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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part2
53/78

53 群馬・ホステージ・レスキュー・オペレーション④

青龍会の人質救出作戦。50~55まで続きます。



◆



 TGSを電子ロックに接続したことで川相ノリコの視界がカメラの映像から切り替わった。


 黒い空間に緑のグリッド状の地面が見える。これがネットワーク空間を可視化したジアドーアの光景である。


 ノリコはこの空間ではホームベース状のピンクの仮面を被り、青龍会で採用されている特殊装甲服を着ている。頭の上に緑色で「ID・ピンク」と表示された。ジアドーア内でのノリコを具現化した姿であり、IDとはジアドーア内において個人を識別する固有の名称である。


 その時、黒い空間の奥、地面の緑のグリッドが膨らみ巨大な人の形へと変化を始めた。胴長短足の人の形となり、やがて表面に色が塗られていく。完全に人と同じような形となった。肩までかかる髪の小太りの中年女性だ。紺色の上着に赤いワンピースを着ている。女性の頭の上に緑色で「システム・アンダートギノス」と表示されている。この電子ロックシステムのジアドーアでの姿と名称である。


「やっとお出ましね、コマンド・ルーティング」


 ノリコは微笑むとアンダートギノスに向かって飛翔した。ピンクの残像を残しながらノリコは高速で飛翔していく。ジアドーア内ではコマンドで動作処理が行われる。アンダートギノスの巨大な身体へと近づいていく。ノリコの十倍はあろうかという大きさである。


 近づくノリコに反応したのかアンダートギノスの目がノリコを捉える。


「コマンド・ムメンキョバック」


 アンダートギノスがコマンドを実行した。このコマンドはアンダートギノス独自のプロトコルによる固有の表現だ。ノリコも一般動作以外は固有の表現になる。


 コマンドが作動し、アンダートギノスは巨大な尻をノリコに向け、凄まじいスピードで突進してきた。


「早い、これに対処するには、コマンド・メンテー」


 ノリコは両腕をクロスさせると自分の十倍はある巨大なアンダートギノスの尻を受け止め身体を守った。ノリコの身体にノイズが走る。


「コマンド・ドーコーホー」


 ノリコのクロスした両腕が光を発し、アンダートギノスを押し返した。吹き飛ばされたアンダートギノスが前のめりに倒れた。再び巨体を立て直し憎々しげにノリコに振り返った。


「コマンド・クモガクレ」


 アンダートギノスのコマンドが発動。アンダートギノスの巨体が雲のように霧状になり見えなくなった。黒い空間にノリコのみが残った。ノリコは精神を集中し、周囲の空間の動きを捉えようとした。その時、何かが近づくのを感じた。しかし、反応が遅れた。


「コマンド・ボイコット」


 黒い空間にアンダートギノスの声が響く。突如、ノリコは右側面に衝撃を受け、大きく吹き飛ばされた。ノイズが飛び散りながらグリッド状の地面を転がっていく。視線を右に向けるとじょじょにアンダートギノスの姿が現れ始めた。アンダートギノスは頭を下げており、頭突きが繰り出されたようだ。ノリコは脳に走る微かな痛みを感じ舌打ちをした。


「……こんな雑魚の攻撃を受けるなんてね。なめんなよ!!」


 ノリコの口調が変わり、アンダートギノスを睨み据えた。


「コマンド・ソーサ」


 ノリコの仮面からレーザーが放たれてアンダートギノスを捕捉。アンダートギノスのシステム情報が次々とノリコにもたらされ、解析されていく。ノリコはアンダートギノスの特性を理解し、打ち破るコマンドを高速で組み上げていく。


 目の前で捕捉されているアンダートギノスが頭を上げ、口を開いた。口内に赤い光の粒子が集まっていく。


「コマンド・シタウチ」


 アンダートギノスの開かれた口から赤いレーザー光がノリコへ向かって照射された。ノリコは動じることもなくしゃがみ、両足に意識を集中。すると両足の甲がピンク色に輝き、光が全身を覆った。ノリコは目の前に迫る赤い光に視線を向ける。


「コマンド・システム・ジョメイ」


 ノリコのコマンドが発動した。ノリコは屈めていた身体を一気に伸ばすと身体が浮いた。同時にピンクの光に包まれたノリコは右腕を突き出し、左腕は脇をしめて構えた姿勢で高速飛翔していく。

 赤い光とピンクの光が激突。両者から激しいノイズが撒き散る。


「コマンド・システム・ジショクカンコク!!」


 ノリコが叫ぶと共にピンクの光がさらに強くなった。光はノリコの拳を先端にしたピンクの槍のようになった。赤い光がじょじょに削られていく。ピンクの光に包まれたノリコはさらに気合いを入れる。ピンクの光が赤い光を引き裂きながらアンダートギノスへと向かっていく。ノリコが何度も「システム・ジショクカンコク」を実行して赤い光を切り裂いていく。赤い光の先にアンダートギノスの巨大な顔が見えた。


