32発目 殴桜祭 後編
「アンタ一体、何考えてんだ!?」
舞台裏で私は、まくし立てた。私は何のためにアンタに相談しに行ったんだよ!?女としてばれたくないから行ったんだろうが!それを多くの人間が見守る美人コンテストに出ろだ~?ふざけんな!
「大丈夫だよ。ほら、よくあるだろ?男子高校生が悪乗りして女装する展開」
「それは明らかに男だからでしょうが!女装する女なんているか!」
大体アンタの発明品は『男でも女になれるスーツ』だろうが!女に着せても、しょうがねーだろ!
「いいかい?葵君のことを女の子だと知っている人間はいない。人間というのは不思議な生き物でね。一度先入観に囚われると真実が見えなくなる」
「う……う~ん」
確かに男装してからというものの女だと見られたことがないな。むしろ男として好意を寄せられている節もある。メイド喫茶のバイトをした時も野球部の連中が来たけど気付かなかったもんな。
「体は特製のボディースーツで包むから問題ないし……僕は君の心を心配しているんだ」
「私の心?」
「そう、君は入学してからずっと大きなストレスに晒されてきた。女の子なのに男として内密に生きる。それは君が思っている以上に心に負担をかける行為だ」
「…………」
「君が初めて僕の所に来た時、帰り際に精神安定薬を飲ませたね」
「ええ。何かその後、太りましたけど……」
「あれはね、君がすごい顔をしていたからなんだ。今にも壊れてしまいそうな」
「壊れる?」
「いいかい葵君。いや、葵ちゃん。君は女の子なんだ。いくら僕の発明でも君を男の子にすることはできない。もちろん、外科手術をすれば別かもしれないけどね」
「…………」
「今の君には女の子として堂々と振舞える舞台が必要なんだ。日頃傷ついた心をケアするためにも!」
「先生……まさか……」
「そう!この発明品は君のために作ったんだ!わずかな時間かもしれないけど君を女の子に戻すために!」
何ということだ。真戸先生は私のためを思って発明してくれたのか。うう、私は誤解していたということか。てっきり趣味で作ったんだとばかり……。これが先入観の怖さか。よし!腹を決めたぞ!滅多にない機会だ。思いっ切り女の子してやる!
「ありがとうございます、真戸先生!私、これを着て舞台に立ちます!」
「うん、それがいい」
私は特製のボディースーツを着ることにした。最新の技術が使われているらしい。すごいな。肌の感覚がほとんど変わらない。繋ぎ目も全く分からない。ビキニを着て鏡の前に立つと豊満な胸が目立つ。大きいな……これが巨乳というものか。私は腰をかがめて膝を折り、胸を前に出す感じでポーズをとってみた。そこには、とてつもない谷間があった。グ、グランドキャニオンだ!うひゃー、スゲー、これ。うわ!うわ!マジ嬉しいな!偽物と分かっていても嬉しすぎる!ぴょんぴょん跳ねると胸も合わせてバインバインと上下する。うおー、テンション上がってきた!勝てる!これで勝てる!
「それだけ喜んでもらえると僕も作った甲斐があるよ」
ハッと我に返り後ろを振り向くと試着用のカーテンの外から首を突っ込んだ真戸先生がいた。
「い、いつから見てました?」
「君が鏡の前でポーズを取った辺りかな?」
は、恥ずかしい。顔が火照って真っ赤になるのが分かる。ああ、でもいいんだ。今だけは女の子っぽくて。私はその後、髪を下ろして化粧をした。改めて鏡の前に立つと、そこには見たことのない美女がいた、と思う。私的には。
「凛堂さん、準備はでき……。ど、どなたかしら?」
私を呼びに来たであろう夏蓮は、今の私の姿を見て驚いたようだ。そのままの表情で止まっている。夏蓮も水着姿になっている。
「私は凛堂葵よ。」
「り、凛堂さん?ま、まるで別人ですわね。女の子の言葉遣いですし……」
「一応コンテストに出るからね。今だけは女の子っぽくしているの。葵ちゃんって呼んで!」
そう言って私はポーズを取ってみせる。『うっふ~ん』という感じである。
「ど、ど、堂に入ってますわね、凛堂さん。いえ……あ、葵ちゃん」
「任せて!」
夏蓮の顔は真っ赤であった。心なしか声も震えている気がする。
こうして『ミス桜国コンテスト』は始まった。おそらくバレない。十中八九バレない。そう思ってはいても、緊張する。思えば女の子らしいことをしたことが無かった。常に強くあろうとし続けた結果、私の中から女の子の成分が抜けていった。そして今に至る。自分の出番を待つ間、私は改めて生まれ変わろうとしたことを思い出していた。
『続きまして、エントリーナンバー8番。殴獄高校一年、凛堂葵ちゃんです』
「おいおい、マジかよ!凛堂。やっちまったな」
「男の水着姿とか見たくねーよ!」
「ははは、写真撮って黒板に貼り付けようぜ!」
「でもあいつ意外と顔は良いからな。ちょっと見てみたいかもしれん」
表の方から散々な罵声が飛ぶ。ほとんどが殴獄高校の生徒だろう。今に見てろよ!私は激しく燃える心を抑えて舞台の上に姿を現した。
「えっ!?」
「おい!あの巨乳美人は誰だよ?」
「あれが凛堂!?マジで!?」
「やべえ……男に欲情してしまった。死のう……」
出る前は散々あった罵声が驚きと賞賛の声に変わった。気持ちがいい。中央まで歩いて行くとスポットライトが私を照らした。私はそこで正面を向いてポーズを取る。
「「「「「おおおおーーーーーーー!!!」」」」」
舞台周辺は熱気と拍手に包まれた。こんな……私がこんな舞台に立てる日が来るなんて。生きてて良かった。感動しすぎて泣きそうだった。私が人に褒められるのは、空手の大会くらいだと思って……いたから……。
コンテストの結果は堂々の二位だった。ちなみに一位は夏蓮。三位は同じく野球部の命。最下位は五里だった。救急車で運ばれていった人間もいたようだ。一位と最下位のどちらに衝撃を受け過ぎたのかは分からない。それにしても記憶に残る合同文化祭になったなあ。
次の日、私は校長室に呼び出された。そういえば、何で校長は講義をすっぽかしたんだろうか?教頭が涙目になっていたぞ。
「やあ、凛堂君。昨日はお疲れだったね。君のお蔭で初の合同文化祭はうまく行ったよ」
「それは、どうも。しかし校長、昨日は自分の変な講義すっぽかしてどこに行ってたんです?」
「ちょ、ちょっと急用ができてな。文化祭に行けなかったんだ」
「はあ、そうなんですか」
「時に凛堂君。昨日の『ミス桜国コンテスト』は盛り上がったそうだね」
「ええ。大盛況でした」
「チラッと写真で見せてもらったが……君も出たそうだね」
「はい。二位になりました」
「そうか。いや~見たかったな、生で」
「……」
「……」
「凛堂君。ものは相談なんだが」
「お断りします」
私は制止する校長の声を無視して、校長室を飛び出した。しばらくの間、私の女装の話題が尽きることは無かった。




