28発目 天高く、乙女肥ゆる秋 前編
「なあ、凛堂。お前、太った?」
二学期が始まって少し経ったある日、入間にそう言われた。
「や、やだなあ、入間。気のせいだろ」
「いや、だって食べる量が明らかに増えてるし……」
入間は私の机の上を指差す。確かに……食べるパンが二つほど増えてる気がするが……。まあ、このぐらい誤差みたいなものだろ。最近、メシが上手いんだよな。
「それに……顎が二重になってきてるぞ」
「えっ!?」
慌てて顎の周りを触る。ぷよぷよした肉の感触がある。あれ?いつの間に、こんなに付いたんだ?顎を引くと完全に二重になるな、これ。
「俺の入間アイによれば……」
「止めろ!見るんじゃねー!」
お前の目はセクハラなんだよ!ぐっ……それにしても入間の言う通り、『ちょっと』太ったかもなぁ。私、空手をやってたから食った分は全部筋肉になってたんだよな。でも、ここのところ喧嘩もしてないし、ちょっと鈍ってるのかな?
「う……嘘だろ……」
家に帰って体重計に乗った私は自分の目を疑った。増えてても2、3キロかなと思っていたが、そんなことはなかったぜ!体が酷いことになっている。全体的にボテッとしていて、腰と尻に余計な脂肪がついている。足も太くなった。胸は変わらない。ケンカ売ってんのか!?顔はもっと酷い。肉がついて、パンパンに膨らんでいる。うう……鏡を見る習慣が無いからなあ。こんなになるまで気がつかないとは。これは、人生初のダイエットを始めなければ……明日から。
二週間後
「おい、凛堂!お前、完全に太ってんぞ!」
「う~ん?そうかな~?」
いや~、今日もメシが旨いな~。マスターズが秋の新作を出すもんだから、ついつい食べる量が増えちゃうな~。ムシャムシャ。ダイエット?なにそれ、美味しいの?
「完全に顎は二重になっちまってるし……」
「大丈夫だって」
「大丈夫じゃねーだろ!今襲われたらやられるぞ!」
「大丈夫、大丈夫。俺は『アンタッチャブル凛堂』だぜ?」
「この腹でアンタッチャブルな訳ねーだろ!?俺でも掴めるわ!」
そう言って入間は私のお腹を掴む。あ~、セクハラだぞ~。それにしても、暑いな~今日も。何もしてないのに服の中に汗をかく。入間の言う通り、『少し』太ったのかもな~。
「ふう……疲れた……」
家に帰るだけで汗だくになる。とりあえず、体重計に乗ってみる。あれ?目の錯覚かな?目を擦る。頬肉に触れる。体重計の針が85キロを指してるんですが……。ようやく現実を理解できてきた。弛んだ全身を冷や汗が伝っていく。最近胸が大きくなってきた、とか喜んでいる場合じゃなかった。胸以外がヤバイっつーの!顔とかアンパンマンになってるじゃん。あれ?どうして気がつかなかったのかな?腹も尻も足も全部、今まで見たことない状態になってる!
「ギャーーーー!!」
運動着に着替えた私は、夕方の町を疾走した。こんなもの走れば、すぐですよ!すぐ落ちる!そうに決まっている!
30分後
「はあ……はあ……じんどい……」
私は公園のベンチに腰掛けていた。何故か右手に1リットルのコーラが握られている。どう言うことだ?『韋駄天葵ちゃん』と呼ばれた私が、わずか30分の運動でヘロヘロになるとは……。
「完全に思考がデブになってるな」
右手のものを恨めしそうに見つめる。嫌でも自分の手が視界に入る。指って本当に太くなるんだな。私は正拳の形を作ってみた。うまく握れない。
「自分のやって来たことを体が忘れちゃダメだよな」
私は持っていたコーラをゴミ箱に捨て、再び走り出した。




