73 ザ・スレイング・オブ・殿付③
シーズン1最終局面 狂師VSエイトプリンス攻士・殿付
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朝日が道路を照らした。米山は車を走らせてようやく静岡県に入り、高速を降りて一般道を進んでいった。
市街地に入ると「伊藤にするならインダストリー」、「伊藤は不良をなくす! 不良をなくす」、「良~い伊藤です」等と書かれた伊藤インダストリーの看板がビルや空地、電光掲示板に掲げられているのが見えた。米山は静岡の伊藤インダストリーの影響力の強さを改めて感じていた。
市街地を抜けると自然が増えてきた。日本大災害で隆起した大地が所々にあり、高低差のある景色を作りだしている。遠くに相模湾の海が見えた。車はさらに進んでいくと林の近くにある駐車場でようやく止まった。十台程が止められる駐車場で汚い便所小屋と自動販売機が一つあるだけだった。
米山はリュックを背負って車から降りた。後藤はすでに降りていて携帯端末を操作していた。
「米山、この駐車場の裏手にある山を進むぞ。ここを行けばブカツドーへと続く道が見渡せる場所に辿り着ける」
「わかりました」
「東京方面から来る、装甲リムジンに注意しろ」
後藤が駐車場の裏にある道無き山林に踏み込む。米山はその後を追って進んでいった。殿付が施設を訪れるのは明日、それまで、じっと待つ必要がある。
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夕空の下、横に長い巨大なハチオウジ駅が聳えたっていた。このハチオウジ駅の二階と高層ビル群を繋げるクモの巣のように張り巡らされた巨大なデッキを人々がひしめきながら歩いている。カラオケ棺の巨大モニターではしかつめらしい顔をした女性のアナウンサーがニュースを読み上げている。
『続いてのニュースです。大手百貨店、低陸屋の宅配クリスマスケーキを購入した客ら数百名が届いたケーキを開封しようとした所、突然ケーキが爆発するという事件が発生しました。客らに怪我はありませんでした。低陸屋はケーキに蝋燭を立てる仕様でしたが誤って爆竹を立ててしまったとのことです。通常だと開封と同時に蝋燭が点火する仕掛けでしたが、爆竹が立てられたことにより、点火と同時に爆発したものと思われます。原因については今も調査中とのことで……』
デッキの中央部、二つの四角いオブジェの前に高取は立っていた。高取はニュース映像を眺めながら、映像に表示されている時間を見ている。
「お待たせ」と橫からコールマンの声が聞こえた。コールマンは茶色の革ジャンを着て肩からバッグをさげていた。高取はコールマンと共にハチオウジ駅の新幹線改札へと進んでいった。携帯端末の電子チケットを開き、改札の読取り口にかざして構内へと入る。大阪方面のホームへと降りて新幹線を待つことにした。
「覚悟はできてる?」
「ええ、殿付は必ず討ち取ります」
「……本当の戦いが始まるわ」
コールマンが厳しい表情で呟いた。その内、轟音と共に大阪行きの新幹線「オト」がホームに到着した。「オト」は東京発の新幹線でハチオウジを経由して大阪まで各駅に停まる。高取は途中の「熱海駅」で降りて、伊豆に向かい米山たちと合流する予定であった。
二人は新幹線に乗り込むと四号車の三列席窓側に高取が座り、一席空けた通路側にコールマンは座った。新幹線がゆっくりと動きだして景色が流れていくのを高取は見つめ続けた。
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朝の光が溢れる山中の道を一台のリムジンが猛スピードで進んでいた。リムジンは戦車の砲弾やバズーカにもびくともしない超防弾仕様となっており、全ての窓枠は鋼鉄のパイプで覆われていた。暗いスモークガラスの車内、運転席では黒いサングラスの男がハンドルを握っていた。後部座席はクラシック音楽が流れており、アロマの落ちついた香りが満たしていた。手前側の席に目を移すサングラスをした黒服の男が一人座っている。二人の向かい側の席には殿付がゆったりと座ってタブレットを見ていた。
「凶分組、馬人組、メリーズの抗争が激しくなってきたんだー」
「殿付様、メリーズはここ最近、伊藤インダストリーへの接近も増えてます。彼らへの支援はほどほどにした方が良いかもしれないですね」
サングラスの黒服が答えると殿付がタブレットから視線を上げた。
「その必要はないんだー、メリーズが増長してくれた方が混乱が続くんだー」
「さようでございますね。そういう意味では凶分組の竹諸兄弟、特に弟のフトウが暴れまわっていて面白くなりそうです」
「フトウには高価なサイボーグ改造を施してるからなー、もっと活躍して欲しいんだー」
殿付はそう言うと再び、タブレットに視線を戻した。タブレットのニュース情報を小さくするとブカツドーに所属する超人の情報に目を通した。
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山林の中、迷彩柄テントの前で米山はアウトドアチェアに座っていた。米山は山中に入り、一夜明けた朝からじっと木々の奥、斜面の下にある道路を見つめていた。車両自体は何台も行き来しているがその中に装甲リムジンはなかった。その時、米山の耳が特徴のある装甲リムジンのエンジン音を捉えた。
「来た」そう呟くと米山は足元にある発信器を発射する拳銃のような装置を拾い上げて、前に進み地面にうつ伏せになるとじっと発射口を道路に向けた。
エンジン音がじょじょに近づいてくる。いつの間にか後藤が米山の横で片膝立ちになっていた。米山は道路を凝視する。隣にいる後藤が音に向けて集中しているのが伝わった。
「車両の音から三人の人間が乗っている。一人は後部座席でゆったりと座っているな……反響する音で体型も見えてきた、鍛えた身体、身長、体重……間違いない殿付だ」
後藤が米山に向けて囁くように言った。米山は緊張感を滲ませて道路をさらに集中して見つめていると黒いリムジンの影が目に入ってきた。
「今だ!」
叫びと共に米山は発射装置の引き金を引いた。乾いた音がして極小の半円型発信器が飛び出して装甲リムジンの後部ドアの下に吸着した。装甲リムジンはそのまま進んで米山の視界から消えた。
「これでまずは準備完了だ」
後藤が労うように米山の肩に手を置いた。米山は息を吐くと首に巻いたタオルで額の汗を拭った。木々の間から落ちた陽光が米山を照らした。




