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41発目 得た者、失った物

 一週間が経った。浜笠は絶対安静だったが、とりあえず皆無事でいた。それは良い。しかし、私の心にはモヤモヤしたものが残った。あの日から、岸那と顔を合わせていない。決して私から避けている訳ではない。岸那が学校に来ていないのだ。やっぱり、私の嘘が岸那を傷つけたのだろうか?今まで男だと思っていた人間が、実は女だった。夏蓮の時と同じだ。私はやっぱり間違っていたのか?こんな事を軽々しくするべきではなかったのか?結局私は自分の身が可愛かっただけなんじゃないのか?私はどうしたらいい?分からない・・・。分からないよ・・・。


 二月に入ったある日、私は生まれて初めて学校をズル休みした。体が動かない。動きたくない。炬燵の中に入り、死んだように転がっていた。もう・・・どうでもよくなってきた。そんな気持ちで天井を眺めていると、視界が滲んできた。気づいたら泣いていた。


『ピンポーン!』


 玄関のベルが鳴った。誰だろう?私は服の袖で目を擦ると、ゆっくり起き上がった。そのまま玄関に行きドアを開く。


「よう。」


 岸那が立っていた。久しぶりに顔を見た。少し痩せたんじゃないか?


「凛堂、ちょっと話があるんだ。」


 私は促されるまま近くの公園まで付いていった。昼間とは言え二月の公園。周りに人の姿は見えない。ベンチに座っている私の頬を冷たい風が突き刺す。岸那は少し離れた位置に座り、俯いたまま黙っている。これが今の私と彼の心の距離だろうか?そう思ってベンチの何もない空間を眺めていたら、岸那がボソッと呟いた。


「分からねえ!」


 その言葉は短かったが、吐き出すように強かった。分からない?そうだよね、分からないよね。女が男の格好をして男子校に通うなんてさ。はっきり言って異常だよね。


「俺はどうしたらいい?」


 岸那は続ける。それはこっちのセリフだよ・・・。私はどうしたらいい?どうして欲しい?そんな思いで岸那を眺めていたら、岸那が顔を上げて私を見た。何て・・・顔をするんだ・・・。


「ここに来るまではさ、構わないと思っていたんだ。お前が男であろうが女であろうがさ。お前が俺と薫を救ってくれた恩人であることに変わりはない。だから今までと同じ様に接しよう!そう結論が出たから、今日学校に行ったんだ。」

「・・・・・・。」

「そしたら、お前が休んでるって聞いてさ。もし、俺のことで気を病んでいるんだとしたら申し訳なくてさ。お前の家まで行ったんだ。謝ろうと思って・・・。」

「岸那・・・」

「でも、さっきお前の顔を見たら・・・やっぱりお前のこと、女としか思えなくてさ・・・。」

「・・・・・・。」


 岸那・・・やっぱり私のせいで苦しんでる。私のせいで・・・。


「お前のことを女だと思うと、今まで通り接することが出来ないんだ・・・。」

「岸那が・・・それで苦しんでるんだとしたら・・・」


 私に出来ることは一つしかない。私がいるから岸那は苦しむ。そう・・・たった一つのシンプルな答えだ。


「私・・・学校辞めるよ。」

「!?」


 これしかない。元々無理なことだったんだ。世の中、そう都合よくは行かないよね・・・。それじゃあ・・・


「さよなら・・・。」


 私はベンチを立ち、家に帰ろうとした。引っ越し屋さん、呼ばないと・・・


「違う!!そうじゃない!!」


 腕を掴まれた。ギュッと・・・強く。痛いよ・・・


「そうじゃない。そうじゃ・・・ないんだ・・・。」

「・・・・・・。」

「俺は・・・俺は・・・」


 俺は?


「お前が・・・」


 お前が?


「お前のことが・・・」


 ・・・・・・。


「好きなんだ。」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「・・・・・・。」


 岸那は私を抱き寄せた。私は抵抗しなかった。体は冷たかったけど、心は温かくなった。この間、私は秘密を失った。でも今日、私は生まれて初めて恋人を得た。

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