60 アーチ・エネミー②
エイトプリンスに迫る狂師。59~64まで続きます。
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『えー、見えてますか、聞こえてますか?』
BARヤギの店内。高取はカウンターに腰掛けて、画面に映し出される映像を見ていた。
コールマンと後藤、カウンター内の米山も黙って見ている。
画面にはサングラスとマスクをしてTシャツを着た男が映し出されている。
『えー、人気俳優の取原トオウなんだけどあいつな、未成年のファンを自分のセフレにしてるんやそれだけやない、先日、自公党の機知山議員をパパ活で訴えた女の子おったろ? あれ、取原が親交のある機知山を脅す為にでっちあげたデマや』
米山が映像を一時停止した。
「今日、ミーチューブに公開された動画だ」
ウイスキーを一口飲んだ後藤が言った。
「ある情報源からショータンについて話があった。この男は超人でどうも相手の秘密を暴露させる能力があるらしい。それだけなら問題ないが、裏に何者かがいる」
「やはりですか……胡散臭いと思ってました」
高取は舌打ちすると後藤が頷いた。
「そういうことだ。恐らく繋がりのある議員や役人、VIPの不祥事を揉み消す為にこの男が使われている。米山、俳優の黒畑オツの件もそうだったな」
「はい、黒畑の奥さんから依頼を頂きました。彼女の話では黒畑は不倫については認めましたがファンのレイプについては頑なに否定していた。このファンは以前、知人の経営者、崖先と一緒の飲み会に参加しただけの関係とのことだ。奥さんはこの件で抗議したが凶分組から圧力がかかり、口封じされたと言っている。ファンの子は消息不明で恐らくは消されたかと……」
「つまり、不倫という事実とレイプという嘘を混ぜて全て黒畑の責任にしたのね。恐らくレイプは投資家の男がしていてそれを隠蔽、黒畑も自殺に見せかけて殺したと」
「コールマンの言う通りだ。お前たちに言っておくことがある。今回の件を私に教えてくれた情報源のことだ」
後藤がそう言い席を立つと店の隅まで行き皆を見渡した。
「お前たちの能力も向上してきた。そこで根源の一つであるフシモリに積極的に打ってでることにした。その一手として国家安全保障庁の知人に取引を持ちかけた」
「国家安全保障庁……日本のCIAですか。フシモリと国の連中は癒着があるのでは」
高取は訝しげに聞いた。
「そうだ、だから奴らとの取引を悩んでいたが……リスクを負う判断をした。奴らの中にもフシモリを快く思ってない連中が一部いる、その者とコンタクトした。そこから今回の情報を得た。ショータンなる者がフシモリに利害関係のある人物を守る為に動いているとな、そして、その先にエイトプリンスがいる」
「エイトプリンス……ですか。以前、言っていましたね」
「フシモリの八名からなる闇の実行機関。恐らくはリトルグレイもいる」
そう言うとコールマンが高取に顔を向けた。リトルグレイの名を聞き、高取は憎悪に顔を歪めた。後藤が頷く。
「エイトプリンスを潰すことでフシモリに混乱を起こす……ごほっ……ごほっ」
後藤が顔をしかめて手で口を覆うと何度も大きく咳をした。
「大丈夫ですか?」
「ぐ……すまん、気にするな。どうだ? 皆やれそうか?」
「当然です」
高取は力強く答えるとコールマンと米山も頷いた。
「良し……ではまず、ショータンの正体を暴く」
「それについてですが、恐らくは芸能関係に恨みを持つものではないかと。フシモリはショータンの恨みを利用して隠蔽を図っているかと」
米山が手元の資料を見ながら答えた。
「ショータンの動画を見てみると芸能人、スポーツ選手が非常に多い。大手事務所のリフューズロックが特に狙われている節がある。大手と言ってしまえばそれまでだがな」
「ふむ、米山は芸能事務所の関係を当たってくれ。コールマンは高取と共に崖先を当たれ」
「わかりました」
そう言うと高取はグラスを握りしめた。
「そういえば安司の件ですがどうです?」
「五次安に調べさせてる。まさか、お前の身近にフシモリの息がかかった奴がいるとはな」
米山が溜息混じりに呟いた。
「まったくです。ですが、今はショータンに集中する必要があると言う事ですね」
高取は考えていた、この件がエイトプリンス、ひいてはリトルグレイに繋がるというのなら、ようやくカヨコの仇を討てる希望が見えてくる。
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東京都港区、日の光が溢れる高級住宅街アザブタウン。秋も深まり、色づいたイチョウの葉が何枚も落ち、空中をひらひらと舞う。道路に落ちた葉をワゴン車のタイヤが次々と踏みつぶしていく。
ワゴン車の車体には「スペシャル清掃」とペイントされており、運転席には清掃員の格好をした高取、助手席には同じ姿のコールマンが座っていた。
高取は運転しながら住宅街を眺めた。二十三区でも屈指の富裕街だ。道は綺麗に清掃され、監視カメラに警備員の配備、街の中央には高級スーパー、美容店が立ち並ぶ。道を歩く人々は高価な服を身に付け、この世の春を謳歌しているが如く近所同士で談笑していた。ハチオウジ市とは天と地の差である。
「二十三区民、まったく羨ましいですね」
「所詮、臭いものに蓋をして見て見ぬ振りしてるだけの奴らよ。たまに興味を持っても上から目線で私たちを見下して慈悲をかけて悦に入っている……そんな奴らになりたくはない」
「辛辣ですね。ま、その通りですがね。レイプに証拠隠滅で人を殺させている崖先も愛と平和を語って政界に進出しようとしているようですし」
「奴らにとっては愛と平和なんてファッションと同じ程度なのよ。だから、フシモリなんかに利用される」
「……だから、踏みつけにされてきた者から報復されるんですよ」
「そうね……高取、そこ」
コールマンが前方を指差した。一際大きな住宅が見えてきた。崖先の自宅だ。情報の通り自家用車が家に隣接する駐車場に三台とめられていた。
「三台とも頼みますよ」
「わかってる」
高取は運転席側の窓を半分程開くとスピードを落とし、崖先の自宅を目指した。助手席ではコールマンが白い銃のようなものを取り出して運転越しに窓が開いた隙間に照準を定めた。ワゴン車が崖先の駐車場にさしかかった。
パシュ、パシュ、パシュ
微かな空気音が三回聞こえるとワゴン車は駐車場の前を通り過ぎた。高取は路肩に車を止めた。
「うまくいったようですね」
「これで崖先の動きが掴める」
「後は彼の動向からフシモリに繋がる動きを見つけて……どうされます?」
高取はコールマンに目線を送った。コールマンは頭をふった。
「まずはショータンに繋がる何かを見つけるのが先決」
「わかってますよ」
コールマンが白い銃のようなもので打ち出したのは極小の発信器である。崖先の車に発信器を打ち込んだのは行動履歴を確認する為だ。
「彼の動きからショータンを特定しないといけないの。彼をどうこうするのはその後」
「……わかりました」
「あまり被害者に感情移入しないことが重要よ。あなたの目的であるリトルグレイまで到達できないからね」
「ええ……」
高取は暗い目で答えると気にせずにコールマンが早速発信器を付けたことを後藤に知らせた。横でコールマンがタブレットPCを取り出し、高取に見せた。先程の発信器を取り付けた車の状況が光点としてマップに映し出されている。
「後はこの光点がどう動くか確認する必要がある。あの手の男はまた、同じようなことをしてショータンを利用するはずだし、フシモリは利用させようとする」
「でしょうね」
三つの光点を見つめながら高取は溜め息をついた。




