44 ザ・プレイヤーズ・イン・ザ・シャドウズ②
シーズン1前半の終わり。影で暗躍する者たち。43~45まで続きます。
◆
深夜、外から雨の音が聞こえる。服田はベッドに入りながら携帯端末でネットを見ていた。掲示板や投稿サイトのトイッター、ミーチューブで超人に関する情報を調べていた。
「今から初沢町!? F案件か……仕方ない」
階下から父、ミツオの声が微かに聞こえてきた。少しするとドアを開け、外出する音がした。
「F案件……」
服田はミツオの言葉が気になるものの少し携帯端末を見た後に眠りについた。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコン、高尾木高校のチャイムが鳴り響く。前日から引き続いて雨が降っている。
服田は学校支給のPCを前に授業を受けていた。机の下では携帯端末を操作して、ネットを見ているとニュースの小さな見出しに目が留まった。それは初沢町で車の横転事故により死者が二名でたという記事だ。昨日、父親が言っていた現場であることを思い出した。服田は特にそれ以上は深く考えずに別の記事へと目を移す。
「高尾山付近で最近、死亡事故が多いのに気づかないか?」
休み時間に兼田が話しかけてきた。
「どういうことだ」
「高尾山にはフシモリの研究施設があるだろ? 前に言ったようにあそこでは何かが行われているんだ」
「フシモリの……」
「そう、高尾山を封鎖してるから外部からわからない。きっとエリア51みたいに秘密の研究をしてるんだ。それを敵対組織か何かが探ってて暗闘があるはずだ」
「なるほど……」
昨日の事故を考えると兼田の言うことにも一理あると感じていた。
「服田も俺の言うことを最近理解してくれているようで何よりだ」
「いや、まぁ、超人については信憑性あるなと思うよ。それ以外のことも何かあるのかもしれないとは感じているよ」
「そうこなくちゃな。もう一つ最近面白いネタがあるんだ。聞きたいか?」
「何だよ、また、ジアドーアにダイブしたのか?」
「ああ、慣れてるから大丈夫なんだよ。最近、テロ活動をしているドウナッテシマウノカって集団があるだろ? 奴らの犯行声明が政府転覆と報じられているけど実際の内容を歪曲してるみたいなんだ」
「何かまずいことが書いてあるのか?」
「どうやら政府は超人に支配されていて解放の為に戦っていると書いてあるらしい。裏サイトに書いてあったよ。当然、表のメディアは黙殺してるけどね」
「そんな……兼田の言うことが本当だとハチオウジはまともじゃないな」
「この世がまともじゃないってことだよ」
「そういえばF案件って聞いたことあるか?」
「F案件? 聞いたことないけどどういうことだ?」
「何で見たか忘れたけど気になってね。何かわかったら教えてくれないかな?」
「わかった」
服田はミツオの言ったF案件のことがなぜかわからないが引っ掛かっていた。
◆
八王子区元本郷の旧八王子警察署跡にそびえ立つハチオウジ市警察の庁舎。庁舎内の組織犯罪対策第五課の一室。
壁の「禁煙」と書かれた張り紙を無視するが如く、刑事たちは煙草を吸い、その煙が充満している。
銃器係の応接スペースで服田ミツオも紫煙をくゆらせていた。ミツオは初沢町の襲撃事件で押収されたサブマシンガンを処理するように課長の皆野ヨシミから指示を受けた。しばらくして、皆野が眼鏡の位置を直しながら目の前に座った。
「一昨日は深夜にすまんな、我々と交通課の活躍にフシモリも感謝していたよ。これは謝礼だ」
そう言うと札束の入った封筒を机に置いた。
「ありがとうございます」
ミツオは封筒をとると懐へ入れた。この厚さから十万円ほど入っていると判断した。
「フシモリのトラックを襲った奴らの身元はわかったか?」
「世子浜アオリというフリーランスの女傭兵です、依頼元は不明ですがね」
「まぁ、企業同士の暗闘だろう。ところで、馬人組には注意しておけ、上は抑えたが下の奴らは何するかわからんからな」
「頼みますよ、馬人の違法銃器を摘発しろって課長が言ったから私はやったんだ。この前も公安部の神駄が私の息子を救ってくれなかったらどうなっていたか……」
