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ハチオウジギア  作者: ティーマン
シーズン1 Part2
52/78

52 群馬・ホステージ・レスキュー・オペレーション③

青龍会の人質救出作戦。50~55まで続きます。



◆



 内藤は装甲車内の指揮所から急速に移動する赤い光点を眺めていた。


「議員が鬼念事業団の手に落ちたようですね。作戦変更です」


 隣にいる川相ノリコがPCを操作しながら頷く。


「根城にしている旧文化会館のセキュリティはどうです?」


「情報から考えると簡易なものと思われます。TGSを施設のネットワークに接続して私のパソコンブでジアドーアにダイブできれば対処できます」


「さすがです」


「事前に彼らのことを調べてみましたが大きな障害はなく進めるかと思います。鬼念事業団はサイバーセキュリティーについてはいまいちでしたからね」


「わかりました」


 内藤はヘッドセットを装着し、谷元に通信を入れた。呼び出し音がなる。


『私だ。どうした?』


「副本部長、議員が鬼念事業団に捕らわれました。ELM《イーエルエム》規定への移行を要請します」


『そうか……想定内だ、承認する。後の処理は気にせず私に任せてくれ』


「ありがとうございます」


『せっかくだ。この機会、存分に利用してくれたまえ』


「はい、任せてください」


 内藤は谷元との通信を切ると室員たちとの通信を開始した。


「皆さんもご存知のように議員が鬼念事業団に捕まったもの考えて良いでしょう。このスピードから車に乗せられて旧文化会館へ向かって運ばれていると思われます。これから川相君から文化会館までのルートを送らせます。作戦を変更します」


『了解』


 室員全員から返事があった。皆、急な作戦変更にも動じず冷静だ。状況は悪化した。しかし、この悪化は初動に失敗した群馬県警の責任が大きく青龍会にとっては解決すればその価値が上がる。さらに価値を上げるには議員確保以上の成果が必要になる。


「任務をELM規定に移行します。合わせて……虫唾山と幹部の処理も作戦に追加します」


 ELM規定が承認されると任務遂行を優先する為、超法規的措置が可能になる。例えば任務遂行の為ならば正当防衛以外での殺人行為も不問となる。内藤はこれを利用し鬼念事業団の幹部を処理、つまりは暗殺することで青龍会の力を内外に示す機会として利用する決意だ。



◆



 作戦の説明が終わり、内藤との通信が切れた。神駄は闘志を燃やした。ELM規定、これで鬼念事業団と交戦できる。内藤の作戦は警戒している兵士を罠で引き付け文化会館の戦力を分散し潜入する。その後は議員の確保と同時にワンゴッドの勢力を削ぐため虫唾山を暗殺するという。これで思う存分超人を倒すことができる。


「お前ら聞いたなぁ? 奴らのアジトに潜入だ。私たちの人数を知られたくない。一人当たり五人分の働きをしろよぉ」


 茂期が全員を見渡して言った。神駄は無言で頷いた。


「行くぞ」


 茂期の号令と共に神駄は再び山の中を進んで行った。視界に文化会館までのルートが表示された。


 辺りは夜の帳が下りようとしている。ホー、ホー、梟の声が響いている。神駄と室員たちは山の中を奥へ奥へと進んでいった。地面に人間の骨が落ちている。随分と年数が経っているようだ。遠くで獣の唸り声が聞こえた。


 斜面を登っていくと広場が見えた。仮面のディスプレイに広場に三個の生体反応が表示された。警戒中の鬼念事業団の兵士だ。先頭の茂期が止まる。


「敵だねぇ、だがこちらに気づいていない。巡回ルートの参考にしろ」


 先頭の茂期が広場を迂回して木々の中を進んでいく。神駄も後に続く。


 群馬の山中でヒリヒリとした緊張感が続いている。襲いくる敵は鬼念事業団の兵士だけでなく、野生化した獣も含まれる。以前作戦で群馬の地に訪れた時と同じくこの緊張感に懐かしさを感じていた。


