27発目 主治医を見つけよう
8月最後の週。夏休みももうすぐ終わり。相変わらずうだるような暑さだ。本来ならエアコンの効いた涼しい所(入間の家)に居たいのだが、私には行かなければならない場所がある。平山先生に紹介状を書いてもらった医者の所だ。今日私は、ある一つの覚悟を決めていた。
「ここか……」
その病院は人気の無い路地にひっそりと建っていた。距離は私の家からは歩いて三十分といったところか。見た目はボロい。とても腕が確かな医者の病院ではない。患者の姿が見られないが……。
「すいません」
ドアを開けて中に入ったが反応は無い。まさか休みか?そう思いかけた時、診察室のドアが開いた。
「あれ?お客さんかい?」
無精髭を生やしたボサボサ頭の男が出てきた。年は三十くらいか?まだ若そうだ。今まで寝ていたのだろうか、大きな欠伸を一つした。
「あ、あの……私、平山先生に紹介状を書いて貰ったんです」
そう言って持ってきた紹介状を渡す。男は紹介状に軽く目を通すと今度は私の顔をまじまじと見つめた。そう、今の私は殴獄の制服を着ている。うう……。
「君は……葵ちゃん?それとも、葵君?」
「……女です」
「フム。何か訳がありそうだね」
私は全てを話した。初めて他人に対して秘密を打ち明けた。私には秘密を共有する主治医が必要だった。大怪我や病気をした時に事情を知っている受け入れ先が無いと一発退場になる確率が高くなるからだ。もちろん、賭けである。この先生が他の人間に知らせてしまえば、それまでだ。ただ全てを話したことにより、私の心はかなりスッキリした。
「はっはっは!いや~それは災難だったね」
「笑い事じゃないですよ!苦労したんですから」
「ごめん、ごめん。それにしても……おっと、自己紹介がまだだったね。僕は真戸龍太。専門は外科だけど、まあ何でもできるよ。よろしく、葵ちゃん」
挨拶と共に手を差し出してきた。私はそれを握り返した。
「まあ、結論から言えば、僕は君の秘密を誰かに言うつもりは無いよ」
「本当ですか?」
「うん。それに、君から診察料を取る気も無い」
「ええっ!?」
それは願ったり叶ったりだが……逆に怖いな。
「ただ、時々実験を手伝って欲しいんだ」
「えっ!?それって……」
「ああ、違うよ!いかがわしいのじゃなくて。そうだな……例えば……今年プールの授業とか大変だったと言ったよね?」
「ええ。ごり押ししましたが」
「そんな時に女の子だってバレない装備があると良いよね?」
「はい。夢のようですね」
「僕は、そういう物も開発してるんだ」
「そうなんですか?」
え?外科じゃないんですか?それでは医者というより科学者のような……。
「うん。ただ実験段階だから君にテスターをやってもらいたいんだ」
「私に……ですか?」
「そう。もしうまくいったら、完成品はプレゼントするよ」
う~ん、そこはかとなく怪しい。だが、メリットがデカイ。それによく考えたら私には選択肢など無いのだ。迷っている場合ではない。
「分かりました。それでいいです」
「よし、契約成立だ。よろしくね」
こうして私は秘密を共有する主治医を見つけることに一応、成功した。しかし、私は忘れていたのだ。平山先生が『ちょっと変わっている人』と言っていたのを……。帰り際、早速何かの薬を飲まされた。精神安定薬、と言っていたけど。




