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44発目 条定の夢 後編

「条定君のことが聞きたい?」


 条定とやり合った後、私は校長室に来ていた。条定のことが気になったからだ。校長なら何か知っているんじゃないかな?


「何でも結構です。どんな情報でも・・・」

「う、う~む・・・。」


 校長は渋っている様だった。まあ生徒の個人情報だもんな・・・そう易々と教えてはくれないか。


「条定君の家がどんな稼業かは知っているかね?」


 校長は静かに話し出した。あれ?私から聞いといて何だけど、喋っちゃうの?


「ええ。極道だとか・・・」

「うむ。条定一家と言えば、全国的にも有名な極道だ。特に条定君の父親、条定(じょうさだ)利玄(りげん)は今時珍しい侠義心溢れるタイプの極道で、誰もが一目置く大親分だった。」

「・・・だった?」

「うむ・・・。条定君が子供の頃に抗争に巻き込まれ亡くなったそうだ。十年程前だったかな。」


 子供の頃の抗争か・・・条定が傷を負った時の事かな?


「一家に遺された跡取り息子が小さい子供だと、極道の世界では何が起こると思うかね?」

「う~ん・・・その子供が大きくなるまで周りが盛り立てるとか?」

「それが理想的だ。だがいつの世にも利己的な者達はいる。これを好機と見た者達が次々と離反し、条定一家は壊滅状態に追いやられてしまった。」

「義理も人情も有ったもんじゃないですね。」


 極道の世界とは言え酷い話だ。


「自分の父親に対する思い。それに苦境に立たされた今も条定君を支えてくれる者達への思い。様々な思いを彼は背負っているのかもしれないな。」

「条定が望む、望まないに関わらず・・・ですか?」

「それは・・・私には分からんよ・・・。」


 校長はそれっきり黙ってしまった。私は礼を言って校長室を出た。・・・生まれながらにして極道。偉大な父と壊滅状態の現在・・・か。私にも・・・分からないな。父の跡を継ぐ・・・継がざるを得ないというのはどんな感じなんだろうな。・・・う~ん、本当はこれ以上深入りしない方が良いんだよな~。でもこういう話を聞いてしまうと・・・私の中の何かが動けって言うんだよな。あー、畜生!ホントお節介娘だな、私は。



「凛堂・・・お前、何しに来た?」


 条定は怪訝そうな顔で聞いてきた。私は今、三年の教室にいる。もちろん授業中である。不良高校ではそんなこと気にしてはいけない。それにしても、相変わらずモヤモヤした表情してんな・・・こいつ。私は条定だけに聞こえるように話した。


「ちょっと付き合って欲しいんだ。」

「・・・今でなきゃダメか?」


 条定は周りをチラリと見ながら言った。流石に好奇心が湧くのか、周りの連中もこちらをガン見している。確かに野次馬にいてもらっては困る。


「体育館で待っている。」


 それだけ伝えて私は教室を去った。条定は恐らく来るはず・・・。一足先に体育館に行くとするか!


 私が体育館で待つこと30分。


「お節介な奴だな、お前は。あんだけボコボコにやられたのによ。」


 条定がやって来た。その顔は多少呆れていた。


「お前の本心が聞きたくてな。」


 多分こいつは素直に話してはくれないだろうな。・・・嫌な役をすることになる。


「俺がお前に話すことは、もう無い。」

「そうやって直ぐに人を遠ざける。臆病者だな、お前は。」


 私は思いっきり挑発した。条定の顔が険しくなる。


「凛堂・・・その挑発は安過ぎるぞ。」

「クールに振る舞っていれば問題が解決するのか?いいご身分だな。」

「凛堂・・・それ以上挑発するな。」


 条定は私の目の前まで近づいてから警告する。口調は淡々としている。だが噴火寸前だな・・・。ふう・・・痛い思いをしそうだな。私は深呼吸をしてから言葉を発した。


「自分だけ不幸そうな面してんじゃねーよ、このフニャちんが!」

「貴様に何が分かる!!」


 激昂一閃!条定のパンチが私の頬を捉える。衝撃で視界が歪む。もちろん激痛も走る。ぐっ!こいつ・・・乙女の顔面にガチでパンチ入れやがった!?だが・・・ここで退いてはダメ!食らいつく!


