55 群馬・ホステージ・レスキュー・オペレーション⑥
青龍会の人質救出作戦。50~55まで続きます。
◆
ドガガガガ、ドガガガガ、ドガガガガ、ドガガガガ
「がぇっ」
「ぎっ」
「ぐぉっ」
「げっ」
茂期は奥倉と共にエントランスを走りながらHK05を撃ち行く手の兵士を正確に倒していった。十名程の兵士の死体を残してエントランスには茂期たち以外に誰も生者はいなくなった。
茂期はエントランス脇の階段まで辿りつくと階下から新手の敵が近づく気配を感じた。コウジロウの位置を再度確認して、安全を確かめると奥倉に視線を向ける。
奥倉か腰から手榴弾を取り出して階下に投げた。カンカンカン、音を響かせながら手榴弾が落ちていく。丁度、階下に兵士の姿が現れた時、
ドガァァァーン
「ギャァァァァァァァァァァァァァ」
手榴弾が炸裂し、兵士たちの悲鳴が谺した。爆煙が当りを包むのを構わず茂期たちは壊れた階段を駆け下りた。
茂期は階下まで辿りつき、粉塵の中、崩れたコンクリート片を踏みしめていく、爆散した兵士の肉片があちこちに見える。辛うじて生きている兵士もいるが気にせず崩壊した階段から通路へと進んだ。茂期が通路へと警戒しながらHK05を構えて様子を見ようと半身を出す。
「!?」
ビュッ、空気を切り裂く音がしたかと思うと茂期の手からHK05が弾き飛ばされた。閉じた扇子が手の甲に当たったのを見逃さなかった。
扇子は糸で引かれるように通路の奥に戻っていく。パシン、音を立てて通路の先に立つ十二単を着た女の手元へと扇子が戻った。
「よくもぉ! 曲者めがぁ!!」
十二単を着た女が鬼の形相で叫んだ。茂期は背後の奥倉に呟いた。
「あれは虫唾山アキミだねぇ」
「……面倒だな」
茂期は背中にかけていた薙刀の柄を右手で持ちながら慎重に通路へと身体を出す。背後では奥倉がHK05を構えながら通路に半身を見せた。
「目にもの見せてくれよう!」
十二単の女、虫唾山アキミの長い髪が逆立った。
シュパパパパパパパパパパパ
瞬間、茂期はアキミの髪が千切れ、針のようにこちらに放たれるのを見た。
茂期は咄嗟に薙刀を回転させた。針のような髪が弾かれていく。その隙間をすり抜けた髪が茂期の腕や脚に刺さった。
「ちぃ、小賢しいねぇ」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
横から奥倉がアキミに向けHK05を撃った。アキミは扇子を振るい弾いていく。
「わらわに当たると思いか!」
「さすがは鍛えられた超人は違うねぇ、私たちも気合いを入れようじゃないか、グリーン」
「了解」
「わらわを無視して何をこそこそ言っておる!」
奥倉が射撃を止めると背中から巨大ハンマーを引き抜いて、茂期の前に立ち塞がった。今度は奥倉に髪が殺到するがハンマーを器用に振るい防いでいる。
その間に茂期は薙刀の刃を下にする形で持ち替えた。奥倉の横からアキミまでの距離を測ると薙刀を大きく振りかぶった。立ち塞がった奥倉が身体を横にして壁に張り付く。茂期はアキミと再び向きあった。
「地軸!」
茂期は両手で薙刀を握り、腰のひねりと肩の力を一気に解放する。
ビュォォォォォォォォォォォォォォォ!
