22発目 メイド始めました。 後編
「アイちゃん、3番テーブルにオムライスお願い!」
「はーい、持ってきます!」
今日も放課後は大忙し。可愛らしい黒のメイド服を着て、行ったり来たりしている。ホールの仕事から調理補助まで何でもござれだ。仕事の内容は理解できるが、まだ慣れない。五里に会った時は、ヤバいと思ったが……。
『教育係りのゴリよ。質問があったら何でも聞いて』
『え、えっと……あの……ゴリさんは、高校生ですか?』
『ええ、そうよ。よく男子に間違えられるけど』
『あの……何か、スポーツをされていますか?』
『私は水泳部ね。妹は野球をやってるけど』
『はあ、妹さんですか』
『妹は私と違って男っぽいから、心配だわ』
『そ、そうですか。(あなたも逞しいですよ……)』
こんな感じだったもんな。ああ、間違いないよ。ここのゴリさんは桜国の五里のお姉さんでしょう。あんな筋骨隆々の乙女も需要があるんだなあ。いやでも、すごく優しくていい人なんだ。教え方も丁寧だし。
「はい、オムライスおまちどおさま!」
「アイちゃん、食べさせてよ!」
「よし!僕に任せてよ!」
ちなみに私のキャラはこんな感じだ。一人称が僕、の元気っ子という設定らしい。正直言って何が良いのか、さっぱりである。にも拘らず、私の人気は意外と高いらしい。特に女性から、というのが……何とも。私はてっきり彼女がいなさそうな男ばかりが来ると思っていたが、意外と女性のお客も多い。世の中広いな~。
私がお客に『あ~ん』とかしている時だった。聞き覚えのある声が店内に響く。
「おっ!この店だぜ!和田!」
「俺……初めてだけど、大丈夫かな?」
「オー!ジャパニーズ冥土デース!ヘルデース!」
「違うぞ、アブ。その冥土じゃない。それにヘルは地獄だ」
横目で入口を見ていた私は、顔を隠すように俯いた。勢いよく俯いたせいで目の前のお客にヘッドバットをかましてしまった。
「ア、アイちゃん……刺激的……」
「ご、ごめんなさい」
私は小さな声で謝った。な・ん・で、あいつらがここにいる!?部活はどうしたんだよ、お前ら!?あいつらと顔を合わせるのは、さすがにマズい!私は足早に調理室の方へ向かった。
「あっ!丁度良かった。アイちゃん、注文を取ってきてくれない?皆、手が塞がっちゃってるのよ」
「へっ!?ちゅ、注文って……今来たお客ですか?」
「うん。お願いね!」
はわわ!隠れるつもりが墓穴を掘った!ど、どど、どうする!?そ、そうだ、頑張って顔を隠そう。私はお盆で顔を隠しながら、あいつらの席まで行った。
「ご、ご注文は……お決まりですか?」
「そうだな……注文は、君!なんちゃって!」
「あはは……」
ぶっ飛ばすぞ、阿部!笑えないんだよ、この状況は!あ~、早く解放してくれませんかね?
「注文を取る時くらい、顔をみせてほしいなあ」
和田君の的確な指摘。ごもっともです。ですが、見せる訳には参りません。死守します!
「あ、あの……ちょっと、顔はお見せできないんです……」
「え?何で?」
「その……わ……僕はあまり可愛くないので……」
「どれどれ……」
和田が脇から顔を覗こうとする。おい、バカ、止めろ!私は体をひねって視線を躱す。それでも覗こうとする和田。しつこいぞ、ハゲ!
「オー、和田サーン。レディーガ嫌ガッテマース」
アブが和田を制止する。サンキュー、アブ!お前は唯一の良心だ!
「和田、間違ってるぞ」
「お前も止めるのかよ、雷同」
「こういう時は、お盆を取り上げればいい」
言うなり雷同は立ち上がり、私が持っていたお盆を上から引っ張った。ちょっ……
「「おお!?」」
やあ、こんにちは。ご機嫌いかがかな?私は最悪だよ。あー、なんだ……終わったな……今度こそ。
「何だ、普通に可愛いじゃねーか」
「あ、どうも・・・初めまして。俺、和田って言います」
「は?」
あれ?もしかしてこいつら気付いてないの?
「オー!ビューティフルガールネ!」
「髭でも生えてるのかと思ったが……何だ、女か……」
やっぱり気付いていない。雷同、相変わらず発言が謎すぎる……。いや、確かに服装は完全に女の子だし、髪形もいつもと違うけど。お前ら、あれだけ濃い時間を一緒に過ごしたのに。何かこれはこれで悔しいな。試合に勝って勝負に負けたみたいな感じだ。
結局、野球部の連中はこの店の価格設定に驚き、四人でオムライス一つを注文するという情けない状態だった。興味本位でやって来たみたいだし、多分もう来ないな。私は胸を撫で下ろしたが、とても疲れる一日となった。余談ではあるが、後日連中の所へ行き、地獄の千本ノックをしてきた。あいつら理不尽そうな顔してたけど、もちろん唯の憂さ晴らしである。寿命が縮まるかと思ったじゃねーか!




