49 神駄・ズ・ジョブ④
シーズン1後半開始。神駄目線の話。46~49まで続きます。
月・金の週2回投稿となります。
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神駄は茂期から残り二つのカツラへと目を向けた。二つのカツラはそれぞれ神駄とミフミに高速回転して向かっていく。
ギィン、背負った刀を引き抜くと高速回転してきたカツラに斬り付けた。刀がカツラとぶつかり拮抗する。
「ホワイト、イエロー! 気を付けろぉ! こいつはなかなかできるぞぉ……くっ」
目の前では茂期が薙刀を構えたまま、カツラの圧力で靴がアスファルトを削りながら後方に押されていく。辛斗が笑顔を浮かべて店内へと走り去るのが見えた。
刀で弾かれたカツラがさらに高速で目の前に迫るも素早く刀を振るって防ぐ。弾かれても次々と迫るカツラを正確に捌いていく。
隣ではミフミがサーブル剣を器用に操り、高速回転しながら殺到するカツラを突いて捌いていた。切先に弾かれたカツラが再びミフミに斬りかかる。さらにサーブル剣を突く。
神駄は歯噛みした。辛斗の能力はカツラを操ることだとはわかっていたが複数同時に自動制御するとは思っていなかった。
この超人の力に対して人間である神駄が対応できる一番の要因は対超人格闘術「タイクー」を会得していることにある。これは茂期、ミフミ、奥倉も同じだ。仮面はあくまで状況判断の為のサポート、装甲は防御力強化に過ぎない。
常に全身にある気孔が解放され、気がくまなく覆っているのが超人である。対して人間の身体は通常、「気孔」と呼ばれる無数の開口部から薄く気が漏れ出し、生命維持に必要な分だけ膜のように身体を覆っている。
火事場の馬鹿力は、この気孔が一時的に解放される現象であり、本来は制御不能かつ反動が大きい。タイクーはこの現象を訓練と技術で自在に制御し、意図的に引き出す体系である。
さらに神駄の会得したタイクーは人鬼流と呼ばれる特殊な型で開祖であるGチャン本人から習得していた。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ガギィン! 神駄は刀を構えると渾身の力でカツラを弾いた。一際遠くカツラが弾かれた時、素早く刀を背中の鞘に戻して息を大きくつく。
構えをとり、両足の爪先に気を解放するイメージを描いた。首を狙って迫るカツラを見据える。
神駄は右足で蹴りを放つ。爪先が光り、カツラに直撃。さらに左足を軸にして遠心力で身体を反転させながら再び、右足で蹴りを放つ。
「人鬼旋風脚!」
叫ぶ。さらに回転しながら右の蹴りをカツラに繰り出していく。
ドギャギャギャギャギャ! カツラに次々と蹴りが放たれ次第にカツラがボロボロになって壁に叩きつけられカツラは回転を止めた。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
神駄は大きく息をついた。
隣では茂期とミフミがカツラと格闘していた。 神駄が店に目を向けた時、
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
辛斗の絶叫が聞こえた。
ガシャーン! 辛斗が店の正面ガラスを突き破って向かいのビルの壁に激突。
割れたガラスを跨いで店内から、巨大なハンマーを持つ奥倉が外に出てきた。辛斗は店内に逃げたが、奥倉にやられたのであろう。
奥倉が巨大なハンマーを振りかぶると、壁で喘いでいる辛斗の腹に打ちつけた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
絶叫が響く。奥倉が再び、巨大ハンマーを振りかぶる。辛斗は血を吐きながら手をあげた。
「ぐぅ、アタヅラー!」
辛斗のポケットからカツラが一つ飛び出した。奥倉がとっさに巨大ハンマーで防ぐ。
辛斗が口の血を拭い、茂期が薙刀でカツラと格闘している横をすり抜けて駆けていった。
「させるか!」
神駄は辛斗を追った。ミフミと茂期の横を駆け抜ける。
暗い路上に戦いの音、神駄と辛斗の駆ける音が響く。通りの店は関わりたくないのかひっそりとして物音を立てない。
辛斗が振り返ると立ち止まりポケットからカツラを取り出して放り投げた。
「アタヅラー」
カツラがこちらに高速回転で向かっていく。神駄は拳を握り、腰を落とした。
辛斗に被害に遭った者たちの顔が頭に思い浮かぶ。そして、心の奥底に渦巻く超人に対する憎しみと悔恨の念が一気に押し寄せる。
「ここで終わらせる」
ダッ! 神駄は殺到するカツラと辛斗に踏み込んで突進した。振りかぶる拳に微かな光が宿る。
「人鬼神拳!!」
神駄はカツラに向かって大きく拳を打ち付ける。さらに打ち付ける。左右の拳を連打した。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
無数の拳がカツラに叩き込まれて原型を留めない程になった。
「カツラがぁ!? 今いったい何が起こっているんだ」
