56 ティーン・アーソニスト①
高尾木高校の放火魔。56~58まで続きます。
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服田は自室のベッドで横になりながら携帯端末を操作してネットの情報を流し見していた。
ピコン、携帯端末の通知音が鳴った。服田は通知を確認してみると超常犯罪を収集しているサイトからの最新情報であった。
「年々超常犯罪の数が増加している、やっぱり超人に覚醒する人間が増えているんだ。だから、あの仮面の男は増加した超人犯を闇で裁いている……」
そこまで呟いて服田はふと、なぜこんなに超人に対して興味を持って調べているのかと考えた。超人同士の殺し合いを見たからなのか、父のミツオが警察として超常犯罪について関わりを持っている可能性があるからなのか、発端はその二つであるがやはり、このハチオウジを覆っている黒い霧のようなものの奥にある真実を見てみたいという好奇心からであると思い至った。時刻はすでに午前一時を過ぎているが、尚も服田は情報収集を続けた。
「いってきます」
服田は眠い目を擦りながら、家を出た。超人について調べて朝方まで起きていた影響で頭がはっきりとしていない。服田はガレージの中にある白いシティサイクルタイプの自転車に跨って、ペダルを漕いだ。朝日が寝不足の目に刺さるように射し込む。
服田は住宅街を自転車で颯爽と駆け抜ける。秋になり、心地よい風が髪を揺らした。自転車を漕ぎながら、風を感じているのも束の間、「自宅警備員」とペイントされた黒い装甲車が猛スピードで横を通り過ぎていった。服田の住む八王子区散田町の一角にあるハチオウジ市警の公務員宿舎は常に民間警備会社が警戒している。恐らくは宿舎を襲撃しようとした不審者でも見つけたのだろう、良くあることだ。
服田は自転車を漕ぎ進め、西八王子駅の踏切を渡ると横断歩道が赤の為、自転車を止めて片足を下ろした。目の前にある大通りを車が次々と行きかう。高尾山に向かうであろう大きなトラックの車列が通りすぎ風が前髪を揺らした。
信号が青になると服田は再びペダルを漕ぎ、大通りを渡ると真っ直ぐ進んだ。周りを見ると高尾木高校に向かって歩く生徒が列をなしていた。浅川に架かる橋を渡り、右折するとすぐに高尾木高校が見えた。
服田は自転車を漕ぎながら、校門を通り抜け、校門横にある守衛室の警備員に挨拶すると自転車置き場に向かった。自転車を止めるとカゴに入れていたリュックを担いで校舎へと歩いていく。
「おう」前から同じクラスの秋田屋セウチが近づいてきた。
「おう」服田も返答すると秋田屋が前方を指で差した。視線を移すと花壇の前を大勢の生徒たちが眺めていた。
「どうしたんだ?」
「すごいぞ! さっき花壇が勝手に燃えたんだ」
「勝手に!?」
「こいよ」
服田は秋田屋と共に人垣の間から花壇を見ようと目を凝らした。花壇は煉瓦の土台が黒焦げになり形を留めない程、崩れていた。
「小火であんなになるか? 相当な火力じゃないと無理だ」服田が思わず呟くと秋田屋も頷いた。
「甘野の話だと突然、燃えだして炎もひとりでに消えたって」
「お前たち、見せ物じゃないんだ、早く教室に行け!」
後ろから教師の田島リキの声が聞こえた。服田の横を田島と警備員が通りすぎ、生徒を追い払うようにして手を振っている。服田と秋田屋は気になりながらも、校舎の中に入り、教室へと向かった。
教室の引戸を開けて、自らの席にリュックを置くと席に腰を下ろした。するとさっそく兼田が近寄ってきて机に手をつく。
「花壇を見たか?」
「見たよ、仮に誰かが煙草かなんかを捨てたとしても土台が崩れる程、燃えるなんて」
「服田もそう思うだろ、ただのイタズラにしては威力が半端ない、それに突然大炎上したのにひとりでに鎮火した、変だよな」
「たしかにな」
「もしかしたら……」
服田は兼田が言おうとすることがわかる気がした。
「いるんだよ……この学校にも超人が」
さらに兼田は近づくと小声で言った。
「この犯人を俺たちで探ってみないか?」
「やろう」服田は好奇心を抑えられずに彼の誘いに乗った。
◆
下関マホは騒々しい職員室の中で田島と安司のやりとりに耳を傾けていた。どうやら校舎にある花壇が突然、燃えたようだ。それにより、マホの教育係である田島が対応に掛かりきりになり、職員室に戻るなり教頭の安司に報告をしている。
「田島先生、それはつまり、突然花壇が燃え上がったということですか?」