「ああ、分からねえよ!お前はいつもダンマリだからな!」


 私は渾身の力で条定を殴った。正確に頬を捉えた筈だがダメージの程は分からない。条定が鬼の様な形相をしていたから。


「生まれた時からヤクザに成ることを決められていた俺の気持ちが分かるか!?」


 条定は再び私を殴る。口の中でゴリッという音がした。あ~あ、こりゃ歯が逝ったな~。感情に火が点いたのか、条定は私の胸ぐらを掴んで一方的に捲し立てる。


「ガキの頃に抗争に巻き込まれてケガした時は、いい加減ウンザリしたよ!誰に慕われてるか知らねえが、ヤクザなんてロクなもんじゃねえ!目の前で親父が死んだ時は逆に嬉しかったぐらいだ!これでヤクザに成らなくって済むってな!」

「・・・・・・。」

「なのに親父が死んだ後も俺の周りを亡霊共が彷徨きやがる!もういい加減放っといてくれ!何をしようが俺の勝手だろうが!」


 こんな条定は初めて見たな。でもさ・・・


「お前の親父は・・・お前を助けに来たんじゃねーのかよ?」


 私は口の中の物を吐き出して言った。


「元はと言えば親父のせいで巻き込まれてんだよ!あんな・・・あんな親父だったら・・・」


 おい!お前・・・


「いない方がマシだ!」

「それを言うんじゃねーーーーっ!!!」


 条定を力一杯殴り飛ばした。私の服のボタンが引きちぎれる。サラシを巻いた胸が露になる。一方、条定は方膝を着いて私を見上げる。別に驚いている様子は無い。


「驚かないんだな、お前は。」

「ぐっ・・・女かどうかなんて見れば分かる・・・」


 そうだよな。普通そうなんだよ。おかしいよな、周りが・・・。


「お前は私に運命を信じるか聞いたな?」

「・・・・・・。」

「私は幼い時に両親が死んだ。生まれ変わろうとして頑張っても、どういう訳か今ここにいる。こんな運命が有ってたまるか!」

「・・・・・・。」

「私はお前と違って親から継ぐものは無いから、お前が今どんな気持ちかは分からない。お前の歩まなければならない道は、ずっと遠く険しいかもしれない。だけど・・・少なくとも私は・・・私は今も抗っている!」


 そうだ。抗い続けている。私は全てを背負い込むことにしたんだ。色々ボロが出てきてるけど・・・。


「条定・・・お前は何をしてきた?お前は本気で抗ってきたか?」

「俺は・・・。」


 条定は俯いたまま黙ってしまった。私がとやかく言えるのは、ここまでだ。そもそもお節介なんだからな。


「ふっ・・・」

「条定?」

「クックック・・・」


 ん?どうした?


「ハーッハッハッハ!!」


 爆笑し始めたぞ。こーゆー笑い方って滅多に見かけないよな。


「どうした?悩みすぎて頭がおかしくなってしまったか?」

「クックック・・・頭がおかしいのはお前の方だ。」

「は?」

「お前卒業した後どうすんだよ?履歴書に殴獄って書くつもりかよ。」

「そ、それは・・・」


 あんまり考えていない。正直今を乗り切るだけで精一杯です。


「何にも考えてねえじゃねーか。」

「ぐっ・・・その内考えるのだ!」

「そんな奴に人生の説教をされたかと思うと腹が痛いぜ!」


 まあ、私の様なオッチョコチョイが言えた義理は無いですよね~。


「だが・・・それぐらいで良いのかもな。」

「?」

「別に俺は何かやりたいことが有ったわけじゃねえ。しがらみが嫌になっただけだ。顔も知らない様な奴が俺に期待を寄せる。俺が跡継ぎってだけでな。」

「・・・・・・。」

「そう思ったら、自分が何者なのか分からなくなってな。一、二年の頃は暴れたよ・・・散々。でも副島に負けてから、また分からなくなっちまって・・・今度は悩んだ。」

「副島・・・」


 副島道我・・・一年前まで殴獄を占めていた男。ちょくちょく出てくるな、その名前。


「そしたら今度はお前に殴られた、と。全く、俺の周りにはお節介しかいないのかね?」

「私以外にお節介な奴が?」

「さあな・・・。」


 条定は立ち上がり、私に上着を投げつける。


「お前はもう少し考えた方がいい。自分の選択肢を狭める必要は無いだろ。」


 そう言い残し、条定は去っていった。・・・結局、私はあいつに何かしてやれたんだろうか?あいつは・・・『条定』じゃなくて『自分』であることを求めていた。私は・・・何を求める?床に吐いた歯を拾いながら考えた。



 翌日


「な、何があったんだ、凛堂!?」


 岸那に言われた。まあ、この酷い顔じゃね・・・。腫れてエライことになってる。結局、私の方が殴られてるんだよね・・・。


「で?勝ったのか?」


 入間・・・流石に耳が早いな。でもな、あのケンカはそういうのじゃ無いんだよ。これから先、あいつはあいつにできることをするだろう。なら私は私にできることをする。今回はお互い考えさせられた、ということか・・・。ふふ・・・


「痛み分け・・・かな?」


 歯の抜けた口で笑ってみせた。

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