72 ザ・スレイング・オブ・殿付②
シーズン1最終局面 狂師VSエイトプリンス攻士・殿付
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キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
「それでは授業を終わります」
高取が言うと生徒たちは席を立ち次々と教室を後にしていった。高取も資料を整理し足早に教室を出て職員室に向かうと資料を置いて奥に座る教頭の安司タテルの前に立ち止まった。
高取は安司への怒りが表れないように感情を消す。対する安司は作り笑いを浮かべていた。
「どうしました?」
「教頭、私用がありまして有給を申請したいのですが」
高取は休暇申請用紙を安司に渡した。安司は用紙をしげしげと見つめ視線を高取に向けた。
「わかりました。所で高取先生、その後様子はどうですか?」
「おかげさまで落ちついてきました」
「それは良かった。奥様の件があってから憔悴しきっていましたからね。生徒や保護者からも最近の高取先生は少し元気になったという声もありましたし、辛いでしょうが今後共宜しくお願いしますよ。以前のあなたは非常勤講師でありながらも生徒に寄り添い保護者からも褒められていました。私もあの頃のようなあなたを見たいです」
「ありがとうございます」
高取は頭を下げて自らの席に戻った。安司とフシモリに繋がりがある可能性を知って以来、思考はどうしても安司に向かっていた。
表面上の安司は自らの体面しか考えていない官僚タイプである。以前の高取は保護者からの評価も良かったが、カヨコを失ってからは近寄りがたい存在となり持て余していた。再び高取は情報を得る為に同僚や生徒に歩み寄ることにした。その効果で保護者からの反応も落ちつき、安司は寛大になっているのだろう。この小物のような男とフシモリが繋がっているとしたら全ては演技なのか? 高取の思考は乱れていた。
「奴に何か言われたのか?」
後ろの席にいた田島が問いかけた。
「いえ、有給の申請を出しただけです。親戚の体調が悪いので見舞いに行くんですよ」
「そうか……最近高取先生への風当たりも弱くなってきていたのにまた、何か言われたのかと思ったよ」
「心配をかけました」
「安司の奴は体面だけだからな」
田島は安司に対しての不満を発散するかのように語りだした。高取は相槌を打ちながらも殿付との戦いに意識を向けていた。
「……一部生徒の親から金を貰ってるなんて話しもある」
「そんな噂あるんですか?」
「だから、安司は金を貰っては就職を斡旋してるんだ。金持ちだけじゃないし、どういう基準で選んでるんだかわからないがね」
高取は安司に目を向ける。安司は涼しげな目で書類を見ていた。
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「どうしたんだ? 思いつめた顔をして」
神駄の問いかけに高取は意識を外に向けた。高取は仕事が終わると豊田駅の鳥平民に行き、カウンターで飲んでいた。いつの間にか神駄が来ていて隣に座っていたようだ。
「いえ、別に考え事をしていただけですよ。それよりも来ていたことに気付かず、すみません」
「構わない」
神駄がジョッキを掲げたので高取もジョッキを合わせた。高取は芋焼酎のソーダ割りを軽く一口飲んだ。
「知ってるか? メロメ監督が亡くなる前に脚本をまとめていたゾンビシリーズの続編、トワイライトゾンビが正式に映画化するらしい」
「噂には聞いていましたが実現するとは。ただ、監督しだいですね、監督については決まっているんですか?」
「まだだ、たしかに監督の腕にかかっているからな。メロメといえばゾンビドーンの日本公開バージョンが再公開するみたいだな。チケットをとれそうなんだが、一緒に行くか?」
「本当ですか!? 倍率が高くととれなかったんですよ。良くとれましたね」
「コネがあってな」
「是非、行きたいです」
「わかった、ちゃんとチケットがとれたら連絡する。そういえば連絡先を知らなかったな」
「そうですね」
高取はポケットから携帯端末を取り出すと通信モードにしてカウンターに置いた。神駄も携帯端末を懐から取り出して通信を開始した。
ピコン、音がすると高取は携帯端末を手に取り、画面を確認すると「神駄ミチオ」の連絡先が追加されていた。
