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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part2
58/79

58 ティーン・アーソニスト③

高尾木高校の放火魔。56~58まで続きます。



◆



 服田はベッドで片膝を付きながら携帯端末に映る小火の動画を見ていた。何かが引っかかる。花壇がひとりでに燃えるシーンが何度も映った。たしかに自転車が燃えた時と同じような炎であった。


「何なんだろう……」


 ふと花壇でなく周囲を取り巻く生徒に目を向けた。斜め上からの俯瞰映像で炎が出た時、周囲には男子四人、女子一人が横を歩いている姿が映っている。その後、炎が大きくなり、生徒が一気に増えていった。


 もう一度、炎が出る前のシーンを見る。セミロングの女子生徒が炎が出る前の花壇に頭を向けていた。


「あれ!?」服田は思わず呟いた。女子生徒の顔に見覚えがあった。どこで見たんだ? 記憶を探る。


「あいつだ!」


 服田は自転車が燃えた時にすれ違ったセミロングの女子生徒に間違いなかった。登校の時間でもあり、二つの小火に出くわすことはありうるが、こんな対象と近距離でタイミング良く出会うだろうか? セミロングの女子生徒に注目すると炎が出て騒ぎになった後もその光景をじっと見ていて微かに身体が揺れている。


 この女子生徒が超人でこの小火を引き起こしているのではないかという疑念が湧いた。まずはこの女子生徒が誰なのか特定したい。服田は女子生徒の画像をキャプチャして注釈を付けて兼田に送った。

 暫くするとピコンと音が鳴り、兼田から返信が来た。


『良い事に気づいたな! ジアドーアで探ってみるよ』


 これで何かわかるかもしれない。流石に監視カメラの画像を見せながら、聞きまわるわけにはいかない。推測を外した時にこの女子生徒に迷惑をかけることになる。兼田からの返信を待っていたが音沙汰もなく、服田はいつしか眠りについた。


「はっ!?」服田は気付くと窓の外から明るい光が射していた。布団から身を起こし、慌てて携帯端末を見ると兼田から返信がきている。


『一年の倍亜リイエ。学生証のデータから顔写真を参照したらヒットしたよ』


 倍亜リイエ、この女子生徒を見張れば何かわかるかもしれない。兼田のメールにリイエの住所も付けられていたので、携帯端末に住所をマッピングしておいた。


 服田は自転車を飛ばして、高校に向かった。小火が起きた自転車置き場は黄色いテープで囲われている。たしか、燃やされた自転車の持ち主は羽川ロデオという一年生だった。服田が教室に入ると兼田が不機嫌そうな顔をしている。


「服田、俺が調べてる間、昨日寝てたろ?」


「ごめん、ごめん、感謝してる」


「本当か?」


「本当だって! それより倍亜だ」


「そうだな……現場にいただけだし、確証はないけどそれしかないか」


「クラスは一年三組だったよな。知り合いとかいるか?」


「いないなぁ」


「住所もわかってるし、ストーカーみたいで嫌だけど見張るしかないかもな」


「そうだな」


「住所といえば……」


 服田はおもむろに携帯端末を取り出しマップを開いた。倍亜の住所に位置を合わせて以前、ダウンロードした小火のデータをマップ上に表示させた。


「これは!?」服田は思わず叫んだ。この一ヶ月、倍亜の家から半径一キロ圏内で住宅火災が四件確認できた。


「兼田、これどう見る?」


「ん? これは……どれも留守の時に火災が発生、消防車が駆けつけて、消火活動を行う最中に自然鎮火」


「花壇と自転車置き場と同じ状況だよな、日付を見るとこの住宅火災の後に、学校で火災が起きている」


「どういうことだろう? 住宅から花壇、自転車置き場だと規模は落ちてるよな」


「うーん、近所の人に見せつけて楽しむだけじゃ飽き足らず、同級生にも力を見せつけたくなったとか?」


「それはあるかも、幸いにもまだ、人は死んでないけどエスカレートしていったら……」


「やばいよな、そうだ。倍亜については俺も面白いもん見つけた」


 兼田はそう言うと携帯端末を操作して、画面を向けた。画面にはトイッターの投稿が映されている、投稿者名は「べあぁべ」。


べあぁべ『びつくりに さっき近所で大火事がありましたに 家が燃え上がって炎で真っ赤に染まってたに 人が多くてフェスみたいだったに 最近火事が多いから べあぁべすごく怖いに』


 服田は投稿内容を見ていると最近、リイエの自宅付近であった火事を指しているようだ。兼田はリイエの投稿を見せていく、どれもが火事に関する投稿であった。


べあぁべ『びつくりに また火事だに 今回は高校の花壇が丸焼けだにょ べあぁべの通う学校だから驚いたに この日のみんなの話題は火事ばっかだに なんだか怖いに』


べあぁべ『びつくりに えとねまたまた火事が近くであったに しかもまたうちの高校だに 今度は自転車が燃えてなくなったに まわりで火事多すぎて怖いに 誰かべあぁべのこと助けてくれる人募集』