薙刀はまるで射出された矢のように直線を描き、空気を切り裂きながらアキミに向かった。
「おのれはぁ!?」
バシュン、薙刀がアキミの胸を貫いた。アキミがごぼっと咳こむと口から血が溢れる。逆立った髪が元に戻り、発射された針のような髪が地面に落ちていく。茂期は薙刀を投げたままの構えで右腕を後ろへと素早く戻した。
アキミに刺さった薙刀がひとりでに身体から引き抜かれ、経路を遡るようにして飛んでいった。パシッと音がした時には茂期の右手に薙刀が戻っていた。
茂期の得物であるこの薙刀は「地学」と呼ばれる。内部に電磁石があり一定の距離であれば茂期が遠隔操作ができる仕組みを持っていた。
「うげぇ!?」
アキミの傷痕から血が吹き出し、白目を剥いて後ろに倒れた。倒れたアキミはビクッと一度動くとそのまま動きを止めた。
「さぁ、行くぞ」
茂期はこともなげに言うと奥倉が頷いた。
二人は通路を進み、動かなくなったアキミの横を通り、さらに奥へと向かう。右側に扉が見えた。
茂期は扉の横にある電子パネルにTGSをセットした。
「議員はこの部屋の中だ。ピンク、部屋のロックを解除してくれ」
『わかりました』
ノリコの返答から少しの間があり、ガシューン、扉が開いた。部屋の中には汚れたワイシャツを着た若い男が椅子に縛りつけられていた。
「お迎えにあがりました。議員」
「……さすがは青龍会だね」
椅子に縛りつけられながらも爽やかな笑顔でコウジロウが茂期と奥倉を交互に見た。
◆
ガギィン、林符ミフミはサーブル剣を掲げて又苛の繰り出す鋼鉄の拳を受け止めた。サーブル剣を押し出し、又苛と距離を取る。
ミフミはさらに剣を突いた。又苛が左側を守るように右胸を差し出した。ガギィン、サーブル剣は又苛の右胸に当たるが人工の皮膚が破れ、隙間から機械が覗いた。
「なるほど……」
ミフミは静かに言うと剣を引いた。
ミフミの周囲には兵士たちの死体が溢れるている。神駄と通路を別れて進みながら兵士を倒している中、又苛が攻撃を仕掛けてきた。
ミフミは弾切れになったHK05を捨て、サーブル剣を次々に繰り出したがさすがはサイボーグ改造されたワンゴッドの戦士であり、又苛はまだ倒れない。
「青龍会ごときに……だが、エネルギー消費を気にしてられんな」
又苛が怒気を含ませて叫んだ。又苛の身体を覆う人工皮膚が破れ右半身と両拳は機械が剥き出しになっていた。
「くらえ! アイ・左聖砲!」
又苛の左の眼球が真ん中から左右に開いた。同時にレーザーが放たれた。
「発射!」
ビィィィーーー
「!?」
ミフミは咄嗟に身体を横に反らした。レーザーはミフミの胸プロテクターを焦がしながら直線に進んでいった。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン
レーザーが通路の奥に当たると壁が轟音を立てて破壊された。コンクリート片が飛び散る。粉塵が押し寄せて視界が灰色になった。
ミフミは又苛の方に振り向く。粉塵の中から先端の尖った金属の棒が突き出されてきた。
「くっ!」
ギャリィ、ミフミはサーブル剣で防いだ。金属の棒は先端の形状から銛のようだ。
その銛が突然引き戻された。ガチャンと音がした。粉塵が晴れると又苛の右手首から先に銛が収まって先端が突き出ていた。改造手術により右腕に銛を内蔵していたのだ。
「レーザーが外れたら銛とは……古風ですね」
「私を舐めるなよ。恐怖を見せてくれる」
「では、見せてください」
「くらえ! ヌク銛!」
ドシューーン!!
又苛が右腕をミフミに向けると銛が射出された。ミフミは再び、サーブル剣で火花と共に銛を捌く。
同時に又苛は左腕をミフミに向けた。左手首から手が外れて折れ曲がる。左手首の断面には穴がありそこからも銛が射出された。
ドシューーン!!
