第二十一話 愛と自由を求めて
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。再び戦士となることができた依乃里は黒崎真理紗らと敵対することを決める。ある日、彼氏ができたと思われる仲間の新原桐菜を蓮葉雨幸が追いかけるが、雨幸はそこで真理紗の仲間である上部芽里音と遭遇する。芽里音から失踪した経緯を聞く雨幸だったが、雨幸はそれでも芽里音の行動に納得できなかった。
彼氏と思われる男性と行動を共にしている桐菜。桐菜と男性はとある文房具店に行き、お洒落なペンなどを物色していた。そんな桐菜をやっと思いで雨幸は見つけ、芽里音と共に物陰からこっそりと見ていた。
「蓮葉雨幸、何故新原桐菜を覗いているのですの?」
「桐菜ちゃんと一緒にいる男の人、桐菜ちゃんの彼氏みたいなんです。」
「仲間に恋人ができることなど取るに足らないことではなくて?」
「そうかも知れませんけど、気になるんです!」
芽里音は雨幸が桐菜を覗いている理由がわからなかった。雨幸も具体的な理由を説明できず、芽里音を黙らせようとする。
「大体、芽里音さんも真理紗さんの元に戻った方がいいんじゃないですか?何でここまでついて来ているんですか?」
「面白そうだからと言ったはずですわ。それに私は醜い争いをしてしまったので戻りづらいのですの。」
「醜い争いですか……。」
一方の雨幸も芽里音の言う醜い争いがわからなかった。しかし芽里音の何となく戻りづらい気持ちは察していた。
「じゃあ桐菜ちゃん、次のお店に行こうか。」
「はい、そうしましょう。」
男性は桐菜にそう言って店を移動しようとする。
「桐菜ちゃんが、敬語を使ってるーー⁉」
「そんなことは取るに足りませんわ。それよりも新原桐菜が移動しますわよ、追いかけた方が良くなくて?」
「そ、そうでした!」
一瞬桐菜が敬語を使っていることに驚く雨幸だったが、芽里音はそんな雨幸を落ち着かせ再び後を追うのだった。
一方その頃、ダークサイレンスではブラクスがクリークの姿を見ていないことが気になっていた。
「おいスノア、クリークの奴はどうした?」
ブラクスは寝ているスノアにクリークのことを尋ねる。
「クリーク~?クリークなら籠ってるよ~。」
「籠ってるだと?」
「うん。」
ブラクスはスノアの言葉に驚く。クリークは不気味な笑みを浮かべながら戻ってきた後、しばらく別室に籠って何かをしている様子だった。
「あいつは何をしているんだ?」
「さあね。でも奴ら指輪の戦士を叩くチャンスだとか言ってたかなぁ~。」
「あいつなりの秘策があるってことか……。」
ブラクスは具体的なことがわからないながらもクリークの考えに任せることにしたのだった。
雨幸と芽里音は桐菜と男性の後を追っていた。桐菜と男性は文房具店の他にも本屋や化粧品店など色々な店を転々としていた。
「ここまでついて参りましたが、やはりあの二人は清純な交際関係にあると見て間違いありませんわ。」
「で、ですよね……。」
芽里音は桐菜と男性が付き合っていると確信していた。それを聞いた雨幸は少し溜め息を吐いてしまう。
「はぁ……。」
「蓮葉雨幸、あなたの感情がよくわかりませんわ。」
「え?」
「恋人がいるとわかって溜め息を吐く相手というのは、自身が恋心を抱いている方に他なりませんわ。まるで今のあなたは新原桐菜に恋心を抱いているように見えますわよ。」
「え⁉そ、そんなことはないです……!」
芽里音は雨幸が桐菜のことを好きでいるように見えていた。雨幸は動揺しながら否定する。
