第二十話 セクシーガールとお嬢様
何処にでもいるはずの女性、桜間依乃里はひょんなことから戦士となった。再び戦士となることができた依乃里は黒崎真理紗らと敵対することを決める。そして真理紗が提案したのは休戦協定ならぬ交戦協定だった。どこか腑に落ちないながらも協定を結ぶ依乃里だったが、真理紗の挑発に乗り本気で戦ってしまうのだった。
ある日、依乃里は仲間である蓮葉雨幸、新原桐菜、赤園風布花を自身の家に招いていた。依乃里は先日の戦いで真理紗と本気で戦ったことを悔いていた。
「ごめんみんな、私ついカッとなっちゃって……。」
「いえ、あまり気にしていません。」
依乃里は皆に真理紗と本気で戦ってしまったことを謝る。しかし皆はあまり気に留める様子がなかった。
「いのりっちが真理紗達と敵対するって決めたんだし、別に良いんじゃない?」
「私達は依乃里さんについて行くだけですから。」
「みんな、ありがとう…。」
依乃里は皆の気持ちを嬉しく感じる。
「真理紗さんとはいずれわかりあえる日が来ます。それまであの人達と敵対してでもぶつかる必要があります。」
「そうだね。」
風布花も依乃里に賛同する。そして依乃里は改めて真理紗達と敵対する意思を固めるのだった。
「さて、そろそろ私行くね。」
ここで桐菜がふいに帰ろうと支度を始める。
「桐菜ちゃん、今日もお稽古ですか?」
「ん、今日は休みだけどちょっと野暮用でね。」
雨幸は桐菜にまた稽古に行くのか尋ねるが、桐菜は稽古ではない理由だと答えてふいに親指を立てる。
「その親指……、まさか!」
「どうしたゆっきー?」
「い、いえ何も……。」
雨幸は桐菜の立てた親指に思わず動揺してしまう。その様子に疑問を感じる桐菜だったが、雨幸は何もないとはぐらかす。
「まあいいや、じゃあ行くね。」
そして桐菜は特に雨幸のことをこれ以上気に留めることもなく依乃里の家を出るのだった。
「雨幸ちゃん、何か桐菜ちゃんに動揺してなかった?」
「いえ、そんなことはないです……。」
依乃里も雨幸の様子を気に掛けていた。しかし風布花は雨幸の様子を何となく察していた。
「依乃里さん、先ほど桐菜さんが親指を立てていたじゃないですか。あれは恐らく彼氏絡みの用事だと思います。」
「彼氏⁉桐菜ちゃんって彼氏がいるの?」
「今までそんな話は聞いていませんでしたけど、桐菜さんも高校生ですしね。雨幸さんもそれで動揺していたんじゃないですか?」
風布花は熱いお茶を啜りながら澄ました表情で話す。そして雨幸は思わず赤面してしまう。
「べ、別に桐菜ちゃんに彼氏がいようと私の知ったことではないです……!」
「でも雨幸さん、恋愛に憧れを持っていたじゃないですか。もし桐菜さんに彼氏ができていたら、この中でお相手がいないのは雨幸さんだけになりますし焦る気持ちもわかります。」
「そ……、そんなことは……!」
雨幸は赤面しながら風布花の言葉を否定するが、風布花は更に雨幸を煽るように言い放つ。そして雨幸は言葉を詰まらせてしまう。
「依乃里さん、私もここでお暇します……。」
「あ、うん……。気を付けてね。」
雨幸は俯き、依乃里の家を出てしまう。依乃里は雨幸の様子を心配していた。
「どうしたんだろう雨幸ちゃん……?」
「依乃里さん、あれは恐らく多感な時期というものでしょう。」
「そうかなぁ?雨幸ちゃんももう成人してるし……。あと風布花ちゃん、この中で最年少だよね?」
風布花は雨幸の態度を何となく推測していたが、依乃里は風布花の最年少にも関わらず達観した態度を意外に感じていた。そして依乃里はもう一つ、風布花の言葉に関して気になることがあった。
「そう言えば風布花ちゃん、さっき相手がいないのは雨幸ちゃんだけって言ってなかった?それって風布花ちゃんも彼氏がいるってこと?」
「ん⁉」
依乃里は風布花の言葉から、風布花にも彼氏がいることを察していた。しかし依乃里の言葉に風布花は思わず飲んでいた熱いお茶がむせてしまう。
「アチャチャチャチャチャ!すみません、お茶が……!」
「落ち着いて風布花ちゃん!取り敢えず水でも飲んで!」
