69 独君・ジェイル②
独君拘置所での聴取。68~70まで続きます。
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神駄はノリコと共に島に上陸すると職員により、用意されていたワゴン車に乗せられた。
車は港にある重装甲警備員に守られた門を通り抜け、監視塔のある草原を拘置所に向けてまっすぐ進んでいく。正面に見える独君拘置所は巨大な塀で覆われていて、塀の上にも監視塔があり、重装甲警備員が巡回しているのが見えた。
車が拘置所の正面門に到着すると職員がスロットにパスキーを挿入した。暫くすると巨大な門が音を立てて左右に開き、車は拘置所の中を進んでいくと奥にある専用駐車場で止まった。
職員に促されて神駄は車から降りるとサングラスを外して独君拘置所を見上げた。独君拘置所は威圧感を与えるような灰色の高い塔が中央にあり、塔からは放射状に五つの横に長い舎房が伸びていた。
「いつ見てもゾッとするね」
「クズが刑を確定するまで留めておく場所以上でも以下でもない」
神駄とノリコは職員の後に続いて建物の中に入った。床も壁も白で統一されているエントランスで受付の手続きを済ませるとエスカレーターに乗って、面会室のある三階に向かった。
エスカレーターの扉が開くと神駄とノリコは廊下を奥へと歩いていき、「第三十五面会室」と書かれた鋼鉄の扉の前で立ち止まった。神駄は扉の横にいる制服姿の刑務官に敬礼した。
「公安五課、警部補の神駄だ」
「公安五課、巡査部長の川相です」
「お待ちしておりました。話は聞いております、辛斗は中にいます」
刑務官は扉の横にある端末にカードキーを通すと自動で扉が開いた。神駄は面会室へと足を踏み入れた。面会室は正面に特殊強化ガラス製の仕切り板があり、二人は仕切り板の手前にある椅子に腰を下ろした。
仕切り板の向こうに灰色の囚人服姿の辛斗マキオが全身を金具で幾重にも固定された状態で座っていた。辛斗の背後では黒い重武装の警備員二人がアサルトライフルの銃口を辛斗に向けている。
辛斗の頭は剃られており、側頭部は青々と剃られた跡があるのに対して頭頂部は肌色で光が反射していた。辛斗が生気の無い目で神駄を見つめた。
「公安五課の神駄だ」
「同じく川相です」
「悪いが外してくれ」
神駄が目線で重武装警備員に促すと二人は部屋から退出した。
『あっざいます、何の用です』
仕切り板に取り付けられたスピーカーから辛斗の声が聞こえた。神駄は逮捕と聴取の際、ホワイトとして仮面を着けた状態で辛斗と会っているのだが、辛斗は目の前の神駄がホワイトとは認識していない。
ノリコがノートPCを広げて視線を辛斗に向けた。
「捜査に協力してくれませんか?」
『僕は罪を認めてます。これ以上何をしろというんです』
「私たちが知りたいのはあなたが逮捕された時に青龍会に語っていたオープンキャンパスについてです」
『……オープンキャンパス? 何です? 僕そんなこと言ってたかな』
「記録と音声ではしっかり残っています。あなたは自らの犯罪を隠滅する為に情報屋に仲介を依頼して、超人の庇護組織オープンキャンパスと契約をしたとはっきり言ってます」
『それはあれじゃないかな、逮捕時に激しく暴行を受けたから意識が朦朧として、青龍会の誘導に乗って発言したんだと思いますよ。彼らのやり方は酷かったですからね』
神駄はノリコと辛斗のやり取りを黙って見ていた。
「青龍会、特殊戦術室ですか……それは問題のある行動ですね」
『そうだよ、彼らを処罰して欲しいな』
「それではオープンキャンパスについては何も知らないという事ですね?」
『もちろん、知らないよ。僕は超人として許されない罪を犯したがそんな組織とは無関係だ』