「それじゃあ桐菜ちゃん、今日はありがとうね。」
「はい、また学校で。」
雨幸と芽里音が会話を交わしている内に、桐菜と男性は解散していた。
「今ですわよ蓮葉雨幸、今の内に新原桐菜に真相を聞くのですわ。」
「あ、はい!」
芽里音はその隙を見て雨幸に、桐菜に男性とのことを直接聞くように促す。雨幸も慌てながら桐菜の元へ行こうとするが、桐菜の前に真理紗の仲間である祭田美李宇が現れる。
「いけませんわ!」
「うげっ!」
芽里音は慌てて雨幸を引き留める。雨幸は服を引っ張られて少し苦しみながらその場に止まってしまう。
「やっほー桐菜ちゃん、今の彼氏?」
「美李宇⁉いつからいたの?」
「今あんたを見つけたところだよ。まあそんなことはどうでもいいじゃん、ちょっとどっかで奢ってくれない?」
「はぁ?図々しいなぁ……。」
美李宇は桐菜に話し掛け、桐菜は呆れた様子を見せながらも近くのカフェに入っていく。その様子を雨幸と芽里音は引き続き陰で見ていた。
「まさかここで美李宇が現れるとは……。」
「美李宇さんがいるとダメなんですか?仲間なんですよね?」
芽里音は美李宇が現れたことで雨幸を引き留めたようだった。雨幸にはその理由がわからなかったが、ふとあることを思い出す。
「もしかして、芽里音さんの言っていた醜い争いって……。」
「ええ、美李宇としていましたわ。」
「そういうことですか……。」
雨幸は先ほどから何となく理解できていなかった芽里音の言う醜い争いが美李宇としていたことだと知り、美李宇の前に行けない理由を察する。
「とにかく蓮葉雨幸、尾行を続けますわよ。」
「あ、はい!」
いつの間にか芽里音が先導するようになり、雨幸と芽里音は桐菜と美李宇を尾行するのだった。
雨幸と芽里音は桐菜と美李宇に気付かれないようにカフェの近くの席に着いていた。
「芽里音さん。」
「何かしら?」
「何で美李宇さんと喧嘩……、醜い争いなんかしたんですか?」
雨幸は芽里音に、美李宇と醜い争いをした理由を尋ねる。
「元々私と美李宇はただ真理紗を慕うことが共通しているだけで、あまり仲が宜しくありませんでしたの。美李宇は陽気な方か何か知りませんが言葉遣いも下品で私の好まない方ですわ、しかも彼女の方が年下ですのに。」
「なるほど……。」
雨幸は芽里音と美李宇が元々仲の悪い関係ということに納得するが、少し意外な気持ちだった。そしてそのことは桐菜も美李宇から聞いていた。
「美李宇、一人でいるとか珍しいじゃん。」
「まぁね、芽里音と醜い争いをしちゃったから。」
「醜い争い?芽里音と?」
「うん、何か芽里音って気に喰わないんだよね。名家のお嬢様か何か知らないけど時代錯誤なお嬢様言葉とか使ってるしさ、しかも向こうの方が年上だからって偉そうにしてるし。」
「なるほど……。」
桐菜も雨幸と同様、芽里音と美李宇の仲の悪さを意外に感じていた。しかし雨幸と桐菜は、それ以外に気になることがあった。
「芽里音さん、美李宇さんより芽里音さんの方が年上なんですか?」
「美李宇、あんた達って年はいくつくらいなの?」
二人が気になったのは芽里音と美李宇、そして真理紗の年齢だった。そして芽里音と美李宇はそれぞれ年齢について答える。
「ええ。私が24歳で、美李宇が23歳。因みに真理紗は25歳ですわ。」
「えっと私が23で芽里音が24、真理紗が25だったかな?」
「「え⁉」」
雨幸も桐菜も三人の年齢に驚いてしまう。
「お三方とも私より全然年上だったんですね……。」
