46発目 不良を描きたい! 前編
「私にモデルを!?」
落ち着いた雰囲気の喫茶店で思わず叫んでしまった。
「ごめんね。春休みなのに呼び出しちゃって・・・」
穂高命は済まなそうに謝った。いや・・・別にそれはいいんだけど・・・。どうせ明日から学校だしな。
「モデルって言われてもなあ・・・。」
裸になる訳にはいかんぞ。諸事情により・・・。
「絵のモデルって言うことじゃなくて、漫画のモデルになって欲しいの。」
「漫画のモデル?」
「うん。この・・・」
命は横に座っている女の子を見ながら言う。
「勝野夢見ちゃんの漫画のモデル。」
夢見と呼ばれた女の子はコクンと頷いた。黒い髪をショートボブにしていて可愛らしい。緑のハイネックシャツにスカートを着ており、ワンポイントとして首に赤いスカーフを巻いている。全体的におとなしそうな子だ。こんなこと言っては失礼かもしれないけど、如何にも漫画を描いてそうな女の子だ。
「夢見ちゃんはね、プロの漫画家なの!」
「桜国の生徒なのに?」
「そう!凛堂君は男の子だから知らないかもだけど、『私の王子様』っていう大ヒット少女漫画を描いてるのよ!」
「な!?」
そ、それは私の愛読書だ!全巻持ってるぞ!超モテる女子高生が様々なイケメンからプロポーズされながらも、記憶の中にある初恋の相手を探し続ける恋愛超大作。次々とやって来るイケメン達の愛情と主人公の心の葛藤が読む者に感動を与える。甘くて切ない・・・そんなお話をまさか現役女子高生が描いていたとは!そして私の目の前にいるなんて・・・。やば・・・サイン欲しい!
「ちょ、ちょっと恥ずかしいよ・・・命ちゃん。」
夢見は命の服の裾を引っ張りながら訴える。いえ・・・貴女は大先生です。堂々としてればよろしい!
「じゃあ君が『恋夢希望先生』か・・・。」
「は、はい、そうです!」
「い、意外と詳しいんだね・・・凛堂君。」
命は驚いた顔をしている。まあ、そりゃそうか・・・。不良高校に通う男が大ヒットとは言え、少女漫画を知っていると言うのは・・・どうなんだろうな。しかし・・・
「漫画のモデルと言っても、少女漫画は・・・」
「ごめんね、説明が足りなかったわね。今度夢見ちゃんはね、不良漫画を描いてみたいんだって!」
「ふ、不良漫画!?」
「せ、正確には不良漫画風少女漫画です。とある事情で不良高校に通うことになった女の子が、自分の正体を隠しながら生活を送っていく内に不良と恋に落ちていくという漫画で・・・」
「ストップ!!」
待て。待て待て。何だその笑えねえ設定は!?
「それは・・・君のアイデアかい?」
「はい!きっとヒットすると思うんですが・・・。」
なら私の存在もヒット間違いなしだな。
「しかし、俺は何をすればいいんだ?」
「えっと・・・凛堂さんの学校生活に密着取材をさせて頂ければ・・・」
密着取材か・・・。何かドキュメンタリーみたいだな。
「でも殴獄はホントに不良高校だぞ?私の近くに居るとは言え、女の子が一人では危険だぞ?」
「大丈夫です!対策を練ってきました!」
そう言って夢見は紙袋を抱えてトイレに向かった。・・・何だ?対策って。
15分後
「お待たせしました!」
そこには殴獄の制服に身を包んだ夢見が立っていた。髪をムースで固めて短いリーゼントにしている。・・・男装ですか。そうですか。
「どうですか?不良っぽくしてみたのですが・・・」
「凄いね夢見ちゃん!パッと見、分からないよ!」
命は感心しっぱなしである。まあ確かに男と区別がつかんな。私と違って、体は小さいけど・・・。
「これなら主人公の気持ちも味わえますし、不良の資料も集められますし一石二鳥ですよ。」
「どうかな?凛堂君。お願いできないかな?」
うう・・・二人してそんな目で見るな。気持ちは充分伝わったからさ。ふう・・・仕方がない。好きな漫画家の頼みは無下にできないしな。
「分かった、引き受けるよ!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「ただし条件がある!」
「条件・・・ですか?」
夢見はキョトンとした顔で私を見る。
「そう。一つは取材中に俺から離れないこと!危険だからな!」
「はい、離れません。」
「もう一つは・・・」
学生手帳を取りだし
「凛堂君へ、ってサインください。」




