45 ザ・プレイヤーズ・イン・ザ・シャドウズ③
シーズン1前半の終わり。影で暗躍する者たち。43~45。ここでシーズン1前半は終わりで1週間お休みとなります。
シーズン1後半は6月22日(月)に再開します。後半は基本的に月・金の21時、週二回投稿となります。
スピンオフシリーズと短編の開始したのでこちらもお楽しみください。
※ハチオウジギアと同じ世界観で起きる出来事です。単独でも読めます。
退魔スピンオフ「ハチオウジギア鬼譚」はこちら▼
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ハチオウジギア短編集はこちら▼
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黒服の男は「築源自動車」を出ると外に停めていた高級車の後部座席に乗り込んだ。運転手がエンジンをかけるとゆったりと動き出した。黒服の男はシートで寛いでいる頬がこけた眼鏡の男に話しかけた。
「成功です、築源はヨンロウの支援を受けることになりました。これで反超人組織の動向を掴めるかと」
「良くやりまぁうした」
頬がこけた眼鏡の男はそう言うとおもむろに携帯端末で通話を開始した。
『はい、なんだ』
「私でぇいすっ」
『はい、どうだった?』
「うまくいきまぁうした、単純な奴らでぇいす。私の反超人会ヨンロウの支援を受け入れまぁうした。これで奴らも駒として活用できるでしょーう」
『はい、良くやってくれた。反超人の芽になる組織の一部を押さえたな』
「計画通りでぇいすね」
『はい、社長もお喜びになるだろう』
頬がこけた眼鏡の男は目を細めて頷いた。
◆
オフィスの一室。リーゼント風パーマの男がPCを操作していた。画面には人名リストがあり、多くの名が記されていた。
「お抱えの超人も随分と揃いましたね」
ふいに部屋の隅から声がした。リーゼント風パーマの男はPCから顔をあげると声のする方を不快げに見た。部屋の隅に黒いフードを着たリトルグレイの異名を持つ男が立っていた。
「はい、あなたか。部屋に入る時は事前に言ってほしい。何の用だ?」
リーゼント風パーマの男が急かすように言った。リトルグレイが忍び笑いを漏らした。
「すみません、それにしても大変ですね。エイトプリンスのまとめ役であるあなたにご注進。各国の反PTA派が手を組み始めているようです。ご注意が必要ではないですか?」
「はい、そんな奴らよりもまずは伊藤インダストリー等、他の派閥をなんとかする必要がある」
「そうですか」
「はい、あなたと話しているのは時間の無駄だ……何の用だ」
「ドウナッテシマウノカを手懐けたようですね、私も新たな火種を見つけましたよ」
「はい……最初からそれを言え。詳細を聞こう」
リトルグレイがニヤリと笑った。
◆
日野区役所前にある中央公園のベンチにソフト帽にトレンチコートという出で立ちをした後藤が座っていた。後藤はコーヒーを片手にパン屑を目の前にいる数羽の鳩にあげている。すると不意に鳩が飛び立っていった。
「後藤さん」
後藤が鳩から視線を上にあげると赤いスーツに黒いシャツ着た額の広い中年の男が歩み寄ってきた。
「呼び出してすまない。見ないうちに随分と出世したな」
男は国家安全保障庁の事務次官を務める大源シンタであった。
「出世かい。色んなもんに縛られて身動きがとれないよ。昔は楽だった。そう思わないかい?」
大源が後藤の隣に腰を下ろした。後藤は大源を見ずにコーヒーを飲んだ。
「後藤さん、最近は何をしてるんだい?」
「相変わらずバーのマスターだ」
「バーのマスターね……勿体ないぜ」
「引退したからな」
「それなのに私を呼び出すとはどういう風の吹きまわしだい? 再び国のもとで働きたくなったか」
「冗談じゃない。派閥争いの為に多くの者を殺してきた。私は疲れたんだ。だが、そのお陰でお前は今の地位にいる……そうだな?」
「皮肉かい」
「いや、お前には感謝している。私は限界だった……その上でこの老いぼれの頼みを聞いてくれないか?」
「頼み? 私は利がないと動かないぜ」
「心配するな。お前は変わらずこの国がPTAに良いようにやられている状況に不満を感じている。何とかしたいと思っているのだろ?」
「当然だぜ。残念ながら国はPTAに屈した。あの頃には考えられなかったがな。新たなエネルギー源である聖石の分配に目が眩んだんだ。その結果、奴らは利益の為に罪のない国民を虐げていながら何の罰も受けてない、全てはPTAの思いのままよ。と言いながらPTAも一枚岩じゃないがね」
「PTA、特にフシモリ一派はどうだ?」
「奴ら、他の派閥企業を圧倒的な力で押さえつけているぜ。政府に侵食しているPTAもフシモリ色が強い」
