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30発目 殴桜祭 前編

「殴獄と桜国の合同文化祭!?」


 校長室にも関わらず、私は大声で叫んでしまった。秋も深まるこの季節、どこの学校も文化祭を開くだろう。それは、この不良集まる殴獄高校とて例外ではない。相変わらずこの学校にいる不良のイメージがぶれている。普通、不良はこういうのを邪魔する側じゃないのか?


「うむ。合同文化祭だ」

「去年もそうだったんですか?」

「まさか!桜国の生徒会長に断固拒否されたよ。パンチもされた」

「パンチもですか」

「ボクシング部だったからな。あれは良いパンチだった。世界も狙える」

「誰も聞いてませんよ、そんなこと」


 この校長、直談判しに行ったのかよ。チャレンジ精神旺盛だな。いや、下心の方か?


「じゃあ、何で今年はオッケーになったんです?」

「野球部の三条君が生徒会長になったからな。『恵まれない者に施しを与えるのも私の務めですわ!』とか言っておった」


 ノブレスオブリージュ……か。夏蓮らしいな。というか校長、今年も直談判しに行ったのかよ!?どんだけ合同文化祭やりたかったんだよ!


「と言うわけで、後は頼んだよ、凛堂君」

「は?何がですか?」

「そりゃあ段取りとか風紀の取り締まりとか」

「え?私一人でですか?」

「我が校の校風は、自由だからな!生徒の自主性に任せる!」


 それは丸投げと言うんだ!ハア……夏蓮とよく相談するしかないか。私は校長室を出て桜国高校に向かった。



「合同文化祭の段取りは、こちらにお任せですわ!」


 夏蓮は自分の胸を軽く叩いて言う。当然、物理的に胸が弾む。今、ポヨっていう音が……貧乳の僻みか、これは。


「でも風紀の取り締まり、どうしよっか?桜国生が心配だよ。」

「そうですわね……監視カメラはありますけど……」

「桜国生全員にスタンガンを持ってもらう、とか?」

「それよりも、入口で顔認証をかけた方が良いかしらね。」

「そんなんあるの!?」

「桜国高校の標準装備ですわ」


 スゲー学校だな。これなら親御さんも安心だね!結局、合同文化祭の舞台は監視設備整う桜国高校でやることになった。入口で顔認証をかけて殴獄生を追跡すること。そして桜国の風紀委員と警備係を配置することで、桜国高校内のセキュリティは万全となった。殴獄生が中で悪さをしたら、即バレる。プライバシー?そんなもの、犬にでも食わせてしまえ!


 次の日、全校集会で殴獄と桜国の合同文化祭のことが発表されると殴獄生のボルテージは最高潮に達した。気持ちは分かる。不良もモテたい、だって人間だもの。凛堂あをい。なんちゃって。


「野球部さまさまだな」


 入間が言う。私にも感謝しなさい。私にも。


「ふっ……愛って、なんだろうな?」


 松谷は遠い目をしている。見返りを求めないことかな?そっとしておこう。


「しかし、俺達もやるべき事があるだろう?」


 岸那の言う通り。校内の催し物の企画や準備は桜国の生徒に任せているが、校庭に建てる舞台やそこで使用する大道具は殴獄の担当だ。


 数日後、段取りを整えた私は使えそうな殴獄生をかき集めて桜国のグラウンドに行った。働かない者は参加する権利を与えんぞ!


「ほら、キリキリ動く!そこ、サボんな!」


 意外にも準備は進んだ。中にはサボる奴もいたが、こういう時には意外と動くのが不良というもの。というか、あれだ、働きアリの原理。働かないアリばかりを集めて一緒にすると、仕方なく働き出す奴が出てくる。それと一緒。これなら、しばらく放置していても作業は進むだろう。


 私はグラウンドを離れ桜国の校舎を回った。どこも準備に追われた桜国生が動き回っている。本当は軽く見学するだけだったはずが行く先々で呼び止められ、お茶を振舞われた。何故か桜国の教室にはお茶のセットが常備されている。アフタヌーンティーは淑女の嗜み……か?どうも私は人気があるらしく、会話が尽きない。いや、会話というよりも質問の嵐であった。『ご趣味は何ですか?』とか『好きな女性のタイプは?』とか『抱きしめて下さい!』とかだ。もはや最後のは質問じゃないな。


「あっ!凛堂さん、こんにちは!」


 ようやく質問攻めから解放されて一息ついた私は、飛び出た廊下で声をかけられた。野球部の楼雅だ。


「やあ、河野さん。文化祭の準備は進んでいるかい?」

「はい、バッチリです。凛堂さんは確認の見回りですか?」

「うん。まあ、確認といっても校内のことは桜国生に任せているし……見学かな?」

「そうなんですか。やっぱり凛堂さんは真面目な方ですね」


 そう言って楼雅はすり寄ってくる。この子もアグレッシブな娘だ。私が女だと知れたら怒り出すかもな。


「凛堂さん。私、凛堂さんと一緒に……」

『うわーーー!!?舞台が崩れたぞ!!』

『こんな所で喧嘩すんな!』


 私が慌てて校庭を覗き込むと、倒壊した舞台の周りで殴獄生が騒いでいる。喧嘩をしている奴もいるな。まったく、私が見ていないとこれか……。


「ごめん、河野さ……」

「ちっ!ゴミ虫どもが……」


 窓の外を睨みつけながら仁王立ちをしている。…………今のは見なかったことにしよう。テイク2。


「ごめん、河野さん。俺行かないと」

「凛堂さんも大変ですね」


 良かった、通常モードに戻っている。楼雅に別れを告げると一目散に校庭へ向かった。


「お前ら、よそ様の校庭で喧嘩してるんじゃねーー!!」


 とりあえず、鉄拳制裁を下しておいた。殴桜祭まで、あと一週間。

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