54 群馬・ホステージ・レスキュー・オペレーション⑤
青龍会の人質救出作戦。50~55まで続きます。
◆
ミフミが先に動いた。神駄はHK05を構えながら素早くミフミの後を進む。
神駄は駆けながら周囲に目を向けた。暗い室内の為、仮面が暗視モードに切り替わっており、明るさが調整された緑色の景色となっている。リノリウムの床、壁はかつて文化会館だった頃の掲示物が貼られ、所々に弾痕があった。
神駄は足音を消して通路を駆け抜けた。突き当たりの曲がり角でミフミが止まった。ミフミが曲がり角の向こうを見ると左手を挙げた。どうやら敵はいないようだ。ミフミと共に角を曲がった。さらに通路は十数メートル続いており、突き当たりがT字路になっていて右側に非常階段の文字が見えた。
神駄は周囲を警戒しながら通路を駆けた。
「!?」
神駄は通路突き当たり左側の角から人が近づく気配を感じてHK05を構えた。ミフミも同じく構えている。
左側から目出し帽を被った兵士が三人現れた。
「何が起きてるんだ?」
「また、群馬県警かなんかだろ? 返り討ちにしてやるさ」
「ハハハハハハ、日本は軟弱な奴らばかりだからな」
兵士は話しながら非常階段へ向かっているようだ。神駄とミフミは同時にHK05の引き金を引いた。
パシュン、パシュン
「あがぁ」
パシュン、パシュン
「げぇ」
神駄の撃った弾が二人の兵士の胸と頭を貫いた。
パシュン
「ごぉ」
残り一人の兵士の頭をミフミが撃ち抜いた。三人の兵士はその場で崩れ落ちた。神駄とミフミは走る速度を上げ、非常階段へと急いだ。
三人の死体を通り抜け、非常階段を上がっていく。カッカッカッカツ、階段を駆ける音が谺した。音を聞きつけたのか二階の踊場から兵士が顔を覗かせた。
パシュン、神駄は駆けながら瞬時に兵士の顔に弾を食らわせた。顔を貫かれた兵士が手すりから落下した。
踊場まで辿り着いた。二階の室内は一階とは違い、明かりが煌々と輝いている。
神駄とミフミは顔を見合わせるとHK05のレバーを動かしサイレントモードから通常モードへと切り替え、押さえられていた威力を元に戻した。
神駄はミフミと同時に踊場から二階フロアに足を踏み入れた。踊場の入口から通路が続き、その先には広い空間が見える。広い空間の中央に管理事務所の部屋があった。管理事務所と通路の前に四人の兵士が立っていた。皆、目だし帽に黒い戦闘服を着ている。
兵士の一人がこちらに気づいた。
「侵入者だ!」
そう言うや兵士がアサルトライフルを連射してきた。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
射撃音が響き渡った。神駄とミフミは銃を構えながら左右の壁に向かって跳躍した。弾が二人の立っていた場所を通り過ぎ、踊場の壁が砕け散った。神駄は右側の壁を地面と水平に走っていた。ミフミも同じように左側の壁を水平に走っている。
神駄は壁を走りながらHK05の照準を兵士に向けた。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
神駄とミフミ、二人のHK05の射撃音と兵士たちの射撃音が混ざりあい大音響となった。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
次々と兵士に弾が直撃。神駄の撃った兵士が血飛沫を飛び散らせながら管理事務所の壁に叩きつけられた。さらにもう一人の兵士も同じように狙いをつけて連射。しかし、もう一人の兵士は右手で銃撃を行いながら、左腕で頭部と胸部を庇った。
ギィンギィンギィン、金属音を立て兵士のサイボーグ化した左腕が神駄の銃撃を防いだ。
「サイボーグ兵士か……」
神駄はそれでも銃撃を続けながら壁を走る。銃撃を受けて神駄の周囲にある壁が砕け散るも、弾丸を避けながらひたすら進んだ。
神駄の銃撃で兵士のサイボーグ化した左腕がじょじょに壊れていく中、退路を探してか後退し始めた。
神駄は銃撃を止めると瞬時にHK05を左手に持ち替え、右手で「凶悪魔」の柄を握った。鯉口が自動的に切られ、鞘が下にスライドするように下がる。ぐっと力を入れて刀を引き抜いた。
神駄は一際壁を強く蹴り、跳躍すると刀を振り上げた。兵士が驚愕の目で神駄を見つめている。空気を割るように刀を振り下ろした。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
刀が兵士の頭を斜めに斬り裂いた。血と脳漿を撒き散らして兵士が床に倒れ、神駄は兵士の背後で着地した。
横ではミフミが既に二人の兵士を倒しており、管理事務所を中心に左右の通路から集まる兵士たちに銃口を向けていた。
「ここからは個別で動きましょう」
「了解」
神駄はそう答えると近づいていくる五人の兵士たちを睨みながら左手にHK05、右手に凶悪魔を構えた。
