65 フシモリ・メガコーポレーション①
エイトプリンス登場。65~67まで続きます。
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高取は身体全身に痛みを感じながら目を覚ました。見覚えの無い天井が見える。ベッドで寝ているようだ。室内はアロマなのか良い香りに包まれている。横にあるカーテンの隙間から暖かな光が差していた。
「目が覚めたのね、良かった。心配したわ」
女性の声。朧気な意識の中で妻のカヨコの声に聞こえた。
「カヨコ……」
高取はカヨコの方に頭を向けた。そこにカヨコはおらず金髪の女が椅子に座っていた。女性は疲れた顔で心配そうに見ていた。声の主である女性はカヨコではなくコールマンであった。
高取の記憶がじょじょに蘇ってきた。高取と米山は青龍会を制して南町を確保した。逃走に利用した車を乗り換え、後藤、米山と共にBARヤギへと向かった。BARヤギには崖先を始末したコールマンがいた。後藤は南町から情報を引き出すと言って、その場は解散した。高取は着替えを済ませて、同じ方向で帰るコールマンと帰路に向かった。だが、戦いの興奮状態が落ち着いてくると身体にダメージが重くのしかかり、全身に痛みを感じて途中で倒れたのだ。
「そうでした……私は戻る途中に倒れたんですね」
「そう、それから倒れたあなたを担いで私の家まで連れてきたわ」
「すみません。お手数をかけましたね」
「いいのよ、気にしないで」
高取は身体を少し起こして毛布を跳ね除けた。自身のTシャツとズボンを身に着けている。身体を動かした時、胸と腕に包帯が巻かれていることに気が付いた。さらに全身の傷が消毒されていた。
「これは……あなたが?」
「ええ、外傷は応急手当をしておいた。内側の損傷の方は超人の治癒能力でなんとかするしかないけど」
「……ありがとうございます。なぜここまで?」
「当たり前でしょ、目の前で仲間が倒れてほっとくのは目覚めが悪いわ」
「今日はここでゆっくりして良いわ。私も仕事を休む。あなたもそうしなさい」
「……お言葉に甘えさせてもらいます」
「食欲は? 朝食を作るけど食べる?」
「お願いします」
高取が頭を下げるとコールマンは奥に向かった。再びベッドに横たわるとホワイトとの戦いを思い出し、右腕を仰ぎ見た。気の力を込める。ジャキィン! 右腕の中央が光り二対の刃がゆっくりと伸びてきた。しかし、刃はいつもの半分程の長さで伸びを止め、光の粒子となり消えていった。
「ダメです……」
「まだ、無理はしないで。刃は体力が回復すれば元に戻るわ」
音で気付いたのかコールマンが奥から答えた。続いてフライパンで何かを焼く音が聞こえた。高取はコールマンが朝食を作る音に耳を傾けた。カヨコを失って以来、誰かに朝食を作ってもらうことには無縁であった。高取はコールマンの単純な好意が嬉しかった。
高取は高尾木高校に体調不良で休むことを伝え、目を瞑り横になった。十数分程経った時、コーヒーの良い香りがした。
「できたわ」
コールマンの声が聞こえた。高取はベッドから身体を起こした。全身の痛みはあるが動けない程ではなかった。なんとか立ち上がるとコールマンの待つダイニングテーブルへと向かった。テーブルの上には二人分の朝食が用意されていた。大皿には厚切りベーコン、スクランブルエッグ、レタス、トーストがのっている。隣にあるマグカップのコーヒーからは湯気がたっていた。
高取は椅子に腰かけると正面に座るコールマンに頭をさげた。
「いただきます」
高取とコールマンは同時に挨拶した。高取はコーヒーを一口飲むとベーコンをナイフとフォークで切り分け、口に運んだ。ベーコンは良く焼けており、ジューシーな肉の旨味が口の中に広がった。
「美味しいですね、さすがです」
「ありがとう。ベーコンの選び方と焼き方は小さい頃に両親が教えてくれた通りのやり方なの」
「そうでしたね、出身はアメリカでしたね」
「ほとんど日本で育ったようなものよ」
高取は会話もそこそこにトーストをかじるとスクランブルエッグ、レタスを次々と食べていく。ホワイトとの戦いで消耗していた体力が少しだけ回復していくのを感じていた。
「後藤さんは南町から情報を引き出せたんでしょうか?」
「まだ、連絡はないわ。でも間違いなく引き出すはずよ。後藤さんはかつて裏の仕事をしていてそこで拷問・尋問術を仕込まれたと言ってたわ」
「あの人は一体何者なんです?」
「私が会った時は超人として諜報機関で裏の仕事をしていた。でも、その前の話については断片的にしか聞いてない。ただ、そこでも超人として戦いの日々だったみたいだけど……」
高取はコールマンの話を聞きながらコーヒーを飲んだ。