 かつて神駄が師匠として慕うジョウジ・チャンドラー、通称Gチャンと呼ばれる伝説的な傭兵がいた。日本大災害で神駄は両親を失い孤児となり彷徨っていた。そんな中、Gチャンに拾われ、命を救われた。そして、超人が台頭してくる世界を生き残る為に格闘術タイクーを教えてもらうことになった。その修行の一環で群馬を訪れていた。


 神駄はGチャンと共に群馬の山中に籠りひたすらに生き抜いた。自然の猛威やゲリラにより幾度も死の淵を彷徨った。その中で木々や野性動物等周囲に溢れる気を感じる能力を養い、気を理解した。さらに気を超人程に使えない人間として最大限且つ効率的に気の力を引き出すタイクーを会得した。


「師匠……」


 神駄は懐かしむように呟いた。だが、そのGチャンも任務の途中で死んでいた。神駄にとって師匠であり親代わりに思っていたGチャンの死は親の死を上回る喪失感であった。同時期に起きた親友にして恋人である岡野アキコの死も思い出し、神駄の胸は締め付けられた。


「ホワイト、スピードが落ちてるぞぉ」


「わかっている」


 茂期からの指摘に現実に戻ると神駄は木々の中を進んでいった。


 数十分歩き続けると木々の間に雑草が生えた開けた空間が見えてきた。茂期が立ち止まる。


 TGSからの情報に目をやると鬼念事業団の兵士が三人向かってくる。進むスピードから通常の巡回のようだ。茂期が皆を先導し、近くの茂みに誘いしゃがんだ。死角なっていた為に兵士をやりすごした。茂期が振り返った。


「ちょうど良い。今の奴らとさっきの奴らから巡回ルートを予測できるかいピンク?」


『やってみます』


 ノリコが答える。ピンクとはノリコのコードネームだ。


「よぉし、グリーン、罠を張れるか?」


「……カメラ付きP6爆弾の設置と機銃ドローンで仕掛ける」


「良いぞぉ、これで戦力を分散できるねぇ。後は比較的警備が薄い文化会館の斜面側へのルートを……」


「ブルー、斜面側を疑われると後々面倒だ。巡回ルートへの罠の設置と斜面側とは反対側にも罠を仕掛け混乱させるのはどうだ?」


「まともなことを言うな、ホワイトォ。良いだろう」


「俺が仕掛ける。群馬は任務以外にも訪れて慣れている」


「まかせたぞぉ、ただし、何かあった場合は支援できないからな」


「わかっている」


 神駄が奥倉に目をやる。奥倉がダッフルバッグを下ろし、テニスボール大のP6爆弾を三個手渡した。P6爆弾は汎用性の高い小型プラスチック爆弾である。さらに飛行機のラジコンのような機銃ドローンを受けとる。機銃ドローンはノリコによる遠隔操作で対象を機銃で攻撃する。


