20発目 夏を乗り切れ!葵ちゃん(ごり押しも乙女のたしなみ)
ここのところバタバタしていたせいですっかり忘れていたが、夏という季節が私にとって一番危険なのだ。プールの授業か……。何でよりにもよって必修科目なんだよ!?いやね、言い訳をさせてもらうとね、すっごく心配してたんだ。殴獄高校に入る前はね。でもこの学校、不良高校じゃん。真面目に授業なんて受けなくてもいいのかな~、なんて甘い考えを抱いちゃったわけ。でも、そんなことは無かったぜ!ちくしょ~。
「ああ、もう!いやんなっちゃう!」
誰もいない生徒会室に声が響く。うん?生徒会?……そうだ。一つだけ手がある。一つだけ……頭おかしいと思われるかも、だけど。私は勢いよく立ち上がり、教室を後にした。
「水泳時にサラシの着用を義務付ける!?」
「そうです、校長!義務付けるんです!」
「何でわざわざそんなことをするのかね?」
グッ!?もっともな意見だ。ちくしょう、この校長なら二つ返事でオッケー出してくれると思ったのに。怪我から復活して急に常識人ぶりおって。もう一回金属バットで殴ったら元に戻らないかな?
「理由もなしに、いきなりそんなことは生徒会長といえどできないぞ」
「理由なら……あります。」
「ほう、なんだね?」
説得開始!
「校長はこの間の野球部の試合をご覧になりましたか?」
「いや……入院してて見ていないが、いいところまで行ったそうだね」
「はい。努力の甲斐あって地方大会準決勝までは行けました」
「いや~、君に任せて良かったよ」
とりあえず一定の評価はしてくれたんだな。機嫌も良い。もう少し、おだてるぞ!
「いえいえ、校長のご高配あってこそです」
「そ、そうかね?照れるの~」
「時に校長。あの野球部を見て、どう思います?」
「う、うん?そうじゃな、頑張れば意外と何とかなると思った」
「そう!頑張れば何とかなるんです!」
よし、言質を取ったぞ!頑張れば何とかなる、即ち努力をしなければ、どうにもならないということだ。
「つまり、我が校の弱小水泳部も頑張れば何とかなるんです!」
「しかし、我が校にそんな人材は……」
「校長!人材は創り出すものです!」
「ど、どうやって?」
「我が校には体力バカがたくさんいるではありませんか!」
「お、おお。そうじゃな」
「そいつらを鍛えるんです!それも普通の方法ではダメです!」
「そ、そうか?では、どうすればいい?」
よし、もらった!こちらに意見を求めるようになれば、最早誘導は簡単。
「そこで、サラシです!」
「おお。サラシか!」
「いいですか、校長。これはまだどこの学校にも知られていない、最新の情報なんですが……」
「い、一体何だね?その情報というのは?」
「サラシを上半身にたくさん巻いて負荷を上げた状態で泳ぐと……」
「お、泳ぐと?も、勿体ぶらずに教えてくれ!」
「短期間で上半身の筋肉が鍛えられ泳ぐスピードが20%も上がったという、アメリカの研究結果が出ているんですよ!」
「な、何だってーーーー!?」
「世界チャンピオンも出したこともある偉大な研究機関の調べですから、間違いないです!」
「よし、早速我が校も採り入れるぞ!」
説得完了!やっぱり、この校長はバカだった。
こうして、この夏から殴獄高校ではプールの時に大量のサラシを上半身に巻くことになった。この界隈の薬局からサラシが売れまくったのは言うまでもない。何重にも巻いておけば、水泳の時にバレることもない。下はどうにでもなる。ただ難点を挙げるなら、サラシを大量に使うので大変お財布に優しくない、ということ。そして何より、バレないとは言え男に囲まれたプールを上半身裸で泳がなきゃならない、ということである。私は女を捨ててないよ。ホントだよ。信じて!