「ありがとうございます」
「こちらこそだ。あんたとは気が合う。これからも宜しくな」
「ええ」そう言うと高取はふと笑った。神駄と話す時はカヨコを失う前の自分に戻ったような気がしていた。高取はジョッキを一気に飲み干した。芋焼酎のソーダ割りが喉を潤した。
◆
高速道路、黒いワゴン車のヘッドライトが暗い夜道を照らしている。
黒いワゴン車の車内、米山が退屈そうに運転し、助手席では後藤が夜景を眺めている。
『……新エネルギー源開発に関する情報制限に伴って制定された特定機密統制法について年々拡大解釈されているとして野党からの批判の声があがっています』
ラジオから流れるニュースに米山は顔をしかめた。米山はカップホルダーに入れていた「バーバヤ カフェラテ砂糖大増量」と書かれた缶コーヒーを手にとるとちびりと飲んだ。口の中に甘すぎる味が広がった。
「飯はどうします? 次のパーキングエリアにしますか?」
「かまわない」
後藤が無愛想に答えた。米山と後藤は殿付よりも先に伊豆のブカツドーに到着し、殿付を待ち受けて移動手段を特定して発信器を仕込もうとしていた。
しばらく走ると「厚木パーキングエリア」の看板が見えてきた。
米山は車を寄せるとパーキングエリアへと入っていった。パーキングエリアは平屋の横に長い建屋があり、大きく「厚木」と書かれたネオン看板が掲示されていた。深夜のパーキングエリアには大量のデコレーショントラックが停車しており、高尾山やカワセミ、多摩川をあしらった絵柄が無数の電球によって煌々と輝いていた。米山は「金太」とでかでかと書かれたトラックの横に車を停めた。
米山と後藤は車外に出ると建屋に向かった。建屋の中にある休憩スペースに入ると中では顔色の悪いトラックの運転手が机に突っ伏していたり、タバコを吸っていた。
米山は休憩スペースの奥にずらりと並べられた自動販売機へと歩みを向け、交互に赤と緑のランプが点滅する「手抜き そば・うどん」と書かれた自動販売機の前で立ち止まった。
「そばとうどん、どっちにします?」
「うどんにしてくれ」
後藤が答えると米山は携帯端末をセンサーに近づけ、「うどん」ボタンを押した。電子決済が完了し、すぐに取り出し口からコトンと音して空のお椀が落ちてきた。さらにうどん、油揚げ、ネギの順に具材が湿った音をたててお椀に落ちた。最後に黒い汁が注がれると『うどんができました。取り出してください』という電子音がした。
米山はうどんを取り出し、後藤に渡すと自分のうどんを注文した。米山は完成したうどんを取ると自動販売機の横にある箸入れから箸を取り出し、後藤の座る卓に腰を下ろした。
「いただきます」
米山はズルズルと音を立てて、うどんをすすった。腰のないふやけたうどんと塩辛い醤油ベースの汁が喉を通り過ぎる。米山はこの自動販売機で作られる関東風うどんのチープな味に安心感と満足感を感じていた。
「やっぱり自販機のうどんは最高ですね」
後藤がそばを食べながら苦い顔で米山を見る。
「……うどんは関西の出汁でないとうまくないな」
「後藤さん、あれとこれは別ジャンルの食べ物と思ってくださいよ。そういえば安司についての情報を聞きましたか?」
「高尾木の教頭か」
「はい、五次安に情報を調べてもらってるんですが今の所、普通の経歴で怪しい所はなさそうです。裕福な両親の元に生まれたボンボンという以外には際立った特徴はありませんでした。単純に金の為に超人と思われる生徒をフシモリに斡旋しているだけかと」
「そうか、若い芽の内に取り込もうとしているんだな。安司か……高取には目を光らせてもらっているが。どこでフシモリに関する重要な動きがわかるかもしれないからな」
「そうですね」と言うと米山はズルズルとさらにうどんをすすった。
「殿付ですがどのルートで伊豆まで来ますかね。車なら助かりますが空路だと襲撃の難易度が高くなりますね」
「万が一空路ならヘリか小型VTOL機といった所だろうが私なら落とせる。だが、伊豆は伊藤インダストリーが制空権を握っている、恐らくは無難な陸路だろう。どちらにしても私が初撃を加える」
「後藤さん、あんまり無理しないでくださいね」
「基本はお前たちにまかせるが側面支援ならできる」
「俺たちには後藤さんが必要なんです」
「心配するな、まだくたばらんよ」
後藤が微笑むのを見て米山は目をそらした。