「両手のヌク銛!」
「キャァァァァァ!」
左の銛がミフミの胸プロテクターに突き刺さった。勢いで背後に吹き飛ばされた。
「まだまだ」
ギュルルルル、胸に刺さった銛が又苛に引き戻されていく。銛と共にミフミも又苛へと引き寄せられる。
ミフミは胸プロテクターのお陰で身体に銛が刺さることはなかったが打ち身のような痛みが胸に走る。
ミフミの目に又苛の一挙手一投足がスローモーションで見えた。ガチャン、一足先に又苛の右手首の銛が戻ると左の銛が引き戻される中、ミフミも又苛にどんどん近づいていく。又苛は左目が左右に開いていく、先ほどと同じレーザー攻撃だろう。しかし、ミフミは又苛の左半身を凝視した。左半身に隙が見えた。
ミフミはサーブル剣を握る手に力を入れると高速で又苛の左胸、ちょうど心臓の位置へと剣を突き刺した。
「!?」
又苛が右目を見開く。ミフミの剣は金属に守られた右半身と違い、すぅっと又苛の肉と肋骨を通り抜け心臓を貫いた。
ガチャン、銛が又苛の左手首に戻るとミフミと又苛は密着した。しかし、ミフミの数センチ先にある又苛の顔にはすでに生気はなく右目は瞳孔が開かれていた。
ミフミは胸から銛を引き抜き、次いで又苛から剣を引き抜いた。又苛が胸から大量の血が吹き出して背後に倒れた。ミフミはそれを無表情に見やり横を向く。
「ホワイト……」
◆
ガキィン、ガキィン、ガキィン
神駄の刀と虫唾山のサーベルが打ち合い、金属音を響く。
「鉱質!」
虫唾山のサーベルから赤い光が渦巻いて、明らかに虫唾山の剣さばきが速くなった。
「どうでおじゃる! どうでおじゃる! どうでおじゃる! おほほほ!」
ガキィン、ガキィン、ガキィン
「ちっ!」
神駄は舌打ちした。虫唾山の速さについていくが防戦一方となった。
ガキィン、ガキィン、ガキィン
「おほほほほほほほほほほほほほほほ!」
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
ガキィン、ガキィン、ガキィン
「おほほほほほほほほほほほほほほほ!」
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
ガキィン、ガキィン、ガキィン
「ほぉーーれーー!」
虫唾山が渾身の突きをくりだした。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
神駄は刀で受けるが身体に衝撃が駆け巡り、後方に吹き飛ばされた。受け身をとったものの身体が床に激突、跳ね返り床を転がっていった。
「おほほほ! 麿は愉快じゃ、さっきまでの勢いはどうしたんじゃ?」
神駄は倒れながらも警戒しながら虫唾山を睨みつけた。そして、ふっと笑った。
「!? 何が可笑しいんじゃ! 無様な姿を晒しおって」
「お前……なかなかやるな。だが、俺には時間がない。片をつける」
「片をつける? おこと何を抜かしよる!」
神駄は身体を起こすと左手で刀の柄に手をやった。柄には革の柄巻が巻かれており左手でそれをスルスルと解いていく。柄巻の裏には何やら細かい漢字がびっしりと書かれていた。柄巻を解き終わると柄に「凶悪魔」の文字が書いてあった。柄巻をポケットに仕舞い両手で刀を握った。
「うっ!!」
神駄は呻いた。身体から力が刀に吸われていく。
「おこと……!?」
「これは俺の師匠が残してくれた凶悪魔と呼ばれる刀で中世に呪術師と刀鍛冶が作った一振りだ。……お前ら超人を滅ぼす為にな!」
神駄の力を吸収した凶悪魔から光が発せられた。神駄に汗が滲む。
「だまらっしゃい!」
虫唾山が神駄に向かって跳躍。赤く光るサーベルで突きを繰り出してきた。
「無駄だ」
神駄は虫唾山に向かって踏み込んだ。両者の距離が縮まり、虫唾山の赤い突きが眼前に迫る。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
神駄が刀を振るう瞬間、時間がゆっくり流れた。虫唾山の呼吸、足の踏み込み、空気の震え、全てを感じ取りながら、刃は狙いの一点に吸い寄せられる。
バキィン!!