焦った辛斗の顔が砕け散ったカツラの向こうから見える。神駄はそのまま突進して拳の連打を辛斗に叩きつけた。
「ギャァァァァァァァァァァァァァ」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
無数の拳が辛斗の顔面に打ち込まれていく。
神駄は瞬間的に気を開放して拳を叩きこむ。さらに拳が奥に届く際にも気を開放して気を人体内部へも送り込む。気を二段階開放して内外から人体破壊を行う技こそが人鬼流の特徴である。
「ギャァァァァァァァァァァァァァ」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
さらに無数の拳を辛斗の胸と腹部に打ち込んでいく。軌道を変えて再び拳を顔面に叩き込んだ。
「ギャァァァァァァァァァァァァァ」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
再び拳が胸と腹を捉える。
「ギャァァァァァァァァァァァァァ」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
辛斗が血反吐を吐きながら猛連打を受け続け、ついには白目を剥いた。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
神駄は拳を固めて渾身の一撃を辛斗の顔面に放った。
「げへぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
辛斗が顔面に拳を受けて吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。構えたまま残心をとる。倒れた辛斗の身体がヒクヒク、と震えている。
神駄は大きく息を吐いて構えを解くと辛斗に向かってゆっくりと歩み寄る。そして、倒れた辛斗の胸ぐらを左手で掴んだ。
「どうだ? 人を殺し続けたお前が死にかけているのは?」
「ぐ……うぐ……私が悪かった……い……命だけは助けて……」
「命乞いか? お前のような超人はこの世にいるべきではない。超人がいるからアキコは……俺が一人残らず駆逐してやる」
「アキ……コ? 助け……」
「動物以下だな」
吐き捨てるように言い放つと拳を固め力を集中させる。辛斗の顔面に止めの一撃を加える為に振りかぶった。
「!?」
神駄の拳を誰かの手が止めた。
「そこまでですよ。ホワイト」
振り返ると内藤が拳を掴んでいた。
「室長……」
「この男の持つカツラには被害者の頭部が使われている。証拠を手にいれました。我々が確保しましょう」
「……」
神駄は黙って拳を下ろす。内藤が引き取り辛斗に手錠をかけた。
内藤の後ろから茂期、ミフミ、奥倉がカツラを手にして近づいてきた。
「カツラが急に止まったと思ったら……ふん、ホワイトに殺されなくてよかったなぁ、辛斗」
茂期が顔を神駄に向けて皮肉を込めて言った。神駄は舌打ちした。
「さぁ、辛斗マキオを車に運びましょう」
内藤の陽気な声が通りに谺した。
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神駄は周囲を見渡した。夜なのに明るい。村が燃えているのだ。人々の死体がそこかしこに転がっていた。皆、村人で良くしてくれた人ばかりだ。
ふと下に目をやるとショートカットの若い女性を抱いていた。若い女性は血にまみれている。若い女性は恋人の岡野アキコであると気付いた。
「アキコ!?」
「ミ……チオ」
アキコは苦痛に喘ぎながら何かを伝えようとしている。アキコの輪郭がぼやけた。神駄は涙を流していた。
「俺は……」
「こ……れで良いの……君は何も悪くない……悪いのは私……超人の力……」
「こんな……俺にはお前だけが……」
「ミチオ……君なら……他の人にこんな思いをさせないようにすることができる」
「他の人!? そんなのは関係ない! 俺は」
「ありが……とう」
アキコが目を瞑った。抱いてる手からアキコの力が抜けていくのがわかる。
「あ……あ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
神駄は大声で叫んだ。
「アキコォォォォォォォォォォォォォォォ」
叫びながらしだいに意識が遠くなっていった。
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「アキコォ!?」
神駄は気付くと煎餅布団に寝ていた。布団の下にあるフローリングの固さを感じ、現実に戻ったことがわかった。自宅のアパートでいつもの悪夢を見ていたのだ。Tシャツが汗でぐっしょりと濡れていた。身体を起こして時計を見ると夜中の三時だ。時計の横にアキコとツーショットで撮った写真があり、悪夢を思い出し胸に痛みが走った。
「アキコの為にも、俺は……もっと超人を倒さなければならないということか」
神駄は呟いた言葉を反芻し、心に刻みつけていた。