「凶分組からの依頼は断れんだろ! だから、お前の為に馬人組の事件を揉み消して奴らに便宜を図ったんだ。それとあまり、公安部の奴らも信用するな。警察庁から来たあの谷元の息がかかっている、奴らは危険だ」
「……わかってますよ。谷元が私たちに何をするかわかりませんからね」
「そうだ、谷元のバックに何がついているかわからないがフシモリにも忖度しない奴だからな」
「ええ……」
ミツオは苛立ちを隠すように煙草を灰皿に押し付けた。皆野が困り顔をしてミツオに溜め息をついた。
「その凶分組だが……毛野中組が襲撃された件で相当お怒りでな、面子は潰された上にホシもわからない、さらに谷本の指示で毛野中組の扱っていた武器まで押収されてかんかんだよ。少しでも協力できれば彼らも喜ぶんだが」
皆野が上目遣いにミツオを見た。
「考えときますよ」
「……さすが服田君だ。話が早い」
「手間賃は頼みます」
「わかってる」
ミツオは煙草を口に咥え火をつけた。凶分組に便宜を図り、押収した武器を少しでも返却できるようにプランを考えた。
警察が企業やヤクザから金を貰い便宜を図ることに対して、誰もがやるミツオは小遣い稼ぎとして考えていた。
『続いてのニュースです。先日から行方がわからなかったロートメディカルの役員、山田モビヒコさんの遺体が発見されました。状況から自殺と判断され……』
応接スペースに置いてあるテレビの音に皆野が反応した。
「ライフウェーブさんもよくやる」
「ああ、山田モビヒコの失踪は自殺にされたんですね。巨大企業も大変だなぁ」
「たしかに覇権を握るために利権と研究成果の奪い合いに明け暮れている。そのお陰で我々も稼げる」
「そうですね」
ミツオはテレビの画面をじっと見つめていた。
◆
三鷹区の映画館アッポリンク吉祥寺。映画館から高級スーツを着た魚のような顔をした梨市カンが外に出てきた。梨市は実家が資産家の為、映画好きが高じて映画館を買収して自らが経営している。
梨市は行きつけのバーに向かって夜の吉祥寺を歩いていた。「バー・ソドランド」と書かれた看板がある店へと入る。
梨市はカウンターに腰をかけて、カクテルを頼むと飲みながら店内を物色した。カウンターの端に座るショートカットの若い清楚な女性が目についた。
「あれにしよう」
梨市はねっとりとした声で呟いた。
酒を飲みながら、ショートカットの女を注視していた。女が席を立ち、会計をすると追うように梨市も会計を済まし外へと出ていく。
女との距離を一定に保ち、梨市は後をつけていく。女は住宅街へと入っていった。
女が住宅街の街灯が少ない箇所に差し掛かった時、後ろにいた梨市は一気にスピードをあげて駆けた。
梨市が女の背後に近づき、身体と口を押さえつけた。女は悲鳴をあげようとするが押さえつけられて声がでない。
「ううぅ!?」
「叫んだら殺しちゃうよ」
女の口を塞ぎながら言うやその場で女を押さえつけたまま跳躍した。住宅の屋根に着地すると次々と屋根を飛び渡って移動した。
「ときめきを求めて彼女募集中なんだ、君には一〇〇人くらいの彼氏候補がいると思うけど一〇一人目に並んでおきますから」
恐怖で涙目になった女の耳元に囁いた。梨市は廃工場に目をつけるとそこに向かって屋根を飛び渡っていく。
トン、廃工場の敷地に着地した。梨市は工場の建物内に押さえつけた女を引き摺っていくと地面に転がした。
「あ……あ……」
女は恐怖で放心状態になって言葉を話せない。梨市はニヤリと笑いかけた。
梨市はおもむろにズボンを脱ぐとボロンと股間を丸出しにして絶叫した。
「クイズ!ナシッチ!」
「キャァァァァァァァァァァァァ」
梨市の顔が光り輝き、犬歯が鋭く伸びた。
「僕の好きな体位は何でしょう?」
女は恐怖で震えて口を開くことができない。暫く沈黙が続いた。
「残念、不正解。不正解ごとに服を脱いでもらうよ。安心して僕も脱ぐから」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
工場に悲鳴が谺した。