「なんじゃと!?」
神駄の斬撃でサーベルが二つに折れた。その勢いのまま刀を振りかぶり、姿勢を落とすと虫唾山の左側に狙いを定めた。刀がさらに妖しく光を増す。
神駄はさらに踏み込んだ。虫唾山の驚愕の表情が見えた。神駄と虫唾山が交差する。
「凶悪魔闇鬼神斬!」
すれ違いざま神駄は叫び、刃が唸った。互いの歩みが交錯するその刹那、神駄は全身の力を一点に込めて斬り抜ける。風が裂け、金属が悲鳴を上げる。刀から虫唾山の肉と骨を斬り裂く感触が伝わった。
神駄と虫唾山が入れ違った。残心をとり、背後を振り向く。
虫唾山が折れたサーベルを突き出したまま立ちつくしていた。
「む……無念でおじゃる」
呻くと虫唾山の上半身と下半身が鮮血を吹き出しながら真っ二つに分かれた。上半身は地面へと落ち、下半身はゆっくり膝から崩れ落ちた。
「動物以下だな……」
神駄は刀に手早く柄巻を巻いた。すると刀に神駄の気が吸われる感覚が無くなった。
「凶悪魔」は人間の気を吸収して力とする妖刀である。柄巻には妖刀が気を吸わないように封印し、普通の刀にする効果があった。
神駄は長期戦を避ける為に自らの気を犠牲にして凶悪魔の封印を解いたのだ。
「さすがですね」
神駄が声のした方に振り向くとミフミが壁に寄りかかり腕を組んでいた。
「虫唾山は片付けた」
「私も又苛は片付けました。茂期も上手く議員を救い出したようです」
「後はどう脱出するかだな」
「とりあえず下に行きましょう」
神駄はミフミと共に非常階段を目指した。
◆
「お疲れ様です。それでは二十五区画まで議員をお連れしてください。回収します」
内藤は茂期からの通信を切った。彼らは議員の救出と虫唾山ら幹部の暗殺に成功した。これで青龍会の内外への宣伝と谷元の思惑も進むだろう。
「室長、兵士たちが罠に気づいて戻ってきますがどうします?」
「彼らには青龍会の生き証人になってもらいましょう。鬼念事業団の主力は潰しました。後は群馬県警の皆さんに援護を頼み、議員を無事に回収するだけです」
「了解しました」
内藤はノリコに頷くと扉を開いて装甲車を降りた。
外はすっかり暗くなっており、夜空の星が鮮明に見えた。内藤は群馬県警が詰めているテントに向かった。入口の幕を開けて中に入ると県警幹部たちの視線が一斉に内藤に集まる。内藤は敬礼した。
「皆さん、ご安心ください。先程、議員を確保致しました」
テント内がどよめく。次いで幹部たちの感嘆の声が聞こえた。しかし、群馬県警の面子が潰れたこともありすぐに不機嫌な空気となった。
「議員が無事で安心しました。流石、特殊戦術室ですな。我々も心から感謝致します。室員の方々はご無事で?」
「はい、一人も欠けておりません。また、敵方については虫唾山キタヒト及びアキミ、又苛の死亡を確認しました」
「!?」
幹部たちは驚愕の表情で内藤を見つめた。
「まだ、ここに議員が戻るまで気が抜けませんがひとまず報告させて頂きます。それでは」
内藤は敬礼し、テントを後にした。
◆
ゴォォォォォォォォォォォォォォォ
神駄は茂期たちと合流し、二十五区画へと向かっていた。周囲の音に耳を傾ける。鬼念事業団のジープや装甲車が文化会館へと戻る音が響き渡っていた。撹乱されたことに気付き急いで向かっているのだろう。内藤の話によれば残存部隊を指揮しているのは亜出のようだが手を出さないように念押しされているらしい。
「議員、大丈夫ですかな?」
後ろからコウジロウを労るような茂期の声が聞こえてくる。神駄が先頭で進み、茂期とコウジロウ、ミフミ、奥倉の順に森を進んでいる。