風布花はこれまでの落ち着きぶりから一転、お茶がむせて慌ててしまう。依乃里は風布花を落ち着かせようとコップを渡す。
「ふー……。依乃里さん、水が入っていないです!」
「あ、ごめん!」
しかし依乃里が風布花に渡したコップには水が入っていなかった。依乃里は慌てて水の入ったコップを渡す。
「ふー……。」
風布花は漸く落ち着きを取り戻す。
「ごめん風布花ちゃん、あんまり彼氏とか聞くことじゃなかったね。」
「いえ、こちらも少し調子に乗り過ぎました。私もそろそろ帰ります。」
依乃里は風布花に彼氏のことを聞いてしまったことを謝る。風布花も達観した態度を取ってしまったことを謝り、依乃里の家を出る。
「そっか、みんなも恋愛とかする年齢なのか……。そりゃそうだよな。」
依乃里は自身よりも年下の仲間達が恋愛をしていることに時の流れの速さを感じる。そう言いながら依乃里はソファーに寝そべりながら自身のパートナーであるパッショネイトレオンを手の平の上に乗せる。
「レオン、私達の愛も負けてないからね~。」
「ガー!」
依乃里の言葉にパッショネイトレオンは嬉しくなる。そして依乃里はパッショネイトレオンにキスをするのだった。
一方その頃、ダークサイレンスでは人間界から戻ってきたスノアが戻ってくるなり大きないびきを掻きながら寝ていた。
「んがぁ~!」
「相変わらずうるせぇなこいつのいびきは。」
「ええ、これを毎日聞かされる僕達の身にもなって欲しいものです。」
ブラクスとクリークはスノアのいびきに思わず耳を塞いでいた。そこにまたもノイジアスの声が響く。
「やれやれ、少し働いただけでこれか。先が思いやられるな。」
「その声は、ノイジアス様!」
「申し訳ございません!」
ブラクスとクリークは慌ててノイジアスの前に跪く。ノイジアスもスノアの態度には呆れていた。
「さて、暫くこいつは使えないな。次は誰が人間界へ侵攻するか?」
「僕に行かせて下さい、ノイジアス様!」
ノイジアスは次の人間界への侵攻を企てる。するとクリークが人間界の侵攻を名乗り出る。
「やけに乗り気じゃねぇか、クリーク。」
「僕達には後がありません、それに気になることがあるので。」
クリークの前のめりな姿勢を意外に感じるブラクス、しかしクリークにはある思惑があったようだ。
「それではクリーク、お前が行け。」
「はっ!」
そしてノイジアスはクリークに人間界への侵攻を命じ、クリークは人間界へと赴くのだった。
一方、黒崎真理紗の仲間の一人でアクアマリンの指輪の戦士である上部芽里音は一人優雅にワインを飲んでいた。
「な~に黄昏れちゃってんの?芽里音。」
「あなたには関係ありませんわ、美李宇。」
ワインを飲む芽里音にラピスラズリの指輪の戦士である祭田美李宇が声を掛ける。しかし芽里音は美李宇を冷たく突き放す。
「そう言えばさ、何で芽里音なんて上流階級のお嬢様が真理紗について行こうと思ったわけ?」
「あなたが知るところではありませんわ。それにあなたも真理紗にお供しようと思った身、聞かずともおおよその理由はわかるはずじゃなくて?」
「あっそ。」
美李宇はふと芽里音に真理紗と行動を共にしている理由を尋ねる。しかし芽里音はそんな美李宇の質問もまともに答えず冷たく突き放す。美李宇はそんな芽里音に対し不貞腐れる。
「まあいいよ、芽里音みたいなお嬢様のことを私が理解するなんてできっこないしさ。」
「あら、それは私も同じですわ。あなたみたいな遊び人のことなど理解できるとは到底思えませんわ。」
美李宇と芽里音は互いに嫌味を言う。それが互いを苛立たせるものとなっていた。
「本当、真理紗は何であんたみたいなのを連れているかなぁ!」
「それはこちらの言い分ですわ。あなたこそ上品な真理紗には不釣り合いではなくて?」
「はぁ⁉」
芽里音と美李宇は互いに睨み合う。そんな二人を呆れるように真理紗が見ていた。
「二人共、私の前で醜い争いはやめなさいと前にも言ったはずよね?」
「ま、真理紗……。」
「申し訳ございませんわ……。」
真理紗に窘められ、芽里音と美李宇の二人は落ち着きを取り戻す。