一時間後、廃工場には裸になった女の死体が倒れていた。首筋の噛み跡から血が流れている。超人に覚醒した梨市はその力を使い、誰にも知られず自分好みの女を見つけて犯し、血を吸い、殺すことを趣味にしていた。
梨市は服を整えると口に付いた血を舐めて工場から外へと向かう。血を吸うと身体に力が漲る。
「むっ!?」
工場の入口に男が立っていた。
「さすがだべ、梨市さん」
男が近づいてきた。整った顔をしているが少し額が後退した中年の男だ。梨市は警戒して構えた。
「俺はお前の敵じゃないべ」
そう言う男に向かって、梨市は飛びかかり、拳を叩きつけた。
「何!?」
男が梨市の拳を受け止めると拳を握りつぶすように力を込める。
「安心してくれぇ、俺も同じ超人だべ、裏ルートでオープンキャンパスに庇護を求めたっぺ?」
「じゃあ、あなたが?」
「そうだべ、味方だ」
男が拳を握る手を緩めると梨市も相手に敵意が無いことを悟り拳を引く。梨市は自分の犯罪が発覚した場合を想定し、超人の庇護ネットワーク「オープンキャンパス」に情報屋経由で接触を希望していた。オープンキャンパスには犯罪組織や企業に所属する多くの支援者がいて、超人犯罪者の能力を提供する代わりに支援者の力で犯罪の隠蔽や庇護といったサービスを受けることができた。
「さっそくだが、状況を教えてもらいてぇ。この現場の隠蔽は間に合わないが何とかするっべ」
「ありがとうございます」
「その代わり、今後は俺たちの指示があれば従って欲しいんだべさ。そうすれば犯罪のサポートするべ、もちろん支援金も与えるべ」
その時、廃工場の外に高級車が停まった。
「詳しい話は中で」
梨市は男に促されるままに車に乗った。オープンキャンパスがサポートしてくれるというのが本当ならもっと楽しいことができる、そう思うと梨市の顔に笑みが広がる。
高級車は廃工場を離れて夜の町を疾走した。
◆
ハチオウジ市清瀬区の自動車修理工場「築源自動車」。シャッターが閉まっており、本日休業の貼紙がある。
応接室で厳つい顔をした築源キュウザはソファーに座り、目の前の人物を睨んでいた。築源は築源自動車の社長であり、反超人組織「ドウナッテシマウノカ」の指導者でもある。睨むその目はサイボーグ改造されており、赤く光っている。
「そいじゃー、何か? お前がワシらに援助しょーちゅうんか?」
築源は睨んだ先にいる黒服の男に確認した。
「そうです。我々は超人に対して危惧を抱いている有志の集まり、ヨンロウです。私もドウナッテシマウノカの言うように超人の支配を阻止したいのです」
「そうじゃ! わしゃのー、政府の首脳陣は超人に支配されとると思うちょる。だからこそワシらはこの国にテロを起こしてんじゃ! わかるかのー」
「この前の爆破テロはよくやってくれました。我々はあなたたちの思想に共感しています。金ならいくらでも資金提供できます。超人に支配されている状況は許しがたいです。情報と金は提供します。思う存分戦ってください」
男がそう言うと携帯端末を操作した。
「口座を見てください」
築源は携帯端末で口座の残高を確認すると大金が振り込まれていた。さらに男はICカードを差し出した。
「鍵です。これから指定する倉庫に武器は用意してあります」
「信じて良いんじゃな、裏切ったら殺すだけじゃすまんけんのー」
「安心してください」
「わかった。目にものみせてやるけんのー」
築源はICカードを手にとった。男が頷くのが見える。この後、詳細を詰めると男は帰っていった。
築源は応接室から出ると隣にある整備施設に向かった。有志であるヨンロウの名前は知っていたが、築源は本能的にきな臭さを感じ近づいてこなかった。だが、向こうからくるなら、乗ったふりをして利用しとけば良い。超人の罠でも潰せば良いだけだ。
築源が扉を開けると十人を超える屈強な男たちが整列していた。
「お前らー、また暴れるけんのーー、覚悟しとけーー!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
男たちが雄叫びをあげた。