 あの花壇と自転車に関する投稿もあった。


「兼田、これは偶然か? それに火事の度に投稿してるけど考えすぎなのかな?」


「どう見ても怪しいよなぁ」


 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン始業を告げる鐘が鳴った。


「後で考えよう」服田はそう言って自席に着いた。決定的な証拠はないがリイエを中心に動いている様に思えてならない。


 その日の合間の休み時間に服田は兼田とリイエの活動をどう見張るかを話し合った。まずは放課後にリイエの跡をつけることにした。


 服田は兼田と共に一年三組、倍亜リイエの下駄箱まで行くとその周囲で様子を伺った。


「おい、あれ?」兼田が服田の肩を叩いた。服田は兼田が顔を向けた先を見た。セミロングの女子生徒が下駄箱へと歩いていく姿が見えた。倍亜リイエだ。パーツが大きく猫系の顔をしている。可愛いはずだが暗い表情がそれを邪魔しているように感じた。


 リイエは下駄箱から靴を出すと上履きから履き替えて、早足で外へ向かった。その後ろを服田と兼田は距離を空けて歩いた。服田は自転車は後で回収すれば良いと諦め、ひたすら彼女の跡を追う。


 リイエは南浅川沿いの道を高尾山方面に暫く歩くと途中で右に曲がり住宅街の中を進んでいった。そのまま、自宅である小さなアパートに入った。そこまで見届けるとこの日は何も無さそうなので服田と兼田は解散した。


 翌日も同じようにリイエの跡をつける。住宅街の中に入る所までは同じだったが、自宅を通り過ぎてさらに奥まで進んで行った。


「どうしたんだろう」


「面白くなってきたな」兼田はニヤリと笑った。リイエは住宅街の一角にある、船田古墳のある公園へと入った。彼女は公園の中にあるベンチに腰を下ろす。服田と兼田は木の影からその様子を伺った。リイエはベンチで暫く携帯端末を見ている。


「えっ!? いいね、がこんなについてる!」


 リイエは不意に叫ぶと周囲を見渡した。隠れている服田たちには気付いてないようだ。公園には服田たちとリイエしかいない。彼女は携帯端末をそっと仕舞うと地面に落ちていた枯れ葉を数枚手にとる。再び、周囲を伺うとリイエは枯れ葉を上に放った。


 枯れ葉は空中を舞い、ちょうどリイエの目線に落ちてきた時、枯れ葉を炎が包んだ。炎が次々と枯れ葉を消し炭に変えていった。


「!?」


 服田は目を見開いた。兼田も驚愕した眼差しでその光景を見ている。やはりリイエは超人だ、服田は確信した。


「ふふふふ」彼女が忍び笑いを漏らした。今度は枯れ葉を数十枚手に取ると上に放って、次々に燃やしていく。炎が空中を舞い散りながら地面に落ちていった。


「あはははははははははははははははははははは」


 リイエは今度は大きな声で笑いながら立ち上がると公園を後にした。服田は兼田と共にその場に立ち尽くしていた。


「服田、やっぱり超人はいただろ?」


「ああ」服田はそう言いながら、リイエの後ろ姿を見つめた。黒い仮面の男と屋井村が戦っている程では無いものの、同じ学生にも超人がいることに衝撃を受けていた。


「どうしたら良いんだろうな」


「どうしたらって……」


 兼田の問いに服田は何も返せなかった。



◆



「利己主義についてわかる人は手を挙げて」


 マホは一年三組で授業をしていた。三日前に自転車が放火されて以来、羽川は以前の元気を無くしていた。燃えた花壇の当番も三組だったこともあり、クラスには張りつめた空気が流れている。


「誰も挙げないなら、誰か指すよ……じゃあ、倍亜さん」


 マホは物思いに耽っていた倍亜リイエを指名した。リイエは冷めた目でマホを見つめながら、口を開いた。


「自分の利益だけを考えて、他の人のことを考えない振る舞い、わがままなことですか?」


「そうね、倍亜さん。みんな! みんなが集まって、助け合いながら社会を作ってるのはわかるよね? その中で自分の事だけを考えた行動をすると社会は成り立たないの」


「例えば俺の自転車を燃やして楽しんでいる奴とかがいると成り立つ訳ないですね」羽川が投げやりに呟いた。


「そういうこと。誰がどんな目的で燃やしたかわからないけど、その為に羽川くんは辛い思いをしてるわ」


 マホがそう言った時、ファンファンファン、けたたましいサイレンの音が聞こえてきた。


 生徒たちは思わず窓の外に視線を向けた。マホも窓に向かい外を見ると一台の装甲パトカーが校舎に入ってきた。パトカーを降りた二人の警官が校内に向かっていく。


「先生、何が起きたんですか?」


「さぁ、なんだろう……ちょっとみんな! 授業中よ!」


 マホは授業に戻そうとするも生徒たちのざわめきは止まらない。暫くすると今度は外から叫び声が聞こえてきた。


「やめてください! 俺は何も知らない! やめてくれ!」


 叫び声の主が気になり、マホは再び、窓に近寄った。叫ぶ用務員の男を二人の警官ががっちりと固めて、パトカーに乗せようとしている。用務員は一年前に雇われた門地《もんち》スイマという四十代の男だ。警官が門地をパトカーに押し込むとサイレンを鳴らして走り去った。


