61 アーチ・エネミー③
エイトプリンスに迫る狂師。59~64まで続きます。
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「おう」
「どうも」
カチン、高取は神駄とジョッキを合わせた。高取は豊田駅にある鳥平民のカウンターでいつものように一人飲んでいると隣に神駄が腰かけたので乾杯をした。
「やっぱりこれだな」
「疲れが吹き飛びますね」
「ああ、最近、疲れることが多くてな」
神駄がジョッキを置くと首をまわした。高取はジョッキの芋焼酎ソーダ割りを半分まで飲みながら同意して頷いた。
「まったくですね。大丈夫ですか?」
「慣れているからな。そういえばクリテイシャスワールド完結編は見たか?」
「見ましたよ。あのシリーズが好きなんである程度満足はしてます」
「そうか、俺は変な虫が暴れるより、恐竜が市街地でじっくり暴れるシーンがもっと欲しかった。惜しいな」
「そんなに期待していたわけではないから満足ですが、たしかに神駄さんの意見もわかりますね」
高取はジョッキを飲み干すとメニューを見た。牛肉コロッケがオススメと書いてあった。後ろを振り向くと店員と目が合ったので酒のおかわりと牛肉コロッケを注文した。
「コロッケか……良く食べるのか?」
「そんなにではありませんがたまに食べたくなるんですよ。コロッケを潰してそこにソースをたっぷりかけるんです。良いツマミになりますよ。ただ、あんまり行儀の良い食べ方ではないですがね」
「それはうまそうだな、俺も頼むとするか」
「是非」
高取と神駄は日が変わる頃まで飲むとお互いに仕事があるからと解散した。高取は神駄との束の間の交流に満足しながら家路に向かった。
ピコン、携帯端末にメッセージが届いた。コールマンからであった。先日、発信器を仕掛けた崖先に動きがあったようだ。仕事終わりに打ち合わせをし、プランを立てることにした。
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東京都目黒区、画一的なビルが建ち並んでいる。その通りを高取はコールマンと歩いていた。崖先が一週間の内に三回も夜に車を出して目黒区の住宅街に行っていることがわかった。
高取は発信器を頼りにして崖先のスポーツカーを辿ると住宅街の一角にある駐車場にとめられていた。「くあら専用駐車場」という看板があった。
「くあら……居酒屋ですか」
「崖先が行くにしてはチープな店ね」
駐車場の隣に店はあった。テナントビルの一階が店になっており「くあら」と書かれた看板がかかっていた。高取は店の入り口に立て掛けられているメニューを見た。肉に魚、豊富なツマミ類と良くあるチェーンの居酒屋のような内容であったが価格だけは倍近い値段で設定されていた。
「行きましょう」
高取とコールマンは連れ立って自動ドアから中に入った。正面にレジがあり横からフロアが一望できるこじんまりとした店だ。壁には十枚程芸能人のサイン色紙が飾られていた。右手側にカウンター席、左手側にテーブル席があった。テーブル席には数人の客がいたが、崖先の姿は見当たらない。
「いらっしゃいませ!」
そう言って奥から黒光りして脂ぎった顔の男が笑顔でやってきた。胸の名札には「店長 南町」と書かれていた。
「二名ですが空いてますか?」
「はい、テーブル席にご案内しますねー」
「はい」
脂ぎった顔の南町が高取とコールマンをテーブル席へと案内した。高取とコールマンはとりあえずビールを注文すると再び店内を見渡した。左奥にトイレ、右奥が厨房のようで二階や別の階に行けるところはなさそうだ。高取は声を抑えて話しかけた。
「もしかして、ここの駐車場だけを使って他に行ったのではないですか?」
「それならここを起点にどこに行っているかつきとめれば良い。まずは崖先の動きを探ることよ」
「そうですね」
「お待たせしました」
店長の南町がビールジョッキをテーブルに置いた。高取は手早くつまみと料理を注文した。
「かしこまりました」
「ねぇ、ちょっと良いですか? こちらのお店はよく芸能人が来るんですか?」
コールマンが壁に飾られている色紙を見ながら尋ねた。南町の脂ぎった顔に笑みが浮かんだ。
「あー、以前、芸能人とよー仕事してましてねー」
「そう、色紙が飾ってあるものですから……」
「ああ、壁に飾ってるのはその時にもらったもんです。感じのええ芸能人の色紙だけを飾ってます」
「感じの悪い人も中にはいるんですか?」
「ええ、あのーこの前、亡くなった黒畑っていたでしょう? あいつは裏では酷い奴でしてね」
思いがけず黒畑の話題がでるとコールマンが高取に振り向いた。
「何かあったんですか?」
「故人の名誉もありますからねー、言えませんが。では、ご注文の料理を用意しますんで、失礼しますー」
南町が厨房へと戻っていくのを見守ると高取は声を落としてコールマンに呟いた。
「偶然ですか?」
「どうかしら。崖先の行きつけの場所と思われる居酒屋の店長が黒畑を知っている。何かあるはず」
「様子見ですね」
高取はビールを飲み干し、芋焼酎のソーダ割りを頼むとコールマンもハイボールを頼んだ。暫くしてお代わりの酒と共に注文していたチャンジャ、たたき胡瓜、鶏唐揚げがテーブルに運ばれてきた。高取はたたき胡瓜をつまんだ。
「最近、普通の仕事はどうなの?」
「変わらず淡々と英語の授業を教えてます。ただのカモフラージュとしか考えてません」
「カモフラージュね……でも同僚には以前のように接しているでしょ」
「ええ、それも超人の情報と屋井村との戦いの目撃者を探る為です」
「でも、その空間はあなたを現実に繋ぎ止めている重要な場所よ。大切にしなさい」
「私はリトルグレイを討つことだけが大切です」
「それだけでは生きていけない……」
「……あなたにも居場所はあるんですか?」
「あなたと同じで仕事はカモフラージュ、狂師しかない。だから、言ってるの。そうなれば人として元に戻れなくなる」
「望むところですよ」
「そう……」
居場所、そんなものはカヨコを失った瞬間に消えた。自らには復讐しか残されていない。
だが、コールマンや後藤、米山といった狂師たちや同僚、そして、正体を知らない神駄には救いを感じていた。それでも高取は救いを感じることで復讐心が鈍るのを恐れていた。
「そうです」
そう言うと高取はグラスを呷った。そのまま一時間程、高取はコールマンと共に酒とつまみを食べて時間を潰した。
高取は尿意を催し席を立つと奥にあるトイレに向かった。その時、厨房から一人の男が姿を現した。
「!?」
厨房から姿を現したのは崖先であった。崖先はそのまま高取の横を通り過ぎて店を出た。高取は視線をコールマンにやると頷くのが見えた。芸能人と関係があった店長の南町、厨房の奥から現れた崖先。
高取はここからショータンに辿り着くことができる。そして、エイトプリンスに手が届くと確信した。