「大丈夫だ、すまないな君たちのような鍛えられた人間じゃないので遅くなっているようだ」
「まぁ~気にしないでください」
「青龍会……噂に聞く以上だ。助かるよ」
「任せてください。議員はこの国に欠かせない人ですからねぇ」
茂期の慇懃な声が聞こえた時、仮面の暗視機能越しで前方の木々の間に突如、影が見えた。神駄はCPブラスターを引き抜き、狙い付定めた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ま……待ってくれ。そのひじょーに危険なハァ、ハァ、物を降ろしてください」
影が話しかけてきた。神駄は狙いを定めたまま前方を凝視する。
「あんたは!?」
木の影から現れたのはタンクトップを着てサングラスを掛けた小太りの男であった。胸は銃弾を受けてボロボロで血と皮膚の間から金属性の胸板が覗いている。サイボーグ改造を受けた男だ。
「君は!? 手練君!? 無事だったのか?」
「ぎ……議員、ひじょーに申し訳ございませんでした。私が不甲斐ないばかりに……」
「あんた、手練ツウか?」
「ハァ、ハァ、ハァ、その仮面……青龍会か? よくぞ無事に議員を……ひじょーに感謝します」
神駄は手練の元に向かい身体を支えた。
「……奴らに撃たれてから目覚め、警戒中の兵士を襲い情報を集めた。ハァ、ハァ、ハァ、その結果、議員を連れた君らに行きあった」
「さすがだな、手練ツウ」
「手練君よくぞ無事でいてくれた。青龍会の皆さん、私が生き残れたのは手練君のおかげでもある。ブルー君、彼も連れていってくれ」
「承知しました、議員。ホワイトォ手練を支えてやれよ」
「了解」
「イエローは先頭につけぇ」
「わかりました」
茂期の指示を受け、神駄は手練の肩を手で支えて共に走った。手練は身体はボロボロではあるが足取りはしっかりしていた。手練が神駄に振り向いた。
「ハァ、ハァ、や……奴らの通信を傍受したが……白い男が虫唾山をやったと聞いた。お前か?」
「ああ、そうだ」
「どうやらサイボーグ改造もしていない、人間の身でよくもハァ、ハァ、やるものだ。何者なんだ?」
「……俺は超人を倒す為に生きている。それ以上でもそれ以下でもない」
「お前……」
手練の呟きと同時に内藤からの通信が入った。
『二十五区画まで後少しのようですね。そこにステルスヘリが向かってます。また、群馬県警が鬼念事業団の注意を反らしてくれますので安心してください』
神駄は手練を支えながら先を急いだ。そこに谷元からの通信が入った。
『皆、議員を無事に救ってくれたか。よくやった』
「いえいえ、当然のことをしたまでですよぉ」
茂期が答えた。
『当然のことができる者が不足しているのだ。議員に宜しく言ってくれたまえ。これで特殊戦術室は一歩前進する』
『ありがとうございます』
内藤が言うと通信が途切れた。
神駄の中にある殺伐とした空気は、戦いの終わった今もなお肌にまとわりついて離れない。ここはまだ敵地のど真ん中、気を抜けば一瞬で状況はひっくり返る。
「あと一キロです」
先頭を歩くミフミが手信号で進行方向を指し示す。隊列は密林の陰を縫うように進み、背後を振り向くとカバーしている奥倉は一歩ごとに警戒を怠っていなかった。虫の羽音と遠くの鳥の鳴き声の中、靴底が泥を踏む音だけが妙に大きく響く。
やがて木々の切れ間から、ヘリポートとして確保された小さな空き地が見えた。ローター音が風を揺らし、機体の影が緑の海に落ちている。
その瞬間、神駄はほんのわずかに息を吐いた。長かった夜が、終わりに近づいている。