「芽里音、美李宇。私達の敵は愚かな人間の悪意、あなた達が悪意を見せるなど愚かな戦士になり下がったわね。」
「真理紗、お言葉を返すようですが先に煽る真似をしたのは美李宇の方ですわ。」
「それはこっちが言いたいよ。素直に答えてくれればいいところをさ、煽るだけだもん。」
真理紗は芽里音と美李宇の二人に諭すが、二人はあくまで互いに非があるを主張を崩さなかった。それが真理紗を更に呆れさせるものとなっていた。
「いいわ、どちらが先に煽ってきたとかそんなことはどうでもいい。私の前で愚かな悪意を見せた罰はわかっているわよね?」
「ゲッ……!」
「あれを行わなければなりませんの?真理紗。」
真理紗は芽里音と美李宇の二人に罰としてあることをさせようとしていた。その真理紗の言葉に二人は思わず顔が引き攣ってしまう。
「あなた達二人でタンゴを踊りなさい。互いを愛するかのように交わる魅惑の舞いを、私に見せて頂戴。」
「真理紗、美李宇とタンゴを踊ることなど……!」
「もう、芽里音とタンゴなんて踊りたくないよ~!」
真理紗が課した罰とは芽里音と美李宇がタンゴを踊ることだった。二人は嫌がるが、真理紗は聞き入れなかった。
「あら、あなた達は私に次ぐ社交ダンスの実力者のはずよ。タンゴを踊ることなど造作もないはずじゃなくて?」
「「……!」」
嫌がる二人を真理紗は煽るように言う。そして真理紗は音楽を流し、二人は渋々タンゴを踊るのだった。真理紗は二人のタンゴを魅入られるように見ていた。
「流石は実力者だけあって引き込まれるようだったわ。」
「真理紗、少し外の空気に当たって来ても宜しいかしら?」
真理紗は二人のタンゴを褒めるが、芽里音は気分が良くないような表情を浮かべ真理紗の元を去る。
「真理紗、何で芽里音なんかを連れているわけ?」
美李宇は真理紗と二人だけになったところで、芽里音を仲間にした理由を真理紗に尋ねる。
「あら、それは愚問ね。芽里音は私に見合う人だった、ただそれだけのことよ。それは美李宇、あなたも同じことよ。私はあなた達を等しく愛しているわ。」
「そっか……。」
真理紗が答えたのは美李宇にとって少し納得の行く答えではなかった。美李宇は決して自分達に対し贔屓をしない真理紗の言葉に少し俯いてしまうのだった。
一方、雨幸は桐菜が気になりこっそり後を追っていた。
「桐菜ちゃんの彼氏ってどんな人なんだろう……?」
雨幸は木陰に隠れ、桐菜が同じ年齢ほどの男性と会っている様子を覗いていた。
「よし、じゃあ行こうか。」
桐菜はそう言って男性とどこかへ行く。
「あ、桐菜ちゃんが行っちゃう。」
雨幸は慌てて桐菜を追いかけようとするが、そこに芽里音が通りかかる。
「あら、誰かと思えば蓮葉雨幸ではありませんの。」
「あ、芽里音さん……。」
芽里音は雨幸に声を掛ける。雨幸は芽里音と交戦協定中であることと桐菜の後を追ってきたところに出くわしたことで少し気まずさを感じてしまう。
「あの、もしかして交戦協定ですか?」
「あら、ダークサイレンスもいないのに私一人で野蛮な真似はしませんわ。私は上品でエレガントな戦士ですもの。」
「そうですか……。」
雨幸は芽里音がまた自身に襲い掛かってくるかと警戒するが、芽里音が一人だけで戦うつもりはないと聞き安堵する。
「あの、それなら何で芽里音さんがお一人で?」
「少し醜い争いをしてしまったので、一人になりたい気分でしたの。」
「へ、へぇ……。」
雨幸は芽里音の言う醜い争いが気になるが、芽里音が本当に自身を狙って来たのではないと確信する。
「ところであなたも何故このような所にいらっしゃいますの?」
「あ、私はその……。」
雨幸も芽里音から木陰にいた理由を尋ねられるが、雨幸は桐菜を追ってきたことを打ち明けられずに言葉が詰まってしまう。
「まあいいですわ、あなたがここにいる理由など取るに足りませんもの。」
「そ、そうですね……。」
芽里音は言葉を詰まらせる雨幸に、質問をやめる。
「あなた、暇そうですわね。少々お付き合いして下さいますこと?」
「あ、はい……。」