「これで終わりぃぃぃぃぃぃぃ」


 ノリコはそう叫ぶとピンクの槍と化した先端がさらに細くなる。ガリガリと音を立てて赤い光が削られていく。ノリコは目の前のアンダートギノスの巨大な顔に向かって突っ込んだ。


「コマンド・クチヲトーラナイ・イライ……」


 アンダートギノスがコマンドを発動しようとするが間に合わない。


バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


 ピンクの槍がアンダートギノスの顔面を突き破った。アンダートギノスの顔面はノイズと共に炸裂した。突き破った勢いのままノリコはアンダートギノスを振り返る。


 頭のないアンダートギノスの身体からもノイズが発生。じょじょにその身体は黒い空間へと雲散霧消した。


 ノリコは勢いを止めて空中で浮遊しながらアンダートギノスが消える瞬間を見届けた。気を落ち着けると茂期たちに通信を開始した。


「……こちらピンク、電子ロックは突破しました。この先も同系統のシステムだと思われますので突破は問題ありません」


 ジアドーア内での時間の流れは現実世界の流れと異なっている。現実では一瞬で高速の情報処理を行っているがジアドーア内においてその処理が仮想現実化されることで体験者の脳内における体感時間が長く感じるという現象が発生する。


 この戦いもノリコの脳内では数分の出来事であるが現実では十秒に満たない間に繰り広げられていることになる。



◆



 神駄は斜面を駆け下りると自らが殺した兵士を一瞥し、前を向いた。通用口の横にある電子ロックの前にいる茂期が頷く。


 ガシュン、音を立てて鉄の通用口が開いた。ノリコにより電子ロックが解除されたのだ。茂期がTGSをパネルから引き抜くと触手のようなコードのみが電子ロックに残った。TGSとコードは遠隔で繋がっており、ノリコは引き続き鬼念事業団のセキュリティーを攻略する。


 神駄が茂期の後ろに駆け寄るのと同時にミフミ、奥倉も到着した。茂期が一度神駄たちに振り向くと通用口の先へと顎をしゃくり、先へと進んだ。神駄も後を追い、通用口を通り抜けた。


 通用口の先は文化会館の横手に面しており非常口のドアが見える。神駄から見て左側はかつての駐車場となっている。先頭の茂期が非常口に向けて駆けた。その後をミフミ、奥倉が続き、神駄は最後尾を駆けた。施設の奥からはざわめきの声が聞こえるが非常口は静かであった。


 茂期が非常口のドアノブを握る。


『ここのロックも解除しました』


 ノリコから通信が入った。茂期が頷き、ドアノブを回し、音を立てずにドアを開け、中へと入った。足音を消して神駄もドアを通り抜けた。ドアの向こうはL字に曲がった通路になっており、突き当たりに舞台裏と書かれた両開きの扉、その右にさらに通路が続いている。


 茂期がTGSを通路に向けてかざした。館内の情報を収集していた。神駄は周囲を警戒しながら、ノリコによる情報収集を待つ。


『ありがとうございます。川相君の方で館内情報の収集ができました。皆さん、マップに館内にいる大河議員の位置を表示しました』


 マップの表示が館内のデータに変更され、三棟に分かれた館内の中央に赤い光点が表示されていた。


『ここはかつての文化会館の施設図を参考に見てみた結果、地下一階の倉庫と思われます。施設図を参考にルートを作成しました』


 マップに赤い進路が表示された。この先にある舞台裏の扉を開け、舞台を直進して、エントランスへと向かう進路となっていた。


『エントランス脇の階段から地下に下りてください。ここから戦闘が想定されます。茂期君と奥倉君は大河議員の確保、林符君と神駄は……虫唾山を仕留めてください。彼が鬼念事業団の中核です。ワンゴッドの戦力を削いでおきましょう。一石二鳥です、皆さんなら十分こなせます』


『了解』


「了解」


『それではまず、林符さんと神駄が先行してください。通路の右を曲がって、突き当たりを左に行くと二階に続く階段があります。事務所がありますので恐らく幹部もそこに詰めているので急襲してください。同時に茂期君たちは確保をお願い致します』


「了解」


『それでは頼みますよ』


 内藤からの通信が切れた。茂期が振り返ると神駄を見つめた。


「さぁて、虫唾山を倒せよ」


「わかっている。議員を任せた」


「じゃあ、行きましょう」


「了解」



◆



 茂期は建物内のざわめきが増しているのを感じた。神駄とミフミが角を曲がると同時に茂期は通路を直進し、舞台裏と書かれた扉を蹴り開けた。茂期の後ろには奥倉が続いている。


 扉の奥は舞台袖になっており、板敷の床に当時の備品がそのまま埃を被って放置されていた。


 茂期と奥倉は舞台袖をまっすぐ疾走するとやがて舞台の壇上へと辿り着いた。客席はガランとしており、奥に兵士が一人装備を直している。茂期たちの走る音に兵士が振り向いた。


「お前は……ギャ!?」


 後ろを走る奥倉が有無を言わせず兵士の頭を撃ち抜いた。茂期は軽く一瞥しただけで走り続けた。その時、二階から銃撃音が聞こえた。


「フン、始まったか」



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