63 アーチ・エネミー⑤
エイトプリンスに迫る狂師。59~64まで続きます。
◆
高取は刃を南町に向けると一気に駆けた。
高取と米山は南町の行動を監視しタイミングを図っていた。南町の身柄を確保しなければならず、高取が奇襲してそのまま確保を目論むも意外にも身のこなしは素早く難儀した。こうなると南町を倒し、二人で拘束するしかないと判断、米山が別ですでに動きだしている。また、バックアップとして後藤も現場に向かっていた。
「ハァァァァァァァァァァァァ」
高取は素早く接近し刃を振り下ろすが南町はバックステップで避ける。
すかさず南町が顔面目掛けて左手で掌底を繰り出し、ピンクの光が眼前に迫る。
「エクスポージャー」
公園で男から情報を引き出していたあの技だ。高取は瞬時に頭を下げると共に一歩踏み出して南町の腹を目掛けて刃を突き出した。
「くらいな!」
「うげぇ!?」
刃が南町の右脇腹に突き刺さった。だが、刺さる瞬間に南町が身を引いた為、浅かった。南町がバックステップ、刃が抜けて右脇腹からの出血が宙を舞う。
「何すんねん! こらぁぁぁ!! お仕置きや!」
南町が叫びながら両手の人差し指と親指をたてると四角を形作るように高取に向けた。
「エスコート!」
「!?」
四角を形作った指からピンクの光が高取に直撃した。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「後悔させたるわ!」
高取は光に吹き飛ばされて背後の木に激突、痛みと同時に強い眠気が押し寄せてきた。
「お前に睡魔を与えたんや! これからお前の正体を暴露させたんねん」
「さ……せるものですか」
「それができるねん。しゃべることしゃべって、もー、潔く死になはれ」
南町が左手を構えたその時、南町の背後、大きな黒い影が現れた。
「エクスポージャー!」
高取に伸びる南町の左手が仮面の直前で止まった。
「なんや!?」
「狂師だよ、バーカ」
黒い仮面を被った米山が南町の背後から現れ、彼の左手首を掴んでいた。米山は怪力で南町の右肩と左手首を押さえつけている。
「試してみるか」
「なにを……」
米山がそう言うと南町のピンク色に光る左手を無理矢理に南町の口元に押し付けた。
「うがぁぁぁ」
「自分のことをベラベラと話すのか!」
南町が強制的に自らの手で口を塞がれ苦しそうに呻いた。
「自分のことは話せないみたいだな」
高取は眠気を振り払う為に自らの頭を殴った。
「ぐっ!」
一瞬、頭が真っ白になったが、視界がじょじょに戻り、意識がはっきりとした。
「なら、フゥン!!」
米山が南町を一瞬手放すと今度は南町の両肩を掴み、力を込めた。ゴキィン! という音と共に骨が砕けるような音がした。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
南町が叫び声を上げて倒れ伏せた。
ブゥォォォォォォォォォォォン! 突如、バイクの走行音が近づいてきた。
ガォン! ガォン! ガォン!
「なんです!?」
銃声が響き、高取は咄嗟にバックステップを踏む。足下に三つの穴が穿たれた。高取は刃を構えて車道に目をやると車道に二つの影が躍り込むのが見えた。
「会員の情報で来てみたら……まさか黒仮面と会うとは思いませんでした」
「また、俺たちの獲物を狙ってたようだな」
ブロロロロ、バイクのエンジン音が響き、米山の背後にバイクに乗った二人組が現れた。二人が乗っているのはどちらも鷹のようなヘッドをしたスポーツタイプのバイクである。
白いバイクに乗っている男がハンドガンの銃口をこちらに向けていた。男は白いホームベース状の仮面を被り、刀を背負っている。
「あなたは……!?」
男は青龍会のホワイトだ。もう一人、黄色いバイクに乗っているのは黄色い仮面の女、イエロー。早井の事件で戦った青龍会の一員だ。
高取の頭にホワイトに早井のとどめを邪魔された苦い記憶が甦った。
「黒仮面……しかも刃の男か」
「もう一人はこの前いたペンの女とは別の黒仮面ですね。ホワイト、まだ証拠が不十分だけどこうなったら南町を確保しましょう」
「了解」
「させると思いますか?」
高取は刃をホワイトに向ける。隣で米山が倒れている南町を掴んで肩に担ぎ上げた。
「南町は俺が連れていく。青龍会はまかせるぞ」
「そうしてください。今度は彼らの思惑どおりにはさせません」
ホワイトがバイクを降りてハンドガンを米山に向けた。後藤によるとあのハンドガンは「CPブラスター」と呼ばれる対超人用の銃だという。
イエローもバイクを降り、腰のサーブル剣を抜き放った。
「そいつは置いていけ」
「それはできない。フシモリの手先であるあなたの言うことは聞けない」
「フシモリの手先だと? ふざけるな!」
ホワイトがCPブラスターの引き金を引いた。ガォン、ガォン、ガォン、ガォン、重い銃声が連続して響き渡った。米山はそれを素早く回避し、ホワイトを警戒しつつも雑木林に向かって走った。高取は米山と入れ違うように車道へと駆け寄る。
ホワイトとイエローが米山に殺到、高取は米山を庇うようにしてイエローに斬りかかった。
「ハァァァァァァァァァァァァ」
ガキィン! イエローがサーブル剣で刃を受け止めた。そこにホワイトがCPブラスターを撃ってきた。瞬時に高取はサーブル剣から刃を放して銃撃を弾く。ホワイトがさらに撃ち続けた。
