40発目 全国高等学校不良選手権大会 その5 こんな所で・・・
「浜笠は、胸骨骨折だそうだ。」
二試合目が終わり、インターバル中の控え室で私は言った。あんな奇跡のキャッチをしたのだから、仕方ない結果と言える。
「なあ・・・もう止めないか?自分から誘っておいて何だけど・・・。」
同時に言い出しにくいことを私は言った。こんな危険な大会だとは思っていなかった。想像の斜め上を行っている。これ以上付き合ってもらう義理がない。
「僕は・・・別にどちらでも構わないよ。」
「う~ん、俺はせっかく投げたから続けてみたいが・・・」
「じゃあ、こうしたらどうだ、凛堂?とりあえず、一回戦だけはやりきる、というのは?どのみち浜笠が動けないと次の試合には進めないし。」
う~ん・・・松谷の気持ちや入間の提案も分かるんだけど・・・嫌なんだよな。人が傷つきそうな所で自分は見てるだけ、というのが。・・・折衷案か。
「・・・分かった。じゃあ、次は俺が行く!たとえ、お題が何であろうとな!それならいい。」
インターバルが終わり、浜笠を除く六人でドーム中央に向かう。どうでもいいが、ドーム中央に集まる理由が分からない。結局、会場は別の場所じゃねーか。
『さあインターバルも終わり、勝負は中盤戦に入りました。夢時さん、ここまでいかがでしょうか?』
《そうですね。ポイントでは殴獄高校が勝っていますが、両校とも差はないように感じますね。良い勝負をしてると思います!》
『では次に行きましょう!次の試合は、料理対決です!』
料理?不良の大会で?絶対に何かある。
『各校は選手を二名選んでください。』
げっ・・・二名かよ。私一人が良かったのにな・・・。
「まあ、一人は凛堂でいいとして・・・」
「俺が行こう!」
入間の言葉を遮るように岸那が言った。私は慌てて確認する。
「本当にいいのか?何があるか・・・」
「まあ、何かあるなら誰が行っても同じだろ?それだったら、料理ができる奴が行った方がいい。こう見えて料理はするんだぜ?」
岸那・・・。妹の薫ちゃんに作っているのかな?確かに誰が行っても危険だ。それなら、勝ちに行きたいところ・・・。
「分かった。岸那、頼んだぞ!」
「ああ、任せろ。」
『各校の選手が決まったようですね。それでは、会場移動をお願いします。』
私と岸那は目隠しをされたまま移動した。何故、目隠しをする必要がある?そのまま歩いて10分くらいだろうか?部屋の中に誘導された。
「目隠しを外して下さい。」
スタッフの声を聞き、目隠しを外す。・・・眩しいな。段々と目が慣れてくる。広い・・・大厨房だ。パッと見、設備が整っている。後ろを振り向くと、既にスタッフは姿を消していた。
『それではルールの説明をします。ルールは簡単!その部屋にある食材を使って料理を作り、より美味しい料理を作れた方が勝ち。審査係はこちらで用意致します。』
食材?そんなもの・・・部屋には無いぞ。私を含め、選手しかいない。・・・まさか、人が食材?
『ちなみに食材は部屋の色んな所に隠してあります。早い者勝ちですが、相手から奪っても構いません!作った料理を奪っちゃダメですよ!制限時間は四十分です。』
だから何でリアルクッキングファイトにするんだよ!くそ、腹が立ってきたな。何が何でも自力で作ってやる!
「岸那!相手から仕掛けて来ない限り、手は出すな。」
「分かった!」
『それではクッキングファイトを開始してください!』
とりあえず、手当たり次第に探すぞ!私と岸那は二手に別れて食材を探した。洗い場の下から食器棚の中まで探せる所は探した。
「・・・で、集まった食材がこれか。」
卵1ダース、牛乳、バナナ、片栗粉、豆腐、人参、玉ねぎ。う~ん、作れるものが限られてくるな・・・。相手は・・・鶏肉を使ったスープかな?こっちも早く作らないとな。
「オムレツにしよう!」
私は制服の上着を脱いで料理に取り掛かった。豆腐を濾して炒め、そぼろにする。これを肉に見立てて、みじん切りにした人参・玉ねぎと一緒に炒める。炒めたものを薄く焼いた玉子で包む。もう一品。デザート用にバナナを使ったオムレツを作ろう!その作業に取り掛かろうとした時だった。
「何か・・・焦げ臭くないか?」
食材を切っていた岸那がボソッと呟いた。言われてみれば、ちょっと・・・いや、かなり焦げ臭い。おまけに部屋の温度が上昇している気がする。おい、まさかこれ、また要らねー装置を作動させたんじゃねーだろな!?
『ドガーーーン!!!』
爆発音が聞こえた。いや、聞こえたはず。よく分からない。爆風で吹き飛ばされたから。痛い・・・。ふざけんな。やり過ぎだ・・・。私が顔を上げると、そこは火の海だった。え・・・ちょっと・・・何これ?何が起こったの?そうだ、岸那は?
「おい!岸那!大丈夫か!?」
「あ・・・ああ、何とかな・・・」
岸那も後方に吹き飛ばされたらしい。あちこちケガをしている。でも生きてる・・・良かった・・・。
『火災発生、火災発生!速やかに退避してください!』
「うわああーーーっ!!!」
酷凄の選手が猛ダッシュで部屋の外に逃げ出す。大会どころじゃない!私達も早く逃げないと・・・。
「おい、凛堂!服に火が着いてんぞ!?」
「えっ!?」
私は自分の服を見た。肩口のところが燃えていた。私は手で叩いて消そうとしたが、なかなか消えない。
「馬鹿!そういう時は、服を脱ぐんだよ!!」
そう言って岸那は私のYシャツを力任せに引き裂いた。下のシャツごと・・・
「あっ・・・。」
固まってしまった。私も・・・岸那も・・・。何で・・・今日に限って、きちんとサラシをして来なかったんだろうな。いつもはちゃんとしてるのに・・・。何で上着を脱いでしまったんだろうな。料理の前に・・・。
「り、凛堂・・・お前・・・。」
「・・・見ないで・・・。」
私は泣いていた。自分の不甲斐なさに。自分の情けなさに。たいして無い胸を手で隠して・・・。その場にうずくまってしまった。
『火災発生、火災発生!速やかに退避してください!』
うずくまっていたら、服をかけられた。私が上を向くと岸那が真面目な顔をして言った。
「俺の上着を着ろ!脱出するぞ!」
そう言うなり、岸那は私を抱き抱えて走り出した。ドームの外に出るまでの間、私はずっと泣いていた。その後のことは記憶が曖昧だ。とにかく大会は中止になったらしい。後で入間から聞いた話だ。私の体のケガは、たいしたことなかったし、特に死者も出なかったという。私の正体は岸那の上着のお陰で、岸那以外の人間にはバレなかった。ただ今日、大切な物を失った気がした。