「何人も生徒が目撃していることから、間違いないです。監視カメラにも映ってます」
「そうですか……。もしかしたら、自然現象による発火の可能性もありますね」
「いや、それではあんなに花壇が黒焦げになって崩れるようなことにはなりませんよ。勝手に鎮火しますか? もしかしたら、ハイテク兵器によるイタズラの可能性もあります。警察に通報しましょう」
「いえ、まだ自然現象の可能性もあります。それにこんなことは日常茶飯事です。いちいち気にしていたら、きりがありません。保護者の対応もありますので、今後この件は私が預かって対応は検討します。田島先生は通常の業務に戻ってください」
「今は花壇で良いですが、もし、生徒が同じ目にあったらどうするんです? やはり警察に……」
「田島先生、後は私が対応します。通常の業務に戻ってください」
「ですが!」
「田島先生」安司が冷酷に呟くと田島は口を閉ざして、憤然としながらマホの隣にある自席に腰をおろした。
「大丈夫ですか?」
「ああ、きっと教頭は何もしないつもりだ」
田島が小声で呟く。マホは安司はこの件の犯人が生徒だと保護者への説明が面倒になると考えて、無難な解決策を取ろうと考えているのだろうと推察した。
高尾木高校は周辺校の中では校内治安が安定していることを売りの一つにしている。だから民間警備会社の大手であるブカツドーと契約してまで校内の安全を確保していた。
「そんなことより、下関先生、そろそろ授業が始まる頃だけど大丈夫ですか?」
「あっ!? ありがとうございます」
マホは慌てて授業の準備をすると教室に向かった。授業担当の一年三組の教室からは生徒たちが騒々しく話す声が廊下まで聞こえてくる。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン、鐘がなるとマホは教室の引戸を開いて中に入った。
「みんな、おはようございます」
「おはようございます!」
マホに生徒たちが挨拶を返した。
「先生! 花壇が燃えた原因わかったんですかー? あの花壇の世話をしてたの今月は私たちのクラスだから、ほんとに腹立つ」
真理リナが怒りを露わにして問いかけた。
「心配だと思うけど、先生たちも調べてるからもうちょっと待って」
「黒焦げだったぜ、見たか?」
羽川ロデオが周りの男子生徒に顔を向けて、ざわめき始めた。それをリナのグループが咎めるように見ている。
「みんなー、授業を始めるよ」
マホは教科書の角で机を叩いた。一年生も半年近くなるとぎこちない空気もなくなり、仲良しグループが作られていた。
女子では真理リナを中心としたグループ、男子では羽川ロデオを中心としたグループが主流派としてクラスの空気を作り、そこに擦り寄る小グループと独立的な小グループがあり、さらにどこにも溶けこめない女子の倍亜リイエのような生徒が少数派としていた。
「教科書一四九ページを開いて、羅生門の続きからやるよ」
マホが言うと生徒たちは皆、ページを開いた。この瞬間は毎回ひやひやするが、新任でも生徒に言うことは言っているので素直に授業を受けてくれると安心する。
ただ、羽川はページを開いたが恐らく、教科書の後ろで携帯端末を操作しているのだろう。倍亜リイエはページを開いたがどこか上の空で窓を見ている。
「今日はみんなにどんどん質問するからちゃんと集中して授業を聞いてね」
マホは生徒に釘を刺すと反感の声が上がったが、無視して授業を進めた。
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マホは授業を終えて、職員室に戻ると扉の前で出勤してきた高取と出くわした。
「おはようございます、高取先生」
「おはようございます」
高取は目の下に隈ができており、疲労のあとが見えた。
「大丈夫ですか?」
「それより、花壇で何があったんです。黒焦げで溶けて崩れているようですが」
「それが今朝、突然ひとりでに燃えたみたいで……原因もわからない状態なんです」
「ひとりでに、ですか?」
「そうみたいです」マホが言うと高取は首を傾げながら、職員室に入っていき、マホも続いた。
マホは次の授業の準備を進めているとしばらくして、安司が職員室に戻ってきた。安司はPCで何かを打ち込むや職員室に直結している校長室に向かった。おそらくは校長の新山ヘイサに今回の件を報告しているのだろう。




