26発目 夏だ!海だ!肝試しだ! 後編
その後、昼食を挟みながらペアを組んでビーチバレーをするなど夏の海を堪能した。やがて日も傾き始め、海水浴に来ていた他の客もまばらになってきた。そろそろいい時間だな。引き上げるか。
「いや~、今日は楽しかったな」
「あら、凛堂さん。お楽しみはこれからですわ」
夏蓮がニコニコしながら言う。ん?もう、夕方だよ。良い子は帰る時間だよ?暗くならないうちに早く帰ろうよ。
「今から?何をするんだ?」
「夏と言えば、海の他にもう一つありませんこと?」
「もう一つ?うーん。あっ、分かった!花火だ!」
「肝試しですわ」
「き、肝試し!?」
いや、いやいやいや、き、肝試し……ですか?遠慮します。謹んで遠慮させていただきます!ここだけの話だが私は昔から幽霊とか、そういった類いが大の苦手なのだ。唯一の弱点と言っていい。これだったら凶器を持った暴漢と闘っていた方がマシだ。これは何とか理由をつけて断ろう。
「いや~、俺は……」
「肝試しなんて楽しそうだな。なあ、薫?」
「私、お兄ちゃんと一緒がいい!」
ああ、仲の良い兄妹ですこと。
「じゃあ、僕も兄さんと一緒がいい!」
「小学生の女の子に張り合ってんじゃねー、優!」
まあ、こっちも仲は良いか。
「では、この阿部が命をかけて命さんをお守りしましょう」
「あ、あはは……」
「阿部!抜け駆けすんな!命さん、この和田が……」
「お前は子泣きじじいでもやってろ!」
「ハゲじゃないですー!スキンヘッドですー!」
バカ二人は相変わらずだし……。
「松谷くんは私が守る!」
「そうだ!目を閉じてみよう。そうすれば感動的なセリフに聞こえる。女の子が俺の為に一生懸命に……」
「松谷、お前疲れてんだよ。まあ、俺も目が悪いからなあ……」
アツアツのカップルと入間。いや、目は関係ないだろ。
「ジャパニーズ、キモダメシ!ワタアメ!シャテキ!」
「違うぞ、アブ。それはお祭りだ」
「三条家プロデュースの肝試しですわ!」
「私……凛堂君と……」
「うっ……」
何だかんだ言って、みんな楽しみにしている。完全に言うタイミングを失った。結局、三条家プロデュースの肝試し会場へ車で連れていかれてしまった。
「ルールは簡単!ペアで一本の蝋燭を持っていき、この先にあるお寺の本堂で火を蝋燭に移して帰ってくるだけ。以上ですわ!さて、ペア分けのくじ引きを行いますわ!」
うう、周りは人里が無い。よって夏にも関わらず不気味に静かだ。明かりも無い。本堂に行くって、その間に墓場を通るじゃないか!怖い怖い怖い!うう……いやだよう……。せめて、頼りになりそうな人と……
「くじ引きの結果には文句を言わないこと!」
…………。
「……よろしく」
「よろしくお願いします、凛堂さん。怖い時はしがみついちゃうかもしれません」
この子は確かサードを守っていた、河野楼雅ちゃん……だったかな。ツインテールの小さな女の子だ。とてもじゃないが、緊急時に壁にできる子じゃない。困ったなあ……。
ペアは一組ずつ順次出発する。怪我をしないよう懐中電灯を使う。地図によると行きと帰りの道が違うから途中で他のペアに会うこともない。どうしてそんな酷いことするの?私達は四組目か……。大丈夫かな?
コースは全部で三十分くらい。周りは暗い森に覆われていて月の光も届きにくい。墓場に向かう石段を登っていると獣が唸るような声が聞こえる。森に一体何を放ったんだよ!熊なら何とかなるが、もしこれが亡霊の声とかだったら……
「凛堂さん」
「ひいぃいいっ!!」
「り、凛堂さん?」
「だ、ダイジョブだよ。な、何だい?河野さん?」
し……心臓が止まるかと思ったわ!ひどい声を出してしまった。
「手が……」
ハッとなって、自分の右手を見る。いつの間にか楼雅の手を強く握りすぎていた。彼女の手が少し赤くなっている。私は手の力を緩めて謝った。
「ご、ごめん!痛かった?」
「いいえ……。凛堂さんって情熱的な人なんですね」
灯りは懐中電灯の光だけなので分かりにくいが、少し楼雅の顔が赤らんでいるように見えた。おや?
「キャプテンから聞きました。野球部を復活させる為に一生懸命頑張られたとか」
「え?あ、ああ、そうだね」
「私、そういう人……好きです」
おやおや?どうしたのかな?体をすりよせ始めたぞ。
「凛堂さん。私……私……凛堂さんが」
しがみついてくる楼雅。上目遣いだ。私を見つめる瞳が潤んでいる。これはちょっと……
『うわあああ!!!』
突然、遠くの方で悲鳴が聞こえた。この声は松谷だな。まあ、心配はいらないだろう。五里と一緒だし。むしろ、それが原因か。
「ちっ!クソが……」
気づいたら楼雅は離れていた。私に背を向けている。その背中から阿修羅のような闘気を感じる。それに今、盛大な舌打ちが聞こえた気がするが……。
「河野さん?」
「何でもありません。行きましょう、凛堂さん。」
振り向いた彼女は笑顔になっていた。菩薩である。
その後の行程は筒がなく終わった。というよりも、河野さんのことが気になってそれどころではなくなってしまった。世の中にはお化けより怖いものがあるのかもしれない。ちなみに、松谷は五里に手を握られすぎて骨にヒビが入ってたらしい。……みんな楽しい一日になって、ヨカッタ、ヨカッタ。