そして芽里音は雨幸を連れ、近くのファミリーレストランへと行くのだった。
「庶民のレストランの料理も中々美味ですわね。」
「そうですか……。」
芽里音はレストランで優雅にステーキを食べていた。そんな芽里音を雨幸は新鮮そうに眺めながら同じステーキを食べていた。
「ところで芽里音さん、この代金って……。」
「あら、あなたが奢って下さりませんの?」
「私が払うんですね……。」
雨幸はふとレストランの会計について芽里音に尋ねるが、芽里音は雨幸に奢らせる気でいた。雨幸は芽里音の図々しさに呆れてしまう。
「まあ私も失踪して三年になりますものね。」
「お金に困っているなら、家に帰ればいいじゃないですか。由緒正しい家のお嬢様なんですよね?」
芽里音は真理紗と共に失踪してから長く経つため、あまりお金を持ち合わせていないことを明かす。そんな芽里音に雨幸は家に帰ることを勧める。しかし芽里音はそれを聞き入れなかった。
「帰る訳には行きませんわ。真理紗を一人にする訳には行きませんもの。」
「どうしてなんですか?どうしてそんなに真理紗さんに拘るんですか?」
芽里音が頑なに帰ろうとしない理由は真理紗のためにあった。雨幸は芽里音が真理紗に拘る理由がわからなかった。
「真理紗は鬱屈した私の人生に希望の光を照らしてくれた存在、ですので見捨てる訳には行きませんの。」
「希望ですか……。」
芽里音は真理紗が希望の光を照らしたと言う。少し腑に落ちない雨幸だったが、芽里音は自身が失踪に至った経緯をゆっくりと語り出す。
「私は家の習わしで幼少の頃より社交ダンスを嗜んで参りましたわ。お陰で私は競技ダンスの大会で優勝を納めるまでに上達しましたの。」
「はい……。」
「しかし私の家が代々社交ダンスを嗜んで来たのは社交会を定期的に開いていたためですわ。」
「社交会、ですか?」
「ええ。社交会は財閥としての側面を持つ私の家が催す、多くの企業が参加するパーティー。私はそこでダンスを踊ってお客様を楽しませていましたわ。」
芽里音は家の社交会の存在を明かす。芽里音は家の仕来りで習ってきた社交ダンスをこよなく愛し、そして社交会で踊ることを楽しんでいた。しかし語るにつれ、芽里音の表情は暗くなっていた。
「しかし、次第にお客様がダンスを楽しんでいる訳ではないことに気が付きましたの。」
「どういうことですか?」
「社交会に出席している方々は皆、私の家との繋がりを求めて参加している方ばかり。ダンスなどただの手段としか見ていないことを肌で感じましたわ。」
芽里音は社交会に参加している者が純粋にダンスを楽しんでいる訳ではないことを感じ、嫌気が差していた。雨幸は芽里音の話に驚いてしまう。
「知りませんでした。社交会は親しい間柄の方を招いて開いていたと執事の方から聞いていましたし。」
「あら、それは言葉の文ですわ。親しい間柄と申しましても所詮はビジネスライクな関係、純粋にダンスを楽しむ方など極一部ですわよ。」
雨幸は以前、芽里音が住んでいた屋敷を訪れ執事の人から社交会のことを聞いていた。しかし思っていたよりも殺伐とした雰囲気の中で行われていたことを知り、ショックを受けてしまう。
「でも、真理紗さんも社交会に参加されていたんですよね?」
「ええ、私が真理紗と出会ったのは紛れもなくその社交会でしたわ。社交ダンスの実力者だった真理紗は一度、その腕を見込まれ社交会に招待されましたの。」
「その時に出会ったんですか……。」
芽里音は真理紗と出会った時のことを思い出していた。真理紗は企業に属している訳ではなく、単に社交ダンスの実力を買われて社交会に招待されていたのだ。
「真理紗の踊るダンスはそれまでの社交会の雰囲気を一変させましたわ。ダンスに然程興味のなかった方ですら皆、真理紗のダンスに釘付けになっていたことを今でも覚えておりますわ。」
「そんなに凄かったんですね、真理紗さん……。」
「ええ、私はすぐに真理紗に声を掛けましたわ。そして彼女が心からダンスを愛していることや私のダンスも穢れなき目でご覧になっていたことを肌で感じ、次第に人間としても真理紗に惹かれましたの。」
