45発目 メイド喫茶メルティは今日も大忙し
条定は殴獄を去った。いや、卒業したって意味だ。どこぞの伝説の男と違って留年はしなかった。え、私?何言ってんの?私の成績は優秀だから留年などあり得ない!日々の努力を惜しまない私に敵はいない!そんなこんなで春休みだ。
「アイちゃ~ん!5番テーブルお願い!」
「は~い!」
今日もメイド喫茶メルティでバイトである。流石に数ヵ月も経てば仕事も覚える。調理補助からお客とのデュエットまで何でもこなすスーパーエースになっていた。相変わらず人気もある。自分ではよく分からないが、悪い気はしない。お客にはこんなにモテるのに、どうして学校の奴らは殆ど気づかないのかねぇ。不思議だね。
「お待たせ!僕がアイだよ。何か用かな?」
キャラはブレない僕っ子である。5番テーブルのお客は読んでいた新聞を畳んだ。あっ!!
「やあ、元気そうだね葵ちゃん。いや、アイちゃんかな?」
ボサボサ頭に無精髭・・・。真戸先生じゃないか!?
「ど、どうしてここに?」
「どうしてって・・・僕がここに来たら変かい?」
「いや、変って訳じゃないですけど・・・。」
気にはなります。
「ここには良く来るよ。葵ちゃんに会ったのは初めてだけどね。」
「何をしに?」
「何をって、メイド喫茶はメイドさんと遊ぶ所では?」
そりゃそうだ。まあ、この人『男でも女の子になれるボディースーツ』を開発した人だからな。メイド好きでもおかしくない。
「葵ちゃんのお陰でボディースーツも飛ぶように売れてるよ。特に男の娘を中心に。」
「あれ、倫理的に問題無いんですか?」
「仮に問題があったとしてもクーリングオフできないけどね。買った人が恥ずかしすぎて。」
この人、ホント紙一重だよな。天才とバカと善人と悪人の中央に位置しているよな・・・。あれ?それ意外と普通の人じゃん。
「そうそう、葵ちゃんに一つお知らせがあってね。」
「お知らせ?」
「うん。新しいスーツを開発したんだ。名付けて『女の子でも男になれるスーツ』!」
そのまんまですね。つまり前のスーツの逆バージョンですね。でも私の為にわざわざ開発してくれたのかな?
「それは・・・私の為に・・・」
「可憐な女の子でもマッチョに成りたい時ってあると思うんだよね!」
「・・・・・・。」
「可愛い顔とのギャップに萌えると思うんだよね!」
「・・・・・・。」
「そんな属性を持った彼女持ちの男の子にバカ売れ間違いなしだよ!今度葵ちゃんにプロトタイプ一つあげるから着てみてね!」
「ありがたく・・・頂きます・・・。」
もはや突っ込む気になれなかった。
「アイちゃ~ん!調理補助お願~い!」
店長の由実さんの声が聞こえた。
「すいません先生。私行かないと・・・」
「うん、大丈夫だよ。僕ももう帰るから。ただ・・・」
「ただ?」
「最後にアイちゃんに言って欲しいことが・・・」
「・・・・・・。」
何回かのリテイクの後
「ま、また来なかったら僕は許さないぞ!」
「ガハッ!!」
ちょっと恥じらいながら上目づかいで言うと鼻血を出しながら帰っていった。こんなのが、いいのんか?本当に・・・あの人を信用して大丈夫なんだろうか・・・。
「まあ男の子ってそういう所があるわね。」
昼休みに由実さんと話していたら、男の話になった。
「ギャップ萌えと言うやつですか。」
「そうね。人は一面的でないから心引かれるものがある。それは女の子だって同じよ。」
「はあ。」
「アイちゃんが人気なのも、ひょっとして凄い秘密があるからだったりして・・・。」
「は、ははは・・・。」
私の周りには凄い鈍感な人と、超能力者みたいに鋭い人しかいないようで・・・。本当に毎日がエキサイティング。
「アイちゃん!3番テーブルお願い!」
「は~い!」
午後も大忙し。両手にお盆を持ちながら右に左に行ったり来たりだ。3番テーブルは・・・女のお客かな?別に珍しいことじゃないけど・・・。
「あら、アイちゃん!ご機嫌よう!」
珍しい娘が来た。優雅な仕草で一杯700円の紅茶を飲む様は、まさにお嬢様のアフタヌーンティーである。
「何やってんの、夏蓮?」
「あら?このお店ではメイドが主人にそんな口の利き方をするのかしら?」
私が尋ねると、澄ました顔をして紅茶を飲んでいた夏蓮が手に持っていたティーカップを置いて言った。ぐっ・・・痛いとこ突きやがる!
「本日は如何致しましたか、お嬢様?」
「そうね~。最近付き合いの悪い使用人がいてね。あんまりにも暇だから、こちらから訪ねることにしたの。」
夏蓮は私を見下しながら言う。待て。私はお前の下僕じゃないぞ!見下される筋合いは無い。そもそも、ここで働いていると言った覚えは無いぞ!
「まあ、と言うのは冗談ですわ。それにしても葵ちゃんのメイド姿・・・良いですわね~。家に欲しいくらいですわ!」
「夏蓮・・・あのさ・・・」
私はふと店の外に目をやった。
「メイド喫茶にリムジン横付けすんのは止めてくんないかな?」
「あら?お気に召さなくて?」
「気分の問題じゃなくて、渋滞が起きてんだよ!店の外で!」
先程からクラクション鳴りまくりである。別に来るのは構わんが、普通の交通機関で来い!全く・・・
リムジンを帰した後、私達はしばらく雑談をしていた。流行のファッションだとか、最近の野球部の話だとか、他愛もない話が殆どだ。しばらくすると夏蓮は真面目な顔で聞いてきた。
「今度、家にいらっしゃいません?」
「え?夏蓮の家に?」
「ええ。お父様に紹介しようかと思いまして。『私の彼女ですわ!』って。」
「それは止めろ。」
「冗談ですわ。」
お前の冗談は時々本気だから怖いんだよ!目を輝かせるんじゃねー!
「さてお茶も楽しみましたし、そろそろお暇しようかしら。」
夏蓮は立ち上がって、私の手を引っ張る。
「な、何だよ。帰るんじゃないのか?」
「あら?このお店はお持ち帰りができないの?」
「そーゆー店じゃねえ!」
「まあ!」
まあ!じゃねーよ!