「三人ともちゃんと連絡すれば失踪とか騒がれない年じゃん……。」
雨幸と桐菜は、真理紗らが自身よりも年上だったことに驚く。そして美李宇は桐菜に男性のことについて尋ねる。
「さて、今度はあんたが教えなさいよ。さっき一緒にいた男って誰?彼氏?」
「あの人?」
その会話を芽里音と雨幸は聞き逃さなかった。
「蓮葉雨幸、美李宇が新原桐菜に男性のことをお聞きしましたわよ!」
「いけません!」
芽里音と雨幸は急いで聞き耳を立てる。そして桐菜は男性について明かす。
「あの人は学校の先輩で、友達の彼氏だよ。今度その友達の誕生日だからプレゼントの相談を受けていただけ。」
「何だ、つまんない。」
「ふぅ〜。」
桐菜はその男性が友人の彼氏だと明かし、美李宇は残念に思い不貞腐れてしまう。しかし雨幸は肩の力が抜けるような思いだった。
「それって私に見つかるよりその友達に見られた方が面白い奴じゃん。」
「本当嫌な言い方するよね、美李宇って。」
美李宇は他人事のように桐菜が大変な目に遭うことを期待していた。桐菜はその物言いに苛立つ。
「安心しました。あの男の人は桐菜ちゃんの彼氏じゃなかったんですね。」
「あら、その安堵のしかたは恋する乙女ですわよ。」
「そ、そんなんじゃありません!」
雨幸は胸を撫で下ろす思いだったが、芽里音はそれを桐菜のことが好きだと揶揄する。雨幸はまたも慌てて否定する。そんな中、美李宇は未だ桐菜に問いかけていた。
「ねぇ、結局あんたって彼氏とかいないの?好きな人とかさ。」
「好きな人っていうか、気になるっていうか……。」
「いるんですか⁉」
美李宇は恋愛の話が尽きないらしく、桐菜に彼氏などを聞いていた。すると桐菜は少しはっきりしないながらも相手がいるようなことを答える。その桐菜の言葉に雨幸は驚き、思わず立ち上がって声を出してしまう。
「ゆっきー、ずっといたの?」
「あ、すみません……。」
「あら、やってしまいましたわね。」
「何で芽里音までいるのさ。」
桐菜と美李宇はそこで雨幸と芽里音の存在に気が付く。
「ごめんなさい桐菜ちゃん、桐菜ちゃんに彼氏がいるかもって思ったらつい……。」
「そうだったんだ、ゆっきー。」
雨幸は桐菜の後を追っていたことを明かし、桐菜も雨幸の気持ちを察する。
「ごめんねゆっきー、変に心配掛けちゃって。」
「いえ、私が先走ったのがいけないんです。」
桐菜は雨幸に心配を掛けたと感じ、申し訳なく思っていた。雨幸と桐菜は無事に和解するが芽里音と美李宇は険悪な雰囲気になっていた。
「さて芽里音、立ち聞きなんてあんたもいい趣味をするようになったね~。」
「あら、別にあなたを追っていたのではありませんわ。私はただ蓮葉雨幸と行動を共にしただけですわよ。」
美李宇は芽里音が自身を尾行していたと芽里音を責めるが、芽里音はあくまで雨幸と供に桐菜を追っていただけだと話す。
「美李宇、本当は新原桐菜が件の男性と別れてから声を掛けるつもりでしたわ。しかしあなたが現れるものですから。」
「へぇ~、声を掛けづらかったと?」
「そうなりますわね。」
芽里音と美李宇は互いに睨み合う。そんな二人を桐菜が仲裁する。
「はいスト〜ップ!二人共、らしくない喧嘩はしないの!」
「あら、喧嘩ではありませんわ。ただの醜い争いですわよ。」
「自分で言っちゃうんだ……。」
桐菜は芽里音が自身で醜い争いと言いながら美李宇と睨みあっていることに呆れてしまう。
「自分で醜い争いってわかっているならさっさとやめればいいでしょ。ほらもう、仲良くしなさい!」
