75 ザ・スレイング・オブ・殿付⑤
シーズン1最終局面 狂師VSエイトプリンス攻士・殿付
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森の中を黒い影が跳躍を繰り返しながら進んでいる。影は水色の光を残して次々に木々を飛び越えていく。一個の影と化した後藤は道路を見下ろすことができる丘に辿りついた。
後藤は携帯端末を取り出すと殿付の動きを確認したがまだ、殿付に動きはなかった。暫くして辺りが完全に暗くなり、ようやく二十時を越える頃、殿付に動きがあった。装甲リムジンがブカツドーの敷地から外に出た。
後藤は暗がりから立上がると殿付がやってくるまでの時間を約二十五分と読み、精神を集中させた。暗闇の中を動く、小動物や虫の動きを感じるまでに精神が研ぎ澄まされていった。研ぎ澄まされた感覚が装甲リムジンの特徴的な音を捉えた。
「来たか」
後藤は丘の下に見える道路を凝視しながら両手で三角を形作り、気を集中させた。すると三角で囲われた空間の空気が振動して陽炎のように変化した。
山道の暗闇に微かな明かりが見える、装甲リムジンのライトが道を照らしているのだろう。後藤は意識を装甲リムジンに向けると前と同じように殿付の気配を感じた。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
後藤は叫びながら両手の三角で道路を捉えた。装甲リムジンが近づいてくる。頭の中でカウントが始まった、三、二、一、〇。ついに三角の中に装甲リムジンを捉えた。
「ホゲェェェェェェェェェェェェ」
後藤が絞り出すように叫ぶと両手の三角から強力な振動波が放出された。振動波は射線上の木々を破壊しながら一直線に装甲リムジンへと向かい、車体の側面に直撃した。装甲リムジンの側面が陥没し、ガードレールに車体が激突した。弱いか、後藤は舌打ちをしてさらに両手に力を集中させた。
「ホゲェェェェェェェェェェェェ」
後藤はガードレールの向こうにある崖から落とす為にさらなる振動波を放出した。装甲リムジンの側面が抉れるように破壊されて、ガードレールを突き破り、車体が空中に投げ出された。
空中を舞う車の助手席のドアが突如、意思を持つかのように車体から引き千切られ、ひしゃげて鋭い槍のような形へと姿を変えた。
次の瞬間、ドアの槍が後藤に向けて高速で射出された。
「ぬぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
ドアの槍が後藤の右肩に激突した。後藤は気を展開して貫通を免れようとするが槍は勢いが強く、槍先が特殊スーツを食い破り痛みが走る。槍の力により後藤の身体は足で地面を擦りながら後方に流されていく。
「くらえ! ホゲェェェェェェェェェェェェ」
後藤は後方に流される圧力に耐えながら、空中の装甲リムジンに追撃の振動波を放った。装甲リムジンはくの字にひしゃげて、崖の下へと落ちていった。
「私の力も落ちたものだ……」
後藤が咳込みながら呟くと同時にドアの槍の圧力に負けて後方に吹き飛ばされた。
木々にぶつかりながら林の奥へと飛ばされていく。何とか槍を左の拳で殴りつけて身体から引き剥がすが背後に崖があり、後藤は斜面を転がり落ちていった。
◆
高取は森の中を走っていた。前方を走るコールマンと米山の背中が見えた。上を向くと木々の間から夜空が見える。
「そろそろですね」
高取は仮面の視覚に殿付が移動する光点と待ち受ける後藤の光点が一直線になった。その瞬間、轟音が二度谺した。
視線を上に向けると夜空にひしゃげた装甲リムジンが宙を舞っていた。突如、車体からドアがひとりでに引き千切られ槍のような形になると後藤に向けて射出された。さらに振動波が装甲リムジンに着弾して、車体がくの字に曲がり、弧を描いて森に落ちていく。
「後藤さんは大丈夫ですか?」
「今は構ってられない! 急ぐんだ!」
米山が急かすように言って装甲リムジンが落下する方向に駆けていった。装甲リムジンは木の枝をへし折りながら、落下して地面に激突した。爆音が鳴り響き、装甲リムジンは爆散。周囲に破片を撒き散らして炎が巻き起こる。
高取が爆発地点まで辿り着くとすでに米山とコールマンは警戒するように構えを取っていた。
「これで生きているんですか?」
「こんなもので死ぬくらいなら苦労はないわ」コールマンはそう言うと頭からボールペンを引き抜いた。
「ボールペンソード!」
ブゥゥゥゥゥン! コールマンの握るボールペンから光の刀身が現れ固定された。
「そういうことだ、二本死!」
米山が構えをとると手から関節の鳴る音が響いて両手が光り輝いた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
高取も気を集中して構えをとった。ジャキィン! ジャキィン! 両腕のアームカバーから二対の刃が突き出すと、高取は刃を炎に向けた。
森の中は炎上した車によって昼のように明るくなり、炎が燃える音が響き渡っている。高取は炎を凝視した。緊張感が高まっていく、数秒が永遠とも感じられる。