 神駄はP6爆弾を腰のポーチに入れると立ち上がった。


「後でな」


 神駄はそう言うと木々の奥へと駆け去った。



◆



 コウジロウは全身の痛みで目を覚ました。目の前にコンクリートの壁が見える。


 周辺を見ようとするが頭は動くが身体が動かない。身体は椅子で座った状態でロープにより固定されていた。


「目が覚めたか?」


 扉の前に立つ黒い目出し帽を被った兵士が嘲るように言った。扉の前にはもう一人同じ格好をした兵士がいる。


「君たちはワンゴッドの一員だね」


『麿じゃ。おことは人質じゃ、黙っておじゃれ』


 捕まった時にいた虫唾山を名乗る男の声がスピーカーから流れた。


「人質ということは私は捕らえられて、交渉材料になったということだね」


『おことを使って、ドキュンに送られた同朋を解放させるでおじゃるよ』


「……人質交換という、できっこないことに挑むのは格好良くチャレンジングであるべきだ」


『何を言ってるでおじゃるか』


「私を捕まえたからにはもっとチャレンジングな交渉をして欲しいね」


『もう良い、おことが何を言っているのかわからぬ。大人しくしておれ』


 スピーカーからの音声が切れた。コウジロウは目を瞑ると思索に耽った。



◆



 神駄は文化会館の斜面とは反対側の平地の木々の中にP6爆弾を三個と機銃ドローンを設置し終わった。ここから斜面側までは三十分程かかる。


「ちっ……」


 木々の間から巡回している兵士二人の姿が見えた。神駄は二人をやりすごし、文化会館を迂回して斜面に向かっていった。音もなく走りながら文化会館のあたりに目をやると照明の光が夜空を照らしていた。


 途中、何度か巡回中の兵士をやりすごしながら、文化会館の裏手の斜面へと辿り着いた。斜面を登ると宵闇の中、斜面の向こう側にある文化会館の照明の明かりで煌々としている。


 斜面の頂上に逆光の中、三人の影が浮かび上がっていた。茂期、ミフミ、奥倉だ。神駄が後ろから近づくと茂期が微かに頷いた。奥倉の横で立ち止まると照明で照らされた光景を見つめた。


 文化会館は三棟の建物が一つになっており、駐車場が隣接していた。駐車場は装甲車や戦闘ヘリの置き場になっている。至るところに目出し帽と戦闘服を着た黒づくめの兵士たちがアサルトライフルを構え巡回している。さらに文化会館の周囲は壁で覆われており、壁の上には監視カメラとAI機銃が設置されていた。


「そろそろ始めようか」


 茂期がそう言うと神駄は小さな液晶デバイスを取り出した。これがP6爆弾の起爆装置になっており周囲の映像が見えた。奥倉も同じようにデバイスを持っている。


 P6爆弾を一箇所爆発させて巡回する兵士の気を引き、駆けつけた兵士をP6爆弾で攻撃。さらに駆けつけた兵士を機銃ドローンで迎撃しその隙に文化会館へと潜入する。


「やれ」


 茂期の言葉で神駄はP6爆弾の一つを起爆した。同時に奥倉も押しているのが見えた。


 ドォォーン、ドォォーン、くぐもった爆発音が聞こえた。そこからは爆発現場を確認にきた兵士たちが神駄と奥倉の爆弾の餌食になり、ノリコの操作する機銃ドローンの銃声が鳴り響いた。その後、文化会館で兵士たちのどよめきが上がった。さらに警戒音と共に十数名の兵士が次々と外に出ていく。兵士たちはジープやバイクに乗ると二手に別れ、爆発現場に移動した。


 茂期が頷く。神駄は斜面を見下ろした。通用口には左右に兵士が四人ずつ、監視カメラとAI機銃が二台ずつ配置されているのが確認できた。兵士たちは混乱しながらも通信で状況を確認しながら周囲を警戒しているようだ。


『皆さん、良くやってくれました』


 内藤から通信が入った。


『画像を確認させて頂きました。まず、通用口を守る兵士、こちらを林符君と神駄で排除して下さい。同時に奥倉君がLE《エルイー》弾で監視カメラや機銃を無効化。茂期君はそれと同時に通用口の電子ロックにTGSを設置。後は川相君が電子ロックを解除しますので、皆で中に潜入してください』


「了解」


『了解』


『それではお願いしますね』


 通信が切れると茂期が手を動かして各々の待機位置の方向を示した。


 神駄は頷き、斜面を下って右側四人の兵士を狙撃できる位置まで行くと木を盾にして銃を構える。HK05のレバーがSのサイレンサーモードを指していることを確認した。サイレンサーモードは威力を半減する代わりに消音を可能にする。レバーは他に通常モードのN、特殊弾モードのEがあり、状況に応じて使い分ける。


