31発目 殴桜祭 中編
いよいよ合同文化祭の日がやって来た。果たして人は来てくれるんだろうかと心配したが杞憂に終わった。殴獄の悪名より桜国の名声が勝った。来るわ、来るわの大賑わい。やはり桜国生の美貌見たさにやって来る男が多い。桜国はスポーツ盛んなお嬢様学校だが、特に入場制限とかをしていない。お高く留まっていないんだな。まあ、その校風こそが人気のある理由かもしれない。どこぞの投げやりな校風とは大違いだ。
「うまく行ってますわね」
「今のところはね。でも、油断したらいけないよ、三条さん」
入念な監視体制を敷いているため予想したほどの被害は出ていない。とは言え、出てしまっているのも事実。まったく、あれほどやるなと釘を刺したのに。これが若さという奴か。それにしても、さっき警備係に連行された奴……ウチの校長に似ていた気がするけど……まさかね。
「凛堂さんも楽しんでいただいて結構ですのよ。私達一年の催し物は、お化け屋敷とメイド喫茶ですわ」
「ひ、暇があったらね」
行きません、お化け屋敷なんて。お金をもらっても行きません。それにメイドはバイトだけで十分です。そういえば……
「野球部に五里さんっているよね?」
「ええ。松谷君がお好きみたいですわ」
「うん、その五里さんなんだけど、お姉さんとかいる?」
「えっと、確か違う学校に通っているお姉様がいらっしゃるとか」
「そ、そう。違う学校なんだ」
よ、よかった。とりあえず鉢合わせないで済む。まあ、妹の文化祭に来ている可能性はあるにしても四六時中近くにいるよりかは、ずっとマシだ。
「・・・凛堂さんも五里さんみたいなタイプがお好きでして?」
「い、いや、そういう訳ではないよ。ただちょっと気になっただけ」
「それを聞いて安心しましたわ。私はこれ以上、体を鍛えられませんから……」
ん?んん?どゆこと?
何故か顔を赤くしていた夏蓮を置いて私は校内の見回りに行った。どこも人がごった返している。歩きにくいこと、この上ない。人混みに紛れて歩いていると桜国の風紀委員が目につく。ハレンチ根絶!と書かれた腕章をして目を光らせている。君達も楽しみたいだろうに、ご苦労様。大変そうな風紀委員に声をかけながら校内を引き続き回っていると見覚えのあるボサボサ頭が見えた。
「真戸先生!?」
「ん?やあ、葵ちゃ……葵君!」
真戸先生は一瞬、おっと!という顔をして言い直した。その呼び方をここでされたら大変です。あなたもあらぬ疑いをかけられますよ!
「どうしてここに?」
「そりゃあ、僕だってこの地域の人間だからね。お呼ばれされたのさ」
「お呼ばれ?」
そういえば真戸先生の服装は白衣ではない。ビシッとした白のスーツを着ている。無精髭も綺麗に剃られている。もう少し髪の手入れもすればいいのに。いや……そうしたら完全に手品師か詐欺師みたいになるか。
「僕の研究結果の発表会……デモンストレーションをやるんだ」
「へー、そうなんですか。知らなかったなあ……」
「葵君にも後で手伝ってもらうよ」
「……しょうがないですね。そういう約束ですから。それで?どういう内容なんです?」
「うん、それはねえ……」
『業務連絡、業務連絡。殴獄高校一年、凛堂葵君。至急、校庭中央の舞台裏まで来てください』
「あっ、いけない!舞台の司会をやるんだった!すいません、先生。また後で!」
「ああ、うん。いいよ、後で……」
真戸先生と別れた私は校庭の舞台裏に急いだ。たどり着いた私は舞台のプログラムを確認する。桜国の演劇部による劇から始まり、ブラスバンド演奏、来客者参加型のビンゴ大会と続く。その後休憩を挟んで、殴獄高校による『上手な不良の成り方』の講義……これは誰がやるの?と思ったら、講義者名、校長って書いてあるんだけど。その後も『不良の生態』『不良との接し方』とかカオスなプログラムが続く。不良高校だからって不良を押しすぎだろ。プログラムはその後も続いていき、締めは『ミス桜国コンテスト』になっている。ん?真戸先生の研究発表会はどこにあるんだ?記載漏れかな?ま、いっか!
舞台の演目は概ね好評だった。ちなみに途中の校長による講義は何故か校長の姿が見えなかったため、急遽家族を連れて来ていた教頭がやる羽目になった。冷や汗交じりの教頭がしどろもどろで講義する姿を教頭の家族は冷ややかな目で見ていた。講義の内容は校長の独断だったんだろうな……たぶん。まあ、そんな感じで問題なく(?)プログラムは進行していき、最後のプログラム『ミス桜国コンテスト』に進む頃には日が沈みかけていた。しかし、さすがに目玉の演目なだけあって来客者はほとんど帰らない。男も多いが、女性も多い。みんな興味あるんだなあ。私も、もうちょっと女らしかったらなあ。そんなことを考えている時だった。
「あっ!いた、いた!葵君」
「あれ?真戸先生、どうしたんですか?というか、真戸先生の発表会はいつ、やるんです?」
「まさに、これからだよ。葵君に手伝ってもらわないとね」
「これから?これからって……」
私の背中に嫌なものが流れる。おい、まさか……
「ま・さ・かコンテストに出ろと?」
「うん。僕の研究結果はズバリ!『男でも女の子になれちゃうボディースーツ』だから」
大きく口を開けて、満面の笑みだ。こちらは開いた口が塞がらない。私は辛うじて、固く握りしめた拳を引っ込めた。