そして桐菜は芽里音と美李宇に仲良くするよう言い聞かせるが、芽里音も美李宇も頑として引かなかった。
「全く、子供かこいつら。」
「まあ桐菜ちゃん、元々反りの合わなそうな人達みたいですから。」
桐菜は芽里音と美李宇の頑固な態度に呆れるが、雨幸は二人の仲裁を諦めるよう宥める。そして美李宇が苛立ちながら席に着く。
「全く、これだから温室育ちのお嬢様は嫌なんだよ。私を理解してくれる人は真理紗しかいないんだから。」
「それはこちらの台詞ですわ。あなたのような下品な方は好ましくありませんの。やはり私を理解するのは真理紗だけですわ。」
「どっちも真理紗が大好きで一緒にいるだけなんだ……。」
美李宇と芽里音の互いへの怒りを見て、桐菜は二人が本当に真理紗について来ただけなのだと確信する。そして桐菜は美李宇を宥めるように肩に手を置く。
「それじゃあ美李宇、聞かせてもらいましょうか。」
「何をさ?」
「あんたがそんなに真理紗を慕っている理由でしょ。」
「そうですわね、聞かせてもらいましょうかしら。」
「私も、気になります。」
「マジかよ……。」
桐菜は美李宇に、真理紗を慕う理由を尋ねる。そして芽里音と雨幸も美李宇の経緯が気になっていた。美李宇は嫌がりながらも渋々語り始めるのだった。
「私はね、高校に入ったくらいから親に反発して遊び歩くようになっちゃったの。そこでクラブに出会っちゃってもうそっからは学校をサボってサボってサボりまくりよ。」
「あぁ……、よくある不良ルートね。」
「親御さんも相当頭を抱えていたでしょうね……。」
美李宇は高校生の頃から遊び歩いていたことを明かす。その話に、桐菜も雨幸も美李宇の親に同情する。
「そっ、それで見かねたパパとママはクラブで私が社交ダンスをしていることを聞いて私に無理矢理社交ダンスを習わせたの。そうしたら才能が開花しちゃって大会で優勝するくらいまでになっちゃった。」
「なるほど、確かに美李宇のダンスは他の方と一線を画すものですわ。クラブで培われたものなのですわね。」
美李宇はクラブで社交ダンスを踊っていたことから社交ダンスに通うようになる。その話を聞いた芽里音は美李宇の社交ダンスの腕がクラブによるものだと納得する。
「まぁそれでも私は大会で誰かと競うより遊んで踊る方が性に合っているみたいで、その後もクラブに行って遊んだ。時には自分でクラブを開催なんかしちゃってね。でも段々苦情が入ってきちゃって満足に遊べなくなっちゃった。」
「あぁ~、相当うるさかったんだ……。」
「うん、それで警察沙汰になることも多くなってね。その度に親に連れ戻されてまたガチガチの社交ダンスをやらされる日々だよ。本当は自由にダンスを踊りたいだけなのにさ。でもある時、クラブで踊っていた私の前に真理紗が現れた。」
美李宇は社交ダンスの実力こそあったものの、自由にダンスを踊るのが好きだった。しかし美李宇の求める自由なダンスをする場所は周囲から感心されるものではなかった。それでも美李宇は自由を求めてダンスを踊っていた。そんな中、真理紗が美李宇の前に現れたと美李宇は語る。そして美李宇は真理紗と初めて出会った時のことを思い起こしていた。
「中々派手に遊んでいるじゃない、社交ダンスの実力者である祭田美李宇ともあろうお人が。」
「あんた、確かこの間の全国大会で優勝した黒崎真理紗……?」
真理紗はミラーボールが輝くクラブ会場の中、陽気に踊る美李宇の前に現れ声を掛ける。美李宇は競技ダンスの大会で優勝していた真理紗とは同じ競技ダンスの選手として面識があった。そして二人はクラブ会場にいる人達に見られながら対峙する。