後藤は高取を狂師に参加させ、鍛えてくれたことで復讐の近道を作ってもらっている。感謝しかなかった。超常犯罪の被害者の仇討ち、フシモリといった元凶との戦いも辞さない姿勢には尊敬を覚える。だが、後藤がなぜここまで戦うのかについては義憤以上の何かがあると感じていた。
「コーヒーのお代わりいる?」
「ありがとうございます」
コールマンが高取のマグカップにコーヒーを注いだ。暖かい湯気を見ながら気持ちを切り替えた。今は後藤よりも南町から得られるであろうエイトプリンスの情報が重要であった。
◆
「なるほど、まかせて下さい」
「さすがだ。噂はこうだ。南町の件は伊藤インダストリー、ジャカタネットでも良い、敵対企業からのテロで頼む。青龍会は独自に動くだろうから、他が信じてくれれば良い」
立川駅南口にあるスナック「愛」のカウンターで米山は五次安スミセツと酒を酌み交わしていた。米山はウイスキーの水割りに口をつけた。ウイスキーが喉を潤す。グラスを置くと氷の音が鳴った。
「しかし、後藤さんもやるね。フシモリを潰す為に他の企業をぶつける作戦にでるとは。まぁ、伊藤インダストリーもジャカタネットもフシモリと変わらないからね」
「そう、奴らは同じだ」
他の客の相手をしていた店のママである新伝台アヤコがこちらに歩いてきた。新伝台は五次安のウイスキーの水割りを差し出した。
「はい、おかわり」
「アヤコちゃん、気が利くね」
「五次安さんったら」
米山はグラスを飲み干した。
「俺のも作ってくれないか」
「ごめんなさい、すぐに作りますからね」
米山のグラスを新伝台が手にとって氷を入れ、水割りを作り始めた。
「まったく、アヤコちゃんは可愛いな」
「あ~ら~」
「ところで……」
米山は五次安に話しかけようとした時、携帯端末に後藤からメッセージが届いた。南町から情報が取れたという内容だ。戦闘から一日で情報を引き出すとはさすがだという思いと後藤の拷問術の恐ろしさを知った。
「どうしたんです?」
「……フシモリと戦えるぞ」
米山は五次安に微笑みかけた。
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「……経緯は以上だ。ご覧の通りショータンこと南町カンヨウ、崖先リョウタは始末した」
高級マンションの一室。米山はソフト帽を被りサングラス、白いマスクをした上で矢迷値として黒畑ハルナに狂師として依頼完遂を報告していた。ダイニングテーブルの向こうでハルナが涙ぐんで頷いた。
テーブルには南町と崖先の死亡記事を表示した携帯端末が置いてあった。
「ありがとうございます」
ハルナが頭を下げた。その時、ピコン、米山の携帯端末から通知音が鳴った。携帯端末の画面に目をやった米山の顔が引き攣った。
「矢迷値さん? どうしました?」
「いや……」
「!?」
ハルナも米山の携帯端末の画面を見て目を見開いた。携帯端末にはミーチューブからショータンの動画更新通知が届いていた。
「どういうことです? ショータン、南町はあなたたちが倒したんですよね?」
「ええ、間違いなく始末した。ショータンは南町カンヨウで間違いなく、今聞いた音声からも南町はそれを認めている」
「じゃあ、どうして」
米山はそれに答えずショータンの最新動画をハルナの目の前で再生した。タレントの児童売春を暴露するものだった。口調も何もかもが南町にそっくりに作ってある。
「……恐らくだが、ショータンはさっき言ったようにフシモリにとって都合の良い存在だ。だから南町が死んでも代役を立ててショータンという仕組み自体は残したんだろう」
「そんな……じゃあ、またオツ君みたいな人がでるってこと?」
「そうなる……今のショータンを始末しても次のショータンが現れるだろう」
「そんな……」
「だから、やるべきことは一つだ。元凶のフシモリを潰すしかない」
米山は決然と言い放った。
◆
「南町カンヨウの死体が多摩川で発見されました。死体には拷問の後があり、直接の死因は脳に外部から何らかの力が加わって血管が破裂したことです。それと南町と繋がりのあった崖先リョウタも殺されました。死因は心臓を何かで刺し貫かれたことによります。崖先は自身のPCを盗まれています」
ハチオウジ市警本庁舎、地下三階にある青龍会の部署内。
神駄は室長である内藤の報告に耳を傾けていた。話を聞きながら神駄は額の痣を擦る。五日前、黒仮面の一味、刃の男との戦いにより神駄の身体は傷だらけとなり、全身が痛んでいた。
「南町カンヨウはショータンとして、フシモリのシナリオにそって政治家や財界人のスキャンダルを揉み消す為の冤罪を作りあげてました。我々は何とか南町の罪を立件すべく活動してましたが彼らに先を越される形となりました。しかも、彼らが始末したショータン自体は南町の死後も恐らくはフシモリによって継続的に運用されています」
