74 ザ・スレイング・オブ・殿付④
シーズン1最終局面 狂師VSエイトプリンス攻士・殿付
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伊豆山中、横に長い大きな三階建ての建造物があった。門には「ブカツドー 静岡支店」と書かれている。三階の端にある会議室では殿付ブシユが新たに攻生に選抜された八名と向き合っていた。横には支店長の禍田サムシが険しい表情で見つめている。
「良いかー、我々の敵は非常に多いー、お前たちの力がフシモリを支えるんだー」
殿付の言葉に八人が礼をすると部屋を退出していった。
「禍田ー、順調かー?」
禍田は白くなった髪をかきあげると疲れを見せた表情で口を開いた。
「伊藤系の多摩連合に委託していた事業もじょじょにですが切り崩しができています。しかし、静岡での伊藤インダストリーの影響力は計り知れませんね」
「お前には苦労をかけるなー、山梨、静岡はハチオウジに近いー、奴らもハチオウジに手を出し難いから必死なんだろー、だがーこの地域でも我々の勢力を強くしておかないと今後の計画遂行の邪魔になるんだー、お前たち、山梨、静岡担当には負荷をかけているがなんとか頑張ってくれー」
「わかっております」
禍田が頭を下げるのを横目で見ながら殿付は手元のディスプレイを操作した。
「そういえば禍田ー、お前たちの情報網で南町を殺した奴らについて何かわかったかー、噂から伊藤かジャカタネットあたりの刺客だと見てるー、大した存在ではないが把握しときたいー」
「何とも言えません。情報では伊藤インダストリーは否定も肯定もしてないようで。彼らにとっては我らを邪魔するものは歓迎ですからな」
「そうかー、何かわかったら報告してくれー」
「かしこまりました」
プルルルルル、机に置いていた殿付の携帯端末が鳴った。殿付が携帯端末を手にとると部下の上級生からの連絡であった。
「どうしたんだー」
『魔々共の一人であるクーラサワーが情報網に引っ掛かりました。北方領土戦線で日本政府に雇われた傭兵とロシア兵約五十名が殺害されました』
「両勢力がやられたんだなー、血を欲してるようだ、現在の居場所は特定できたかー?」
『調査班が痕跡と目撃情報から精査してます』
「特定できたらマニュアル通り、攻生だけで判断せずに必ず攻士の指揮下で対処するんだー、私も動ければ向かうー、わかりしだい報告をしてくれー」
『承知しました。引き続き調査を進めます』
殿付は何点かの注意事項を説明して通話を終えた。
「魔々共ですか……」
禍田の呟きに殿付が苦い顔で頷いた。
魔々共とは裏の世界で指名手配をされている者たちの総称だ。人間、超人、呪術師を問わず個人で軍隊並の力を有する危険人物であり、公的に指名手配をされている者もいれば存在を秘匿されている者もいる。
「こちら側につけば良いんだがー、難しいだろー」
「我々と敵対組織、双方にとって福音にも、脅威にもなりうる存在ですから慎重に進めたいですね」
「そうだなー」
殿付はそう言うと窓に視線を向けた。窓のブラインドからは陽光が漏れていた。
◆
伊豆山中にある駐車場に止まっている黒いワゴン車と白いハッチバック車の車体に夕日が反射していた。ハッチバック車の運転席から高取が降りてきた。助手席側からはコールマンが降りてきて伸びをしている。
高取は黒いワゴン車に近づくと運転席から米山が降りてきた。
「待ってたぜ」
「準備はできていますか?」
「万全だ。米山が殿付の車に発信機を付けた。この付近の交通網から襲撃ポイントも絞り込んでいる」
後藤がいつの間にか車を降りて隣にいた。後藤は高取とコールマンに見せるようにタブレットを掲げた。タブレットには地図が表示されている。
「手はず通り、私が殿付の装甲リムジンをこのカーブで迎撃して、崖下へと落とす。米山、高取、コールマンはそこで襲撃をかけろ。私は遠距離から援護で対応する」
高取は地図を見つめ、闘志を燃やした。ついにエイトプリンスの攻士と相まみえることになる、これでリトルグレイに対して自らの力が通用するかどうかもわかる。
四人は最後の打ち合わせを済ませると黒いワゴン車に乗り込み襲撃ポイントへと向かった。その間、発信機を付けた装甲リムジンはブカツドーの敷地から動いていなかった。
高取は車内で特殊スーツに着替えると仮面を抱えながら集中力を高めていた。コールマン、米山もすでに特殊スーツ姿となって各々が戦いに向けて身体を解している。
「そういえばジャリトモ事務所は意外と大変なことになったな」
米山が仮面を抱えながら、高取を小突いて言った。
「……事務所解体で代表の納戸側が逮捕、メディアもジャリトモタレントを一切締めだすみたいですね。生徒も露出が減るって残念がってました。まぁ、私はアイドルグループには興味はないですし、解体は打倒じゃないんですか。ただ、メディアも知っていながらさんざん持ち上げておいて、手のひら返しするのは通常運転で笑ってしまいますがね」
「そうだな。しかし、納戸側も政治家か大企業への献金を渋ったのかね。押さえがきかなくなって警察のやってますよアピールに使われたか、どちらにしろ今回の逮捕は良くやったよ。ジャリトモ納戸側はガキじゃないと性的に満足できないだけなら仕方ないが、権力を持って強制的に実現してきたツケがまわってきたんだ」
米山はそう言いながら仮面を装着した。コールマンが仮面を被りながら、ちらっと米山を見た。
「芸能界なんて虚構よ。裏で何をやってるんだかわからない、納戸側が捕まっても何も変わらないでしょうね」
高取は頷くと自らの仮面を装着した。
「少なくとも当面はジャリトモ内の被害も落ちつくでしょう。生徒の中にもジャリトモに入った子がいたんでそれだけは安心してます」
「そうだな、俺も昔は本気でジャリトモ事務所に入ろうか悩んでたんだが入らなくて良かったよ」
米山が仮面の位置を調整しながら言うのへ、高取は驚いて顔を向けた。コールマンも高取と同じように振り向いていた。
「なんだ? 文句あるのか?」
「いえ、ただ……」
コールマンが何かを言いかけた時、後藤からの通信が入った。
『車はここで止める。お前たちは予定の場所に向かえ。私は殿付をそこまで追い詰める』
車がゆっくりと止まった。音を立てて後部ドアが開くとコールマン、米山、高取と順に外に下り立った。周囲を見渡すと木々に囲まれており、黒いワゴン車は道路から逸れた森の中に止められていた。高取がここから襲撃ポイントまでの道筋を思い描いていると、運転席の扉が開いた。
「後藤さん?」高取が思わず声を出した。運転席から下りた後藤は高取と同じような特殊スーツを着ていて、細長い長方形の水色をしたシールドが嵌められた黒い仮面を被っていた。
「私の特殊スーツと仮面だ。安心しろ必ず殿付が乗る装甲リムジンはお前たちの側に落とす」
後藤は最終確認を済ませると一人で森の中へと姿を消した。