ふいに炎の中に黒い人影が現れ、悠然とこちらに向かってきた。拳を握る手に力が入り、刃が震えた。炎から抜け出た人影はスーツ姿の殿付であった。炎は殿付の周りを避けるように蠢いている。恐らくは気によって膜を張っているのだろう。炎を背景にした殿付の暗い眼がこちらを捉えた。
「やってくれたなー、運転手と秘書が死んだぞー、どこの者だー、伊藤かー? ジャカタネットかー?」
「あなたを殺しに来た……狂師よ」
コールマンが光るペンを向けて言い放った。殿付は特に反応も見せずにスーツに着いた煤を払った。
「狂師……そうかー、ちょこまかと動いていた虫けらの方かー」
高取は殺意を殿付に向けた。殿付が三人を見渡して分厚い唇に笑みを浮かべた。
「なるほどー、虫けらにしてはできるようだなー、攻生たちの一部がやられただけのことはあるー、どうだーお前たちー? フシモリに入らないかー? お前たちならそこらの攻生にも引けをとらないだろー、超人の世界を作る為に協力してくれないかー」
「フシモリに協力なんて死んでもごめんです、ミスター殿付、それよりもラン・フォー・ザ・フューチャー計画について教えてもらいますよ」
コールマンと米山が頷くと殿付はフンと鼻を鳴らした。
「計画について私から吐かせようと言うのかー、そうかー、簡単に言うと思うかー? 計画を進める為に邪魔な虫けらは死んでもらうー」
殿付の姿が一瞬消えた。再び現れた時には米山の前にいて、空中から回し蹴りを放った。
「ぐぅぅぅ」
米山が左腕で何とか防ぐも蹴りの威力に圧倒され足が地面を擦り、土が飛び散った。
背後からコールマンが光るペンを殿付に向けて振り下ろした。殿付は背後を見ずに右手を手刀にして光るペンを受け止めた。
「そんな!?」
「お前たちーなかなかやるようだなー」
その光景を見ながら高取は跳躍して上から殿付に刃を振りかぶった。殿付はその場で回転して米山とコールマンを振り払うと米山の拳に足を乗せ、そこを起点にサマーソルトキックを放った。蹴りが高取の顎に直撃して後ろへと飛ばされた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
重い一撃を受け、高取は木の幹に背中から激突。激痛が走り、幹に背を預ける形で高取は地面に落ちた。前方を見ると殿付は片膝立ちで着地し、右手を地面についていた。
「かっこ外し!」
殿付が右手をついた地面が大きく抉れて土が飛び散った。
「分配法則」
飛び散った土が殿付の右手へと次々に集まり、覆っていく。肘から手まで土が完全に覆うとさらに手の先の空間にも土が集まり、硬化して歪な剣を形成した。
「くらうんだー」
殿付が地面を蹴り、土の剣を振り上げてコールマンに突進した。コールマンは咄嗟に光るペンを構えて土の剣による重い斬撃を受け止めた。
「どこまで持つかなー」
「こぉぉのっ!」
ギギギギ、じょじょに土の剣に光るペンが押されていく。高取は痛みを噛み殺して殿付に向けて一直線で駆けた。米山も殿付に向かっていた。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
高取は風のようなスピードで近づくとコールマンに相対することで隙ができた殿付の胴体に向けて刃を突き出した。しかし、殿付は咄嗟に左肘で刃を撃ち落とし、瞬時に高取の腕を握った。
「何ですって!?」
殿付は高取の腕を握りながら思いっきり、米山に高取を投げつけた。殿付に向けて拳を構えていた米山が焦るように後退る。
「ぐわぁぁ」
高取は米山に激突し、二人共地面に倒れた。同時にコールマンが殿付の腹に蹴りを叩き込んで距離を取った。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
高取はすかさず起き上がり、殿付に向けて刃を袈裟懸けに斬った。
「フン」殿付は鼻を鳴らして高取の斬撃を土の剣で受け止めた。そこに米山が拳を叩き込むが殿付は左腕で防いだ。
「三人がかりでこんなものかー」
殿付が土の剣を摺り上げて高取の刃を強引に弾いて突きを繰り出した。
「くっ!?」防御を取る間もなく高取に土の剣が迫った。
「させない!」
コールマンの声が響いて光るペンを土の剣に振り下ろした。土の剣の軌道が下にズレて高取から外れた。
「タァァァァァァァァァァァァァ」
コールマンが再び、光るペンを振り上げて斬撃を放った。殿付はそれを受け止める。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
高取はそこに刃を斬りつけるが殿付は光るペンを防ぎながら刃も受け止めた。
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
米山が拳と蹴りを繰り出すも殿付は左腕と左足で捌いていく。
「だぁーだーーーーーーーーーー」
殿付が気合を上げながら高取とコールマンの斬撃、米山の打撃に対応した。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
高取は刃を縦横無尽に繰り出すが殿付の土の剣により全て防がれた。コールマンも米山も攻撃を繰り出すが殿付は攻撃を的確に対応して防いでいる。




