんで選ぶのかよ。」
「いけませんか?これでも正義の味方ですし。」
「ああ、そうだな!」
ウルフィンとレッドライテストは戦いながらも楽しく語らっていた。そんな二人の間には誰も割り込むことのできない空気が漂っていた。
「何か、不思議な感じだね。」
「はい、ウルフィンと風布花ちゃんはただの敵同士では言い表せられない関係です。」
「悪の組織の幹部って、悪い奴ばっかじゃないのかもね。」
ローズレーザー、ベリースパークラー、チェリーエッジの三人はウルフィンとレッドライテストの間にある絆を感じていた。
「あれが、赤園風布花があの怪物に涙した理由なのね。私には理解できないわ。」
一方でブラックチャームはレッドライテストとウルフィンに芽生えた絆を理解できなかった。
「真理紗にもいつかきっと理解できるよ、単なる善悪の基準で決められないものが。」
「そう、期待しないで待っているわ。」
ローズレーザーはブラックチャームに、自分達の思いが伝わる希望を抱いていた。そしてレッドライテストとウルフィンの戦いは続く。
「うおぉぉぉぉ!」
「はぁぁぁぁぁ!」
二人の拳が激しくぶつかり合う。
「へっ、やっぱ強ぇなぁ。さっきまでとはえらい違いだ。」
「ええ、自分でも不思議です。記憶を失くしたあなたには手も足も出なかったのに。」
ウルフィンはレッドライテストの強さを改めて実感していた。そしてレッドライテストも、ウルフィンが記憶を取り戻したら存分に戦えていることを感じていた。そしてレッドライテストはウルフィンに、止めの攻撃を繰り出す。
「ステップ・オン・ザ・ビート!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
レッドライテストのチャールストンを利用した足技がウルフィンに炸裂し、ウルフィンは倒れ込んでしまう。
「ウルフィン!」
レッドライテストはウルフィンを抱きかかえる。
「へへっ、またやられちまったな。」
「当然です。これでも私、ママーハハを倒したんですよ。」
ウルフィンは微笑みながらレッドライテストに負けを認める。そしてレッドライテストは少し涙を浮かべながら答える。ウルフィンはふとレッドライテストの頬をつまむ。
「ほら笑えよ。前にも言っただろ?」
「すみません、目にゴミが入っただけです。」
レッドライテストに笑うように言うウルフィンに対し、レッドライテストは強がりを言う。
「前にやられた時はママーハハ様に取り込まれるなんて情けねぇところを見られちまったが、今度こそお前に見送られながら死ねるな。」
「もう復活しないで下さいね、また寂しくなるんですから。」
ウルフィンが満足げな顔で言うと、レッドライテストは涙混じりの笑顔で答える。そしてウルフィンは、レッドライテストに見守られながら光となって消滅するのだった。
「ウルフィン……。」
レッドライテストは微笑みながら光が昇天する空を見上げる。レッドライテストは満足げだったが、クリークはいい気分がしなかった。
「おのれウルフィン、あと少しのところで記憶を取り戻してくれましたね……!」
クリークはウルフィンが己の思い通りにならなかったことを嘆く。しかしレッドライテストの怒りの矛先は既にクリークを向いていた。
「クリーク!よくもウルフィンを操り人形にしてくれましたね!あなたはここで、私達が倒します!」
レッドライテストはクリークにそう叫び、ローズレーザー、ベリースパークラー、チェリーエッジの三人とパッショネイトレオンも並んでクリークを睨みつける。
「ええ、できるものならやってみなさい!」
「雨幸ちゃん、桐菜ちゃん、風布花ちゃん、レオン!今までのお返しをするよ!」
「はい!」
「オッケー!」
「行きましょう!」
「ガー!」
そして五人はクリークに立ち向かうのだった。