「やはりな……どちらにしてもこのままフシモリが勢力を拡大すれば踏みつけられる人々が増えることになるようだな」
「そうだ、特にフシモリは超人への思い入れが強い。奴ら、いずれでかいことを考えていると俺は睨んでる」
「でかいことか……私も同じことを考えていた。フシモリは危険だ。だから、細やかな抵抗だと思って私にフシモリの情報をくれないか?」
「後藤さん……そうかい……だが、私のもとに来るつもりはないんだろ」
「私は私の意思で動く」
後藤は空になったコーヒーカップを握り潰した。
「良いぜ、面白くなりそうだ。必要な情報があれば言ってくれ、ただし、後藤さんの方でもフシモリやPTAに関する情報が入れば提供してくれ。ギブアンドテイクだぜ」
「良かろう」
「わかっているだろうが、利用させてもらうぜ」
「お前に連絡した時点で覚悟はしている」
大源は微笑むと葉巻を取り出し火をつけて吸った。後藤の前に煙が漂ってきた。
「早速だがエイトプリンスについてそのメンバーや情報はあるか?」
「エイトプリンスか……穏やかじゃないな。奴らはフシモリの実行機関だぜ。幹部の情報は秘匿されているからな、まぁ多くを知っている訳ではないが知っていることを話せばすぐ私に繋がって消される。まだ、私に矛先がむくのは得策じゃない。だから、渡せるとしたらヒントのみ、エイトプリンスに繋がる周辺情報なら渡せるぜ、後はそちらさんで何とかしてくれ」
「渡せる範囲で構わない」
「オーケーだ。まとめておこう。だが、私も霞ヶ関はなかなか動けない。情報や気になることがあれば彼から伝えよう」
大源が指差し、後藤は視線を向けた。すると突如、空中から人が降ってきて音もなく着地。眼鏡をかけ、口髭を生やしている中年の男だ。口髭の男はオールバックの髪をなでつけると、ニヤニヤと笑いながら近づいてきた。
「どうも、正本ハタシです。以後お見知りおきを」
「こいつがお前の代理か?」
「おう。これから必要な情報は彼に頼んでくれ。また、こちらの聞きたいことは彼を通して伝える」
「宜しくお願いします」
正本が手袋をした右手を後藤に差し出した。後藤は両手の指を組み合わせたまま、視線だけを上に上げた。
「正本……お前も超人か? 下らないことはやめろ」
「フフ、さすがですね」
正本が右手を握ると小さな爆発音がした。
「正本、馬鹿なことをするんじゃないぜ。彼は後藤エイショウ。かつては最高のエージェントと呼ばれた男だ」
「一応言っておく。情報だけ貰ってお前の思い通りに動かないこともあるぞ」
「それはお互い様だぜ、俺は俺でこの状況を利用させてもらう」
大源が微笑み、頷くと名刺を後藤に渡した。名刺には正本ハタシの連絡先が書いてあった。
「さらばだ。行くぜ、レッツゴー」
大源がベンチから立ち上がり、公園を後にした。それを追うように正本も歩いていく。ふいに後藤を振り向き、正本が笑みを見せた。後藤は眼鏡の位置を直しながら二人の後ろ姿を眺めていた。
◆
「チーギュウ街ではよくあることだ」
豊田駅にある居酒屋、鳥平民で神駄ミチオは隣に座る高取コウジに呟いた。
神駄は鳥平民で知りあった高取とよく飲んでいた。よく飲むといっても互いに時間を合わせるでもなく、鳥平民に入った時にいれば飲む程度で素性も知らず、気を遣わないゆるい付き合いだ。それでも神駄にとっては利害関係のないこの付き合いは心地よいものであった。
「一人、二人失踪しても誰も気にかけない……チーギュウ街なら尚更と言うことですね」
高取がポツリと呟き、芋焼酎のソーダ割りを呷ると神駄も同じものを呷った。
「所詮、俺たちは数字に過ぎない。苦しもうが死のうが大義の前には黙殺される……大義すらないかもしれないがな」
「ええ……ですが、切り捨てられ苦しみを味わった者は一生忘れません」
「違いない」
プルルルル、神駄の胸ポケットに入れていた携帯端末が鳴った。
「失礼」
そう言うと神駄は席を立ち、外に出た。電話の通話ボタンを押し、耳に当てる。
「俺は非番なんだがな、室長」
『わかってます。非番の時にすみません』
「事件か?」
『そう、殺人だけど有り得ない手口……超常事件です』
「介入できそうか?」
『所轄は揉み消したいみたいですが……我々、青龍会が阻止します。それに副本部長からの案件です。きっと裏に何かある。本部まで来てくれませんか?』
「わかった。すぐに行く」
『頼みますよ、ホワイト。また、黒仮面に先を越されないように我々で解決しましょう』
「コードネーム……ということは本部じゃないのか? 今、どこにいるんだ?」
『まさに現場で調整してます』
「さすがだ室長」
『事件の概要を送ります。目を通しておいてください』
そう言うと電話が切れた。神駄は携帯端末をしまい、手の関節を鳴らした。
「仕事か、超人め……待ってろ」
神駄は夜空を睨み付けた。