「あんたも下らない遊びとか言って私の自由を奪うつもり?」
「いえ、自由という言葉は私も大好きよ。あなたのダンスを愛する純粋な気持ちは本物であることはあなたのダンスを見ればわかるわ。だからちょっと私も交ぜて下さらない?」
「はぁ?あんたは真面目にダンスを踊る人でしょ?こんな所で踊っていいわけ?」
美李宇は最初、真理紗がクラブを止めようとしていたと思っていた。しかし真理紗は逆に自身もクラブに交ぜるように言う。
「さあ、どなたでも良いわ。私とタンゴを踊って下さらない?」
「誰だか知らねぇが、タンゴなんて踊るわけねぇだろ!引っ込め!」
「そうだそうだ!」
「帰れ帰れ!」
「「「「か~え~れ!か~え~れ!」」」」
真理紗はクラブの中でタンゴを踊ろうとするが、タンゴなど受け付けないクラブの参加者達は真理紗に帰るようブーイングする。しかしそんな彼らを美李宇が一喝する。
「うるさい!ここの主催者は私だよ、黒崎真理紗を追い出すかどうかは私が決める。誰か真理紗とタンゴを踊って。」
美李宇は真理紗のタンゴを見て、クラブから追い出すか決めようとしていた。そしてタンゴをかじっていた一人の男性が渋々真理紗とタンゴを踊る。しかし真理紗が踊り出した瞬間、会場の雰囲気は一変していた。
「何だよあれ……。」
「カッコいい……。」
「ていうかエロくね?」
先ほどまでブーイングをしていた者は全て真理紗のタンゴに魅了されていた。
「黒崎真理紗、大会は他の人のダンスなんか興味ないから見ていなかったけど凄いって噂されるだけあるな……。」
そして美李宇も同じく真理紗のダンスに魅了されていた。そして踊り終えた真理紗は美李宇の元に歩み寄る。
「祭田美李宇、ダンスは己の気持ちを表現するための物よ。決して優劣をつけるためにあるものじゃない。ここにいる皆が私のダンスに目を奪われていた、それだけで私は十分幸せよ。」
「黒崎真理紗……。」
真理紗の言葉は美李宇の心に深く刻まれていた。そして真理紗は度々美李宇の主催するパーティなどに参加するようになり、二人は仲を深めていった。
「まぁこれが、私が真理紗を慕う理由って奴かな?真理紗は私が言葉に出来なかったダンスをしたい理由を語ってくれた、だから真理紗だけが私を理解できるということだよ。」
「なるほど、美李宇らしいな。」
桐菜、雨幸、芽里音の三人は美李宇の話に納得していた。
「まぁそんなこんなで私が本当に心を開けるのは真理紗だけだったから、真理紗が失踪したって聞いた時は本当に悲しかったよ。でも二年前、真理紗がラピスラズリとエメラルドの指輪を持って私の前に現れた時に私は真理紗について行こうと思って一緒に失踪したってわけ。」
「……私と然程変わりありませんわね。」
芽里音は美李宇も自身と同じように真理紗を慕ってついて来たということを改めて知る。そして芽里音は美李宇の隣に座る。
「……少し言い過ぎましたわ。」
「何さ芽里音、改まっちゃって。」
「私も真理紗をお慕いする気持ちは同じですわ。思えば私も二年前にあなたも共に戦うことを受け入れた身、これからも一緒ですわ。」
「……まあ、私も言い過ぎちゃったかな?ごめん。」
芽里音は美李宇も真理紗を慕う同志であることを確認し、美李宇に謝る。そして美李宇も誤り、二人は仲直りするのだった。
「よし、これで万事解決だねゆっきー。」
「そうですね、桐菜ちゃん。」
芽里音と美李宇の二人が仲直りしたことを確認し、桐菜と雨幸の二人は安心するのだった。
