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34発目 華麗なる夏蓮の可憐な初恋 後編

 雪が降った。まるでタイミングを計ったかのようだ。今日の夜は一年の中でも特別な夜。子供達は靴下を吊るし、サンタが来るのを心待ちにしているだろう。大人ならば好きな人や家族と過ごすか、或いは一人寂しく酒をあおるか、とにかくイベントに事欠かない日。クリスマスイブである。今年のクリスマスイブの予定は特に無かった。家でゴロゴロしようと思っていた。数日前までは・・・。


「どう切り出すべきか・・・。」


 目的地に向かいながら、私は一人呟いた。そういえば、あの手紙には時間が書いていなかった。ひょっとすると夏蓮は朝から待っていたかもしれない。もしそうだとすると、相当な熱意だ。あの手紙の内容から察するに、私に対して告白するつもりだろう。いや、あの内容なら既にされているようなものか?後は、私の回答待ち・・・か。あはは・・・困ったなあ。あの手紙には『私を受け止めてくれるなら、来て。』とあったから、拒むのであれば初めから行かなければいいのかもしれない。だがその場合、夏蓮は大きく傷つくだろう。そもそも、いつまで待ち続けるつもりか分からない。下手したら、日付が変わるまで一人寂しく待ち続けるかもしれない。それは・・・ダメだ。たとえ嫌われてもいいから、直接会って言わないと。私はそんなことを考えながらに鈍色の空を見上げた。ゆっくりと降る雪が、次々と顔に当たって溶けた。何故私は傘を持ってこなかったんだろうな・・・。


 私が住む地域には、古い教会が一つだけある。昔から多くのカップルを幸せに導いた場所だ。その教会の敷地には大きな木があり、毎年クリスマスシーズンには綺麗に飾り付けをされるという。数年前から電飾が取り付けられたらしく、夜になるとライトアップされて幻想的な雰囲気を醸し出す。待ち合わせに使うカップルも多い。


 その木の下で夏蓮は待っていた。着ているのは赤いロングコートだ。肩までかかる美しい栗色の髪がなびく頭には、可愛らしい毛糸の帽子が乗っている。手袋をしていても寒いのか、しきりに手を擦り合わせ、ハーッと息を吐きかけている。私が視界に入ると、パッと輝くような笑顔を見せた。


「凛堂さん・・・。」

「ごめん。待たせちゃったかな?」

「いいえ。私も、たった今来たばかりですわ。」


 嘘だ。長いこと待っていたんだ。帽子に雪がうっすらと積もっているじゃないか・・・。悪いことしちゃったな・・・。夏蓮は私の前でモジモジしている。


「り、凛堂さん・・・お手紙を読んでいただけたのですね。」

「うん。あの手紙には君の思いが綴られていた。とても強い思いが。」

「私は・・・貴方が好きです。」


 うおっ!ストレートで言われると、ガツンと来るものがあるな。


「それが・・・三条さんの気持ち?」

「ええ。私は・・・貴方に対して、決して抱いてはいけない気持ちを抱いてしまった。」


 うん?恋心だよね?私達は女の子同士だから抱いてはいけない。でも、君は知らないでしょ?私が女だってこと・・・。


「う~ん、別にいけない訳じゃ・・・」

「いいえ、いけません!私は・・・三条家を背負う人間なのに・・・。」


 すごい気迫だ。いつものような、優雅さは感じられない。そうか・・・割りと普通に接しているから忘れがちだけど、夏蓮は三条家のご令嬢だ。私のような、どこの馬の骨とも知れない人間に恋をしてはいけないのかもしれない。それでも、私のためなら家名をも捨てると手紙にあったな・・・。そこまでの覚悟か・・・。


「それでも・・・貴方の姿が目に焼き付いて・・・離れないのです。私は・・・どうしたらいいのでしょう?」


 夏蓮はとうとう泣き出してしまった。夏蓮は私のことが好き。それも、並大抵のレベルじゃない。だが、私は女だ。それはどうしようもない。適当な理由をつけて断るにしても、良い方法が思いつかない。生半可な理由では、夏蓮は納得してくれないだろう。逆に傷つけるだけだ。だとすれば・・・私は・・・


「三条さん・・・」


 私は泣いている夏蓮に呼びかけた。夏蓮は泣き顔でこちらを見る。


「俺は三条さんに嘘をついているんだ。」

「そんなこと・・・仰らないで・・・。凛堂さんが凛堂さんであることに変わりはないのですから・・・。」

「俺は・・・いや、私は三条さんが思っているような人間じゃないんだ!」


 物理的に。いや、生物学的に。


「凛堂さん・・・私がお嫌いでしたら・・・努力致しますから・・・」


 夏蓮は私に抱きついた。私は拒まなかった。逆に夏蓮の頭を私の胸に触れるよう、抱き締めた。今日はサラシはしていない。


「!?」


 瞬間、夏蓮の体が強張った。それから夏蓮はゆっくりと顔を上げ、私を見た。その目は全てを理解したようだった。


「り、凛堂さん・・・」

「今まで言えなくて、ごめん。私は女なんだ・・・。」


 私は夏蓮に全てを打ち明けた。私が話している間、夏蓮はずっと黙ったまま俯いていた。さぞや、幻滅しただろうな・・・。私が話し終わると、夏蓮の体が小刻みに震え出した。どんな罵声も甘んじて受けよう・・・。それだけのことをした。私は覚悟を決めた。


「凛堂さん・・・」

「はい。」


 夏蓮の声は震えていた。無理もない。好きだと思った男が、実は女でした、なんて・・・目の前で起きたら笑えない。


「初恋は実らないって、よく言いますわよね・・・。」


 何も答えられなかった。こんな初恋・・・酷すぎるよな・・・。私のせいだ・・・。


「私も・・・そう思っていましたわ。」

「ごめん。・・・ん?」


 思っていた?・・・今は違うの?


「凛堂さん!」


 夏蓮は両手で私の肩を掴んだ。目が爛々と輝いている。お?何やら風向きがおかしくなったぞ?


「私は、凛堂さんの女装した姿に心奪われたのです!」

「へ?」

「殿方の女装した姿に惚れる・・・私はおかしくなってしまったのかと思いましたわ・・・。」

「さ、三条さん?」


 今もおかしいんじゃないでしょうか?ねえ・・・。


「殿方を女装させて一生一緒に過ごすならば、三条家の家名も捨てなければならない。そう、覚悟しておりましたけど、凛堂さんが女性なら・・・何の問題もありませんわね!」

「あるわ!大有りだ!」


 お前の初恋は歪んでいる!実らせてたまるか!家名とか、姿が焼き付いたとか、そーゆーことかよ!?


「凛堂さん・・・いえ、葵ちゃん!女性はもっと美しく着飾らなければなりませんわ!」

「いい!余計なお世話だ!」

「あっ!お待ちになって、葵ちゃん!」

「追っかけてくんな、夏蓮!」

「三条家の人間は、諦めませんわ!」

「めんどくせーーっ!!」


 その後しばらく私と夏蓮の追いかけっこは続いた。私の周りには、どうして変な奴しかいないのだろう?夏蓮に追いかけられながらそう思った。まったく、どうかしている。


 とにかく、夏蓮の初恋は終わった・・・と思う。その後も私につきまとう夏蓮をどうにか説得し、定期的に一緒にファッションを楽しむ、ということで妥協してもらった。『し、仕方がありませんわね!』とか嬉しそうな顔をして言ってたが、あの様子なら私のことを誰かに話すことは無さそうだ。初めて腹を割って話せる女友達もできたし、よかった、よかった・・・のか?

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