芽里音は真理紗が自身にとって大きな転機になったことを話した。そして芽里音は真理紗と出会ってから、交流が続いていた。
「真理紗とは競技ダンスの大会でも会うようになりましたわ。技術は真理紗の方が上でしたが、私達は切磋琢磨してダンスに励みました。」
「それは執事の人から聞いたことがあります。真理紗さんとは良きライバルだったって。」
「ええ、しかしある日真理紗は忽然と姿を消してしまいましたわ。真理紗の勤める社交ダンス教室には置き手紙が残されていたと知った時、私は一晩泣き崩れましたわ。」
「それが四年前のことですよね……。」
芽里音は純粋にダンスを愛する真理紗と時には友人、時にはライバルとして楽しく過ごしていた。しかし真理紗が四年前に失踪してから芽里音の人生は暗くなってしまったという。
「それからの私は何をしても楽しくありませんでしたわ。それこそ真理紗を捜して奮闘したこともありますの。でも真理紗の足取りは何一つとして掴むことはできませんでしたわ。」
「芽里音さんも、真理紗さんを捜していたんですね……。」
芽里音は真理紗が失踪してからの一年間、暗い人生を歩んできたことを明かす。そして芽里音も真理紗を捜していたことも明かす。
「じゃあ、どうして真理紗さんと再会できたんですか?」
「真理紗は三年前、突然私の前に現れましたわ。光り輝くアクアマリンとサファイアの指輪をその手に乗せ。」
雨幸は芽里音でさえ捜しても見つからなかった真理紗とどうして再会できたのか尋ねる。すると芽里音は真理紗の方から現れたと明かす。
「私は真理紗が失踪した一切の理由を知りましたわ。そして私がアクアマリンの指輪の戦士に選ばれていることも。」
「それで、真理紗さんと一緒にダークサイレンスと戦うことを決めたんですか?」
「当然ですわ。真理紗が失踪してからの一年間、私の知らない所で孤独の戦いを強いられていたことを知りましたもの。これ以上真理紗を一人にする訳には行きませんわ。」
芽里音は真理紗が一人でずっと戦っていたことを知り、真理紗と共に失踪することを決めた。こうして芽里音が失踪に至った経緯を知った雨幸だったが、それでも腑に落ちないことがあった。
「でも、やっぱり芽里音さん達の行動は納得行きません。」
「あら、何故ですの?」
「それは……。」
雨幸が芽里音に対し自身の主張をぶつけようと口を開いた瞬間、周りにいたレストランの客や店員が一斉に耳を塞いで倒れ込んでしまう。
「これって、ダークサイレンス⁉」
「どうやら悠長に話している時間はここまでようですわね。」
雨幸と芽里音は急いでレストランを飛び出し、ダークサイレンスが暴れている街中まで行くのだった。
「さあ思う存分暴れなさいマリス!」
街中ではクリークが二体のマリスを産み出し、暴れさせていた。
「クリーク、そこまでです!」
「私に盾つくことを後悔させて差し上げますわ。」
「おや、今日は二人だけですか。珍しい組み合わせですね。」
雨幸と芽里音はクリークにそう言い、芽里音はエレガントイーグルを呼んで獣人の姿にする。そして二人は同時にフラヴァイスを開く。クリークは雨幸と芽里音だけでいることを意外に感じていた。
「スイレン!ペリドット!ベリーダンス!」
「マーガレット!アクアマリン!ワルツ!」
二人がそれぞれフラヴァイスにそう叫ぶと、フラヴァイスから音声が鳴り響く。
「Let's Dance!」
「踊ります!」
「踊りましょう!」
そして二人はフラヴァイスから流れる音楽に合わせそれぞれのダンスを踊り、戦士へとその姿を変える。
「妖艶の舞姫、ベリースパークラー!」
「優雅な舞姫、グレイスロード!」
二人はそれぞれ名乗り、二体のマリスに立ち向かう。
「はぁぁ!」
ベリースパークラーは妖艶なベリーダンスの動きで剣を振り回し、マリスを攻め立てる。
「はぁぁ!」
グレイスロードもエレガントイーグルと共に優雅なワルツを踊り、マリスを翻弄する。
「仲間がいなくてこの僕に勝てますか?」
「クリーク!私達だけでもきっと勝てます!」
「あなたもその減らず口を塞ぐ準備をした方が宜しくて?」