「ふふふふ」


 ざわめく生徒たちの声の中に微かに笑い声が聞こえて思わず振り向いた。何が面白いのかリイエが笑いを噛み殺すようにしていた。


 マホはざわめくクラスを落ち着かせてなんとか授業を終わらせると職員室に戻った。職員室では安司が授業終わりの教員を待ち構えるように真ん中に立っていた。安司は戻ってきた教員たちを見渡した。


「先ほど警察が来た件ですが、用務員の門地に放火事件の容疑がかかりました。どうも遠隔で発火させる違法な装置を捜査していた流れで門地に辿りついたようです。付近で起きていた放火についても疑ってるみたいです。動機はわかりませんが、それよりも保護者への説明が必要です。今日の放課後に緊急会議を行います」


 マホは隣にいた高取と顔を見合わせた。


「とんでもないことになりましたね」


「そうですね……」


 この前の居酒屋での出来事が無ければ安司の言う事が正しいように思える。しかし、マホは居酒屋で安司が話していたことがどうしても頭に引っかかった。田島に言っても突飛な話で誰も信用してくれないだろう。


「そんな装置を用務員が買うことができますか? それに炎を出すことは出来ても自然に鎮火することができる装置なんて」


「そうですよね」と言いながらマホは以前、高取が飲み会で超人の噂があれば教えて欲しいということを切実な表情で言っていたことを思い出した。もしかしたら、高取に話せば胸のつかえが取れるかもしれない。


「高取先生……聞いてもらいたいことがあるんです」



◆



 服田は兼田と共に一年三組、倍亜リイエの下駄箱まで行くとその周囲で様子を伺っていた。


「用務員の門地が捕まったな」兼田の問いに服田は苦い顔をした。二日前に門地が花壇と自転車の放火、リイエの家周辺で起きていた放火事件の容疑で捕まった。動機は賃金の低さに不満を持ち、知り合いの伝で違法な発火装置を手に入れて実行したらしいということであった。服田はリイエの発火能力を見ているので今回の顛末が信じられなかった。真実が隠されているように感じ、再びリイエの様子を伺うことにした。


 リイエが下駄箱にやってきて上履きを入れようとすると教頭の安司がリイエに声を掛けてきた。


「倍亜さん、良いですか?」


「はい」


 リイエはそう答えると安司について行った。服田たちも跡を追うと、リイエは安司に促されて面談室に入った。


「あれ、教頭だよな?」


「だな……普段なら何とも思わないけど」


 服田は面談室の扉を見つめながら言った。今までのことを考えるともしかしたらリイエの能力を知った安司が門地を犯人に仕立て上げたのではないか、との疑念が頭を掠めた。



◆



「倍亜リイエさんだね」


 面談室では倍亜リイエと安司タテルが向かい合って座っていた。安司が薄く笑っているのに対して、リイエは不安そうな表情を浮かべている。


「そんなに怖がらないで、何も君を責めようと言うんじゃない。感謝しているくらいです」


「どういうことです?」


「花壇や自転車置き場の火事、あなたの家の周りで起きた火事、全てあなたの能力で起こした。大方、クラスに馴染めない腹いせと能力を誇示して満足感を得たかったという所ですか」


「何が言いたいの!」


 安司の言葉にリイエは思わず睨みつけた。リイエの瞳の中にオレンジの光が灯る。


「大丈夫、安心してください。この件は用務員の仕業として処理された。私が手配しました。あなたがやったことにはならない、むしろ超人として手厚い庇護を受けることになる」


「教頭先生が私を助けてくれたってことですか? 何の為に……」


「私はこの学校にいる超人の生徒を守ろうとしているんですよ。今の段階で気付いて良かった、このまま、一人で犯罪を続ければ破滅は目に見えてます。君のような若い芽を守り、導こうとしている人々に紹介しましょう」


「教頭先生……一体何者なんですか?」


 リイエは困惑した表情で安司を見つめた。


「まだ、言えませんがあなたも知っている存在です。まずは読んでください」


 安司は微笑みながら、リイエにタブレットを見せた。タブレットには文章と図が映し出されている。


「ここにあなたの進むべき道があります」



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