内藤が淡々と述べると茂期が不愉快そうに舌打ちをした。ノリコはPC越しに不安そうに内藤を見つめる。奥倉は眉間に皺を寄せて黙っている。神駄の横にいるミフミは悔しそうに俯いた。
「せっかく会員の連絡を受けて私と神駄が駆けつけたんですが……やられました」
「室長、林符と神駄が取り逃がしたのは痛いがねぇ、南町がやったことの落とし前はどうするのかねぇ」
「……南町はフシモリに関わりすぎています。黒仮面については独自の対処でと思ってましたが副本部長からはこうなっては他部署にも知らせる必要があるということで一応は他部署にも共有されます。ただ、検死結果も事故死扱いで処理されると聞いてますので恐らくはまた、闇に葬られるだけでしょう。ですが、フシモリは独自に動くものとおもわれます」
「フン、南町が死ぬのはどうでも良いがねぇ、また黒仮面の奴らか」
茂期が顔をしかめた。神駄は皆を見渡した。
「……戦ってわかった。奴らは南町をフシモリの手先だと知って動いていた。情報収集能力が高い上に裁かれない超人を裁くことと目的は俺たちと同じだ。だが今後、俺たちが権力で守られた超人を公的に潰すのに邪魔になる存在だ。俺たちが対応すれば犯罪の証拠は残り続ける。いずれは黒幕のフシモリや政治家たちをも公的に裁くことができる。それが青龍会の狙いだろ? だが、黒仮面はただの殺し屋。闇で片付けられるだけだ。それに超人はいつ暴走するかわからない……奴らは即刻潰すべきだ!」
神駄は吐き捨てるように言った。内藤は頷きながらも鋭い視線を向けた。
「神駄の言う通りです。目の前で起きる超常犯罪の解決も重要な使命ですが、我々にはもう一つ、手を汚さずに超常犯罪を操る権力者たちを追い詰めるという使命があります。その為には彼らは障害になります……それ以上の私情は無用ですよ、神駄」
神駄は舌打ちをして内藤を睨みつけた。斜め前の茂期から嘲りの笑いが聞こえた。
「神駄ぁ、お前はあれだろぉ、黒仮面だろうが超常犯の超人だろうが関係ない。超人を始末したいだけだろぉ。その為に自分の命を危険にさらすのは良いが巻き添えになるのはごめんだよ」
「貴様……」
「また……あなたたちは。やめてください」
「林符さんの言う通りです。茂期君も神駄も落ちつきなさい。どちらにしても黒仮面の正体については突き止めます。彼らも超常犯として粛々と処理すべきです」
神駄は茂期を睨んだまま、黙った。茂期の超人を始末したいだけという指摘に反論はできなかった。神駄はアキコを蝕んだ超人の存在が許せなかった。
この後、内藤によってさらに状況の説明と共有がなされた。ミーティングが終わると神駄は内藤に会議室へと呼び出された。会議室に入り机を挟んで内藤と向かいあった。
「呼び出してすみませんね」
「何かあったか? 室長」
「Gチャンとアキコが死んでから八年程経ちますね……あなたを見ていると心配になる。青龍会の一員としては非常に優秀な成果を出しています。ですが、茂期君も言っていましたが超人を倒すことに固執し、命を顧みない行動をとってます。もう少し、自らの事も考えて」
「……」
「これは室長としてだけでなく、あなたを引き取った私の個人的な感情でもあります。あなたを死なせたくないんです、わかった?」
「わかってるさ……」
「超常犯罪はこれからますます増えていく。我々のような対超常犯罪の部署がさらに必要になる。これからは戦うことだけでなく、次世代の育成も必要な任務となります。今、Gチャンの意志を継いで人鬼流を人助けで使えるのはあなたくらいです。後は私利私欲に走り、私は自身のタイクーをGチャンにアレンジしてもらっただけで人鬼流ではありません。Gチャンの為にもそのことを見据えた行動をお願いします」
「大丈夫だ。心配するな」
「頼みますよ」
「それより黒仮面はどうするつもりなんだ?」
「他部署にも情報は共有されますが黒仮面について表向きに行動することはないでしょう。フシモリが警察から情報を探って自らの手で狩りを始めるかと思います。エイトプリンスという実行部隊が動くのではないかと思います」
「ちっ、先に確保したいな。奴らの正体を掴んでやる」
「どうもフシモリでは黒仮面を敵対する組織の企業テロの線で考えているふしがあります。実際に企業テロという噂は流れています」
「それならこちらは有利だな。奴らの目的はそれだけじゃない復讐の代行者だ。遺族からの証言はまったくとれないがな」
「遺族に強烈な手を取らない限り恐らく口を割らないでしょう。それは……したくありません。企業テロとフシモリも警察内部にも思わせておきましょう。我々と黒仮面のターゲットは同じ超常犯罪者です。必ず交わる時がきます。その時が勝負」
「そうだな」
神駄は刃の男を思い浮かべた。黒仮面も他の超常犯と同じく必ず暴走する、その前に絶対に決着をつけると自らに誓った。