ガォン、ガォン、ガォン
ガキィン、ガキィン、ガキィン
高取は正確に刃を振るって殺到する銃弾を次々に捌いていく。その隙をついてイエローが高取の胴にサーブル剣を横なぎに叩きつけた。衝撃と重い痛みが駆け巡り、高取は呻いた。その横をイエローがすり抜けていった。
「ぐうっ!? 待ちなさい」
「ホワイト! そいつは任せました」
「了解」
イエローが米山を追って雑木林の奥へと駆けていく、高取もそれを追おうとするが、ガォン、ガォン、ホワイトの銃弾が襲いかかった。高取は舌打ちして刃で銃弾を弾いた。
「お前の相手は俺だ!」
「やってくれますね!」
「くたばれ」
ホワイトが再び銃弾を浴びせてきた。高取は刃で弾きながらホワイトに駆け寄り、距離を縮める。右腕の刃を振りかぶるとホワイトがCPブラスターを素早く腰のホルスターに戻し、右上段から鋭い蹴りを放った。
高取はとっさに左腕を翳して蹴りを受け止めた。左腕がビリビリと痺れる。
さらにホワイトが背中の刀を引き抜き、躊躇なく振り下ろす。
高取は刃を突き上げて刀を受け止めた。
ギャリリリ、刃と刀が音を立てて擦れる。高取は刃越しにホワイトの顔を睨んだ。ホワイトも仮面で視線はわからないが同様にこちらを睨みつけているのだろう、殺気を感じる。
「ミスターホワイト、また邪魔をするんですか? あの男が何をしたかわかっているんですか?」
「ああ、奴は超人の力で冤罪を作りだし権力者の罪を揉み消した。だから、俺たちは公に罰を下す為に証拠を固めていた! 貴様こそ独善で邪魔するな!」
「それじゃあ、遅いんですよ! 南町はフシモリの指令で動いてます。大きな力に守られた南町を止めるのはあなたたちじゃ無理なんですよ! あの時、あなたたちが確保した早井も証拠隠滅で消されたじゃないですか」
「それでも……公に罰を下す為には俺たち人間の力で戦うしかない! 正義顔していてもお前ら超人はいずれ力に溺れるか……制御できず破滅していく、俺はそんな光景を何度も見てきた。そんな奴らを野放しにできない!」
「もう良いです。私たちの邪魔をするのならフシモリと同じく敵です。あなたを倒します!」
「そうだ、貴様ら超人は敵だ! 南町も貴様も俺が倒す!」
ギィン! 刃と刀の均衡が破られて互いに弾かれた。再び高取は刃で斬りかかり、ホワイトも刀を叩きつけると暗闇に火花が散った。高取とホワイトの間を光の線が無数に飛び交っていく。
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァ」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ガキィン、ガキィン、ガキィン、ガキィン、ガキィン
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァ」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ガキィン、ガキィン、ガキィン、ガキィン、ガキィン
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァ」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ガキィン、ガキィン、ガキィン、ガキィン、ガキィン
ホワイトの刀が旋回して薙ぎ付ける。刃が流した。そのまま高取は刃を振り下ろすが、火花と共に刀に受け止められた。
高取は優位な位置をとる為にステップを踏んだ。ホワイトも優位になる為に踏み込んでいく。
火花、衝撃、金属音。一合、二合、三合、ぶつかり合うたびに、殺意が高まっていく。斬っても砕けず、受けても止まらない。
高取とホワイトは互いに得物を打ち合いながら路肩から車道の中央分離帯まで移動していった。
街灯に照らされたホワイトの仮面がオレンジ色に不気味に光っている。
ホワイトが刀を振り上げた、高取は右拳を握り締めて、彼の胸目掛けて刃を突き入れた。
「させるかぁぁぁぁぁぁ」
ホワイトがとっさに柄頭を刃に打ち下ろして突きを逸らす、高取はすかさず左から刃を突き出した。
「くらいなさい!」
ホワイトは右手を柄から外して拳を繰り出した。ドォン! 高取が刃と共に突き出した拳にホワイトの拳が激突した。
ギギギ、ホワイトの拳が高取の拳をじょじょに押し返していく。
高取は右足を後ろに振り上げると振り子の要領で身体ごと後方転回、サマーソルトキックを決めた。高取の爪先がホワイトの顎を捉える。
「ぐわぁぁぁ」
「まだです!」
高取は着地するとさらに回転、サマーソルトキックを放ち、ホワイトの顎を再び捉えた。
「ぐわぁぁぁ!」
ホワイトが後ろへと傾くが足を地面に叩き付けて倒れないように回避、体勢を立て直した。
「なめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ホワイトが踏み込んで距離を詰めた。刀を旋回させると強烈な横なぎの一撃を叩き込んできた。
とっさに高取は左腕を掲げ、刃でこれを防いだ。火花が散り、ビリビリと痺れた。刃を捻って距離をとった。
高取は再び刃を構えると相手の動きを注視した。ホワイトも刀を上段に構えて同じく警戒している。
