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24発目 ヤンキー、田舎に帰る 後編

 その日の夕食は楽しかった。もちろん祖母に本当のことを喋る訳にはいかないので、適当に誤魔化したところもある。そういう意味では私の心にスッキリしないものが残った。私は、いつ、祖母に本当のことを話せるのだろうか?今のままでそんな日がやって来るのだろうか?


「葵ちゃんが楽しそうで本当に良かったわ」


 祖母はいつもそうだ。自分のことより私のことを心配する。自分が辛くても決して口に出さないし態度にも現さない。私は祖母のそんなところに憧れた。私が強くなろうとしたのは、そこも関係があるのかもしれない。


 次の日、朝食を済ませ掃除と洗濯を片した私は通っていた中学校に顔を出すことにした。平山先生から紹介状を受け取らないといけなかったし、幼馴染みと会う約束もしていた。つい半年前まで通っていた母校の校庭では後輩達が元気よく部活動をしていた。みんな真剣で、それでいて楽しそうだ。私はふと、先日行われた野球の大会を思い出し微笑んでしまった。場所が変わったって人間がやることなど大した違いは無いのかもしれない。


 そういえば、少しだけ私の中の不良に対する考え方が変わった気がする。確かに、中にはどうしようもない奴もいる。でも、それは全部じゃない。悩んだり、迷ったり、守るべきものがあったり、色んな奴がいる。外から眺めているだけでは分からないことがたくさんある。私の場合は完全に偶然だが、その中を見ることができた。そのせいか、入学当初の『私に関わらないで!』という考え方は、いつの間にか消えてしまった。ま、まあ、私が染まってしまったと考えられなくもないが……。


「はい、これ。紹介状ね。」

「ありがとうございます、平山先生。休みの日なのに」

「気にしないで。あっ!それとオウオウ饅頭、美味しかったわ」

「あれ、商店街でも結構人気のお土産なんですよ」


 オウオウ饅頭、漢字にすると殴桜饅頭。高校の近くにある商店街が考案したもの。高校のある位置が近いことから殴獄と桜国の頭文字をくっつけた、何とも安直なネーミングの一品である。しかし侮るなかれ、意外や意外、良くできている。甘すぎない桜餡をしっとりとした皮で包み、表面には『オウオウ!舐めんなよ!』とプリントされている。ダジャレが利いてて、見ても食べても面白い。本来嫌われものの不良を逆に商売に利用するとは、商売人の魂には頭が下がる思いである。


 平山先生にお礼を言って別れた私は幼馴染みと久しぶりに会った。名前は首藤(しゅとう)(れん)という女の子だ。私は友達が多いけど、恋のような腹を割って話せる人間は少ない。ちなみに私に男の幼馴染みといった、フラグが立ちそうな人間はいない。軒並み自分でバキバキ折ってきた。物理的に。


「葵ちゃん、少し変わったね」


 雑談をしていると急にそう言われた。まあね、あんな生活をしてますからね。


「男っぽくなった、とか?」

「ううん、逆。女の子っぽくなった」

「え!?」

「うまく言えないんだけど、男の子と女の子の違いがよく分かってる感じ」

「ん?どういうこと?」

「う~ん、私の知ってる葵ちゃんは、男の子っぽい女の子」

「うん、それはよく言われるな」

「でも今の葵ちゃんは、まるで男の子」

「なるほど、分からん」

「男っぽさってさ、自分が女の子だって認識がないと身に付かないと思うんだよね。宝塚の女優さんみたいに」

「う、うん」

「今の葵ちゃんはそれが分かっている感じ。男の子を演じている、って言うのかな?それは自分が女の子だって強く意識していることから来てるんじゃないかな?」

「強く意識する?」

「わざと男の子っぽくしているってこと。それってすごく女の子っぽいよね」


 私は何も言うことができなかった。恋の言ってることはフワフワしているが、正確に的を射ていた。確かに私は男を演じている。男の動作の研究もした。その時に自分の普段の動作との違いも確認した。男と女の違いが分かる……か。そういう意味では、私は乙女の階段を上っている訳か。全く実感が湧かないが。


 今回の帰郷は概ねこんな感じだった。祖母も母校も友達も特に変わってはいなかった。人に嘘をつき続けるのは、そう長くは持たないかもしれない。帰りの列車に揺られながら私はそう思った。

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