「そうですか、わかりました」
「辛斗いい加減なこと言うなよ」神駄は吐き捨てるように言った。
「ちょっと神駄君!?」
『何だ君は? 何がいい加減だ! だいたい青龍会が勝手にいちゃもんをつけたことでしょ!』
「そうか、なら仕方ないな」神駄は懐に手を入れた。
『なっ、何をしようと言うんですか』
「貴様にはオープンキャンパスのことについて必ず吐いてもらおうと思ってな」
神駄はショルダーホルスターからCPブラスターを引き抜いて、辛斗に銃口を向けた。
「貴様も青龍会との戦いで見たことがあるだろ? CPブラスター、対超人向けに作られたハンドガンだ。この距離で撃てば特殊ガラスを簡単に貫通し、貴様の顔面を吹き飛ばすことができる。わかっているとは思うが手枷と足枷、固定具は超人の力を抑制する特殊器具だ、抵抗もできない」
『知らないものは知らないんだから、無駄。僕は青龍会に言わされただけです』
「神駄君、銃なんかしまってくだ……」
ノリコが言い終わる前に神駄はCPブラスターを監視カメラに向けて引き金を引いた。轟音と共に監視カメラが粉々に砕け散る。
『えっ!?』
「神駄君!」
轟音を聞いたのか背後のドアから中年の刑務官が青い顔で部屋に入ってきた。
「何をやってるんですか!?」
「ここの責任は公安五課がとる、あんたたちは出て行ってくれ、それとも俺とやってでも止めるか?」
神駄は銃口を刑務官へと向ける。その途端に刑務官は短く悲鳴を上げて頭を庇うように腕を掲げた。
「そんな……わかりました」
『待て、こんな奴らと一緒にいろっていうの?』
刑務官は青い顔を背けて、外に出るとそっとドアを閉めた。
「さて、話してもらおうか? オープンキャンパスとはどうやって接触した?」そう言って神駄は銃口を辛斗の顔に向けた。
『知らないものは知らないよ!』
「オープンキャンパスに通じてる刑事か検察に何を言われた知らないがそんなもんはどうとでもなる。大方黙っていたら、裏から出すとでも言われたんだろ? その前に貴様には独房で無残に死んでもらう。独房に刺客を送り込むなんて容易いことだ」
「神駄君、なんてことを」
『はったりだ』
「辛斗さん、同僚が申し訳ございません。でも、神駄君は本当にやりかねない人で……」
『川相さんですか! この危険な男、何とかしてくださいよ。知らないものは知らないんだ』
「それが答えか」
神駄は強化ガラス越しにある辛斗の顔に銃口を向けたままゆっくりと引き金に指をかけた。
『な!? 何を! 本当に撃つ気か?』
辛斗の額からは大粒の汗が噴き出していた。
「死ぬんだな」
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
「やめて!」
引き金を引くのと同時に横からノリコが突進してきて、神駄の腕を掴んで奥に押し出した。
ガォン、銃声がして強化ガラスが木端微塵になり、破片が宙を舞う。
仕切りのガラスが無くなったことで内蔵スピーカーも壊れ、辛斗の息遣いが直接聞こえた。
神駄は視線を汗だくになっている辛斗の背後に移すと壁に弾痕が穿たれ、煙を上げている。横からノリコが組み付いたことで辛斗の頭を貫くはずの弾道が逸れたのだ。
「邪魔するな」神駄は怒りに声を荒らげてノリコの手を振りほどき、睨みつけた。
「何やってるの! 神駄君! 辛斗さんに当たる所でしたよ」
負けじとノリコも睨みつけて、神駄とノリコの視線がぶつかった。
「わかりました! わかりました!」静寂を破るような辛斗の叫びが聞こえ、神駄は目線を辛斗に向けた。辛斗の声からは恐怖と焦りが感じ取れた。
「何がだ、次は仕留めるから黙ってろ」
「待ってください! オープンキャンパスについて話せば良いんでしょ! 話しますって!」
