47 神駄・ズ・ジョブ②
シーズン1後半開始。神駄目線の話。46~49まで続きます。
月・金の週2回投稿となります。
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神駄は白のセダンで国分寺区の住宅街を走っている。五人目の被害者である小桧山タロウの住居に向かっていた。
左手でハンドルを握り、右手で煙草を燻らせながら神駄は事件について考えた。何の為に五人の若者を殺したのか? 持ち去った頭頂部をどうするつもりだったのか? 高速で動くカツラとは? いくつもの疑問が浮かんでくる。
物思いに耽りながら住宅街の中を数分走ると目的の場所へと着いた。小さな古い二階建てのアパートである。アパートの前に坊主頭の若い男が立っていた。捜査一課に所属する会員の成宇フタキだ。
神駄は白のセダンをアパートの前に止めると成宇の元へと向かう。
「神駄さん、僕が案内しますよ」
成宇が笑顔で話しかけてきた。二人は何度も捜査を共にしており、成宇は神駄を先輩として慕っている。
「頼む」
成宇が先導してアパートの階段を上っていく。
「わかりました。青龍会は本当に尊敬しますよ。うちは企業や反社に金を貰って温い捜査しかしないし、超常事件はよっぽど重要な事件じゃない限り葬りますからね」
「腐っているな」
「だから、僕は青龍会に協力するんです」
成宇が二階の真ん中にある部屋で止まった。
「ここが小桧山の部屋です」
成宇は手袋を嵌めると鍵を差し込みドアを開け、中へと入っていく。神駄も手袋を嵌めて成宇に続いた。
1DKの室内は雑然としており、生活臭が残ったままだ。遺品は捜査資料として一部は持ち出されたがまだ、親族がショックのあまり遺品整理まで手がまわっておらず、そのままになっている。
「神駄さん、どんな手がかりを探そうとしているんですか?」
「犯人は凶器がカツラであることと頭頂部を持ち去っていることから、この線で被害者の繋がりを探っていきたい」
「わかりました」
成宇と手分けをして室内を物色した。
リビングルームにはベッドが置かれており、枕元に司法試験の本が山のように積まれている。神駄は本を一冊、手にとると付箋や書き込みがびっしり書かれていた。大学院に通いながら弁護士を目指していたという。やりきれない思いになり、目を瞑る。
引き出しを開けて中を見ていくがそれらしい物は見つからない。ダイニングへと向かうと冷蔵庫の扉にマグネットで数枚の紙が貼られているのに気がついた。マグネットを外して紙を見ていく。
中の一枚に「美容院オーケーラウンド新装開店割引チケット」と書かれたチラシがあった。下に三回分の割引券がついており、一回分が切り取られている。
「これは……」
「どうしました」
成宇が近づいてきて、手元のチラシを見た。
「美容院のチラシですね。場所は新宿駅。たしか小桧山のバイト先と大学が新宿でしたね」
「……成宇、他の被害者もこのオーケーラウンドを利用していないかどうか店には直接聞かずに周辺から調べられるか?」
「やってみます」
神駄はチラシをじっと見た。開店は三ヶ月前、事件が発生したのも三ヶ月前であった。頭頂部、カツラ、もしかしたらこの美容院が鍵になるかもしれない、待っていろ、姿の見えない敵の一部を捉えたような気がした。
神駄は成宇と共に現場から離れると近くの喫茶店に行き、捜査状況を整理することにした。
「あっ!?」
成宇がタブレットを見ながら大声をあげた。
「どうした?」
「は……はい、二人目の被害者がトイッターをやっているのでアカウントを見たら、事件当日に髪を切ったことをトイートしてます」
喫茶店で成宇の話を聞きながら、煙草を強く灰皿に押し付けた。
「どの美容院だ?」
「そこまでは書いてませんでした」
神駄は携帯端末を取り出し、オーケーラウンドのサイトを開いた。粗削りな手作りのサイトであり、店主の経歴が載っていた。
「辛斗マキオ、五十一歳。埼玉出身で埼玉にいた頃から美容院に勤め、独立して新宿で美容院を出店か……」