「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
兵士たちのライフルなら一斉に銃声が轟いた。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
弾丸が降り注ぐ。神駄は刀を振りかざし、弾丸を次々と跳ね返す。金属の閃光と火花が交差し、空気が裂ける。そのまま地面を蹴り、前へ前へと走った。弾丸が当たる瞬間、刃は光の線となり乱舞した。周囲の壁が抉れて破片が飛び散る。
ギィン、ギィン、ギィン、ギィン、刀で銃弾を弾く音が谺する。神駄は刀で防御しながら、兵士に向けて的確に狙いをつけHK05を撃った。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
「ギャァァァァァァァァァァァァァ」
兵士の胸に銃弾が炸裂し、背後に吹っ飛ぶ。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
「ギャァァァァァァァァァァァァァ」
もう一人の兵士は足を撃ち抜かれ、バランスを崩した所で顔面に銃弾が当たり吹き飛んだ。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
疾走する神駄の仮面に返り血がかかる。
◆
「亜出は銃撃現場に妃殿下は議員の警護に向かいました」
「大義じゃ」
文化会館の二階事務所、虫唾山はデスクに向かい大礼服の埃を払うと横に立つ又苛に笑顔で頷いた。恐らくは群馬県警からの再攻撃だろうが以前にも撃退しておりコウジロウを手に入れ、こちらは余裕がある。
「しかし、また懲りない奴らですね」
「所詮は平和ボケしている者たちじゃ。我らワンゴッドのような危機感を持っておらん。まったくこの日本を独立国として守っていく気概がないんでおじゃる。我らが一刻も早く革命を成し遂げねばこの国は諸外国に食い潰されるでおじゃろう」
「おっしゃる通りです」
「さて、亜出が一人でも奴らは潰せるじゃろう。ここから議員を使ってドキュンの同胞を解放させるでおじゃる」
「元帥もお喜びになるでしょう」
元帥とはワンゴッドを率いる総帥、本間イチシンのことである。今回、大河コウジロウを手中に収め、ドキュンに収監された同志の解放を画策したのは全て本間の指示だ。
「何じゃ?」
室外で鈍い音がした。
「非常階段の方ですな。何かが落ちるような……」
「むっ、怪しいでおじゃるな」
その時、激しい銃撃音と悲鳴が室外から響き渡った。
「何でおじゃるか!?」
事務所の扉が開き兵士が顔を出した。顔がひきつっている。
「殿下! 敵襲です!」
「小癪な! 又苛!」
又苛が無言で頷く。虫唾山は椅子から立ち上がると傍らに置いてあるサーベルを手に取り腰に差した。又苛と共に事務所のドアへと向かった。
「どこのものか知らんでおじゃるが、麿が討伐しちゃる!」
虫唾山は勢い良くドアを開け、悲鳴と銃声が谺す室外へと出ていった。
◆
十二単をものともせずアキミは鬼の形相で地下に続く階段を駆け下りている。
「何たることなの!!」
階段を下りると通路で警備の兵士に怒鳴り散らした。アキミは通路をコウジロウの監禁されている部屋へと向かった。
アキミは虫唾山の妻にして、夫と同様超人である。虫唾山の思想に共感しワンゴッドの元で共に戦っていた。群馬県警特殊部隊の襲撃の際は夫や又苛、亜出と共にそれを退けている。アキミは警察の無駄な再襲撃により、抹茶とお菓子を楽しんでいた時間を奪われたことで腹を立ててヒステリックになっていた。
「群馬の犬畜生共めらめ! わらわの時間を無駄にさせたること万死に値する。どきおろう!」
部屋の前にいる兵士を押し退けると扉を叩いた。格子状になっている覗き窓から中を見る。コウジロウが無表情で椅子に縛りつけられている。
「こら! 大河議員! また、愚か者がわらわらを愚弄しにきた、どうしてくれよう!」
「愚か者は愚かかもしれないし、愚かであるとも言える」
コウジロウが意味の分からないことを言うとアキミは眉間に皺を寄せた。
「何を! わらわがこれから愚か者を……」
その時、上の階から銃声が響いてきた。
「なんであるか!?」
「これも愚か者じゃないかね」
アキミはコウジロウを睨み付けた。
◆
ドォン、銃声と共に神駄の前にいた兵士が倒れた。神駄の周囲には死体となった五人の兵士と弾痕だらけの壁だけが残っていた。
神駄は素早くHK05のマガジンを交換するとミフミがいる反対側の銃声に混じり、近くでドアの開く音が聞こえた。
神駄は視線を通路の先へと向けた。曲がり角から人が近づく気配がする。左手でHK05を、右手で刀を構えた。
角から兵士が半分顔を出す。瞬時に神駄は引き金を引く。
「ぎぇっ!?」