ブーブーブッブー、大きなクラクションが鳴り響き、高取の立つ右車線にトラックが走ってきた。
ジリジリ、と靴を擦らせて高取は後退、トラックが走り抜けるスペースを空けていく。ホワイトもそれにならって後ろに下がった。
トラックのヘッドライトが眩しく光る。その時、ホワイトが刀を構えながら左手で柄巻をスルスルと外しているのが目に入った。トラックが通りすぎた時、ホワイトは何か仕掛ける気だ。
光が強くなり、トラックが近づいてくると高取は力を集中した。瀬連を倒した時のように離れたホワイトを斬り裂くイメージを思い描く。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
気合いを入れると気の力が白い光となり刃を覆っていく。刃に気を込める技は体力の消耗が激しい、ここで決着をつけたい。
トラックが高取の前を通過した、その時、タンと音がして荷台の上に影が着地し、反動で跳ねた。走行するトラックを越えてホワイトが高取に飛び掛かってきたのだ。高取はこの一瞬の出来事を見逃さなかった。
「来ましたね」
風を巻き起こしてトラックが走り抜けるとホワイトが放物線を描くように襲いかかった。
ホワイトの振り上げる刀に妖しい紫の光が宿った。それに対して高取は光り輝く刃を袈裟に斬りつけた。
「しっぺ!!」
ザァン! 高取の刃が空を斬りつける。白い光と化した斬撃がホワイトに襲いかかった。
「凶悪魔闇鬼神斬」
ホワイトが恐ろしいスピードで刀を振り下ろした。白い光の斬撃がホワイトの刀と激突、爆発音が谺して刀の表面を光の斬撃が弾け散った。一瞬、ホワイトの手元がぶれるがなおも妖しく光る刀が迫ってきた。
高取は尋常ではない技に「斬られる」と本能的に恐怖を感じた。
そして、目まぐるしく高取の思考は巡った。ここでホワイトを止めなければ南町は奴らの手に渡る、そうなればエイトプリンス、リトルグレイに辿りつけない、カヨコの仇を討つことができない、こんな所で死ぬ訳にはいかない、一瞬で本能的な恐怖を振り払った。
高取は己の内からさらに気の力を引き出し刃に集中すると、左右の刃を交差させた。刃が重なることで一層白く光り輝いた。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ホワイトの刀がより輝き、速度を上げて襲いかかった。
「しっぺ!!」
高取は叫びにより、交差した両腕の刃が白く輝く。そこにホワイトの一撃が叩きこまれた。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!
激しい衝撃と閃光が眼前を包んだ。刃と刀が激突し、白い光と紫の光が互いに拮抗していた。
二つの光が夜の闇を一瞬だけ昼のように照らした。衝撃は高取の骨まで響き、筋肉が軋む。押し込もうとする力と、押し返そうとする力、その均衡は、わずかな呼吸の乱れひとつで崩れるほど繊細だ。
ホワイトが刀を押し込む、すかさず高取は曲げた肘を開放して交差した刃で押し返していく。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ハァァァァァァァァァァァァ! しっぺ! しっぺ! しっぺ! しっぺ!」
ドォォォン! ドォォォン! ドォォォン! ドォォォン!
交差する刃と刀の間に光が明滅、凄まじい衝撃が走った。
衝撃は高取の身体を駆け巡り、全身にダメージを与えた。高取は脂汗を浮かせながらもそれを耐える。恐らくホワイトも同じ状況だろう。それでもホワイトは刃を両断するように刀に力を込めた。高取も刃に力を込めて押し返す。
白い光と紫の光の一進一退のぶつかり合いが続いた。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「しっぺ! しっぺ! しっぺ! しっぺぇぇぇぇ!」
ドォォォン! ドォォォン! ドォォォン! ドォォォン!
白い光と紫の光による激しい鍔迫り合いとなった。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ホワイトがさらに刀に力を込めたのか圧力が増した。刀の直撃が激しい右の刃から光の粒子が拡散、亀裂が入った。さらに支えていた左の刃も亀裂が入っていく。このままでは刃が持たない。
「しっぺぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
高取は全力を左右の刃に込めた。ホワイトの刀が押し返されていく。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!
突如、白い光と紫の光が爆発した。高取の刃は砕け散り、ホワイトの刀が弾かれていく。
高取は爆発の衝撃波を全身に受けて吹き飛ばされた。ホワイトも吹き飛ばされていくのが見える。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
吹き飛ばされた高取はラクセスの車体に激突した。ドアを突き破りフレームがひしゃげてタイヤや破片が宙を舞っていく。あっという間に車の残骸が身体の周囲を埋めつくした。
痛みと体力の消耗で身体を動かそうとするが力が入らない。高取の意識が遠退いていった。




