11発目 rainy memory
季節は六月。今年も梅雨の時期がやって来た。降り止まない雨が教室の窓を伝って流れ落ちる。この時期、私の気分はいつも憂鬱だ。私はこの季節が嫌いだ。湿気を含んだ重い空気も嫌いだし、思いっきり外で体を動かせないのも嫌い。でも、それだけが理由じゃない。この梅雨の時期は……私の両親が死んだ時期でもある。
そんなにはっきりと覚えている訳じゃない。まだ私も小さかったから……。その日、私は祖母の家にいた。私の両親は共働きだったから珍しいことではなかった。祖母の所で遊ぶのも好きだったし、どうせ仕事が終われば二人で迎えに来る。その日も、そう……思っていた。でも……約束の時間になっても両親は現れなかった。最初は雨のせいで道路が混んでるだけだ、って祖母が言った。雨の日だけは車で迎えに来るから私もそうなんだろうなって思った。だけど……電話が鳴ったんだ。祖母の家の電話、すごい古くてさ。黒電話なんだぜ、今時。それが鳴ったんだ。電話の内容は分からない。でも電話に出ていた祖母の表情がどんどん青ざめていったんだ。私は子供ながらに直感した。何か、悪いことが起きたんだって。
その後の事は覚えていない。気づいたら葬式まで終わっていた。葬式が終わった日の夜、祖母は私を抱き締めながら言った。その言葉だけは今でも鮮明に覚えている。
「葵ちゃん、あなたは独りじゃない。お婆ちゃんが、葵ちゃんを立派な大人にしてみせるから」
私はその言葉にどれ程救われただろうか。私はその言葉でどれ程奮起できただろうか。そして、それからどれ程の時間が経っただろうか。祖母の私に対する思いは今もなお変わらない。でも……
「私……何してるんだろ?」
そんな祖母に私は嘘をついている。信じられないような偶然が重なってだけど、私は今ここにいる。桜国じゃなくて殴獄に通っている。このままでは祖母の言う、立派な大人には到底なれない。だけど……私は……やりきるしかないんだ。
そんなことを考えていたが、私はふと周りが静かになったことに気づいた。教室の温度も心なしか下がったように感じられた。私が顔を教室の入口に向けると男が一人、立っていた。金髪のオールバックで右耳にピアスがしてある。左頬から鼻にかけて、斜めにナイフの古い傷痕が走っていて、その上にある眼は鋭く、凍てつくように冷たい。
「条定光一だ……」
隣の席の入間が言う。口から出たその言葉は、震えていた。あの男が条定光一……。岸那よりデカイな。185くらいか。条定は私を射抜くように見ている。私に用事があるのは明白だった。
今年の梅雨は忘れられない思い出がまた一つ、できるのだった。