兵士の顔面が吹き飛んだ。その瞬間、顔面を失った兵士の後ろから黒い影が飛び出してきた。神駄は迷わず影に向け銃弾を浴びせた。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
しかし、影は通路の天井近くまで跳躍し銃撃を躱した。影が通路を挟んだ左右の壁を交互に飛び移りながら神駄に近づいてくる。神駄の弾は虚しく空を切り続ける。
「ちっ!」
神駄は舌打ちをしながら近づく影を見極めた。影は大礼服を着ている男であり、サーベルを構えていた。
影は空中から近接し、サーベルで斬りかかった。神駄はHK05の照準を影に向けたが、それよりも早くサーベルの斬撃がHK05の先端を切り裂いた。神駄はHK05を手放し後ろへと飛び退く。
影は着地してサーベルの先端を神駄に向けた。神駄は仮面の中で微笑んだ。ついにお出ましだ。
「虫唾山キタヒトだな」
「麿じゃ」
影こと虫唾山キタヒトは自信満々に神駄に言い放った。
「おことら……何者でおじゃるか! 不敬にも御殿に踏み込んできおって!」
「青龍会だ」
「青龍会じゃと!?」
「俺は超人としての力に溺れたお前らを討つ為に来た」
神駄は刀を両手で握ると素早く踏み込み、下から斬り上げた。
「猪口才な」
ギィン、神駄の刀と虫唾山のサーベルが交差した。ギィン、刀の刃は鋭く真っ直ぐに突き、サーベルは弧を描きながら受け流す。火花が飛び、金属音が響いた。
「くらうが良い! バァァァムクゥゥゥヘン」
虫唾山のサーベルを無数のクリーム色をした光の輪が覆った。
「ぐわぁ!」
光の圧力により刀が押され、神駄は後方へと吹き飛ばされた。なんとか体勢を立て直した。目の前では虫唾山がサーベルを天に掲げ、振り下ろした。
「おろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
サーベルから無数の光の輪が神駄に向かって放たれた。
ドドドドドドドドドドドドドドド!
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
神駄に次々と光の輪がぶつかった。タイクー使いとしての気の受け身と装甲服のお陰でダメージは軽減されているが常人が一つでも光の輪を受ければ肉を切り裂かれる威力だ。
「ぐぅ……」
光の輪による攻撃を受けながらも虫唾山の動きを注視した。虫唾山はサーベルを取り巻く光の輪がなくなるとサーベルを天に掲げていた。
恐らくは天に掲げる動作が光の輪をチャージする役割を果たしているのだろう。
虫唾山がまた、サーベルを天に掲げた。見逃さず神駄は刀を握り締めて迫り来る光の輪を斬り払った。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
ガッガッガッガッ、音を立てながら刀で次々と迫る光の輪を弾いていく。弾かれた光の輪が周囲の壁に当り、抉れて消失、破片が飛び散る。
「不遜でおじゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
ガッガッガッガッガッガッガッ!
「わきまえろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
ガッガッガッガッガッガッガッ!
刀と光の輪が打ち合う。神駄は刀で弾きながら、素早く左手を放すと腰のホルスターからCPブラスターを引き抜き、虫唾山に向けて引き金を引いた。ガォン! 銃声が響く。
「ぐぬ!?」
虫唾山の弾丸が腹部に着弾。気によるガードで威力は削がれ、潰れた弾丸が地面に落ちた。それでも虫唾山は確実にダメージは与えているだろう。
ガォン、ガォン、ガォン
神駄は続けざまに同じ箇所に向けてCPブラスターを三発撃った。
「ぬぐあぁぁぁぁぁぁ!」
虫唾山の腹部から鮮血が吹き出した。同じ箇所への三発の銃撃が気のガードを突き破ったのだ。虫唾山はよろき、サーベルから光が消えた。
ガォン、ガォン、ガォン、ガォン
さらに神駄は銃を撃ちながら虫唾山へと近づいていく。虫唾山は痛みで顔を歪めながらもサーベルで銃弾を弾いた。虫唾山の間合いに入った神駄は刀を振り上げた。
「ハァァァァァァァァァァァァァ」
ガキィィン
刀を虫唾山がサーベルで受け止めた。ギリリリ、刀越しに神駄は虫唾山の顔に近づく。
「麿の身体に傷をつけるとは極刑に値する!」
「失礼」
二人は睨みあった。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン
ミフミの戦う反対側の通路で爆発音が響いた。
その音を契機に神駄は刀をサーベルから放し、虫唾山の肩口に斬りかかる。しかし、虫唾山もサーベルで斬撃を弾き、神駄に突きかかる。それを神駄は下段から掬い上げて防いだ。
ガキィン、ガキィン、ガキィン
刀とサーベルの攻防が始まった。