「じゃあ二人共、一緒に真理紗の所に帰ってあげて。」
「本当は親御さんの所にも帰ってあげて欲しいんですけど……。」
「残念ですけど戦いが終わるまで帰らないというのが真理紗の意向ですので。」
「帰ることなんてできないんだなぁ~これが。」
雨幸、桐菜、芽里音、美李宇の四人は共にカフェを出る。桐菜は芽里音と美李宇の二人に、真理紗の元に帰るよう言う。本当は失踪をやめて家族の元に帰ってあげて欲しいと願う雨幸だったが、芽里音も美李宇も真理紗に従い家族の元に帰ることは否定してしまう。そして一同はすっきりした気分で解散しようとするところだったが、そこに真理紗が現れる。
「あなた達、そこで桜間依乃里側の人間と一緒にいるなんて交戦協定を忘れたのかしら?」
「真理紗……。」
「戦う気分ではなかっただけですわ。」
真理紗は雨幸と桐菜と共にいるにも関わらず戦おうとしない芽里音と美李宇を責める。そして真理紗は自身のパートナーであるジェントルピューマにシトリンの指輪を翳し、獣人の姿にする。
「まさか真理紗さん、ここで戦うつもりじゃ……。」
「マジで⁉」
「そのまさかよ。」
そして真理紗はフラヴァイスを開き叫ぶ。
「パンジー!アメジスト!タンゴ!」
そしてフラヴァイスから音声が流れる。
「Let's Dance!」
「踊るわよ!」
真理紗はフラヴァイスから流れる音楽に乗せてジェントルピューマとタンゴを踊る。次第に真理紗は戦士へとその姿を変えるのだった。
「魅惑の舞姫、ブラックチャーム!魅惑のムーヴに、酔いしれなさい。」
戦士となったブラックチャームは名乗り、雨幸と桐菜に攻撃する。
「ちょっと真理紗!無防備なのに襲い掛かるとか協定違反じゃない?」
「私達は必要以上に戦うつもりなどありません!」
「問答無用よ。あなた達は桜間依乃里と違っていくらでも替えが利く存在、あなた達の命を奪うことに躊躇なんてないのよ。」
「真理紗、今日のところは帰ろうよ~。」
「流石に本日は戦う必要などありませんわ。」
芽里音と美李宇もブラックチャームにやめるよう言うが、ブラックチャームは聞く耳を持たなかった。
「さあ、止めよ。」
そしてブラックチャームはレーザー銃を召喚し、雨幸と桐菜に向けて力を込める。
「チャーミングストライク!」
ブラックチャームの放つレーザー光線が雨幸と桐菜に直撃しようとするが、その瞬間獣人と化したパッショネイトレオンが二人の前に現れレーザー光線を弾く。
「ガッ!」
「レオン!」
「何で来てくれたんですか?」
雨幸も桐菜もパッショネイトレオンが来たことに驚くが、そこに依乃里も駆けつける。
「真理紗、そろそろいい加減にしてよ。」
「あら、あなたが相手をするのなら別にいいわよ。」
依乃里はブラックチャームを止めようとレーザー銃を向ける。そしてブラックチャームは依乃里が相手をするように言う。そして依乃里もフラヴァイスを持って構える。
「バラ!ダイヤモンド!パソドブレ!」
「Let's Dance!」
「踊るよ!」
依乃里はフラヴァイスを勢いよく開き叫ぶ。そしてフラヴァイスから流れる音楽に乗せパッショネイトレオンとパソドブレを踊り戦士へとその姿を変える。
「情熱の舞姫、ローズレーザー!情熱のメロディー、響かせてあげる!」
戦士となったローズレーザーは名乗り、ブラックチャームに立ち向かう。
「「はぁぁ!」」
ローズレーザーとブラックチャーム、二人の可憐な社交ダンスを駆使した攻撃がぶつかり合う。
「雨幸ちゃん桐菜ちゃん逃げて!真理紗だけなら私がなんとかするから」