クリークはベリースパークラーとグレイスロードを挑発するが、二人は逆にクリークを挑発する。
「蓮葉雨幸、さっさと戦いを済ませますわよ。」
「あ、はい!」
グレイスロードはベリースパークラーにそう言い、二人は一気に攻撃の態勢に入る。
「ベリースラッシャー!」
「ダンス・ド・セレナーデ。」
二人はそれぞれ攻撃を仕掛け、マリスを消滅させる。
「やれやれ、やはりマリスは倒されましたか。」
「クリーク、後はあなただけです!」
クリークはマリスを消滅されてしまったが、特に焦る様子はなかった。そんなクリークにベリースパークラーは刃を向ける。
「今日のところはここで引き上げておきます。本来の目的は果たせましたしね。」
クリークはそう言って人間界を立ち去る。クリークの残した言葉がベリースパークラーは気になっていた。
「本来の目的とは、何なのでしょう?」
「さあ、そんなことは取るに足りませんわ。」
ベリースパークラーはクリークの言葉を気にしていたが、グレイスロードは特に気に留めていなかった。そして二人は元の姿に戻る。
「さあ蓮葉雨幸、先ほどの言葉を聞かせて下さいまし。私が真理紗について行く、それの何が納得の行く話ではなくて?」
「はい、その話でしたね。」
芽里音は雨幸に自身の行動に対する反論を尋ねる。そして雨幸は勇気を振り絞るように口を開く。
「芽里音さんは真理紗さんと会えなくなって寂しい思いをしたかも知れません。しかしあなたのやっていることも家族の方に寂しい思いをしているということです。」
「……やはりその話ですの。真理紗がしていることは完全なる正義に基づくもの、それには相応の犠牲が付きものですわ。」
雨幸は芽里音に、家族に寂しい思いをしていることを説く。それは依乃里が真理紗にも言っていたことだった。しかし芽里音は真理紗の考えを絶対的に信頼し、家族の元に戻ろうとは思わなかった。
「真理紗は誰よりもダンスを愛し、誰よりも悪意を憎むお人。真理紗だけが不変の真理に基づいて行動できますの。だからこそ私は真理紗と共に、戦いの場へとこの身を投じることができますわ。」
「そう……、なんですね……。」
芽里音は真理紗に絶対的信頼を置いているようだった。雨幸は芽里音に対し、何も説くことができないと察してしまうのだった。
「……って、そうだ!桐菜ちゃんはどこに行ったんだろう?」
雨幸はふと男性と共にどこかへ行った桐菜のことを思い出してしまう。
「芽里音さん、申し訳ありませんけど私はここで。それでは!」
「あら、何やら面白そうなことをしていそうですからついて行きますわ。」
「えぇ……。」
雨幸は再び桐菜を追いかけようと芽里音に別れを告げるが、芽里音は興味津々な様子で雨幸について行こうとする。雨幸は思わず顔が引き攣ってしまうのだった。
一方その頃、四年前のサファイアの戦士である浦賀輝弓は慌てた様子で走り、同じく四年前のアメジストの戦士である鈴木林檎が働いているカフェに飛び込む。
「マジかよ……。」
輝弓は林檎が働くカフェの惨状に唖然としてしまう。カフェの中は荒れ果て、食器やテーブルなどが散り散りになっていた。
「ごめん輝弓、すっかりやられちゃった。さっきダークサイレンスの……。」
「わかってる。クリークだろ?」
林檎はカフェが荒らされた経緯を話そうとするが、輝弓にはクリークが来たと察しがついていた。
「俺のところにもあいつが来たんだ、ダークストーリーズのことを詳しく教えろって。」
「そうなんだ。クリークって奴、何を考えているんだろう?」
マリスを暴れさせる前に輝弓と林檎の元を訪れていたクリーク。輝弓と林檎は嫌な予感を感じていた。
一方、ダークサイレンスの本拠地に戻っていたクリークは不気味な微笑みを浮かべていた。
「何~?クリーク、何か嬉しいことでもあった?」
クリークの笑みを不審に思ったスノアがクリークに尋ねる。
「いえ、特に何も。しかし奴らを倒すためのとっておきの作戦が立てられそうなのです。」
スノアの問いにそう答えるクリーク。クリークの思惑は未だ誰にもわからなかった。