 神駄の左横ではミフミが木の影から下を見ていた。神駄は下に目をやると奥倉が木の影で手の平サイズの筒をHK05の銃口に装着している。これはLE弾という電磁波による電波妨害弾であり半径二メートルを数十秒間に渡り電波を遮断することができる。奥倉がLE弾を装着し終わるとHK05のモードをEに切り替えた。奥倉のさらに下では茂期が通用口まで素早く行ける場所を見つけ木陰に腰を下ろしているのが見えた。


 神駄はHK05を壁を警備する兵士の一人に狙いを定めた。警備の兵士は周囲に気を配りながらもこちらの動きに気付いていない。後は合図があり次第右の四人を狙撃する。


『グリーン、イエロー、ホワイト、準備は良いかい』


 茂期から通信が入った。


『グリーン、準備完了』


『イエロー、準備完了です』


「ホワイト、準備完了だ」


『よし、ブルーも準備完了だぁ。それではカウントする、五……四……三……二……一……ゼロ!!』


 茂期の声と共に神駄は改めて兵士の頭に狙いを定めるとHK05の引き金を引いた。


 パシュン、小さな音と共に弾丸が発射され兵士の頭を貫いた。壁に赤い血が付き、その場に崩れ落ちた。横にいた兵士が振り向く。すかさず狙いを横に向けて引き金を引いた。


パシュン、パシュン、パシュン


 神駄は数秒の間に正確に三人の兵士の頭を撃ち抜くと三人はその場で崩れ落ちた。横に視線を向けるとミフミも左の兵士四人を音も無く射殺していた。


 後方からバシュン、という音が三回鳴った。奥倉がセンサーを撹乱する適切な位置に向けてLE弾を発射したのだ。発射されたLE弾の先端部が花の様に開くと監視カメラや AI機銃付近の壁に着弾。開いた先端部が壁に食い込み固定。LE弾が作動し機器のセンサーが遮断された。同時に神駄は斜面を全速力で下りていく。



◆



 装甲車内のノリコは機銃ドローンをオートモードに切り替えた。足下から金属製のアタッシュケースを机の上に置く。ノリコはアタッシュケースを開くと中から仮想現実であるジアドーアに接続するためのデバイス「パソコンブ」を取り出した。ジアドーアと接続するデバイスは「パソコンボーイ」が一般的だが、パソコンブはより脳波と同調できるように改造された上級者モデルである。その為に負荷も大きく慣れない者が使用すると処理が追いつかずに脳に異常をきたす。さらにこのパソコンブはノリコに合うようにチューンナップされたノリコ専用となっている。


 パソコンブは頭に被って使用する為、ヘルメットのような形状をしていて目の部分を長方形のカバーが覆っている。色はノリコによりピンクに塗られていた。パソコンブをネットに接続することで脳波が同調し、目の前に仮想現実が映し出される仕組みとなっている。


 ノリコはパソコンブを被るとケーブルをポートに挿入した。TGSとパソコンブが同期する。


「うっ」


 脳波と同期が開始されノリコの頭に一瞬痛みが走る。


「大丈夫ですか?」


「……同期完了しました」


「頼みましたよ。彼らが動き出しました」


 ノリコの眼前にはTGSのカメラを通した映像が映し出された。


 画面から、LE弾起動と共に茂期が通用口の電子ロックへと向かって全速力で走っていく様子を映していた。斜面を下り、死んだ兵士の横を抜け通用口に辿り着く。電子ロックは液晶パネルとボタン、カードリーダーで構成されているのが確認できる。


 ノリコは食い入るように映像を見つめていた。茂期がTGSを電子ロックへ向け、TGSの内部から自動的にケーブルが突き出た。ケーブルは触手のように動きながら電子ロックの基盤に接続する為にカードリーダーの隙間から中に入ったのが見えた。


『ピンク、接続完了したぞ』


 残りは三十秒ってとこね、ノリコの視界に数字のノイズが流れだした。



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