「依乃里さん!」
「ごめんいのりっち!」
ローズレーザーは雨幸と桐菜に逃げるよう促し、二人はその場から離れるのだった。
「さあ真理紗、また一対一で勝負と行こうじゃない。」
「そう、あなたも好戦的になったものね。」
ローズレーザーはブラックチャームを挑発するように言い、二人は再びぶつかり合う。ローズレーザーはパッショネイトレオンと踊るパソドブレ、そしてブラックチャームはジェントルピューマと踊るタンゴで足技を駆使しながら互いを攻め立てるのだった。
一方、雨幸と桐菜は依乃里が戦ってくれたこともあり急いで戦いの場から離れていた。
「ふぅ……、いのりっちが来てくれて助かったね。」
「そうですね、依乃里さんには申し訳ないことをしました。」
二人は必死に逃げ、逃げ切ったところで息を切らしながら言葉を交わしていた。
「あの桐菜ちゃん、先ほど桐菜ちゃんの言っていた気になる人のことなんですけど……。」
雨幸はふと桐菜に、先ほど美李宇に言いかけていた気になる人という件について尋ねようととする。すると桐菜は少し微笑んで答える。
「ゆっきー、家に行っていい?」
「え……?あ、はい。」
桐菜は雨幸の家に行くと言い、雨幸は少し戸惑いながらも桐菜を家に招待するのだった。
雨幸は桐菜を家に招き、桐菜を尾行していた理由を話す。雨幸は仲間である赤園風布花から桐菜を恋人として勧められた時から桐菜を意識していた。そして桐菜に彼氏がいるかも知れないと聞いた時に今まで感じたことのない焦りを感じていた。それが風布花から恋人がいないのは自身だけということからだと指摘されたが、芽里音からは恋する乙女のようだと指摘されわからなくなっていた。
「そういうことか~、なるほどね。」
桐菜は雨幸の話を聞いて全てを納得していた。そして桐菜も雨幸に気持ちを明かす。
「実はねゆっきー、私もまともに恋愛とかしたことないからよくわからなくて。ふぅちゃんが言っていた女の子同士で恋愛すればいいっていうのがずっと気になっていたんだよね。」
「そうだったんですか、桐菜ちゃんも……。」
桐菜も風布花から女性同士の恋愛を勧められたことを気にしていた。同じ考えだったことに雨幸は嬉しさを覚える。
「でもまぁ年下の私が言うのもなんなんだけど、私達もまだ若いし焦る必要もないんじゃない?大事なのは自分の気持ちに正直になることなんだからさ。」
「ありがとうございます、桐菜ちゃん。」
桐菜は雨幸に、焦る必要はないと語る。雨幸は桐菜の言葉に安心していた。
「じゃあもう帰るね、ゆっきー。」
「はい、今日はありがとうございました。」
そして桐菜は雨幸の家を去ろうとする。見送ろうとする雨幸だったが、ふと寂しい気持ちになってしまう。
「ん……、ゆっきーどうした?」
「い……、いえ。」
雨幸は無意識に桐菜の服の袖を引っ張っていた。
「自分の気持ちに正直になるとしたら、まだ桐菜ちゃんと離れたくないです。」
「ゆっきー……。」
桐菜を引き留める雨幸の目は、正しく恋する乙女だった。桐菜にはそれがたまらなく愛おしく思えた。
「ゆっきー!」
「桐菜ちゃん!」
桐菜は思わず雨幸にキスをする。そして二人は抱き合って唇を重ね合う。
「ゆっきー、可愛いよ。」
「桐菜ちゃんも、とても可愛いです。」
二人はそのままベッドに移動し、重なるように横たわる。
「桐菜ちゃん、私も依乃里さんみたいに愛の戦士になりたいです。」
「二人でなろうゆっきー、愛の戦士に。」
そして雨幸と桐菜は、二人で過ごすのだった。