神駄は再び銃口を辛斗に向けて、話を続けるように促した。神駄は初めから辛斗を撃つつもりはなく、ノリコと仕組んだ辛斗を脅す為の狂言であった。
「情報屋の外海がオープンキャンパスについて僕に話してくれたんです」
「情報屋の外海」
「そうです、外海は警察の情報に詳しい男で何かと重宝してたんです。僕もオープンキャンパスの存在は噂で知っていたんで、彼が繋がりをつけてくれた時は本当に嬉しかった」
「で、オープンキャンパスとはどのように接触した?」
「外海に頼んでからすぐにオープンキャンパスの内亜ミスヘロと名乗る男が非通知で電話を掛けてきて、契約内容について会って話したいと言ってきたんです。それで僕の店で話し合いました」
「内亜か……契約とはなんだ?」
「犯罪の隠蔽に協力し、資金提供もする。代わりにオープンキャンパスの求めに応じて力を貸して欲しいと言ってました。承諾したら手付金といって百万をすぐに振り込んできましたよ」
「求めに応じるとはどういうことだ」
「超常犯罪を利用してテロや犯罪の請け負いサービスをしてるようです。超人の力は儲かりますからねぇ。どうやら彼らのバックには大きな力を持つ存在がいるみたいだし、魅力的な提案でしたよ。ただ、僕はこの様ですが……」
辛斗が自嘲的に笑いながら神駄を見つめた。
「奴らの背後にいるのはフシモリか?」
「さぁー、違うでしょう。攻撃対象としては個人から国家、それこそフシモリや伊藤インダストリーといった巨大企業が含まれてましたしね。覚悟だけはしてほしいと言ってました。内亜の話では現在の支配体制に満足していない国家や企業、組織が顧客だそうです」
「貴様は金だけでそれを信じたのか?」
「まさか、もっと具体的に教えてもらいましたよ」
「言うんだ」
「今は言えません。いいですか、僕はオープンキャンパスの繋がりを話してしまった。命の危険に晒されています」
神駄は身体を乗り出して、銃口を辛斗の額に押しつけた。こちら側が辛斗の話に興味を引かれていることを察知して小出しにしながら交渉するつもりのようだ。
「言わないと頭を吹き飛ばすぞ」
「勢いで話してしまいましたが、今後のことを考えるとその方が良いかもしれません」辛斗が陰鬱に呟くのに対して、神駄は銃を持つ手に力を込めた。
「神駄君、ここは一回出直そう」
神駄はノリコを睨みつけた。辛斗も話した事を後悔していることは間違いないだろう。ここで話を全て吐かせるよりも、オープンキャンパスが辛斗にどういう動きを見せるか見極める方が奴らに近づけるかも知れない。そう判断して銃を下ろした。
「必ず吐かせる。だが、最後にこれだけは教えろ、誰がオープンキャンパスについて黙るように言ったんだ?」
「あなた方の同僚だよ。たしか、裸紀伊とかいう刑事でした。オープンキャンパスとの契約は有効だから、関係を黙っていれば手続きを曖昧にして自由にすると言ってきたんです」
裸紀伊コシ、新宿署の刑事であり、神駄は青龍会として辛斗を引き渡した際に会っていた。脳裏に裸紀伊の面長で細い目をした顔が浮かぶ。神駄は改めてオープンキャンパスの根は警察の中にも浸透しているということを痛感した。
「そうか……今日はここまでにしてやる」
「これで僕はオープンキャンパスに対する重要な証人です。何とか守ってくださいよ」
「黙れ、一つ教えてやる、俺は貴様のような動物以下のクズを殺せなくて残念に思ってる、せいぜい気をつけるんだな」
「神駄君!」
「それは残念ですね、ところで……」
「わかっている、とりあえず貴様は俺たちの脅しに屈せず何も口を割らなかった」
「そうです、ところで神駄さん、あなたとはどこかでお会いしましたかね?」
神駄は質問に答えずに銃をショルダーホルスターにしまうと、ノリコを促して面会室を後にした。