◆
薄曇りの午後、茂期シュウジは中野区にある住宅街を訪れていた。最初に起きた事件の現場である。
ここで一人の命が奪われた。今はもう何ひとつ残っていない。ただ、人ひとりが命を落としたという事実だけが、ひんやりとした空気の奥に沈殿していた。なにかを見落としている。
足元の排水溝、電柱の根元に散った砂埃、壁に走る擦れた跡、日常の風景に紛れた細部を見ながら、茂期は携帯端末の捜査資料を見る。
被害者の村田トシカクはこの日、自宅付近の路地裏で殺された。茂期が改めて会員を使い、友人の供述をとった所、村田は髪が長く邪魔になったので、新しくできた美容院がサービスしているから行ってみると話していた。
神駄が直感で洗っている美容院はたしか、隣の新宿区にある。村田もサラリーマンで新宿勤めだ。奇妙な符号を感じた。茂期は生意気で他者を寄せ付けない神駄が嫌いだ。その一方で勘の良さと能力は認めていた。
プルルルルルル、携帯端末が鳴り、茂期は通話ボタンを押した。会員だ。
『茂期さんが追っているのと似た未解決事件が四年前にも埼玉であったようです。埼玉県警の友人が教えてくれました』
「埼玉だと?」
携帯端末を握りしめた。
『ええ、若い男で頭部を切り裂かれており人工の毛髪も見つかっています、捜査資料はデータで送っておきますね』
「被害者に頭髪に関わる事項はあったかい?」
『美容院からの帰りに事件に遭遇したようです』
「また美容院か……で、その美容院は?」
『移転した店で……えーっとオーケーラウンドです』
ニヤリ、と笑った。
◆
昼下がりの喫茶店、人通りから外れた路地にひっそりと佇んでいた。古びたランプの光が木目のテーブルを淡く照らし、カップから立ちのぼる湯気だけが時間の流れを示している。
ミフミは科捜研の会員、近藤タカシと向かい合って座っていた。
「この前、渡した訓練用人工毛髪はどうだった?」
ミフミは神駄、茂期の情報からオーケーラウンドの訓練用人工毛髪の納入履歴を追っていた。埼玉の美容商材卸がオーケーラウンドに開店直後からハゲランス製品を納入していたことを掴んだ。
「ビンゴだ、今回押収された人工毛髪、四年前の事件現場にあったものとも製品として一致したよ」
近藤の低い声が、カップの縁を叩くように響く。ミフミは手にしていたコーヒーを静かに置いた。
「同じもの?」
「そうだ。二年前に廃番になった同一製造番号の市販品。すべて一致している。この人工毛髪を利用している美容院は多いけど、事件内容を考えるとここまで共通点があるとね……」
「オーケーラウンドにすべて収束している」
そう言うと近藤がカップを口につけて同意するように頷いた。ミフミはしばらく黙ったまま、窓の外を見つめる。秋の陽が傾き始め、通りを歩く人々の影が長く伸びていく。
「とは言え、完全な証拠品にはなり得ない」
「そうですね」
「近藤君、ありがとう。まっ後はなんとかする。私たちが動いたからにはこれ以上、被害者は出ない」
ミフミは確信に満ちた微笑みを見せた。青龍会は超人犯を逃さない。
◆
特殊戦術室のオフィスで内藤セイイチはPCと向き合っていた。内藤と分析官のノリコ以外はオフィスを出払っている。
特殊戦術室の室員や会員からの報告を総合し、指示を与えた。
「川相君、監視カメラに映った男と本人の照合はできましたか?」
「はい、身長や特徴は合致してます」
「被害者は皆、オーケーラウンドを利用していると裏付けが取れました。人工毛髪もオーケーラウンドに納品したものと種類は一致してます、ただこれは既製品なので証拠としては薄いですが」
「茂期さんの報告にあった事件は……」
「ええ、埼玉県で同じような未解決事件が確認できました、埼玉の被害者も辛斗の店に通ってますし、人工毛髪も同一です」
「人工毛髪は今後の検察への対応に使えますが、まだ弱いですね……ただ、このままにしておけません。少し強硬手段を使いましょう」
内藤は細い目をさらに細めた。




